Act.9-496 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜海賊団の襲来と、多種族同盟の内政干渉と、海洋国マルタラッタ国王の選択と〜scene.9
<三人称全知視点>
「ここまでの話を纏めると、『這い寄る混沌の蛇』という組織は二つの側面を持つ。弱者の側に巧みに擦り寄り、弱者から弱者、敗者から敗者へと感染し、その認識を歪めて常識を書き換えて、秩序の破壊者へと変質させる感染する思想。ほとんどの『這い寄る混沌の蛇』の関係者達がこちらが本質だと考えている。邪教徒にあって、邪教徒にあらずってねぇ。しかし、それは本質ではない。『這い寄る混沌の蛇』が彼らの聖典『這い寄るモノの書』に書かれている悪の叡智の結晶を用いて行う彼らの行為はかの邪神が有する文明を破壊して未開の混沌へと世界を巻き戻すという在り方と合致しているし、一つの邪神の顕現、或いは仏教で言うところの垂迹と捉えられるかもしれないけど、それは本質ではなく邪神を頂点とする邪教であるという真実を隠す隠れ蓑でもあるんだ。『這い寄る混沌の蛇』の本質は蛇神Aponyathorlapetepにあり、原本の『這い寄るモノの書』こそが邪神の本体である。そして、その原本の『這い寄るモノの書』を読んだ者も蛇神Aponyathorlapetepと同一の存在となる。じゃあ、原本の『這い寄るモノの書』を破壊すれば解決するかというとそうではない。蛇神Aponyathorlapetepと原本の『這い寄るモノの書』を読んで同一化したものは蛇神Aponyathorlapetepと密接に繋がっている訳ではなく、本質的には無関係だからだ。ただ、原本の『這い寄るモノの書』を破壊することで蛇神Aponyathorlapetepの眷属が今後増えるということは無くなるだろう。『這い寄る混沌の蛇』の最大の厄介さはその不死身性にある。絶てる時に根っこをへし折っておきたいものだけど……恐らくタイダーラが蛇神Aponyathorlapetepとの邂逅を果たしたあの場所にはもう残っていないだろうねぇ。……ああ、面倒臭い。……じゃあ、そろそろお二人の疑問に答えようか。ボクが何故、そんなリズフィーナ様ですら知り得ない秘密を知っているのかねぇ」
リーリエはカルダリアとアウロニアに自分の前世のこと、このが三十のゲームにより生み出されたという世界の真実、そして世界で起きている神々の戦争について語った。
リーリエから明かされる秘密はどれも二人の常識を揺さぶるものばかりであり……カルダリアもアウロニアは話を聞き終えてもなかなか納得することができなかった。……まあ、それを真と取らなければ説明できないことが多々あるため、荒唐無稽に思える話でも信じる他に道はないのだが。
「つまりー、圓様はぁ、この世界の神様ってことになるんですねー?」
「うーん、まあ、正確な認識ではないけどごちゃごちゃしているからそう取ってもらってもいいかな? この世界の神はハーモナイアなんだけどねぇ」
「その神がこの地を訪れた……その理由はやはり『這い寄る混沌の蛇』の本体が眠るあの島に赴くためか? 私がシャリセルスと出会い、ダイアモンド帝国の初代国王と『這い寄る混沌の蛇』の間で盟約がなされたあの島に」
「半分は正解かな? ボクが勝手に『真夏の海と緑の試練』と呼んでいる遭難したミレーユ一行の無人島探索と、そこで発見する邪神の神殿と目撃することとなるダイアモンド帝国の真実。ボクはそこに乗じて過程をスキップし、本来であれば各国で『這い寄る混沌の蛇』が引き起こす騒動を解決した後に再訪して起こる真なる地下邪神神殿の探索イベントを先取りしようとしている。ただ、敵も馬鹿じゃない。あの抜け目ない邪神が敵が来ると知って一つ所に留まっている可能性は低い。恐らく、あの場所にいる邪神の眷属……タイダーラのような存在と戦うことになるだろうねぇ。緑の試練とは、ダイアモンド帝国の真実を知る、真実を知ったグリーンダイアモンド公爵令嬢と新たな盟約を結ぶ、この一連のイベントに、物語終盤の『這い寄る混沌の蛇』の本体である邪神との戦いを加えた内容を指す言葉ということになるねぇ。……でも、もう一つ為すべきことがある。蛇神Aponyathorlapetepを倒した後も物語中にミレーユ姫の手によって解決されることはなく、遠く離れたラスパーツィ大陸にまで大きな影響を残すことになった海の蛇、ティ=ア=マット一族。――ラスパーツィ大陸の海洋都市レインフォールの件に干渉することを決めた時点で既に方針は固めていた。ティ=ア=マット一族は全てボク達ビオラが保護をすると。彼らの祖先が決めたくだらないことのために、彼らが『這い寄る混沌の蛇』の手先として生きる必要はないと、ボクは思うからねぇ」
「……だが、彼らは造船ギルドの貴重な労働力。彼らが手放す選択をするとは思えない」
「まあ、この国において国王の力はあってないようなものだからねぇ。君が言ったところで、造船ギルドが彼らを手放す可能性は低いだろう。カルダリア、君には全く期待していないよ。だが、それでもメッセンジャーとしての役割くらいはできるだろう? ティ=ア=マット一族の解放は決定事項だ。君達が許可しようとしまいと関係ない。潔く引き渡してくれるなら、これでこの話は終わり。元々不当に得た労働力だ。それが消えるのは決して損失ではない。寧ろ、これまでの状況が歪んでいたのだから、正しく本来の形に戻ったと判断すべきだ。……なんら問題はないだろう?」
「もし、造船ギルドが拒否したらどうするのだ? 議会が決めてしまえば我にそれを止めることはできない」
「そうだねぇ……海洋国マルタラッタが地図上から永遠に消えるという末路を迎えるかな? 潔くティ=ア=マット一族を解放してもらえない場合は海洋国マルタラッタと戦争をする準備がある。ああ、ご安心を。流石に多種族同盟に頼るつもりはない。動くのはビオラ=マラキア商主国とクレセントムーン聖皇国だけだからねぇ。勝算はあるんじゃないかな?」
「……ある訳ねぇだろ、親友。お前一人でも国一つ滅ぼすのなんて余裕なのに、絶対諜報員共とかNBrとか投入する気なんだろ? 流石にあの戦力に攻められたらブライトネス王国も滅ぶ。まあ、それはそれで楽しそうだけどなぁ! 全力で暴れられるし!!」
「……安定のクソ陛下っぷりだねぇ。ってか、オルパタータダも目を輝かせるなよ!! ああ、勿論やるといったら徹底的にだ。女子供も関係ない、海洋国マルタラッタに関わる者がこの世から全て消えるまで戦争は続く。『這い寄る混沌の蛇』は弱者へと感染する思想だからねぇ。その温床になりかねないものを残しておく訳にはいかない。だからねぇ、決断させないでもらいたいんだ。ボクにとっても不本意なことだからねぇ」
しかし、不本意だからと戦争の選択肢を外すことはない。
もし、交渉が決裂すればリーリエは、百合薗圓は容赦ない武力行使を行うだろう。
その圧倒的な力を前にすれば、海洋国マルタラッタなど一瞬で消し飛ぶ。
では、自分達の正当性を訴え、百合薗圓の――ビオラ=マラキア商主国とクレセントムーン聖皇国が武力を盾に非道な要求をしてきたと非難するべきだろうか?
そもそも、ティ=ア=マット一族に対する行いは非道と取られても致し方ないものである。公正なライズムーン王国やオルレアン教国からの理解が得られるとは思えない。
それに、仮にビオラ=マラキア商主国とクレセントムーン聖皇国のやり方があまりにも人道に反している、過激だからという理由で味方につけられたとして、彼らは果たして海洋国マルタラッタの仲間として戦ってくれるだろうか?
――もし、各国の上層部が百合薗圓の秘密を知っていたとしたら、弓を引くなどということはできないだろう。
逆らうことができない圧倒的な武力もその理由だが、それ以上に百合薗圓は世界の造物主――この世界の根幹となる物語の作成に関わった重要人物だ。
そんな造物主に弓引くことなど許されるだろうか? その存在は、本来、オルレアン神教会が崇める女神以上に神聖視されるべきものではないだろうか?
そんな考えがカルダリアの脳裏をグルグルと回る中、謁見の間に一人の女性が姿を見せる。
黒いパンツスーツの諜報員はカルダリア達の方に一礼すると、口を開く。
「リーリエ様、つい先ほどティアマト海賊団のノグィア・ティ=ア=マットとの交渉が終わりました。ティアマト海賊団は『征国覇槍』により戦意を喪失、我々と戦う気力はないようです。ノグィア様との交渉の窓口はアルティナ様がきっちりと引き受けてくださいました」
「珍しいねぇ、あのアルティナさんが。……交渉役を買う代わりに、メアレイズさん達への弁解を手伝ってもらいたいってことかな? 弁護依頼のための点数稼ぎっぽさはあるよねぇ。まあ、いいけど……正直、勝てる自信が欠片もないんだけどなぁ」
「ただし、その際にノグィア様は降伏の条件として隔離島からのティ=ア=マット一族の解放を求めてきました。悲願であるティ=ア=マット一族の解放さえ叶えてもらえれば、海洋国マルタラッタへの恨みは忘れたことにして、大人しく軍門に降ると」
「……なるほどねぇ。その条件で交渉が成立したと伝えてもらってもいいかな?」
「承知致しました」
現れた時と同様に唐突に姿を消す諜報員を見送ってから、リーリエは微笑をカルダリアに向ける。
「さて、ボク達はこの後やることがあるからこれにて失礼させてもらうよ。諜報員達は残していくから、一人で議会に出るのが不安なら連れて行ってもらえるといいかもねぇ。無人島から戻ってきた時に良い回答を得られることを楽しみにしておくよ」
その後、リーリエ達はアルティナを回収するために港に向かった後、ソフィス、ラインヴェルド、オルパタータダ、レジーナ、ユリア、アルティナ、グラリオーセを伴い、飛空艇に乗ってムシュマッヘ諸島へと向かった。
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