Act.5-19 第一回異界のバトルロイヤル 一日目 scene.3 下
<三人称全知視点>
「神速剣-二倍速-!」
戦闘開始早々仕掛けたのはディーエルだった。代々騎士を輩出してきたノッディルク男爵家に伝わる剣技を速度重視の斬撃が放てるように改良を加えたディーエル独自の剣で攻撃を仕掛ける……が。
「……なるほど、これは凄いな」
一切無駄な動きをせず、紙一重のところで斬撃を躱したミーフィリアがニヤリと笑う。
「凜冽な女王の抱擁-局所極寒-」
瞬間、ディーエルの体感温度が急激に低下し始めた。
手が悴み、剣を握る手が震える。
魔法学園に親友のスザンナが開発した「クリムゾン・プロージョン」から着想を得た対人干渉系制圧魔法――その効果は、水に干渉することで周囲の人間の体感温度を下げることができるというものだ。水分を通して人間の感覚に干渉するため、実際の温度を変化させることはできない。
「なかなか恐ろしい魔法だろう? ……まあ、それよりも気になるのは何故攻撃が躱されたかということか。しかも、あまりにあっさりと……」
モーランジュの蛇のように執念深く追いかけるように伸びる斬撃を顔色一つ変えずに躱しながら、ミーフィリアはディーエルの疑問を見抜いた。
「“まるで、未来が見えているように”……か。なかなか読みがいいが、足りないな。私は確かに数秒先を見通しているが、同時にお前達二人の心の声も聴いているのだ。……この世界にあるのは剣と魔法だけではない。当然、私如きに『王の資質』などある訳が無かったが、それでも収穫はあった。――未来視と読心、この二つの見気は、そう簡単に超えられんぞ」
ディーエルとモーランジュは「未来を見て、心の声を聞くなど、そんなことはあり得ない」とミーフィリアの言葉をハッタリと切り捨てたかった。だが、その後も二人の攻撃はミーフィリアには当たらない。
モーランジュの暗殺に秀でた変幻自在の剣術もミーフィリアには全て見切られてしまっているように掠り傷一つ作ることもできず、簡単に躱されてしまった。
「しかし、流石は騎士団長。白兵戦において、私に勝ち目はないだろう。……では、こうしよう。私の新たな魔法の恐ろしさ、その身体に刻んでやる」
小さく「蒼氷の女王の尖兵」と呟き、三つの魔法陣を重ねるように発動した。
ミーフィリアのエルフとしての限界は三重術者。しかし、ミーフィリアは本人が先祖返りを起こしてハイエルフとしての性質を持っている特殊なハーフエルフだったからなのか、或いは別の要因があるのか大規模な魔法を発動することに秀でた莫大な魔力と魔法の広域展開力に秀でていた。
エルフとしての力と、ミーフィリアという人間が元来持ち合わせる長所――これら二つを組み合わせることによって完成した「蒼氷の女王の尖兵」は、「水伯の女王の吐息」のような戦術級魔法や「凜冽な女王の抱擁」のような広域制圧魔法とは明らかに系統が異なる。――名付けるのなら、戦術級白兵魔法。
「形勢逆転だな。これだけの氷の兵をどうにかするのは困難だろう?」
「確かに数は多いな。これだけの大規模な魔法を使えるんだから流石だと思うぜ? だが、いくら数が多かったって木偶の坊にしかならねえってこともあるんだよ! 騎士団長の底力、見せてやろうぜ!!」
「――風纏-クラック・ロード-。風爪剣-ゲイル・クロー-」
【疾風の騎士】ゲイル=ルディノック――それが男装していた当時のディーエルの異名だ。そして、同時にこのゲイルという偽名も、【疾風の騎士】と同じものが名前の由来となっている。
それこそが、「神速剣」と対になるディーエルの剣……より正確には魔法剣と呼ばれるものに当たる「風爪剣」。
剣に「クラック・ロード」と呼ばれる風を纏わせる魔法を発動し、風を纏った斬撃を放つというものだ。その型の一つ「ゲイル・クロー」は、纏った風で巨大な怪鳥が爪で引っ掻いたような傷をつける技である。
「――なにッ!」
ディーエルの剣は確かに氷の尖兵を切り裂いた……にも関わらず、平然と氷の尖兵は剣を振り下ろしディーエルに袈裟斬りを浴びせた。
モーランジュの方も同様でカウンターこそ躱したものの、氷の尖兵を倒せずに態勢を立て直さざるを得ない状況に陥っている。
「……こりゃ、どういうカラクリだ? 斬ったそばから再生しやがる」
「何、簡単な話だよ。この魔法は『氷の尖兵を作り出す魔法』、『作り出した氷を分解する魔法』、『空気中の水分と氷像の水分を凝固させる魔法』の三つからなる複合魔法だ。最初に氷の尖兵を作っておき、凝固と分解を繰り返すことで移動、大気中の水分から水分を補填することで再生も可能な不死身の氷の尖兵……まあ、それでも欠陥があってな。氷の尖兵の一部が残っていれば再生できるが、全てを溶かされてしまったら一から魔法を使うしかない。それに魔力の消費が激しいからな、私には精々一日に二発、五十体までしか同時に騎士は生み出せない」
何の慰めにもなってないネタバラシを呆気なくしたミーフィリア。自らの手の内を簡単にバラしたのは、味方に教える分には問題ないと考えたからなのか、或いは知ったところで太刀打ちできないと高を括っているからなのか。
「本当はここで追加の魔法を撃ち込んで幕引きにしたいところなのだが、生憎と私は三つ以上の魔法を同時に使えないのでな。……このバトルロイヤルの開始する少し前に魔法学園時代からの親友経由でローザが開発したという試作品を使わせてもらおう」
ミーフィリアは胸元に隠してあったペンダントを取り出した。
「…………まさか、魔晶鉱ですか? それで一体何を……」
偏に魔法といっても様々な種類がある。『スターチス・レコード』の魔法でも大きく分けて三つの種類がある。
主人公や攻略対象、悪役令嬢などがレベルに応じて習得するものは例外中の例外のため割愛し、残る二つは自身の内側の魔力を使うものと外側の魔法を使うものに分けられる。
『スターチス・レコード』の世界観を受け継いだ者は魔力炉と呼ばれる魔力を生成する器官と、魔力回路と呼ばれる魔力を身体の節々に巡らせる神経や血管のような器官、魔力変換器と呼ばれる魔法に属性を与える器官の三つが存在する。
魔法が使えないものというのは、この中で魔力炉に不具合があるものか、魔力炉を持たないか、魔力回路に不具合があるか、魔力回路がそもそもないかの四択のいずれかに属するということで、魔力変換器がない場合は属性を持たない訳ではなく、魔力を魔力としてのみしか使用できないという状態になる。
複数の属性の魔法を持つ者はその数だけ魔力変換器を持っている訳ではなく、単一でそれだけの属性に変換可能な魔力変換器を持っているということである。また、無属性魔法の使い手は無属性の魔力変換器を保有している。
魔力炉で生成した魔力を魔力回路で循環させ、魔力変換器で属性を付与し、魔力回路から通じる魔力放出するという手法を取るものが一つ目の魔法で、ローザが「内魔法」と呼んでいるものだ。
その「内魔法」と対になるもう一つの魔法が「外魔法」で、代表的なものがローザの「大魔導覇斬」である。
この魔法の発動には魔力炉も魔力回路も必要としない。しかし、純粋な形で使用しようとすれば難易度は「内魔法」を遥かに超える。「内魔法」によって、大気中に存在する膨大な魔力に干渉することで強引に「外魔法」を発動することもできるのだが、それでは「外魔法」を使用したと声高に言うことはできない。
求められるのは魔力を感じ取る力と魔力を支配する力。大気中の魔力を支配し、思い描くように魔力を歪め、望む形に変える。
つまり、そこら一帯の魔力を支配下に置くということ。その状態になると、外部で発動する類の魔法も支配下に置かれてしまうため、「内魔法」であっても魔法が使えなくなる。その状態でも魔力回路の中で回したり、身体強化系の魔法を使うことは可能だ。
「大魔導覇斬」は大気中の魔力を圧縮するというイメージを基に魔力を歪めるというもので、発動開始から発動完了後しばらくするまでは一切の魔法が使用不可能になる……より正確には外部に放出する類の「内魔法」と「外魔法」が使用不可能になるのである。
「何、簡単なことだ。この首飾りには擬似的な魔力回路と魔力変換器が組み込まれている。魔力回路はミスリルに特殊な加工をした精霊銀を使用し、魔力変換器にはローザが魔法省に流した天上光聖女教の秘匿技術を使用したらしい……まだ、私もきっちり解析できていないから詳しいことは言えないのだがな。……まあ、これがあれば『内魔法』を誰でもお手軽に発動できるということだ。――夜魔の女王の息吹-局所暴風-」
「――させないッ! 風爪神速剣-ストームマグナ・ヴェロシティ=六倍速-!」
「……一矢報いねえとな! 氷撃槍衾」
風を纏うことで速度を上げたディーエルと、無数の氷の槍を作り出したモーランジュが捨て身覚悟でミーフィリアに攻撃を仕掛けるが、その前にミーフィリアが魔法を完成させ、オリジナルの戦術級魔術の応用版を発動した。
瞬間、二人の足元から竜巻が生まれ、高速で二人のHPを削っていく。
「…………これで終わりだな」
モーランジュの氷の槍を全て躱したミーフィリアは、二人がポリゴンと化して消えていくのを確認すると、安全地帯に戻って行った。
◆
それからミーフィリアは三時間後、アクアとディランは二時間後にそれぞれのボスを討伐し、海中洞窟を後にしたミーフィリアと図書館を後にしたアクアとディランは奇せず同じ白雲世界に転移した。
バトルロイヤル開始から十五時間――ローザが保険として長めに設定した三日間まで残り五十七時間を残す中、戦場は溶岩島と白雲世界の二つに絞られ、戦いはいよいよクライマックスに……向かうのだろうか?
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