Act.4-24 黄昏時の突撃〜 オールド・エルフvsネオ・エルフ scene.1 下
<三人称全知視点>
「ちっ、小賢しい人間共め! 族長を守っているとでも言いたいのか!! そもそも禍をもたらしたのはお前達人間だ! それを抜け抜けと!! やってしまえ! 奴らは固まっている!!」
「ですが……それでは、他のエルフ達も……」
「構わない。どうせ連中も人間側についたんだ。ならば、人間と同じだろ?」
一軍の将を担っていたイーレクスは無茶苦茶な論理を並べ立て、部下達に攻撃命令を下した。
真面な思考を保っていた若いエルフも流れには逆えず、【エルフの栄光を掴む者】のエルフ達が一斉に攻撃を仕掛けようとする……が。
「ちっ、小賢しい真似を! こんなもの、斬ってやる!!」
行手を阻むように張り巡らせた糸に気づいたイーレクスが装備していたミスリルの短剣を勢いよく振りかざした。
ミスリルはドワーフや人間と敵対しているエルフにとっては通常よりも遥かに希少な金属だ。本来ならばイーレクス程度では手に入れることはできないが、〈精霊の仮面〉の財力で将に持たせるほどの数は揃えられている。
が、それでも十本程度……イーレクス達にとって貴重な武器だ。
それが、呆気なく砕け散った。思わず二度見するイーレクス。
「『雲竜絲プラティナクロース』は幻想級装備です。いくらミスリル製と言えど、強化していない製作級の武器が幻想級に勝てることは絶対にあり得ません。……殺したくないですから、大人しくしていてくださいね」
スピネルのメガネがキラッと輝いた。その眼鏡の奥底の瞳は、さっきまでのほんわかとした柔らかさが嘘のように冷たい意志の光に包まれている。
『スピネル様、もう糸を解いても問題ありませんよ。反乱を起こしたエルフ達は全て捕らえました』
先程まで、全く気配を感じさせなかった欅が地面から生えてくるように姿を現した。
イーレクスが身体に違和感を感じて慌てて下を見ると、木の蔓で雁字搦めにされた現状がようやく目に入ってくる。
『【生命の巨大樹の大集落】とその周囲の警戒をしていて正解でした。やはり、お姉様の勘は正しかったです。……彼らはそこの若いエルフ達と同様に束縛して動きを制限しております。梛、櫁、椛、槭、楪、櫻は束縛したエルフ達を監視しておりますので、戦闘には参加できません』
「恐ろしい子達だわ……流石はアルラウネというべきかしら。人間の庇護欲を刺激して寄生する魔物として恐れられているけど、そういう戦い方はしなくなってなお、ここまで強いというのは恐ろしいわ」
『お褒めに預かり光栄です、ラル様』
アルラウネの庇護欲を感じさせる笑顔とは対極に位置する、慈悲なき暗殺者の表情にラル達は「味方で良かった」と思わず安堵する。
魔改造が施されたアルラウネ達はそれほど恐ろしい存在だった。彼女達なら平気な顔で庇護欲を掻き立てる仕草をする同族達を容赦なく狩るだろう……或いは百合の尊さを淡々と教え説くか。
「――ふん、まだだ! 我らにはまだ〈精霊の仮面〉様がいる。お前らなんて〈精霊の仮面〉様に掛かれば風の前の塵に等しい!!」
「欅さん、〈精霊の仮面〉っていうエルフを拘束したかしら?」
『いえ……そのようなエルフは捕まえていない筈ですが……ということは、まだ他に』
囀っているイーレクスは放置して、ラルが欅に状況を確認している最中、ソレは唐突に――まるでこの場に瞬間移動したように――姿を現した。
『管理者権限・全移動』
エルフであれば持ちえない妖精の四枚翅をその背に生やしたミスリルの仮面をつけた存在。
「『管理者権限・万象鑑定』……なるほど、人間の他にも魔物と古代竜が混ざっているか。まあ、いい。人間に与するものは魔物も、古代竜も、エルフも、皆我が敵だ。『管理者権限・GM権限――限定発動』――我が手に宿れ『神殺しの焔』」
禍々しいほどの深紅の焔が〈精霊の仮面〉の右手に宿り、一振りの剣と化す。
「……どういうことなのですよぉ。……なんで、ミスルトウが……【生命の巨大樹の大集落】を襲撃しているのですかぁ!?」
「――ッ! 〈精霊の仮面〉様! 森を燃やす焔など、我々エルフは決して手にしてはなりません! おやめ下さい!!」
エイミーンとイーレクスは二様の驚きの声を上げた……が、〈精霊の仮面〉――ミスルトウは歯牙にも掛けず、『神殺しの焔』の切っ先をエイミーン達の方へと向けた。
「今、『管理者権限』って聞こえたよな。……あれって、圓が持っている奴と同じだろ? なんでミスルトウが持っているんだ?」
「……分からないのですよぉ〜。ミスルトウの面影はあるのですが、あんな翅は持っていなかった筈ですし、色々とおかしいのですよぉ〜」
「……ディラン、そういう考察は後回しだ。……とにかく、あれはGM権限によって顕現された武器。――その力を恐らく、幻想級を優に超える。もしかしたら、ローザ様の言っていた創世級を超える強さを持つのかもしれない。……とにかく、近距離で渡り合うのは不可能だ。……俺は苦手だが、魔法で攻撃するのが確実だろうな」
「アクアの言う通りだな。ここは魔法使いに任せるしかないだろ。後は遠距離から攻撃できる奴か……バルトロメオ、それでいいか?」
「ああ、それしかないだろ? 戦えねえのは残念だが仕方ねえ。最悪ローザが戻ってくるまででいい、ここを死守するぞ!!」
電磁加速式拳銃をホルスターから抜いたラル、『光子力系ブラスター・大口径レーザーライフルσ-3096』を構えたペストーラ、『接骨木の杖』を構えたティルフィ、『オレルスの弓』に『神水晶の破魔矢』を番えたハルト、『世界樹の短杖』の杖先を前方に向けて意識を研ぎ澄ますミーフィリア、半龍人の姿へと変わったナトゥーフ――この六人が攻撃の要となる。
「吹き荒め風よ。螺旋を成した刃となりて切り刻め――螺旋嵐刃。吹き荒め風よ。鉄槌となりて降り注げ――蒼穹衝槌」
「水伯の女王の吐息-局所暴風雨-」
森への延焼を警戒してティルフィが二種類の風属性魔法を放ち、ミーフィリアが猛烈な暴風雨を局所的に発生させるオリジナルの戦術級魔術の応用版を無詠唱で放つ。
「八重魔法全開放なのですよぉ!!」
『龍神の怒號!!』
エイミーンが八重術者としての本領――水、氷、風、木、土、光、闇、影属性のストックしていた魔法を全て開放し、ナトゥーフが己の渾身全力のブレスを収束した一撃を放ち、それと同時にハルトが番えた『神水晶の破魔矢』を放ち、ペストーラが『光子力系ブラスター・大口径レーザーライフルσ-3096』の引き金を引く。
五人同時攻撃――この攻撃には流石の〈精霊の仮面〉も対処はできない……と、そう思われたのだが。
「効かんわァ! 『神殺しの焔・無敵の半球』」
〈精霊の仮面〉は『神殺しの焔』をドーム状に変形させた。
瞬間、五人の放った攻撃が全て『神殺しの焔』のドームに飲み込まれて跡形もなく消滅する。
「下らん攻撃だな。……『神殺しの焔・裁きの焔鞭』」
鞭の姿に変化した『神殺しの焔』が強く握り締められた瞬間――回避不能の鞭の乱打がバルトロメオ達に殺到した。
「こりゃ…………本当に拙いな。勝てる気がしねぇ」
バルトロメオ達が諦め掛けたその時――聴き慣れた透き通る声が『管理者権限・全移動』と紡いだ。
「…………厄介なことになっているみたいだねぇ。……時空凍結! 焔という概念を凍らせる焔」
ヨグ=ソトホート討伐のラストアタック報酬として入手できる限定職の時空魔法神が習得する時間魔法の一つで時間の流れを凍結させることで停止する魔法で完全に時間を止めて、魔法系四次元職の大魔導帝が習得する裏の火属性魔法の奥義で『神殺しの焔』を凍らせたリーリエは、渦を成すような漆黒の冷たい双眸を〈精霊の仮面〉に向けた。
「それは、ハーモナイアに与えられた力だ。誰から受け取ったのかは知らないけど、とっとと返してもらうよ」
リーリエの口から飛び出した声は地を這うように低く冷たかった。
◆
自室で睡眠を取っていたプリムヴェールは、常時とは異なる激しい騒音で目を覚ました。
「…………これは、戦いの音か?」
考えられることは一つしかない――【エルフの栄光を掴む者】が遂に【生命の巨大樹の大集落】に侵攻を開始したのだろう。
元々、徹底的に人間を排除してエルフの勢力息を広げるべきだという思想を掲げる【エルフの栄光を掴む者】と【生命の巨大樹の大集落】にこれまで通り隠れ住み、人間達と関わりを持たないようにすべきだというエルフの長老達保守派は真っ向から対立していた。
今回の件でエイミーンはそのどちらにも属さない開国派に傾きつつある。元々、何を考えているか分からない類の存在ではあったが、彼女はエルフ全体の利益のために人間と手を組むべきだという結論に達したからこそ、ローザ達との交渉に高い意欲を見せたのだろう。そして、その流れはプリムヴェールにとっても嬉しい誤算だった。
とはいえ、エルフも独裁政権では無い。いずれ保守派と改革派を説得しなくてはならないとは考えていたが…….どうやら血の気の多い若いエルフ達は今回の一件を「族長がエルフを人間に売り渡そうとしている」と考え、その芽を潰すために動いたらしい。
「……私もローザさんの意思に賛同した側だ。ならば、この戦いに参加しなくてはならないだろう。……【エルフの栄光を掴む者】と対立することは最初から分かっていた。その覚悟もできている」
マグノーリエの寝室で彼女がぐっすりと寝ていることを確認すると、プリムヴェールは使用人が姿を消した屋敷の廊下を歩いて外を目指す。
そして、その先で目にしたものは――。
「何が起きているのだ……」
一網打尽にされた【エルフの栄光を掴む者】の若いエルフ達、そして緊張の面持ちで一点を見つめる使節団の者達や、エイミーン。
そして……。
「…………何故、お父様が……ローザさんと……」
ミスリルの仮面をつけて顔を隠しているが、娘であるプリムヴェールにはそれが実父であることが分かった。
「それは、ハーモナイアに与えられた力だ。誰から受け取ったのかは知らないけど、とっとと返してもらうよ」
一度聞いただけで脳裏から離れない、冷たい声。凝縮に凝縮を重ねた鋭い殺意。それが、変わり果てた父――ミスルトウに注がれていることを理解した時、プリムヴェールの口から飛び出したのは激しい慟哭だった。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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