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【キャラクター短編 陽夏樹燈SS】陽夏木家、没落スル

<三人称全知視点>


 名門陽夏樹子爵家――橘宿禰、のち橘朝臣と呼ばれる皇別氏族から分流した陽夏樹家であり、江戸幕府と新政権が融合した明治という時代には華族への移行に伴い子爵の爵位を与えられた華族の一族である。


 この名門は萬葉の一つ前――文聖の元号の時代に没落した。

 その滅亡の理由は諸説あってはっきりせず、また報道もされなかったため、大きな謎とされている。


 最後の陽夏樹家当主と言われる陽夏樹(ひなつき)枸櫞(くえん)はある界隈ではとても有名な人物であった。

 推理小説の愛好家であった彼は、友人となった、後に首都警察の捜査一課長にまで上り詰める松蔭寺(しょういんじ)辰臣(たつおみ)と意気投合し、「推理倶楽部 Bengal」を主宰した。


 「警察が解決できなかった未解決事件を視聴者と共に解いていく遠隔参加イベント」――と称し、警察が未解決のまま手をつけられない事件を解決していく。

 推理小説好きの枸櫞にとっては好奇心を満足させる企画であり、松蔭寺としても未解決事件が減ってくれるのは願ったり叶ったりだった。


 松蔭寺も含め警察組織の松蔭寺に近い人間が「推理倶楽部 Bengal」に所属し、未解決事件を解くこともあった。

 その中には警察に協力する民間の特殊技能捜査研究所、通称特捜研に勤務する二十代の女性捜査官山王寺(さんのうじ)占楽(うらら)や、彼女が「推理倶楽部 Bengal」に所属する切っ掛けとなった「推理倶楽部 Bengal」会員番号四番の月村(つきむら)(あおい)なども所属し、極めてレベルの高いものだった。


 現在も続く「推理倶楽部 Bengal」の放送だが、一度放送は打ち切られ、「推理倶楽部 Bengal」の主宰の代理を務める執事服の男――石澤忠教によって再開されている。

 謎の事件によって死を遂げた松蔭寺辰臣が残した膨大な捜査資料と、松蔭寺が警察内部に設けた特殊捜査分隊「spade」のメンバーの秘密裏の協力、そして圓の協力金が「推理倶楽部 Bengal」の放送を支え、不死鳥のように「推理倶楽部 Bengal」を蘇らせた。


 このように、「推理倶楽部 Bengal」と陽夏樹家、百合薗グループには大きな繋がりがある。

 まずはその切っ掛けとなった陽夏樹家没落事件まで遡り、過去を読み解いていくとしよう。



 陽夏樹家の一人娘、陽夏樹燈が小学生の頃、その事件は起きた。

 もし、事件が職場から帰宅する道中ではなく陽夏樹子爵家の本邸で、狙撃による暗殺以外の方法で行われていたのなら陽夏樹燈はこの時、命を落としていた可能性もある。


 ちなみに、陽夏樹燈の父、陽夏樹枸櫞の暗殺を行ったのは田村勲――暗殺者の狙撃手にして爆破のプロ、母校の黒澤大学で教鞭を取っている犯罪心理学者であり、オカルトサークルの元メンバーで現在は顧問の立場にある。


 事件を知った陽夏樹家の執事――石澤忠教は身の危険を感じて陽夏樹家の一人娘の燈を連れて屋敷を出た。

 こうして、執事と元貴族の娘の二人暮らしが始まった。


 陽夏樹燈は貴族であることを鼻にかけることのない優しく可憐な少女だった。

 父の死のショックから暫く立ち直ることができなかった……が、なんとか前を向いて生きようと健気な笑顔を見せるようになった。


 とはいえ、このような逃亡生活をいつまでも続ける訳にはいかない。

 陽夏樹邸から持ち出した莫大な資金もいつかは底をつく。


 石澤は必死に助けを求めた。そして、ダメ元でディープウェブにある「yuLily」という掲示板サイトに書き込みをした。

 この「yuLily」というサイトに願いを書けば、どんな願いも叶うという噂があった。その願いを叶えるためには対価を求められるという噂もあったが、主人の愛娘を守れるなら自分の命など捧げても構わないという石澤は躊躇しなかった。


 かつて、身寄りの無く、真っ当な職にもつけなかった石澤を助け、執事として雇ってくれた枸櫞子爵。

 彼の愛娘を、最後の希望を生かすことができるのなら、幸せにできるのなら、この命など惜しくはない。


 ダメ元で掲示板に書き込んだが、予想外の返信が届いた。


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yuLily管理人

はじめまして、ご連絡ありがとうございます。yuLily管理人です。

ご用件、承りました。サイトに掲示されているメールアドレスにハンドルネームでメールを送信頂ければ面会場所をご案内させて頂きます。

-----------------------------------------------


 石澤はその連絡先にメールをして、那古野駅のホテルの一室に来るようにというメールを受け取る。

 石澤は当日、燈と共に指定された部屋に行くと、メイド服姿の黒髪の少女と共に椅子に座る清楚なワンピース姿の少女が待っていた。



「初めまして、ボクは百合薗圓。yuLilyの管理人だよ。大体の事情は掲示板とメールで確認させてもらったけど詳しい事情を……って、あっ、やっぱりボクのこと信用できない?」


 「子供だしねぇ……契約結ぶ時に二度見されたり軽んじられたりすることも結構あるから困りものだよねぇ」と独白する圓。


「信用できないなら回れ右をどうぞ。でも、もし信じてくれるなら願いを叶えてあげるよ。まあ、ボクにでもなんとかできる内容だからねぇ」


「……なんとかできるのですか?」


「陽夏樹燈さん――この子を守ればいいってことでしょう? まあ、幸い数十人程度は養って余る所得はあるし、多少なりは戦力がいる。常夜流って言ってねぇ、彼女は忍者の棟梁なんだ」


 「まあ、ボクも多少忍術や剣術を使えるようになったし、少しは役に立つかもしれないよ?」と謙遜する圓。

 その隣では月紫が「圓様に手を煩わせるまでもありません! 私が圓様に仇なすあらゆる敵を駆逐します!」と鼻息を荒くしている。


「……本当によろしいのですか?」


「ん? 信用できないんじゃなかったの?」


「いえ……お二人が見た目通りではないことはよく分かりました。……しかし、本当に見ず知らずの私達に力をお貸しくださるのですか?」


「別に見ず知らずでもいいじゃない。大体、人間関係は見ず知らずから始まるものだよ。それに、ボクが君達に好感を覚えている――それでいいじゃないか? ご要望通り、陽夏樹さんには幸せ……かどうかは本人の感じ方だと思うけど不自由のない生活を保証するつもりだよ。それと、石澤さんが望むならだけど、「推理倶楽部 Bengal」を再興したいなら資金と部屋と機材を提供させてもらうよ。実は、割とテレビ局とかにコネがあるんだよねぇ」


 この時点で圓は元零細ゲーム製作会社のノーブル・フェニックス、鳳鸞醸造、東都放送株式会社、KARAMARU書房に出資していた。

 ちなみに、月紫と共に独立してから一年後のことである。圓のネットワークは猛スピードで広がっているのだ!


「……本当に、よろしいのですか?」


「うん、旦那様――陽夏樹枸櫞様の意思を継いでやりたいんでしょう? なら、ボクはそのために協力を惜しむつもりはないよ」


 その後、陽夏樹燈は圓の屋敷で生活をするようになり、その後いつまでも甘えていられないとメイドとして働くことを志願し、その後、広い屋敷を管理するために雇われた大勢のメイド達の頂点に立つ、百合薗家の全女性使用人を統括するメイド統括に任命されることになる。

 ちなみに、それまでは圓が食事作りなどの家事を含め屋敷に関する身の回りのことを全てやっていると知った時は、燈も石澤も言葉を失った。



<三人称全知視点>


 嵐堂(らんどう)會と呼ばれるヤクザ組織がある。

 嵐堂(らんどう)興次(おきつぐ)が大正時代に創設したとされる。その歴史は長く、かつては六大指定暴力団の一つに数えられ、猛威を奮っていたことがあるという。


 黎明期から那古野に本拠地を置いていた彼らだが、十代目組長を務める嵐堂(らんどう)勝雄丸(かつおまる)の時代から方針が大きく転換され、現在は那古野周辺を守る自警団的な組織へと変わった。

 組織のヤクザ達による自主的な清掃活動、ヤクザとして活動していた頃のノウハウを生かした薬物流通を防止する活動などなど、その頑張りが次第に那古野に住む人々達からも受け入れられるようになり、那古野に無くてはならない存在となっていった。


 その多種多様なボランティア活動(子供の登下校中の学童擁護員のような仕事や、リサイクルなどの環境活動への貢献などなど)が一定の評価を得つつあった頃、嵐堂勝雄丸が何者かによって殺害されたという事件が起きた。


 ちなみに、事件は表向き迷宮入りして犯人は不明のままだが、実際の犯人は田村勲である。

 この事件の調査を十一代目の嵐堂(らんどう)三辻(みつじ)がダメ元で百合薗圓に依頼したことで、百合薗グループとの繋がりが生まれている。犯人も圓達によって解明され、斎羽が「また田村かッ!?」と怒りを燃やしたとか、なんとか。


 その嵐堂會の本拠地に、一人の男が来訪した。


「組長、怪しげな男が組長に用事があると言っています!」


「……一体どんな奴だ? まさか、サツか? それとも、敵対する暴力団か?」


 嵐堂會は各所で暗躍し、暴力団潰しを行っている。

 「暴力のない住みやすい国を」という父の願いを受け継ぎ、各地で暗躍を続けてきた。そのため、嵐堂會に怨みを持つ暴力団は多い。


「いえ……それが、執事服を纏った男でして」


「執事服? 百合薗の柳影時殿か?」


「柳さんだったらそう言いますよ? どうなさいます? 組長?」


「まあ、会ってみるしかねぇだろう?」


 部屋に入ってきたのは執事服を纏った白髪の老人だった。


「お初にお目に掛かります。陽夏樹子爵家元筆頭執事の石澤と申します」


「ああ、陽夏樹さんのところの執事さんか? で、どうしたんだ?」


「柳様より本日、許可を頂きました。長年様々な暴力団と繋がり、国家が蝕まれていくことを容認してきた首都警察――彼らを潰す機会を賜ることができました。三辻様の先代――勝雄丸様の敵討ち、とは参りませんが、貴方にとっても国の腐敗を黙って見過ごしてきた彼らは許せない相手なのではありませんか?」


「首都警察を潰す? そんなことができるんだったらとっくの昔にやっているよ。だが、警察を敵に回して勝てる訳がねぇだろ?」


「より、正確に言えば警察の中にある悪しき部分を除去するということです。勝雄丸様の殺害された事件は警察によってなされた捜査が早々に打ち切られました。その理由は、彼らにとって不都合なことがあったからでございます。警察内部で隠蔽に加担した彼らこそ、警察を蝕む瀬島の尖兵――私は彼らに個人的な恨みがあります。子爵様の盟友、松蔭寺殿亡き後、かつて松蔭寺殿が務めていた凶悪犯罪を担当する九係の係長の地位について警察を蝕んでいる石取寿一と探偵を語る極悪人、閃探――彼らを斥ける役割を柳様は与えてくださいました。柳様には嵐堂會にも協力を依頼することをご提案頂きましたので、参った次第です」


「なるほど……そういうことか。瀬島……あの魔女の一派が警察を蝕んでいたのなら説明がつくことがいくつもある。よし、今から嵐堂會の全組員に召集をかけろ! ただし、命を捨てる覚悟がある奴だけ来るように伝えろ!」


「――はっ!!」


「石澤殿、そういうことだから暫し待ってくれ」


「承知致しました」



 大倭政府の議事堂に反物質爆弾が投下される丁度その頃、石澤と三辻、そして嵐堂會の組員三百人は山王寺占楽や病的な文字フェチで文字以外に愛せない静海(しずみ)理沙(りさ)達――特殊捜査分隊「spade」の手引きで夜の首都警察庁に突入し、その後もう一つの重要な戦いとなる首都警察庁の戦いの幕が切って落とされることとなる。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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