Act.4-21 黄昏時の突撃〜悪役令嬢と暴走するクソ陛下〜 scene.2 上
<三人称全知視点>
【生命の巨大樹の大集落】から遠く離れた地に人知れずひっそりとある荒屋に数十人のエルフの若者が集結していた。
彼らは他種族排斥を掲げる若いエルフ達によって構成された【エルフの栄光を掴む者】に所属している者達である。
「くそっ、やっぱりあの馬車は人間のものだったかッ!! 何故、族長はあのような連中を受け入れた!! 我々エルフがどれだけのことを人間にされたのか、それを忘れた訳ではないだろう!!」
「あの女は大躻けだ。愚かな人間に唆されてエルフ達を売る売国奴に成り下がった!! やはり、古いエルフは耄碌している。今こそ、我々新たなエルフが緑霊の森を、エルフを導かなくてはならないのだ!! そして、我々新たなエルフを導く者こそ、新たな族長――〈精霊の仮面〉様なのだ!!」
豪華な彫刻が施された椅子に座った仮面の男は絶対零度の双眸で盛り上がる若者達を見下ろした。
(……やはり、愚かな奴らだ。抱えている主義主張こそ立派だが、所詮は口だけ――敵がどれほど恐ろしい存在かを理解していない)
革命は必要だ。人間とエルフが同盟を結ぶなど決してあってはならない。
エルフは愚かで欲に塗れた、下等な人間に虐げられてきた。〈精霊の仮面〉の両親も人間に捕らえられ、姿を消した。
人間は平気で嘘をつく。人間は狡猾で卑劣で残虐な性質を有している。人間は善意の皮を被っているが、その本質は邪悪そのものである。
もし、人間との同盟が成立してしまったら、結果としてエルフは人間によって管理され、骨の髄までしゃぶり尽くされることになるだろう。
奴隷として扱われ、見目麗しいからと理由で性欲の捌け口として使い潰され、使えなくなれば使い捨てられる。
エルフを拐う人間が後を絶えなかったからこそエルフは団結し、緑霊の森のような共同体を作り出して強固な結界で人間から身を隠してきた。
だが、いつの時代にも愚かな者がいる。外の世界に憧れ森を飛び出したエルフ達は結局帰ってくることは無かった。
クリゾンテム=ナノーグという馬鹿な女もいた。当時も族長を務めていた先祖返りのエイミーンの生家メグメル家の分家筋に当たるナノーグ家の娘だった彼女はあろうことか人間の甘言に騙されて駆け落ちして外の世界に飛び出した。その結果、生まれたミーフィリアという女も人間の世界で苦しんだのだという。
そもそも、ハーフエルフという存在自体あってはならないものだ。エルフは究極の純血――ハイエルフこそが至上であり、混じり物など言語道断。エルフの恥晒しである。況してや人間との混ざりなど存在することも許されではならないのだ。
彼らはミーフィリアは連れてくることによってエルフを挑発しようとしているのだろう、と〈精霊の仮面〉は考えていた。エイミーンは簡単に騙されていたが、あの人間達は腹の中では言葉巧みにエルフを懐柔して、飼い殺そうとしているのだろう。
だが、だからと言ってこのままクーデターを行ったところで古いエルフを斥けた上で人間達を捕らえることは難しいだろう。人間を捕らえ、エルフが受けた屈辱を返したいという本懐を遂げるためには、まず彼らに匹敵する力が無ければならない……が、長年人間からエルフを守ってきた結界を超えるほどの者達ならば、間違いなく化け物じみた力を持っている。
特に、異世界から転移して、更に転生も経たという公爵令嬢ローザ=ラピスラズリ。話を聞く限り、アレは人間の中でも別格の強さなのだろう。結界を超えることができたのもアレの存在があってだろう……が、アレを切り崩そうにも【エルフの栄光を掴む者】にはそのための武力が圧倒的に足りていない。
『『『うふふ、お困りのようですわね』』』
――突如、荒屋の床から水が湧き上がり、その水が三人の美女の姿へと変わった。
まるで女神のような美貌を持つ三人……いや、三柱と呼ぶべきだろうか?
「…………何者だ?」
『うふふ、私達はノルン。私は長女ウルズよ』
『次女のヴェルザンディよ』
『私は三女のスクルド』
『興味はないかしら?』
『人間に対抗し得る……いえ、異世界からこの世界にやってきた超越者にすら対抗する力』
『ハイエルフなんて足元にも及ばない――妖精王の力』
三人の女神達はクスクスと笑い合いながら、〈精霊の仮面〉に微笑みかける。
「…………目的はなんだ? 超越者とはあの人間の娘のことだろう? 私が仮に力を得てローザ=ラピスラズリとやらを倒したところで、お前達に何のメリットがある?」
『うふふ、私達は倒して欲しいの』
『一体、誰を倒して欲しいのかしら? お姉様』
『超越者――この世界を作り出して、世界を弄ぶ百合薗圓という悪役令嬢。エルフに惨めな思いをさせたのも、そういうシナリオを書いたのも、みんな、みぃんな、ローザなの』
『あらあら怖い。ねぇ、お兄さん。私達のために、いえ、この世界の全ての生きとし生ける全ての者のために大悪魔を倒して下さらない? 下さるのなら、貴方の望む力をあげるわ!』
『『『さあ、受け取りなさい。そして、貴方が妖精王翠妖精として全てのエルフを導くのよ。うふふ、うふふ』』』
三人の女神達はその手から無数の数字列を固めた情報物質を収束して〈精霊の仮面〉へと放った。
〈精霊の仮面〉の身体に圧縮された情報物質が当たった瞬間、数字列が爆発するように〈精霊の仮面〉を包み込む。
「――ッ! 〈精霊の仮面〉様!!」
『『『うふふ、貴方の勝利を願っているわ。うふふふふ、うふふふふ』』』
三人の女神達が水となって消える中、エルフであれば持ちえない妖精の四枚翅をその背に生やした〈精霊の仮面〉は勝利を確信した笑みを浮かべた。
◆
<三人称全知視点>
――天上光聖女教の総本山は混乱の渦中にあった。
「――何、襲撃者だと!? ――ッ! 教皇臺下の御身をお守りし、我々神聖護光騎士団で襲撃者を止めるぞ!! 我々には大いなる女神の加護がある! 負けることなどありはしない!!」
神聖護光騎士団の騎士団長を務める男はこの異常事態に置かれてもなお、冷静な判断を下すことができた。
神聖護光騎士で幾重にも防波堤を作り、教皇を初めとする教会上層部を守護しつつ、襲撃者に対処していく。
日頃の訓練も功を奏し、騎士団長の命令が下ってからの神聖護光騎士達の動きは迅速だった。
「それで、襲撃者はどれくらいの人数だ?」
「そ、それが……たった二名です。一人は……信じられませんが、ブライトネス王国の国王陛下。そして、もう一人は……魔族の女です」
「なんだと!? まさか、ブライトネス王国が魔族と組んだのか!? この国はそこまで腐っていたのか……致し方ない。女神の代理者である我らの手でこの国を今一度浄化し、女神の加護を取り戻すのだ!! 魔族に国を売った売国奴共を滅ぼせ!!」
神聖護光騎士達の士気は高い。元々、ブライトネス一族は天上光聖女教を信仰していない、教会にとっては目の上のタンコブのような存在だった。
ブライトネス一族によって天上光聖女教の布教が規制されたということも一度や二度ではない。常に天上光聖女教は王族と敵対しながら徐々に民衆の支持を獲得していった。
しかし、ブライトネス一族が魔族に国を売ったとなれば民意は一気に天上光聖女教に傾く。そうなればこれまで自由に布教できるようになるだけではなく、このブライトネス王国という地を丸々手に入れることができるようになるのだ。
そうなれば忌々しい邪教――シャマシュ教国にも対抗できるようになる。まずは同じ土俵に上がらなければ話にならない。そして、その上でシャマシュ教国を根絶し……。
「…………全く相も変わらずクソつまんねえ連中だな。時代はグローバル化なのに、忌々しい種族差別と人間至上主義を掲げるなんてな」
「……まあ、ラインヴェルド陛下はこの世界の真実を知っているからねぇ。それを知らない者達からすれば陛下の乱心だって思っても仕方ないと思うよ。……というか、いつも乱心しているか。寧ろ乱心していない日の方が珍しいよねぇ」
「随分グサグサ言うじゃねえか。やっぱりお前は最高だぜ、百合薗圓。国王相手にそこまで言える奴って本当に少ねえからな。どいつもこいつも胡麻を擦り擦り……国王って看板しか見ちゃいねぇ」
「まあ、偉くなるっていうことはそういうことだよ。諦めなって……ボクもそうやって甘い汁を吸おうとしてくる奴を沢山見てきたからねぇ。まあ、それでも我が物顔でボクの頑張ってきたものを掻っ攫おうって魂胆の政治家に比べたらマシだと思うよ」
薔薇の彫刻が施された黒い魔剣と白い聖剣を翼のように広げる独特な構えをした緋色の瞳と濡れ羽色の艶やかな黒髪を持つ白肌の十代の美少女――吸血姫が、ブライトネス王国の国王ラインヴェルドに苦笑いを浮かべながら返した。
「あっ、陛下。何度も言っているけど殺さないでねぇ。ボクらは交渉に来たのであって……」
「そういえば、リーリエって蘇生魔法を持っているんだよな。なら、殺しちゃうくらい暴れても問題ないだろ? それに、蘇生は確か天上光聖女教では女神の奇跡と言われていた筈だ。まあ、そうじゃなくても死んだ人間を蘇生させるなんて芸当は常識の範囲を超えた正しく神の御業だけどなぁ……なぁ、交渉に効果があると思わねえか? それに、俺は暴れ足りねえんだ。ディランとバルトロメオも楽しんでいたんだろッ! なんで俺だけ公務なんだよ!!」
「あるだろうけど……それ、マッチポンプって言うんだよ。……というか、最後のが本音だよねぇ?」
ラインヴェルドの提案に「うわぁ……外道の考えだ」と思いつつも、「まあ、そっちの方が都合がいいか。殺さず倒す方が面倒だし」と考えている時点で吸血姫の少女もかなり悪逆非道で残虐な外道である。とてもじゃないが、人のことをとやかく言える立場にはない。
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