Act.9-503 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜到着! 呪われし無人島〜Vol.1 scene.7
<三人称全知視点>
「本来、雨が止むまで洞窟の入り口付近に留まり、雨が止んだら洞窟を拠点に探索を進めつつ食糧の確保や脱出の手段を探すというのが最善の手段だ」
「えぇ、その通りですわね」
リオンナハトの言葉にミレーユも同意を示す。
そう、確かにリオンナハトが言うようにこの場に留まって雨を凌ぐのが最善手である。全く情報がない中でどのような構造になっているのか分からない洞窟の中を歩き回るのは愚か者のすることである。
しかし、リオンナハトはその洞窟探索を選択肢に入れる発言をしている。
聡明な王子の提案とは思えないが、そのリスクが分かっていて尚、そんな提案をするのはリスク以上のリターンがあるという確信がリオンナハトにはあるからである。
「……ただし、今の状況では最善とは言い難い、ということですわね」
「流石はミレーユ、察しがいいな。まず、前提としてこの島の近くには多種族同盟から臨時班が来ている。地下都市ケイオスメガロポリスという『這い寄る混沌の蛇』の拠点を調査するためだ。そして、恐らくその入り口はこの島の内部にも存在する。洞窟には明らかに人の手が入っている形跡があった。この洞窟のどこかに地下都市ケイオスメガロポリスの入り口がある可能性は高そうだ」
「なるほど……つい先日まで地下都市ケイオスメガロポリスが稼働していたということは、当然ここに留まっている者達が居たいということだね。彼らが食糧を残している可能性は高い」
「アモンの言う通りだがもう一つ、地下都市ケイオスメガロポリスには確実に臨時班の者達がいる。彼らと合流できれば、衣食住を提供してもらえる可能性が高い」
「……でも、わたくしはあんまり上手くいかない気がしますわ。この島にも諜報員は隠れ潜んでいる可能性は高そうですけど、この非常事態に姿を見せて助けてくれそうな気配はないですし、なんらかの条件を満たす可能性がありそうですわ。……例えば、『這い寄る混沌の蛇』に関する重要な場所……そうですわね、エメラルダさんがお話ししていた邪神を奉る神殿みたいなものを見つければまた話は変わるかもしれませんが」
「ちょ、ちょっとお待ちになって!? 皆様、一体何を話しておりますの!? わたくしにも分かるように説明してくださいまし!」
珍しく冴えているミレーユがリオンナハト、アモンと話し合いながら考えを纏める中、一人疎外感を感じていたエメラルダが半ば叫ぶように言った。
「この島に来る前にアネモネ閣下とお会いしたことは覚えているかしら? あの方が率いる多種族同盟の精鋭達、所謂臨時班の方々がこの海域の島々の地下にある遺跡を探索しているのですわ。なんでも、この地は邪教徒――『這い寄る混沌の蛇』にとって特別な場所だとか。具体的にはまだ分からないことが多いですけど、エメラルダさんの怪談を聞いてなんとなく分かってきましたわ」
まだ分からないことの方が明らかに多いが、少しずつパズルのピースが集まってくる感触がミレーユにはあった。
エメラルダが語った邪教徒の神殿――そこに大きな秘密が隠されている可能性は高い。少なくとも、ゲームのシナリオにおいてミレーユは二度この島を訪れ、二回目には蛇神Aponyathorlapetepの本体である『這い寄るモノの書』の原本を持つラスボス、アポピス=ケイオスカーンを死闘の末に打ち果たしているのである。
一度訪れた際に『這い寄る混沌の蛇』の首魁の間近まで迫りながら引き返したという点を加味すれば、簡単には本拠地が見つからないようになっていそうだが、それでも何かしらの収穫は獲られた筈だ。
……まあ、その収穫が一体何だったのか、ミレーユには皆目見当がつかない訳だが。
「邪教徒の神殿のことかしら? あれは作り話ですわよ! まさかあんな話を信じるなんてミレーユ様も皆様もお子様ですわね! しかし、もし仮に諜報員が潜んでいるのならなんで出てこないのかしら? わたくし達が困っているのを知っていながら手を差し伸べないって、本当に性格が悪い人達ばかりですわね。アネモネの同郷の人達だから性格の悪さが似ているということかしら?」
エメラルダの暴言に怒りを覚えて諜報員達が姿を見せてエメラルダの暗殺に動くのではないかとヒヤヒヤしたミレーユだったが、その程度のことで心乱される者達ではなかったのか、或いは本当にミレーユ達の「諜報員達が潜んでいる」という予想が外れたのか諜報員達は姿を見せなかった。
とんでもない発言をするエメラルダに内心ビクビクしつつも、その一方で「姿を見せてくれたら楽できますのに……」とも思ってしまう複雑な心境のミレーユであった。
「探索は……進めるしかないと思いますわ」
「そこは恐らく決定事項だろう。……しかし、やはりバラバラに散らばって一気に探索を進めるのは効率よりもリスクの方が勝ってしまう。俺やカラックが基本的に探索を進め、ミレーユ達には洞窟の入り口で待っておいてもらった方が良さそうだな」
圓のスタンスからしてミレーユが主導して探索して発見するというのが望ましい方法なのだろうが、ミレーユ達女性陣に探索を任せるというのは流石に酷な話である。
そこで、リオンナハト、カラック、アモンの三人が十分に気をつけながら洞窟内の調査を進め、その間、ミレーユ達は洞窟の入り口付近で待機し、嵐をやり過ごすこととなった。
◆
翌日には嵐は過ぎ去り、天気は快晴となった。
しかし、救助が到着した気配はない。もうしばらく無人島生活は続きそうだ。
洞窟の探索は慎重に慎重にを重ねたことで、それほど進まなかった。洞窟の入り口周辺の地図は出来上がったものの、判明したのは洞窟全体のほんの僅かであり、邪神の神殿のような見るからに怪しい建物も、地下都市ケイオスメガロポリスの入り口も発見することはできなかった。
洞窟探索は確かに優先度が高い事柄である……が、それよりもまずは食材の調達や水分の確保が重要である。
風が弱まったことを確認すると洞窟探索を一旦中断し、リオンナハトがカラックに命じて周辺の探索に向かわせた。
サバイバル熟練者のミレーユによる湧水や小川などの飲み水になりそうなものの探索依頼と、リオンナハトによる危険な動物が生息しているかどうかの確認依頼、アモンによる諜報員などの島にいる者の調査依頼――これら三つを一手に引き受けた苦労人カラックはしばらくすると戻ってきた。
その間、リオンナハトとアモンは二人組で洞窟の調査を進めていたが、こちらの進展はほとんど無かった。
「まず動物についてですが、危険な動物の痕跡はありませんでした。大型の動物は生息していないようですね。昆虫類や、小動物などは生息しているようで、探索中には兎を何匹か発見しました」
「ほう……ウサギ……」
ミレーユの瞳がギラリと光った。
昨日は食事抜きだったため、非常に腹ペコなミレーユである。ミレーユにとっては愛玩動物ではなく完全に食肉の対象になっている兎の命が危機に瀕しようとしていた。
「続いて、アモン殿下からご依頼を受けていた人の痕跡や気配ですが、こちらは全くありませんでした。相手は一流の諜報員、気配を消すのは造作もないでしょうし、そもそも我々の想定が間違っている可能性もあります。今のところ、いるかいないかを断言することはできそうにないですね」
「……駄目で元々の話です。カラックさん、調査ありがとうございました」
「それと、幕屋は運良く一つだけ残っていましたが、中がどうなってるかは不明ですが。ご婦人方の幕屋でしたので中は確認できませんでした。それと、森の中を少し行ったところに水源となりそうな場所を確認。小さな泉です」
「そうか、ご苦労、カラック。相変わらず仕事が早いな」
「まぁ、色々できないとリオンナハト殿下の従者なんかやっていられませんから」
被害状況を確認し終えたところで、リオンナハトとアモンも洞窟の調査を一時中断し、全員で洞窟の外へと向かうことにした。
当座の拠点は安全が担保されている洞窟の入り口とし、残された幕屋から道具……可能であれば食材を調達し、不可能であれば自力で食材調達をする必要がある。
本来、洞窟探索は安全が確保されてから行うべきことだ。このような遭難している不安定な状況下で行うべきではない。
食材を確実に確保している臨時班の面々と合流すれば衣食住を確保できるだろうが、そのためには洞窟を探索できるだけの安定を確保する必要がある。そのジレンマにミレーユ達もかなり悩まされていた。
手が届きそうなところに安全安心の衣食住がある分、普通の遭難よりも歯がゆい気持ちを味わっているミレーユ達である。
傾き、倒れかけの幕屋の中は風雨に晒されてすっかりボロボロになっていた。
四大公爵の一角であるグリーンダイアモンド公爵家が威信をかけて用意した素晴らしい調度品の数々はその面影がすっかりなくなっており、泥塗れとなって破壊し尽くされていた。
そして、肝心の食糧品は見当たらない。……まあ、ここはミレーユ達が寝起きするための幕屋である。
そもそも、食糧の大部分はエメラルドジーベック号の中に運び込まれていた。無人島で一泊する分の食材は持ち込まれていたが、長期的な滞在は想定されていないため、仮に全ての食材が残っていたとしても複数日の滞在は厳しかっただろう。
その運び込まれた食材も、全て暴風雨でどこかへ飛ばされてしまった。今頃は海の上を彷徨っているのだろうか?
すっかりお腹が空いているミレーユはそれでも懸命に食材を探そうとしていたのだが……そんなミレーユが探索を一時中断せざるを得なくなるものをミレーユは発見してしまう。
「……やっぱり、この島にいるんですわね。カレンさんかしら? ……それとも」
ボロボロで泥々な幕屋の中で、唯一綺麗なままの人数分の釣り竿と擬似餌――釣り道具一色を発見したミレーユは人知れず溜息を吐いた。
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