Act.9-501 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜到着! 呪われし無人島〜Vol.1 scene.5
<三人称全知視点>
――ポトリ、ボトリ。
「……降ってきましたわね」
雨宿りができる場所を探して島の探索を続けていたミレーユ達。
しかし、「どうか、雨宿りができる場所が見つかるまでは雨が降らないでください」というミレーユ達の願いは天に届かず、大粒の雨がミレーユの頭上を叩きつけた。
雨粒は次第に数を増していく。最早、豪雨と呼ぶべきところまで降り注ぎ始めた雨は吹き荒れる暴風に煽られて、宛ら風に吹かれるカーテンのように視界を遮った。
「みんなッ! 絶対に離れるなよ。アモン、後ろを頼めるか?」
「心得た。殿はボクに任せたまえ」
ちなみに、幕屋に戻るという選択肢もあったが、その考えは真っ先に放棄された。
ここまで得られた様々な情報から、ミレーユ達はこの島でナニカを発見することになるのだろう。逆算して、この島を探索せざるを得ない何かしらのことがあったということになる。
幕屋で雨風を凌げるのであれば幕屋で過ごすのが最も安全なのだ。その選択肢が選ばれなかったということは、当然ながら幕屋は決して安全な状態ではないということになる。
そこまで分かっているのに、幕屋に向かうのは時間のロスだ。長時間雨に当たれば体温低下な風邪を引くリスクもあるため、ミレーユ達は先に雨風を凌げる場所を見つけることにしたのである。
幕屋から必要なものを回収するのは雨風が和らいでからでいい。どちらにしろ、ここまで雨が降ってしまっているのだから今回収するのも後で回収するのも大差ないことである。
砂浜を抜けると、ミレーユ達は背の高い木々が繁茂する、深い森へと足を踏み入れていく。
森の木々が雨風を少し軽減してかなり歩くのは楽になった。しかし、雨は先程よりも強くなっているようで、木々の葉を叩く雨音は森を進む度に強くなっていく。
その音で、一瞬だけ仲間達の声が掻き消された。
激しい雨音の中で生じた刹那の孤独――頭上の雨粒を跳ね返す黒々した木々の葉にミレーユの記憶がふと蘇る。
思い出されるのは、前の時間軸――革命軍に狙われたメイドに見捨てられたミレーユは、一人で森の中を彷徨い歩いていた。
森を歩いた経験なんてない箱入りの姫だったミレーユは早々に転んで足を怪我してしまった。メイドとの別れ際、それが原因でミレーユは「足手纏い」と言われてしまったのである。
――あの時は散々でしたわね。擦り傷がひりひりして、血がグチョグチョで……。
そんなことをぼんやり思い出して、油断していたからだろうか?
「あっ……」
ずるりと足元が滑った。前のめりに倒れつつ、ミレーユは我が身の迂闊さを呪った。
また、怪我をして足手纏いになってしまうのか……あの時の光景がフラッシュバックしてしまうミレーユだったが。
「危ないっ!」
刹那、声が響いた。――体が後ろから抱き留められ、ふんわりと柔らかな感触をミレーユは感じ取る。
「み、ミレーユ様、大丈夫ですか?」
後ろを振り返ると、心配そうな顔をしたライネがミレーユの体を抱きしめていた。
「あ……え、ええ、問題ございませんわ」
あの時には自分が持っていなかったものの存在を改めて気付かされ、ミレーユはほんの少しだけ微笑んだ。
絶望的な状況である筈なのに、この後起きるであろうことを想像すると憂鬱になるというのに、この時のミレーユには何故か何とかなると思えてしまった。――あの時にはいなかった、ミレーユの忠臣が、そして仲間達がいるからだろうか?
「気を付けていかなければなりませんわね。ライネも、足元には十分に注意するんですのよ」
そう言って改めて歩き出そうとした、まさにその時――。
「この先に洞窟があります」
雨で煙っていた前方からカラックの声が聞こえた。先行して周辺を探っていたらしい。
「でかした、カラック! みんな、カラックの後についていくんだ。絶対逸れるなよ!!」
リオンナハトの叱咤激励を聞きつつ、ミレーユ達は更に深い森の奥へと歩を進めていく。
木々を掻き分け、茂みを潜った進んだその先――苔の繁茂した岩肌にポッカリと空いた洞窟、その黒々とした穴にミレーユは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
「なんだか化け物のお腹の中に入っていくみたいですわね」
それは、洞窟の口が巨大な大蛇の姿と重なって、ミレーユは思わず身震いする。とはいえ、このまま外に留まるという選択肢はない訳だが。
「進むしか、ないんですのね……」
ミレーユ達は覚悟を決めて洞窟の中へと足を踏み入れていく。そのどこか怯えていて、覚悟を振り絞って洞窟に入っていく様子を何も知らないエメラルダとフィレンが不思議そうに見つめていた。
◆
「……リオンナハト殿下。この洞窟、少し妙な感じがしますね」
ミレーユ、ライネ、アモン、エメラルダ、フィレンを入り口近くに残し、少し洞窟を進んでいたカラックはその道中、リオンナハトにこんな耳打ちをした。
「ん? どういう意味だ?」
「確実なことは言えませんけど……人の手が入っているんじゃないかな、と」
「ということは、やはり、この洞窟が当たりということか?」
「そうとしか思えませんね。仮に事情を知らなくても俺達は島の中央部へと進んでいた筈です。その道中でこの洞窟を見つけて雨宿りをした可能性は高いと思われます」
「……そして、この洞窟に雨宿りをしている間に何かを発見することになるということだな。しかし、何故、そのようなものを発見するに至ったのか。雨宿りをするのであれば、洞窟の入り口近くに留まっても問題ない筈だろう?」
「何か探索をせざるを得ない事件が起きたのかもしれません。……いずれにしても、方針は固めておかなければなりませんね。かなり広そうな洞窟ですし、単独行動すれば逸れる危険性がありますから。その逸れた人を探して二次被害なんてことになれば笑い話にもなりません」
リオンナハトとカラックが真面目なやり取りをしている頃、入り口近くのミレーユ達はというと……。
「凄い豪雨でしたわね。びしょ濡れになってしまいましたわ」
そう言いつつ、ミレーユは水を吸ってすっかり重くなった服をぎゅーっと絞った。
ポタポタと服から落ちる水音から、先ほどのあめの強さが垣間見える。
「あら? そういえば、無人島と行き来できる時空属性の魔道具を譲って頂いたんでしたわ。海洋国マルタラッタへ戻ることはできずとも、雨をやり過ごすことはできたんじゃ」
今更ながら、雨をやり過ごす方法を思い当たり、少し悔しそうに項垂れるミレーユだった。
「夏とはいえ、風邪でもひいてしまいそうですわね」
「……ああ、そうだね」
「……ん?」
そこでミレーユは小さな違和感を覚えた。アモンの返事があるまでの微妙な間に。
ちらりとアモンの方に視線を向けたミレーユ微妙に頬を赤くして、目を逸らすアモンを確かにこの目で目撃した。
それから、改めて自らの体を見下す。肌に張り付いてちょっとだけ肌着が透けてしまっている服を見てミレーユは閃いた。そして、ニマニマと小悪魔めいた笑みを浮かべる。
(あらあら? もしかしてアモン、照れていますわね? わたくしの姿にときめいてしまっていますのね)
ミレーユの心に一気に余裕が生まれた。
それもその筈、ミレーユにとって水着とは水に入るための下着である。いくらデザインがもっさりしていて露出が少なかったとしても、恥ずかしいものは恥ずかしい。
しかし、現在のミレーユは服を着ている。若干服が透けているが、そんなことは関係ない。この「服を着ている」という事実が重要なのである。
たったそれだけで、心に余裕が生まれて「大人のお姉さん」みたいな態度を取ることができるようになったのである。……全くもって基準が独特というか、なんというか、こう、面倒くさいお姫様である。
アモンが少しだけ成長して、体が引き締まって凛々しくなってきてはいてもそれはそれ。
まだまだ、精神的な年上のアドバンテージというものがある……と思い込んでいるミレーユである。
完全優位を確信したミレーユは「大人のお姉さんが、初心な反応を見せる可愛い少年を揶揄うという完全無欠な上から目線」でアモンを揶揄おうと口を開きかけた……が、その前にアモンが不意打ちの先制攻撃を仕掛けてきた。
「少し失礼するよ」
アモンは、とても優しい紳士的な手つきで自らの羽織っていた薄手の上着をミレーユの肩にかけた。
「………………はぇ?」
「先ほどから、その……ふ、服が透けているんだ。ボクの服も濡れていて申し訳ないんだが、ミレーユ、君は……少し自分の魅力を自覚するべきだ。君の美しい肌は凄く魅力的だから、無防備でいてもらうと……その、困るんだ」
極めて紳士的に、上着のボタンを留めていく。頬を赤く染めながらも生真面目な顔でそんなことを言うものだからミレーユは稚拙な作戦など忽ち崩壊してしまい……。
そして、上着を脱いで半袖のシャツ一枚になったアモンの剣術で引き締まった二の腕がちらりと覗く。実に凛々しく、逞しいアモンのカッコいい姿に大人のお姉さんなミレーユは見事一発KOとなり、揶揄うつもりが返す刀で返り討ちにされてしまったのである。
頬を真っ赤に染めて口を震わせるミレーユだったのだが、幸いなことにアモンはすでにリオンナハト達の方に行ってしまっていて、それに気づいていない。
羞恥に染まった顔を見られずに済んだミレーユは一安心である。
しかし、ここまでミレーユを恥ずかしがらせておいて放置していくアモンにこそばゆいようなもやもやするような感情を持て余してしまし、叫びたくなるのを必死で堪えるミレーユだった。
「ちょっと言いだろうか? 今後のことで相談したいことがあるんだ」
それから数分後、リオンナハト達が戻ってきた。
それまでの時間になんとか心落ち着けたミレーユは「はて?」と首を傾げる。
「このまま雨が降り止むのをここで待つか、洞窟内を探索するか、俺達の方針を決めておいた方が良いと思うんだ」
こうして、ミレーユ達の運命を左右する話し合いはリオンナハトが口火を切ったことで突如として始まったのである。
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