Act.9-492 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜海賊団の襲来と、多種族同盟の内政干渉と、海洋国マルタラッタ国王の選択と〜scene.5
<三人称全知視点>
教会を出ると辺りはすっかり暗くなっていた。
どうやらかなりの時間、思考に費やしてしまったらしい。
「俺も師匠っぽくなってきてしまったか……」
苦笑いを浮かべつつ、ルードヴァッハは頭を振った。
「どうやら、その様子だと何か分かったみたいだね」
宿への道すがら、ルードヴァッハは教会で得た情報をディオンとバノスに聞かせた。
無論、今回は聞き耳を立てられる可能性を警戒して声量を小さくし、話す速度と間合いも調整している。断片的には聞き取れても、ルードヴァッハ達の話を完全に聞くことは尾行でもしない限り不可能だ。
そして、仮に尾行すればディオンの見気ですぐにでも尾行者を特定することができる。
「かなり情報の補填ができやしたね」
「しかし恐ろしい話だね。死してなお受け継がれる意思とは。初代皇帝か、或いはイエローダイアモンド公爵家の初代の意思かは不明だけど、本人はとっくに死んでいるのに、その思想はどこかで受け継がれている。本当に厄介だ」
「確かに筋が通っていやすし、かなり成功率が高そうな作戦ではありやすが……まだ確定させるには情報が足りな過ぎるような気がしますぜ」
「ああ、実はそうなんだ。それがまだ考えが纏っていな――」
「ちょいと失礼!」
直後、バノスがルードヴァッハの肩を引く。
それと同時に、腰に下げていた剣を一息に抜き放った。
ガギィンと硬質な音が響く。ルードヴァッハが視線を動かすと、バノスよりも先に刺客に気づいたディオンが剣を抜き去って三人目の刺客を倒している姿が目に映る。
敵は十人以上――その手には曲線を描く片手剣が握られている。
闇に溶け込むような黒装束を纏っており、素性は不明。しかし……。
「マルタラッタの刺客か!?」
「さてね。扱っている片手剣は海賊がよく使うカットラスのようだけど……。まあ、それも彼らを捕縛して聞き出せばいいだけのこと――」
熟練の剣捌きと連携、一切隙を見せない海賊達に手間取るバノスとそんな海賊達相手にも余裕の立ち回りを見せていたディオンが同時に動きを止める。
交戦していた刺客達よりも遥かに強い手練れが新手として現れたのか……と僅かに警戒を強めたディオンだったが、すぐにそれが杞憂であったことを悟った。
「始まったようですね、ルードヴァッハ様。さあ、ここからは一気に展開が進みますよ。あちらも動き出したようですから」
目深に被っていたフードを取り、その美しい顔を風に晒したグラリオーセはにっこりと微笑む。
次の瞬間、ディオンですら意識を持ってかれそうなほどの霸気が海洋国マルタラッタの一角から放たれた。その方角は――。
「港の方か……ということは、あちらの戦いも始まったということか。――いや、あれでは蹂躙になるぞ!!」
「さあ、どうでしょうか? さて、ディオン様、バノス様、そちらの方々を譲って頂けないでしょうか? 私も少し愉しませて頂きたいので」
「あははは、やはり圓さんのお友達だね。君も戦闘狂か。後で是非手合わせをさせて頂きたいね」
「えぇ、事が終われば是非」
「ま、まさか、ティ=ア=マット一族!? 何故、ここに!? だって連中は――」
「ほとんどが隔離島に幽閉されている。こんなところにいる筈がない……というところでしょうか? まあ、実際には隔離島への幽閉を逃れて一般人として肩身の狭い暮らしを送っている者達もいるようですが。――本日の私はティ=ア=マット一族としてではなく、第三研究所の一員として参加しておりますわ。海賊崩れの傭兵の皆様、主人様より死なない程度にボコすようにという指示を受けておりますのでお覚悟を」
「――ッ!? 何を怯えてやがる! 女一人とっとと畳んじま――」
しかし、リーダー格と思われる男の言葉は突如として立ち消える。
グラリオーセの姿が異形へと変化したからだ。
身体を包み込むような硬質な魚のような鱗、まるで魚人を彷彿とさせるような姿に変化したグラリオーセは見た目にそぐわない微笑を浮かべる。
「私の食した『天恵の実』の名は『獣化の天恵(モデル:魚の巨人)』」。海人族、魚人族、人魚族の祖となった伝説の巨人の一体の遺伝子を元にしたものですわ。本来の大きさはこれの何十倍ですが、戦いが大味になってしまいますし、的も大きくなってしまいますし、周囲への被害も増してしまいますので、本日は獣人型にてお相手して差し上げますわね。……では、参りましょう。水掴振撃」
大気中の水分がグラリオーセの手によって凝縮され、巨大な直方体と化す。その直方体の先端を両手で包むように掴み、カットラスを片手に距離を詰めてくる刺客達目掛けて横から薙ぎ払った。
まるで巨人が掴んで薙ぎ払った鋼鉄の柱にでも殴られたかのように刺客達は凄まじい勢いで反対側へと吹き飛んでいく。実際、凝縮されてどこにも逃げ場のなくなった水塊は武装闘気を纏わせていなくても鋼鉄に匹敵する硬さになっているようだ。
「ばっ、化け物――」
今の一撃で気絶した刺客は半数にも上った。しかし、流石に殺さぬように手心を加えたせいか全員を気絶させることはできず、何人かは辛うじて意識を保っているようだ。
とはいえ、意識を保っている者達もかなりのダメージを受けており、これ以上の戦闘継続は厳しそうな状態である。
グラリオーセの目的である刺客達の無力化は達成されており、問題はない。
「……私が化け物? 面白いことを言いますわね。――多種族同盟には私よりも強い者がごまんといますわ。私なんて、霸気の習得と仙人と聖人になる修行に体感で半年も費やしてしまったのですよ。それに、霸気そのものも大して強くはありませんわ」
覇王の霸気を黒稲妻へと変えてバチバチと迸らせてにっこりと微笑む。
「さて、逃げられないように捕縛をしておきましょうか? ルードヴァッハ様、尋問はお任せしますね」
「……尋問自体は問題ありませんが、直接教えて頂いてもいい話ではないのですか? グラリオーセ殿もご存知なのですよね? 彼らの雇い主のこと」
「えぇ、圓様よりお話は聞いておりますわ。プレゲトーン王国の間諜の話を引き合いに出せば彼らの心も折れてすぐに教えてくださるようなことでしょうし」
「ふん! 俺達が口を割る訳がないだろ! それに、この女が知っている訳ないだろ! 出鱈目に決まっている!!」
「彼らにルードヴァッハ様達を襲うように命令を下したのは海洋国マルタラッタの国王陛下ですわ」
「これはまた、意外な大物が釣れたもんだね」
「もし、嘘だと思うのでしたら彼らを宿に連れて行って尋問してみたらどうでしょうか?」
「グラリオーセ殿の言葉を疑う訳ではないが、一応拷問を掛けて裏を取るべきだな。……実際、その方法であれば彼らも口を割らざるを得ないだろう」
「私もお供致しますわ。水の拘束が解けないように水への干渉を続けなければなりませんし」
「ご協力感謝する」
しかし、ルードヴァッハ達が宿へと戻ることは無かった。
「――はっ!?」
意識を失っていなかった刺客達も、ルードヴァッハとバノスも、あのディオンやグラリオーセですらも目の前で引き起こされた予想外の光景に思考が数分停止してしまった。
「……グラリオーセ殿、どういうことなのか説明を……グラリオーセ殿?」
「……なっ、何が起きているのよ!? えっ……なんで? こんなこと打ち合わせには無かったし……いえ、ラインヴェルド陛下とオルパタータダ陛下ならやりかねないけど、そもそもそんなことできるの!? というか、何の意図でやったのかしら!!」
槍のような霸気の奔流によって消し飛ばされた海洋国マルタラッタの王城の尖塔を「信じられない」という表情で見ながら、グラリオーセは若干パニックになりながら元凶達への恨み節を口にする。
なお、意識を保っていた刺客達は絶対に抗えない破壊の惨状を目の当たりにして失禁したり気絶したり、それはそれは散々な状態になってしまっていた。
「し、死傷者とか出ていないわよね!? あの人達適当なところがあるから、出ていても不思議ではないわよ!!」
「グラリオーセ殿、とりあえず落ち着いた方がいい。圓殿や事情を知る諜報員達に確認を取った方がいいのではないか?」
「そっ、そうね。それと、私達も王城へ向かった方がいいかも。……でも、彼らのことはどうしようかしら? 宿まで運んで近衛騎士達に預けるのが妥当よね? 諜報部隊の方に預けるということもできるけど」
「寧ろ、そっちの方がスムーズに情報を聞き出させそうだね。ルードヴァッハ殿、僕は彼女達に任せた方がいいと思うんだけど」
「確かに……彼らには少し酷な気がしますが、その方が確実ですね。お任せします」
「では、諜報員の方々に連絡を入れますね。私はここで到着を待っていますので、皆様は先に王城へと向かってください」
諜報員達の到着を待つグラリオーセを残し、ルードヴァッハ達は王城へと向かった。
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