Act.4-23 黄昏時の突撃〜 オールド・エルフvsネオ・エルフ scene.1 上
<一人称視点・リーリエ>
「どうか、これまでの無礼をお許しください! 女神様!」
ボクは今、教皇達全員から平伏されていた……なんで?
「……いや、なんでこうなったの? というか、誰が女神なの?」
「何を仰られるのですか? この世界において、リーリエ様の他に女神様などおりません!!」
「……それを言うならハーモナイアが女神だよねぇ!? ボクはあくまでこの世界の原案になった三十のゲームを作っただけで」
「……前々から思っていたんだが、世界の原案を作ったって時点で神の所業だよな? それに、そのハーモナイアって女神もお前が作らせたんじゃねぇのか? 化野って科学者に」
「まあ、そうなんだけどねぇ……でもいいのかい? ボクって君達にとっては許し難い魔族なんでしょう? そりゃ、そういう差別をやめて欲しいから来た訳だけどさぁ」
「リーリエ様のお言葉は女神の啓示です。そのお言葉に逆らうなどあってはならないこと。我々教団において唯一絶対なのは信仰する女神のお言葉であって、教義や教典ではありません。……生と死を司る『天上の薔薇の女神』リーリエ様。我々が間違っておりました。……どうか、我々をお見捨てにならないでください!!」
……大袈裟過ぎない? 掌返しが怖過ぎるんだけど……。……というか、なんで『天上の薔薇の女神』なの? 『天上の百合の女神』じゃないの!? 天上の薔薇とか、吸血姫の見た目に引っ張られたの!?
「別に見捨てる見捨てない以前にボクは神じゃないんだけどねぇ……とりあえず、人間至上主義と魔族や亜人族への差別と迫害を速やかにやめてもらえないかな?」
「勿論でございます!! リーリエ様のお言葉は、信徒の皆に伝え、徹底させなくてはなりません!! ……リーリエ様、その……大変申し上げにくいのですが、そのお美しいお姿を壁画に描かせて頂けないでしょうか? ……今回の件で総本山が大破してしまいましたし、良い機会ですから教典を一新して聖女神リーリエ様を信仰する教団へと生まれ変わらせたいのでございます」
「…………今は時間がないからねぇ、緑霊の森の
件が片づいてこっちに戻ってきてからにしてもらえないかな? それから、別にリーリエを崇めるのは勝手にすればいいけど、ボクのある意味本体と言えるローザ=ラピスラスリの生家に突撃したり、聖女候補にしたり、況してや聖女として祭り上げたりするのはやめてねぇ……ボクが手を下す前に総本山が今度こそ血の海になりかねないから」
「……まあ、あいつならやりかねないなぁ」
「…………リーリエ様の現身であるローザ様に聖女になって頂けないというのは心苦しいことではありますが、リーリエ様のお言葉とあれば仕方ありませんね。しかし、どうかこれからも我らにお慈悲をお与えください」
再び平伏すアレッサンドロス教皇達……本当に仰々しいねぇ……もっと普通に会話したいところだけど。
「まあ、ブライトネス王国の兵力に加えて天上光聖女教の神聖護光騎士団も加わったんだ。こいつらは狂信っていう意味不明な補正が掛かっているし、勢いと無鉄砲さに関しては右に出る者はいないだろう? 結果としては良かったんじゃねえか?」
「間違いなく、ラインヴェルド陛下は神聖護光騎士団を使い潰そうとしているよねぇ……。でも、精鋭だった彼らでも今回の件でボク一人すら止められなかった訳じゃん。ボクが仮想敵として置いているヨグ=ソトホートに勝つなんてこのままじゃ到底無理。癒し手ということで、聖女の存在は重要かもしれないけど、並行して時空干渉系の魔法の使い手を探す必要はあると思うよ。まあ、相手は『単に一つの時空連続体に属するものではなく、存在の全的な無限の領域――制限を持たず空想も数学も共に凌駕する最果の絶対領域――その窮極的な生気汪溢する本質に結びつく者』……つまり、時空を超越した、或いは時空そのものといえる存在。時空への干渉ができれなければ話にならないけど、時空に干渉できるようになって初めて戦いの舞台に上がれるというだけで対等に戦う力とはなり得ない。……まあ、悲観することはないよ。ゲーム時代のフレーバーテキスト通りなら、超越者のレイドで倒せる筈だし、干渉できれば微々たるダメージは与えられる筈。ラインヴェルド陛下には既に伝えたけど、『スターチス・レコード』の中にはゲームバランスの都合で変更されたけど、時空属性の使い手がいた。ブラックストーン子爵家のジュード=ブラックストーン……彼は元々古の文献に出てくる珍しい時空属性の持ち主だったんだけど、パワーバランスが崩れるという理由で無属性に変更したんだよねぇ。陛下がブライトネス王国に眠っていた文献を宰相経由で探させてようやく存在することの確認が取れた時空属性だけど、もしかしたらジュードが持っているかもしれないし、他に使い手がいるかもしれない。天上光聖女教の方でもこの時空属性の使い手を探してもらえないかな?」
「畏まりました! 聖女候補の発掘は引き続き続行致しますが、新たに時空属性の使い手も捜索させて頂きます。……コンラート筆頭枢機卿!」
「はっ!! それでは、私の方から各教会にリーリエ様のご意志をお伝え致します」
それから嵐が去っていくようにコンラートが猛スピードで聖堂を飛び出し、他の枢機卿達もいそいそとそれぞれの為すべきことを見つけて仕事に取りかかった。
「それじゃあ、ラインヴェルド陛下。王宮まで送っていくよ」
「はっ、何を言ってんだ? 折角抜け出してきたんだし、このまま緑霊の森に行くに決まっているだろ? やっぱり、国王がいないと話にならないよな? 条約締結とか」
「それでは、私もお供させて頂きましょう。教皇である私からエルフへの正式な謝罪をさせて頂かなくてはなりません」
…………マジで。なんでこの世界のお偉方ってこんなにフットワークが軽いの? というか、なんで他の枢機卿も止めないの!? 寧ろ、全員で「教皇様をよろしくお願いします」って全力で送り出そうとしているけど……ああ、この話聞いたらまたアーネストが撃沈することになるだろうな。総本山の大破だけで限界値だろうに、その上国王陛下と教皇臺下を連れて緑霊の森に行ったなんて聞いたら…………ボクにまで雷が落ちないといいけど……寧ろ、被害者は誰がどう見てもボクの方だよねぇ。全く、振り回されるこっちの身にもなってよ。
「どうなされました? 御尊主様、お顔色が優れないようですが……」
「なんでもないよ。…………はぁ」
そりゃ、溜息も吐きたくなるものだよねぇ。
◆
<三人称全知視点>
――リーリエがラインヴェルドと共に天上光聖女教の総本山に襲撃を仕掛けていた丁度その頃、緑霊の森もまた大混乱の渦中にあった。
「我々は新たなエルフである」と標榜する【エルフの栄光を掴む者】が、現族長の引退と人間の使節団の隷属を求めて緑霊の森に攻め込んだのだ。
その指揮を執るのは〈精霊の仮面〉という妖精の四枚翅をエルフでありながら手にした妖精王翠妖精であった。
「まさか、ローザ様が緑霊の森を離れているタイミングを狙って仕掛けてくるなんて……仕方ないわね。ここはアタシ達で死守するしかないわ。……誰一人殺さずにこの戦いを終えるわよ」
「暗殺者としてやって来た俺達が殺さないように戦う日が来るなんてな……。だが、俺達もプロ……交渉をご破算にしてローザの姐さんの顔に泥を塗る訳にもいかないし、こりゃなんとしても不殺で終わらせねえといけねえな。……俺はともかくスピネルさんの方は大丈夫か?」
「…………すみません。……私、不器用ですから間違って殺してしまうかもしれません……」
「……それ、間違ったで済まないと思うんだが……」
「やっぱり、暗殺者って頭のネジが一本や二本外れているものなんだな」とジルイグスがスピネル本人に言ったなら「すみませんすみません」と謝られて済みそうだが、ラルとペストーラに睨まれそうな感想を脳裏に浮かべる。
「頼まれた通り使用人は全員屋敷の中に避難させたのですよぉ〜。でも、いいのですかぁ? これはわたくし達の問題でもあるのですよぉ」
「敵の目的の一つは俺達ですし、俺達が何もしないままという訳にはいきません。俺達は圓さんに雇われて護衛としてついて来ています。そして、その護衛の相手は圓さんや使節団の皆様だけではなく、その会談相手であるエイミーン様もです。俺達は圓さんが帰ってくるまでここを死守します。ですから、エイミーン様も屋敷の中に身を隠してください。……さて、いい感じに手加減しないとスピネルさんじゃないけど本当に殺しちゃいそうだな」
『鬼神温羅の金棒』に武装闘気を、全身に迅速闘気を纏ったヴァケラーが、金棒をトゲ付きバットを構える時のように構えた。
「わたくしも戦うのですよぉ。族長の椅子を狙われている以上、私が何もしないで屋敷に引きこもっている訳にはいきませんから」
あくまで、エイミーンはこの場に残って戦うつもりのようだ。そこまで強い意志を持ってこの場にいるのならば、それを止めることは誰にもできない。
「それじゃあ、俺達も行くか……ティルフィさん、ハルトさん、いつものフォーメーションで行こう」
「「了解」」
「それじゃあ、私は負傷者の回復ね」
『ブリザードブリンガー』を構えたジャンローを前衛にし、『接骨木の杖』を構えたティルフィと『オレルスの弓』を構えたハルトを後衛に据えた三角形の陣形を形作った。
『ヘリオトロープの聖樹杖』を構えたターニャが最後尾でいつでも治癒魔法を飛ばせるように神経を研ぎ澄ます。
イスタルティが『神槍・天逆鉾』を、ジルイグスが『ソニックブリンガー』を構え、癒し手のターニャを守るように後方二列目に陣取った。
そして、前衛には『ブルートガング』と『ナーゲルリングの二刀流を構えたラル、『光子力系ブラスター・大口径レーザーライフルσ-3096』を構えたペストーラ、『雲竜絲プラティナクロース』を張り巡らせたスピネル、『カレトヴルッフ』を構えたアクア、『闇を斬り裂くもの』を鞘から抜き払ったディラン、『コールブランド』を構えたバルトロメオ、『世界樹の短杖』の杖先を前方に向けたミーフィリア、ナトゥーフという誰がどう考えても守られるべき立場の者達が紛れ込んでいる。
そこに全く違和感がないのは普段から暴れ回っている者達ばかりだろうか? 武闘派大臣とか、軍務省の長官を務める王弟とか。
「それじゃあ、完全勝利目指して頑張るか!!」
そして、ディランの威勢のいい声と同時に緑霊の森の主導権を賭けた戦いが始まる。
お読みくださり、ありがとうございます。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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