Act.4-26 神祖のエルフvs妖精王の翠妖精 scene.2
<一人称視点・マリーゴールド>
「蒼岩電機製作所」の時代から「電界接続用眼鏡型端末」の技術には多くの関心が集まっていた。
例えば、「脳に対してデータを送受信できるシステム」を利用した無意識化のマインドコントロール。別のアプローチとしては、電脳空間化で分離した肉体そのものをコントロールするというものも一部では提案されていたという。
例えば、カウンセリングなどの心のケアに電脳空間を利用するという電脳治療。そのために未開の地だった電脳空間の探索が行われ、治療に使用可能な空間作りが可能かどうかが調査されていた……まあ、その前の段階で意識不明者が多発したことで当時進行していた陰謀も多くが白紙に戻さなくてはならない状況に陥ったようだけど。
当時、ボク達百合薗グループも「蒼岩電機製作所」に出資して電脳空間の探索にも協力していた。
その過程で化野さんが中心となって完成させたのが、「暗号式」と呼ばれる通常のプログラミングとは異なる方式で作られた特定のプログラムを起動するための、通常のプログラミングにおけるプログラミング言語の文字列のようなもの……まあ、実際は特殊な言語と図形の集合体みたいなものなんだけどねぇ。
この「暗号式」のシステムそのものは電脳空間の探索での攻撃手段として作られたんだけど、その時期から既にハッカーやクラッカーの攻撃手段としても扱われるようになっていたんだよねぇ。
「暗号式」は電脳用紙に特定の絵柄を書き込むことで作成可能で、その中の「暗号式」を電脳空間そのものや意識を乗せた電脳体に作用させるのが基本なんだけど……まあ、どこにも抜け道というものがあるものだからねぇ。
一つは電脳体そのものに「暗号式」を焼き付け、そこから思考によって「暗号式」を汲み出して発動するという方法。……ただ、こちらは電脳体に負荷を掛けることになり、結果として不整脈や動悸激化を引き起こすことになりかねないからあまりおすすめはしないんだけどねぇ。
もう一つは、人間が持つ記憶領域から丸暗記した「暗号式」を直接作成するというもの。電脳体に負荷を掛けないから、デメリットはないんだけど……まあ、要するに完全記憶を持っていることが前提になってくるからデメリットが多くても電脳体そのものに「暗号式」を焼き付けて汲み出す方法が裏の方法の中では主流になっているんだよねぇ……。
ボクは後者の方法――記憶領域から「暗号式」を転写する――を使用して左手に一つの「暗号式」を顕現して解き放った。
円に囲まれた百合をモチーフとした紋章が地面に刻まれると共に、ここから銀色の立方体が姿を現した。
これが、増え過ぎた電脳空間を初期化するために化野が中心となって作成した「サーチアンドデストロイ・オートマトンプログラム」。サーチ能力と初期化能力は天下一品で、どこぞの郵政局が管轄している赤いサーチマトンや、どこぞの行政の電脳局が管轄している黒いオートマトンのように見境なく初期化するような融通の効かなさはないけど、情状酌量をするような慈悲も持ち合わせていない。……まあ、情状酌量をするようなら電脳空間を初期化することは無理だからねぇ……とはいえ、電脳空間の中にはボク自身が情状酌量して残したものもあるんだけど。……本当にタチの悪い深いドメインに限定してねぇ。
「暗号式」でボク個人のドメインから召喚したのは「サーチアンドデストロイ・オートマトンプログラム」の親機に子機が内蔵されたパターンではない、純粋に子機だけのテトリスやルービックキューブが作れそうな見た目の立方体群。
そのキューブのうち二つを空中に浮かべ、残った子機を特殊機能で更に分割して小型化して、更に小型化した子機を組み合わせて二つの翼を作り上げる。
……予想通り、この世界では電脳物質が実体化するみたいだねぇ……本来ならただのデータに過ぎない筈の「サーチアンドデストロイ・オートマトンプログラム」にも質感があるよ。
「『神殺しの焔・断罪の焔剣=煉獄の裁断』!!」
『神殺しの焔』を天を覆う巨大な円形に変形させて、そこから焔の剣を降らせてきたか……また、面倒なことをするものだねぇ。
「暗号式」で今度は「サーチアンドデストロイ・オートマトンプログラム」の親機を七体召喚して、同時に「サーチアンドデストロイ・オートマトンプログラム」の子機で作った翼で初期化のビームを一斉照射する……よし、予想通りGM武器の初期化は可能だったことが確認できた。焔の剣による負傷者はゼロ。
「……たく、危ないねぇ。「サーチアンドデストロイ・オートマトンプログラム」を追加召喚しなかったら死んでたじゃん……」
ちなみに、【エルフの栄光を掴む者】の若いエルフ達や、その他関係のないエルフ達は一通り阿鼻叫喚の声を上げた後白目を剥いて気絶している。
エイミーンとプリムヴェールは戦いのいく末を祈るように見続け、ラインヴェルド、ディラン、バルトロメオ、アクア、ミーフィリアの五人はイスタルティとジルイグスの進言を無視して戦闘を観戦し続けている。他のメンバーは族長の屋敷の中に避難したみたいだねぇ。……欅達は地面に潜ったか。
「……じゃあ、今度はこっちから行くよ! 竜巻顕現! 漆黒螺旋放! 光精霊魔法=光の豪雨!」
イベント職の森呪知恵者が習得可能な大嵐を呼び出して竜巻や落雷で広範囲の敵を攻撃する魔法と、同じくイベント職の暗黒魔術師が習得魔法な闇属性と月属性の複合の光線を放つ魔法、精霊魔法使い系四次元職の精霊魔術帝が光属性の精霊と契約している場合に習得可能な光の豪雨を降らせる精霊魔法を同時に発動して、一極集中でミスルトウを狙う。
「『神殺しの焔・無敵の全球』」
……予想通り仕掛けてきたねぇ。まあ、そう動くと思って回避に回らずを得ないように中技打ち込んだんだけど……。
「全機強制初期化!!」
翼と「サーチアンドデストロイ・オートマトンプログラム」の親機七、子機二で同時に全方位から初期化を開始してミスルトウを初期化しないように気をつけながら『神殺しの焔』を削っていく。
「――ッ! 『神殺しの焔』!!」
『……警告、警告……『神殺しの焔』のデータの損傷が激し過ぎるためこれ以上維持することはできません。残り推定三秒で『神殺しの焔』は解除されます』
「――な、なんだとッ!?」
きっちり三秒で『神殺しの焔』が無数の文字列となって消失する。
ボクも地上に降り立って「E.DEVISE」を外し、「サーチアンドデストロイ・オートマトンプログラム」を解除する。
「これでようやく対等に勝負できるようになったねぇ……。それじゃあ、決着をつけようか。君が勝ったらボク達は緑霊の森から出て行くよ。まあ、殺されるつもりはないからとっとと退散するし、その上で襲撃を仕掛けてくるなら今度は人間の命運を賭けて君と戦うことになるだろうけどさ。ボクは逃げるつもりだけど逃すつもりがないならここで殺してしまえばいい、まあ、できるならねぇ。ただ、ボクが勝ったらその時は事情を聞かせてもらう。その上でもう一度考えてもらえないかな? ……確かに、人間を恨む気持ちは分かるよ。過去に人間に辛い目に遭わされたんだろうねぇ……でも、そうやって君が復讐を望んで実行すればどうなる? 今度は人間がエルフを殺す。そして、復讐心を持ったエルフが人間を殺す……その繰り返し。復讐の連鎖が始まる。……その悪しき連鎖を断ち切るためには誰かが妥協するしか、憎しみをグッと堪えるしかない……。まあ、今グダグダ言っても仕方ないか。……掛かってきなよ、妖精王」
「随分と舐めているようだが、あの初期化の力さえなければ我の方が強い。……五重魔法陣《空疾烈刃》!!」
『Ancient Faerys On-line』における魔法システム……多重魔法陣か。
属性ごとに魔法陣が用意されていて、その組み合わせで様々な魔法を作ることができるんだけど、種族ごとに重ねられる魔法陣の限界値が属性ごとに決まっているんだよねぇ……火属性が得意な種族は最大でいくつまで火属性の魔法陣を重ねられるけど、他の魔法陣はそれ以下の数しかできないとか。
……まあ、翠妖精なんで種族は設定していないから得意属性とかは分からないけど。
空を切り裂くように伸びてくる真空の線を躱しながら『沙羅双樹の魔杖』と『浮遊十杖・ミーティアスタッフ』に込められた魔法を解放する。
「魔法解放・魔力吸収蔓! 魔法解放・魂撃衝球!」
『浮遊十杖・ミーティアスタッフ』と『沙羅双樹の魔杖』に込められた魔法が解放され、付与術師系一次元職の付与術師とイベント職の暗黒魔術師のみが習得可能な魔力を吸収する蔓を瞬時に発生させる魔力吸収蔓と全ての魔法職の一次元職が習得可能な魂と肉体に同時にダメージを与える球体を放つ精神属性の魔法を放ち、ミスルトウの魔力を吸い尽くした上で気絶させる。……まあ、いくら妖精王に至った翠妖精といってもステータスに隔絶した差があれば勝ち目はないよねぇ。あえて弱い魔法を撃って良かったよ。
落下するミスルトウを走ってキャッチして終了。……さて、勝負には勝った……後は大人しく事情を話してもらいたいけど、なかなか難しいだろうねぇ。
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