Act.9-489 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜海賊団の襲来と、多種族同盟の内政干渉と、海洋国マルタラッタ国王の選択と〜scene.2
<三人称全知視点>
「目的は取引の維持やそこから得られる利益を目的としている訳ではないのか? ということは……グリーンダイアモンド公爵家のみに取引を集中させる別の目的があるということではないだろうか? ……であるとすれば、その意味は」
「流石はルードヴァッハさん。もう後少しのところまで来ているんじゃないか」
「…………ッ!? うわっ! びっくりさせないでくださいよ!」
ぶつぶつと独り言を呟きつつ思考の深みへと足を踏み入れていたルードヴァッハは、突然横から掛けられた声に驚いた。
衝撃で眼鏡を落としそうになり、慌てて指で押さえてグイッと元の位置に戻す。
「ディオンさんもバノスさんもさっきぶりだねぇ」
「……ディオン隊長、気配に気づけやしたか?」
「俺はもう君の隊長ではないんだけどね。……いや、さっぱりだ。流石は圓殿……と言いたいところだけど、正直、君の存在にまで気づけなかったのは少し驚いたよ。見気には多少自信があったんだけどね」
ディオンがアネモネ姿の圓の隣にいる成長した姿のソフィスに視線を向けると、ソフィスはにっこりと微笑んだ。
「それで、君達の目論見の方は進めなくてもいいのかい? こんなところで油を売っている暇はないんじゃなかったかな?」
「いや、まあ、それがね。……予想より海賊の到着が遅れているのが一つ。後はラインヴェルド陛下、オルパタータダ陛下、レジーナ様にユリアさん、そこに行方不明だったアルティナさんが合流して海岸で対処する準備を整えているんで、ボクのやることはほとんどないんだ。諜報員達もいるし、戦力については問題ないからねぇ。……それに、君達の調査も進展させてもらうことも条件の一つでねぇ。まあ、だから今は凄い暇をしているって訳」
「……でしたら圓様、助力をして頂けないでしょうか?」
「えっ? なんで? そんな意味のないことをしないといけないの?」
無邪気な笑顔を見せてコテンと首を傾げてみせる圓にほんの少し苛立ちを覚えたルードヴァッハだが……。
「まあ、でも進捗は大凡予想通りだ。間違いなく順調に進んでいるし、その方向で合っている。後は――」
真面目な表情でルードヴァッハに励ましの言葉を掛ける圓にほんの少しだけ驚き、「やっぱり創造主なのだな」とふっと微笑を浮かべた。
「現時点では、残念ながら考察の材料は足りていない。……となると」
「何らかのパラダイムシフトが必要……ということですね。しかし、そんなに都合が良く」
「じゃ、引き続き頑張ってねぇ。健闘を祈っているよ」
「それでは失礼致しますわ」
「……あれはなんだったんだろうね? 嵐のように来て、嵐のように去っていった。まあ、彼女達らしいといえばらしいか」
来た時と同様に瞬く間に去っていった圓とソフィスに、ディオンが苦笑いを浮かべている。
ルードヴァッハ達がいるのは小さなカフェだ。てっきり飲食をしていくかと思っていたが、圓達は何も注文していない。ただ現れて、ほんの少し会話して、去っていった。そのほとんど意味のない行動に、おかしさを感じるのも致し方ないのかもしれない。
「彼女達なりの激励だったんじゃないでしょうか? 少なくとも、ルードヴァッハの旦那の方向性で正しいことは分かった訳ですし」
「現時点は考察の材料がないとも言っていたね。となると、これからどこかで得られるということになるのかな?」
「……それで、どうしますかい? 宿に戻って明日に備えますかい?」
「いや、このままでは明日も同じことだろう。俺はもう少し街を探索したいと思っている」
「じゃあ、僕もお共させてもらうよ」
「じゃ、俺もお供さして頂きまさぁ」
ルードヴァッハはその後、ディオンとバノスと共に市場や町の商店などで様々な噂話を聞いたものの目ぼしい情報は見つからなかった。
夕刻が迫り、この日の調査をここで打ち止めにすることを決めたルードヴァッハはディオン達と共に宿に戻り、付設された酒場で遅い夕食を取ることにした。
「情報を整理しておこう。あくまでも短時間、話を聞いて回っただけの印象だが……グリーンダイアモンド公爵家の評判はあまり良くないようだ」
「そうだね。彼らは必死で庇われるようなことはしていないようだ。……となると、やはりグリーンダイアモンド公爵家に対する恩義から交渉を打ち切るような真似をしたという可能性は潰せそうだ」
「国の上層部が何らかの利益供与を受けている可能性は捨て切れないが……仮にそうだとしても、この状況は不自然だ。それに、グリーンダイアモンド公爵家に上層部全てを買収できる財力があるのか、微妙なところだ」
「そもそもそのようなことをする理由がグリーンダイアモンド公爵家に本当にあるんですかい?」
「あんたさん方、グラレア海の向こうの国から来なさったんで?」
ルードヴァッハ達が頭を悩ませていると、店の主人が声を掛けてきた。
わずかに腰の曲がった老人だったが、遠目から見てもかなり熟練された料理の腕を持っているように見える。この酒場は大衆料理の店としての性質も有しているようで、客の要望に幅広く応じてきたことが伺える数々のメニューが木製の看板に数多く記され、掲げられているようだった。……酒場の景観をぶち壊しているように見えなくもないが、これもまた一つの趣捉えることもできるのかもしれない。
「いや、我々は大陸の帝国から来たんだ」
「ああ、帝国の……。そしたら、今、イエローダイアモンド公爵様のお家はどうされておるんかいね?」
予想外の言葉にルードヴァッハは僅かに驚き……「グリーンダイアモンド公爵家ではなく? イエローダイアモンド公爵家ですか?」と聞き返す。
「ああ、イエローダイアモンド公爵様よ。おいらの婆様に大昔に聞いたところじゃ、海洋国は、その昔はお世話になりっぱなしだったんだって話だよ? それがある時期からパッタリ聞かなくなったから、ずっと心配してたんだ」
「イエローダイアモンド公爵家ですか? ええ、公爵様はご壮健ですよ。ご令嬢は今はセントピュセル学園に通っていて」
「とても可憐なお嬢様だとお聞きしております。……実は私の親友も学園に入学しているのですが、学年が違うため会ったことはないようですが、お噂は彼女の耳にも届いているようですわ」
いつの間にか、バノスの隣にアネモネが座っていた。
「熱燗を一つ。それと、おでんの大根をお願いしますねぇ」と常連客みたいな雰囲気を醸し出して注文する。ちなみに、今回はソフィスは一緒ではないらしい。
「……皆様、この後少しお時間を頂けないでしょうか?」
「えぇ、構いませんが……まだ情報は足りないと思いますが」
「そうでもないと思いますよ? それに、オハナシした方が新たなアイディアが閃くこともあるかもしれませんからねぇ」
一頻り酒場で食事をした後、ルードヴァッハ達三人はアネモネの案内で街中にある小さな建物へと向かった。
◆
それは、普通の民家のように見えた……が、実際は諜報員達が使う隠れ家の一つだったらしい。
時空魔法によって拡張された屋敷の中をアネモネを先頭にズンズン進んでいき、やがて目的の部屋に到達したのか足を止めたアネモネが扉を開いて三人を部屋へと招待した。
「……まあ、相手は善意ある方だったから良かったですが、ああいう公共の場では誰が聞いているか分かりませんからねぇ。今後は気をつけてくださいねぇ」
「……思慮が足りませんでした。その通りですね……気が抜けていました。それで、この部屋を密談のためにお貸しくださるということでよろしいのでしょうか?」
「ボクと同席した上で、という形ですが。必要に応じてボクも口を挟ませて頂きます。ああ、飲み物や軽食が欲しいのであればボクが――」
「圓様の手を煩わせる訳にはいきませんわ! ここは私が!!」
突如して扉の前に現れた本来の年齢の姿に戻ったメイド服姿のソフィスに強く言われてしまったアネモネは「そ、それじゃあお願いねぇ」と勢いとプレッシャーに屈して許可を出した。
「……で、仕切り直しっていう話ですけど、どこから話せばいいんですか?」
「イエローダイアモンド公爵家の件だな」
「最古にして最弱の金剛の公爵と呼ばれるイエローダイアモンドの名をここで聞くことになるとはねぇ。正直、俺も意外でした」
「そうかい? 僕はそう思わないけどな。……ルードヴァッハ殿、圓殿は過去に何を言ったか思い出してみたらどうかな?」
「『四大公爵家全てが『這い寄る混沌の蛇』と現時点で繋がっているか、今後繋がる可能性があるという立ち位置』……でしたね。まあ、そう考えれば四大公爵家の一角に数えられるイエローダイアモンド公爵家も決して『這い寄る混沌の蛇』と無関係ではないということになりますね」
ルードヴァッハの言葉にアネモネが「我が意を得たり!」と言わんばかりにウンウンと頷いている。
「一ついいかな? アネモネ殿。今回の件に、グリーンダイアモンド公爵家と、イエローダイアモンド公爵家、どちらが拘っているのか……流石にそれは答えてもらえないのかな?」
「……今回の件とは、一体どちらのことを指しているのでしょうか? それが分からなければお答えのしようがありませんわ」
ディオンの質問に対するアネモネの返答に、ルードヴァッハがほんの僅かだが口元を歪ませた。
「今回の海洋国マルタラッタに纏わる一件、これは実際には二つの別種のことが複合的に関わっているものとみてよろしいのでしょうか?」
「まあ、そうだねぇ。より正確な言えば、ルードヴァッハさん達が目指す先にあるものと、ボク達がこの海洋国マルタラッタで目指しているものは海洋国マルタラッタをスタート地点としているけど、全く別のものを目指している。海洋国マルタラッタに纏わる蛇とは、海に起源を持つ蛇の流れだ」
「……ティ=ア=マット一族ということですか?」
「その通り。そして、彼らを隔離島に隔離をするという選択をした、或いは海洋国マルタラッタの決定に賛同したという意味でグリーンダイアモンド公爵家は『這い寄る混沌の蛇』と繋がっているということだ。……まあ、グリーンダイアモンド公爵家にはまた別の蛇とも繋がりがあるんだけどねぇ。今回の『蛇の地底都市に眠る緑の試練』、或いは『帝国の闇と緑の試練』はボク達の任務も含めれば両方の蛇と戦うことになる訳だけど、ミレーユさん達の視点で見れば戦う蛇は一種類ということになる」
「……順当に考えれば、帝国に潜む蛇ということになりますね。……そして、その蛇に深く関わっているのが、イエローダイアモンド公爵家だということですか?」
「まあまあ、そう慌てない。まあ、順を追っていこうじゃないか? まずは歴史の針を過去へと戻そう。そうだねぇ、博識なルードヴァッハ殿。海を越えた大陸から来た異邦人のボクに、ダイアモンド帝国の歴史を語ってくれないかな?」
「貴方は知っているんじゃないか?」という言葉を呑み込んで、ルードヴァッハは帝国の歴史を誦じた。
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