Act.5-1 アクアマリン伯爵家にて、美形兄妹とのお茶会(2) scene.1 上
<一人称視点・ローザ=ラピスラズリ>
使節団の再始動まで一週間を切った。エルフ族の族長エイミーンの発案と、ミスルトウの賛同、そして何より本人達の意思によってマグノーリエとプリムヴェールの同行が決まり、使節団は五人での再スタートとなることが決まった。
一部のエルフは獣人族と取引していたことがあり、エルフと険悪な仲にあったドワーフが作成するミスリルの武器を獣人族伝いに手に入れていたらしいんだけど、本当にごく少数の限られたエルフしか【生命の巨大樹の大集落】から出たことがないんだよねぇ……。
【生命の巨大樹の大集落】という閉ざされた環境で生きてきたエルフは多い……そんな彼らが一気に開かれた世界に飛び出すとなれば、途轍もない勇気が必要だよねぇ。
そこで、エルフ族の大使としてエイミーンとミスルトウの娘をそれぞれ人間の使節団に加えて旅をさせようって話になったんだよねぇ。外の世界に内心恐怖を感じているエルフ達に一歩を踏み出すための勇気を与えてくれる存在にもなって欲しいし、マグノーリエはそもそも外の世界に憧れていた。そして、それは人間の世界というよりは、【生命の巨大樹の大集落】の外の世界ということだったんだよねぇ……だから、この旅はマグノーリエの長年の夢を叶えるという意味もある。プリムヴェールはあまり外の世界に興味関心がある訳ではないけど、マグノーリエの護衛をしつつ、新しい視点というものを手に入れたいと言っていた……もしかして、視野が狭く頭が固いっていう自覚があったのかねぇ……まあ、本人に言ったら怒りそうだけど。
とにかく、沢山のものに触れて得た経験はきっといつか役に立つ。人生に彩りを与えてくれる。だから、若いうちから色々なものを見て、色々なものに触れておくということは重要だと思うんだよねぇ……ちょっと説教臭くなっちゃったかな? 歳は取りたくないものだねぇ……まだ十七プラス三で、合算で元の世界ではようやく成人って年齢だけど。まあ、無駄に前世の人生が濃かったせいか、変な感じに老成しちゃったんだよねぇ。
◆
残り六日となったその日、ボクはアクアマリン伯爵家に向かった。
まあ、暫くっていうほど時間が経っていないけど、これから数年間はブライトネス王国と旅先を行ったり来たりすることになるからねぇ……ラピスラズリ公爵家には定期的に戻ってきたり、ビオラ商会の溜まった仕事を片付けたりということはするつもりだけど、流石に貴族のお茶会に参加するというのは難しくなってくる。
今回も非公式のお茶会。手土産持参で今回は『管理者権限・全移動』で屋敷の入り口近くまで転移し、その足でアクアマリン伯爵邸の詰所にいる衛兵に話を通し、執事の案内でニルヴァスとソフィスがいるという温室へと移動する。
「ごめんなさい……もっと早く知っていれば準備しておきましたのに」
「今回はボクが急遽押し掛けちゃった形だし、非公式のお茶会なんだからそこまで気にすることは無いと思うけどねぇ。はい、これお土産のお菓子。それと紅茶ねぇ……これはアーネスト様とミランダ様へのお土産だから……執事長さん、よろしくねぇ」
「承知致しました。……ところで、ティーカップの方はご用意致しましたが、紅茶もお注ぎ致しましょうか?」
「まあ、ボクも半分メイドみたいなものだからお気遣いは無用だよ。ビオラ商会からお菓子もいくつか持ってきたし、お茶菓子も大丈夫かな? 押し掛けたのはボクなんだし、アクアマリン伯爵家の使用人さん達にご迷惑をかける訳にはいかないからねぇ」
「……しかし、ローザ様は公爵家の御方。そのような方に給仕をさせるというのは……」
「いや、だから趣味だって。ちょっと仕事を頼まれて外出した時にはできなかったけど、普段は使用人に混じって自分で掃除をしているし、大半の自分でできることは自分でやるようにしているからねぇ……料理とかも。……何故か、ジーノさん達には『姑が人差し指で擦っても指が汚れないくらい綺麗ですね』と半分呆れ気味に言われたけど、それってメイドとして優秀って言われているのか、几帳面過ぎて水清ければ魚棲まずを地で言っているって酷評されたのか……どっちなんだろうねぇ」
でも、書類類もきっちり纏めておくタイプで、掃除・炊事・洗濯などなど自分の限界まで突き詰めていくタイプだったけど、結構人望はあったと思うよ? えっ、論点が若干すり変わっているって?
「それから、ソフィスさんへのお土産はこれだねぇ。書き下ろしの短編……ちょっと忙しくて流石に連載ものは書けなかったから短いけど」
「ありがとうございます! 楽しみにしていました!!」
この食いつきようじゃあ、ものの数時間で読み終わってしまうだろうねぇ……。
「それで、今回なんだけど暫く遊びに来れないことを伝えようと思ってねぇ……ちょっと王様にまた大規模な作戦? の指示を頼まれたから」
「王様……って国王陛下ですか? まさかとは思いますが、ローザ様は国王陛下と親しい間柄なのですか?」
前回もクソ陛下の名前は伝えたけど、ニルヴァスはお父様伝いにこの世界の真実を知って対策を練っていたと思っていたみたいだねぇ……まあ、まさか一介のデビュタントもしていない公爵令嬢と国王陛下が繋がっているとは思わないか。
そういえば、乙女ゲームものでも悪役令嬢が国王と親しくなるというのは珍しいよねぇ……多くは王太后とか正室とか側室辺り辺りと繋がりを持って後ろ盾を得るんだけど……。
「そういえば、伝えていなかったねぇ。……お父様伝いに情報が国王陛下に行ったらしくて、面白いこと好きの陛下に興味を持たれたみたいでねぇ、そこからお忍びでラピスラズリ公爵家にも来るようになったんだよ。まあ、そこからしばらく交流は持っていたんだけど、つい先日国王陛下とそのご友人……大臣のディラン=ヴァルグファウトス公爵や王弟バルトロメオ=ブライトネス大公殿下を含む王国の中枢メンバーの会議に招集されて、エルフと国交を結ぶための使節団の一員に選ばれたんだよねぇ……まあ、ボクが元々エルフや獣人と交易して香辛料を得ようと考えていたから、そこに便乗した形ではあるんだけど……で、つい先日エルフと国交を結ぶことが決まり、それに向けてブライトネス王国と緑霊の森は現在調整中……後々国が正式に発表すると思うけどねぇ。あっ、今回の作戦の中心メンバーにはお二人のお父様のアーネスト様も加わっているよ。本当に尊敬できる方だよねぇ……暴走する陛下と大臣と軍務省の長官の手綱を握ってこの国の国政を支えているの、間違いなく宰相のアーネスト様だから」
「…………そ、そんなに大変なお仕事を父は……」
「…………お父様の跡を継いで立派な宰相になれたら……と思っていましたが、もしかしなくても私では荷が重いでしょうね」
ソフィスは自分の知らなかった父の新しい側面を知って改めて父を尊敬しているみたいだけど、それとは対照にニルヴァスは目標としていた宰相という仕事の重みを理解して一気に自分では無理だと思ってしまったみたいだねぇ……。
「大丈夫だと思うけどねぇ」
「それは、私が攻略対象だからですか?」
「……まあ、確かにニルヴァスさんは乙女ゲームの中では成績優秀で妹想いの、魔性の伯爵として登場する。実際に地頭は賢いと思うんだけど……ただ賢いだけじゃ、この国のクソ共の手綱は握れないと思うんだよねぇ。きっと、アーネスト様も素はドルチェ好きで、真面目な方なのだと思うんだけど……まあ、環境が変えたというか、そうならざるを得ない環境というか、砂漠のサボテンが少しの水でも生きられるように、環境に合わせて適応したとしか言えないんだよね。とはいえ、最終的には諦めが重要なんだろうけど、大臣と軍務省の長官の役割をこなしながら宰相の役割を果たせるほどの有能さはどちらにしろ必要になる。間違いなく攻略対象のスペックはその条件を満たせるとは思うけど……」
宰相アーネストはブライトネス王国きっての頭脳を持つと言われてはいる……んだけど、実際にラインヴェルド、バルトロメオ、ディランの三人に匹敵するというレベルで、あの体育会系のクソ共が莫迦だという訳じゃない。ただ、自分の欲望を満たしたいから、つまらないことは嫌いだからとそれを全てアーネストに押し付けているという構図なんだよねぇ。
「まあ、ボクも断罪されなければ中枢に近い位置にいられるだろうし、協力するのは吝かでもないからさ」
「でも……お話を聞く限り、ローザ様はどちらかというと国王陛下側だと思うのですが……」
遠慮がちにソフィスが核心をついた意見を述べてくる……あっ、バレたねぇ。
「まあ、確かに国王陛下や王太子殿下のようにボクも人遣いは荒いよ。まあ、国王陛下の愉快な仲間達はこと戦闘に関しては率先して前に行くタイプだけどさ。……ボクもどちらかと言えば人遣いは荒い方だけど、それ以前に効率主義だから自分が終わらせた方が早い仕事は全部自分でやってしまうんだよねぇ……だから、ボクよりもその方面に長けていて、その人に任せた方が効率がいい、そして信用に足るのなら任せることにしている。後は人海戦術が必要な時とかはねぇ」
「つまり、他者を駒として使うというよりは自分も駒の一つとして考えて最善を尽くすという訳ですか……でも、それだと仕事を溜め込み過ぎることになりませんか?」
「まあ、ボクだって完璧じゃない。その道のエキスパートってものは必ずいるものだよ。……前世ではそういう人達に仕事を任せていた。まあ、それでもボクにしかできない仕事もあったし、小説書いたり漫画描いたりゲーム作ったり、絶えず仕事を入れていたから七徹や八徹はしょっちゅうだった。倒れたことも何度もあるよ……まあ、転生してからも変わらないけどねぇ」
「それって、公爵令嬢としてどうなんだ……」
まあ、確かに公爵令嬢の在り方というかイメージからはかなり外れているけど、それはそれでいいんじゃないかって思うんだよねぇ……生き方は人それぞれだし、転生令嬢にこれという型がある訳じゃないし。
それに、悪役令嬢みたく椅子に踏ん反り返って命令するより、自分が動いた方がいいと思うんだよねぇ……健康的で……えっ、お前って悪役令嬢より絶対にタチが悪いって? 殺戮令嬢とか魔王令嬢とかだって? HAHAHA! ……ソンナマサカ。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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