Act.5-7 悪役令嬢、魔法省へ行く scene.1 中
<一人称視点・ローザ=ラピスラズリ>
扉の奥には本の迷宮があった。……いや、本好きを拗らせた変態なら堪らなそうな場所だねぇ。
魔法に関する様々な本を収納できるという実用性を兼ね備えた本の迷宮を、本を抜き差しするというギミックを解きながら扉を開け閉めして、奥へと進んでいく。……しかし、凄い手の込み様だねぇ。
「随分と厳重だねぇ……まあ、【ブライトネス王家の裏の杖】だから当然か」
「俺もここに配属された時は『はっ?』ってなりましたからね。魔法省の中にまさかブライトネス王国の国益を損ねる者達を処分する組織があるとは普通思わないでしょう? しかも、表向きは隠さないといけないってことで、表向きは雑用をこなす使いっ走りですし、裏では死体の後処理とか命のやり取りとか、そういうハードボイルドな仕事をしていますからね……その切り替えって結構大変なんですよ。なので、表向きはチャラ男で、中に入ったら真面目に、そうやって切り替えています。百面相で立場や仕草、性格すらコロコロ変えるローザ様は本当に恐ろしいです……令嬢って怖っ!」
チャラ男の仮面を外して素に戻ったアゴーギクがまた一つギミックを解除して地下へと続く階段を出現させた……まさか階段まであるとはねぇ……しかもここまで分かれ道もあったし……まるで依頼者の財を封印するためのパズルみたいだねぇ……差し詰め、財は本当の研究室というところかな?
ところで、後ろからついて来ているノーヴェンバー侯爵家の長女とデーリアス子爵家の五女が睨んでいるよ? 流石に、貴族令嬢の前で貴族令嬢の悪口を言うのはまずいんじゃないかな……えっ? ボク? 前世は平民だし、何も思わないけど?? ただし、成り上がりの高級平民だけど。
ちなみに、さっき魔法道具研究室にいた面々も全員ついて来ている。研究室の扉には「現在研究中、立ち入り禁止」の札をかけていたから、まあ誰も入ってこないだろうねぇ。
メンバーはアゴーギクが平民で、それ以外が貴族出身。
まずは、リサーナ=ノーヴェンバー。縫い包みと戯れていた女性職員でノーヴェンバー侯爵家の長女。
ケプラー=ゲルン。青髭を薄っすらと生やしたムキムキの男性職員でフリルとリボンに覆われた制服や派手なメイクで女装している。アンジェリーヌと自称しているらしく、自称乙女で、仕草は乙女っぽいのだが見た目と噛み合っていない。ゲルン侯爵家の三男。
ヒョッドル=コーニッシュ。社交ダンスの衣装のような胸元が大きく開いた派手な改造制服を着た男性職員でコーニッシュ伯爵家の三男。
シュピーゲル=プラードン。存在感の全くない大きく分厚い眼鏡をしている前髪が長い男性職員でプラードン男爵家の次男。
カトリーヌ=デーリアス。頭や制服に沢山のリボンを着け、可愛いネイルや愛されメイクも施した明らかに服装違反の格好をした女性職員。デーリアス子爵家の五女。
この五人……というか、特務研究室のメンバーはジーノに確認して調査済み。まあ、確実に彼らはスザンナ辺りから事情は聞いていると思ったからねぇ……。こっちだけ知らないっていうのは不公平だと思うし。
「この階段を降りて後ギミック四つ解除したら特務研究室です。今回は第一王子のヴェモンハルト殿下もお越しになっています」
「あっ、クソ殿下も来ているのか。それじゃあ都合が良いねぇ。……それと、ギミックは全部覚えているから安心してねぇ。まあ、次は瞬間移動で遊びに来るけど」
「色々突っ込んでいいですか!! まず、ヴェモンハルト殿下をクソ殿下って呼ぶって正気ですか!! いくらこの場にいないとはいえ!! 次にギミック全部覚えているってどうなっているんですか!!! 三つ、なんですか!!! 瞬間移動って!!! 空間魔法ですか!!! あの希少なことで有名な!!!! ……はぁはぁ」
……二十二か。なかなかやるねぇ……「!」の限界突破二十一を超えたか。まあ、ボクは極限の「!!」バトルには興味ないので普通に回答させてもらおう。
「一つ、ラインヴェルドはクソ陛下だし、ヴェモンハルトはクソ殿下。上層部の大概は心の中で思っているし、ボクに限っては例え御前であっても言うよ? 寧ろ、クソ陛下はそういう型破りな、肩書きで人を見ない人間をお望みだし。二つ、ボクは完全記憶持ち。見た瞬間に内容を暗記できるし、それを保持できる。三つ、空間魔法でもなければ、その上位に位置する時空魔法でもない。『管理者権限』と呼ばれる世界の支配者の卵が持つ権限によって行使可能な能力と思って貰えばいいんじゃないかな? 要するに、『管理者権限』を獲得以降に一度行ったことのあるところには基本的に行ける。ただし、他の人を転移させる場合はその相手と接触する必要がある。以上、疑問質問には答えたよ」
流石に絶句しているか……まあ、不敬罪だと言われても仕方ないけどねぇ。普通なら悪役令嬢としてヒロインをいじめる前に不敬罪で断罪だけど、まあ相手はあのラインヴェルド……偉ぶっているだけの王様と違って、不敬だからと断罪することはないし、寧ろそうやって対等に接することができる相手を求めている節があるよねぇ……まあ、あの陛下と付き合える人間なんてそうそういないんだけど……正妻とか側室とかも確実に猫を被ったアイツのことしか知らないだろうからねぇ。所謂模範的な国王陛下って奴?
最後のギミックが解除され、扉が開いた。中には話通りヴェモンハルトの姿もある。
そして、スザンナと……侍女? ああ、王子宮筆頭侍女だねぇ。
「お久しぶりですね、ローザさん」
「久しぶりだな、ローザ殿。待っていたぞ」
「お初にお目にかかります。王子宮筆頭侍女を務めております、レイン=ローゼルハウトでございます。以後お見知り置きください」
三者三様の挨拶を終えた三人。……まあ、序列的に挨拶するべきだよねぇ。
「ヴェモンハルト殿下、お久しぶりでございます。お変わりなさそうで何よりでございます。先日は亜人族との国交樹立の土台作りに必要な邪魔な貴族の処分にご協力くださりありがとうございました」
「まあ、それが私達【ブライトネス王家の裏の杖】の役目だからね。それに、元々連中は私が見張るために私の派閥に入れていた連中だからね。その処分が早まっただけだよ。寧ろ、私は感謝しているよ。前々からこの国を腐らせる者達を処分したいと思っていたが、切っ掛けがなかった。君はその切っ掛けをくれた訳だからね」
まずは、この中で一番立場が上のヴェモンハルトに挨拶を返す。婚約者のスザンナと一緒くたにするのは三流。
「スザンナ様も、ご協力くださりありがとうございました。本日は皆様にもお礼を差し上げたいと思いまして、細やかながらドルチェをお持ち致しました。ヴェモンハルト様やスザンナ様からすれば大したことのない素人菓子であるとは思いますが、よろしければご賞味くださいませ」
「気を遣わせてしまったな。今日はそれとは別にお土産を持って来てくれたのだろう? 楽しみにしていたぞ」
「勿論、面白いと思って頂けるものをお持ち致しました」
次はヴェモンハルトの婚約者のスザンナ。まあ、順当な順番だよねぇ。
「お初にお目にかかります、レイン様。私はラピスラズリ公爵家の長女のローザと申しますわ。十歳から行儀見習いで王宮に仕えさせていただきますので、その時はご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い致します、レイン先輩」
「せ、先輩なんて……私に教えられることなど間違いなくありませんが、すぐに同僚となるでしょうし、その時はよろしくお願い致しますね」
あ〜、やっぱりレインはラインヴェルドの目論見を知っていたか。……王女宮筆頭の椅子に空きはないし、簡単に挿げ替えるのはダメだと思うんだけどねぇ……。まあ、クソ陛下ならやりかねないか。
「……ところで、そろそろ素に戻してくれませんか? なんとなく不自然ですので」
「……一応ボクも公爵令嬢だって何度言ったら……。まあ、楽な方に戻しますけどねぇ。さて、こちらが甘いお土産です。私が作ってきたものですが、念のため毒味するならしてください」
まあ、王族もいるからねぇ……取り出した紙袋をレインに手渡す。
「毒味は必要ないですね」
「ヴェモンハルト様にお出しする前に毒味をするのも侍女の役目です! それでは確認させていただきます」
ヴェモンハルトの決定に逆らって、侍女としての役割を果たすレイン…………あっ、案の定食べ始めたら止まらなくなったねぇ。味見をしているうちに無くなっていくっていう現象だねぇ。
「このチョコレートのクッキーもしっとりしていて美味しいです! あっ、このバター風味のクッキーも美味しい♡」
「……お褒めに預かり光栄です」
「……レイン殿、そろそろ毒味は終わったのではないだろうか?」
「…………はっ!? す、すみません!! ついつい美味しくって!!」
「レインさん、途中から分かっていて食べていましたよねぇ?」
「あっ、バレちゃいました? まあ、普段王太子殿下と特務研究室の皆様には振り回されっぱなしですし、これくらいしてもバチは当たらないんじゃないかと思いまして……」
「レインさんもいい性格をしているよねぇ。まあそういう性格だし、剰え優秀だから中々手放してもらえないんだろうねぇ。……モテる女は辛いねぇ」
「私、全然モテませんよ? 婚活目的に王宮に入った筈なのに……あれれ? おかしいな??」
本当に可哀想な人だよねぇ……元々高嶺の花イメージがついてなかなか手を出せなくなっているのに、その上そこの二人に拘束されて仕事が増えて、余計に恋愛ができなくなっているんでしょう? もうそこの王太子殿下にもらってもらったらいいんじゃないかな? ……やっぱり、愛がない結婚はダメだよねぇ……まあ、愛というのも大概は勘違い、同棲して長く付き合っている恋人同士がなかなか結婚できなかったり、結婚してから長く一緒にいる中で愛が薄れてくるのと同じで、まあ相手の内面が見えるようになればなるほど理想と掛け離れているって気づいてしまうものだからねぇ。……そういうところも含めて相手を愛するというのが一番だけど、そうはいかないのが世の常だからねぇ……。
「お菓子はまだまだあるし、珈琲と紅茶も持ってきたからねぇ……それじゃあお茶にしようか。それが終わったらもう一つのお土産の方の説明をさせてもらうけど、それでいいかな?」
さて、お茶会の始まりだ!
お読みくださり、ありがとうございます。
よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)
もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




