Act.9-487 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜出航! エメラルドジーベック号〜scene.5
<三人称全知視点>
グリーンダイアモンド公爵家の面々がテキパキと動き、即席の幕屋が二つ建てられた。
無論、その用途は水着に着替えるための更衣室である。
「あら? 幕屋ができたようですわ。ミレーユ様、早速着替えましょう! ミレーユ様の分も用意してきたんですのよ?」
「…………ん?」
突如、耳に入ってきた不穏な言葉に、ミレーユは一気に現実に引き戻される。
「エメラルダさんが用意した水着……ですの?」
嫌な予感を覚えるミレーユ。――そして、その予感は現実のものとなる。
浜辺から少し離れた場所に建てられた幕屋……そのうち、左側の簡易女性用更衣室にエメラルダと従者のライネ、フィレンと共に入ったミレーユは嫌な予感を覚えつつも、折角だから試着してみようかしら……などと思い直し、着用してみたのだが……。
「まあッ! なんていかがわしい! この水着、お腹が出てますわ!」
ミレーユは水着を身に着けた自らの姿を見て小さな悲鳴をあげた。
水着は上下で分かれたセパレートタイプで、ミレーユの白いお腹が完全に露出してしまっている。リズフィーナが紹介してくれたお店の水着は極力肌を出さないデザインだったため、それと比べればやはり露出が激しく見える。
更に下の水着のボトムもリズフィーナの紹介で作ったものより短かった。ミレーユが持参したものは膝のすぐ上までが覆われているが、エメラルダの用意した水着では太ももの半ばまでが露出してしまう。
ちなみに、セパレートの水着だからだらしない身体が露出してしまうということはない。この事態を見越していたのか、圓が課したスパルタな修行のおかげでミレーユのプロポーションはかつてないほどまで磨かれている。
「こんなに恥ずかしいものを着ろというんですの? しかもスカートがついてませんわ!」
今回、ミレーユが持ってきた水着には腰の部分から短いもののスカートがついていたが、エメラルダのものはただの半ズボンのような形をしていた。
別にビキニのように際どい形状をしている訳ではなく、ミレーユが外で活動する際に着るような半ズボンと大差ないものではあるのだが……。
スカートがあるかどうかで露出に差異がある訳でもない。
しかし、ミレーユには、「水着は水に入るときに身に着ける下着であり、スカートが着いていないなどあり得ない」などという変な拘りがあった。そうしたミレーユ独自の物差しに照らし合わせた結果、エメラルダの用意した水着は露出度の激しい破廉恥な水着と判断されてしまったのである。
「大変いかがわしいですわ! 却下ですわ!」
「あら? ですけど泳ぎづらいと思いますわよ? そんなのがくっついてると」
一方、エメラルダは機能性を重視した水着選びをしていた。実際、エメラルダの水着の表面の素材に魚の皮の構造を応用し、水の抵抗を出来る限り少なくした極めて機能的なものである。
泳ぎ方を教えることについては、割と真面目にやるつもりのエメラルダである。……まあ、その上でほんの少しの嫌がらせの意味を込めて少し際どいデザインの水着を選んではいるのだが。
そんなエメラルダには、ミレーユの判断に理解できない部分もあったのだろう。「スカートがついていないのはあり得ない!」と断言するミレーユにきょとんと首を傾げたのも他意などなく、純粋にミレーユの考えを理解できなかった故のものである。
「とっ、とにかく、今日はお二人の王子がいらっしゃいますし、あまりはしたない格好はできませんわ。わたくしは持参した水着を使いますわ!」
それを聞いたエメラルダはちょっぴり残念そうな顔をした。
「まぁ……ミレーユ様がそうおっしゃるなら、私も以前まで使っていたものに致しますわ」
そう言ってエメラルダが身に着けた物はミレーユが着ているものと全く同じお腹が出ていない大人しいタイプの水着だった。しかも、スカート状のヒラヒラもばっちりついている。
……自分一人では攻めたデザインのものを着る勇気のない小心者のエメラルダなのであった。
◆
時はほんの少し過去へと遡る。所変わって海洋国マルタラッタの港にて――。
「よっ! 行方不明になっていたアルティナじゃねぇか!? メアレイズとサーレがブチギレてたぞ!!」
「らっ、ラインヴェルド陛下に、おっ、オルパタータダ陛下……それに、レジーナ様とユリアさんまで!? ここってベーシックヘイム大陸じゃないっスよね!?」
アルティナは上陸早々、見知った顔の者達に絡まれて冷や汗を流していた。
ちなみに、レジーナとユリアは我関せず二人だけの空間を作り上げており、アルティナにとっては毒にも薬にもなりそうにない立ち位置である。……まあ、敵に回らないだけアルティナにとってはマシではあるのだが。
「えっと……まず、ここはどこっスか?」
「そんなことも知らねぇのかよ?」
呆れて物が言えないという顔をするオルパタータダに「お前にだけは、そんなこと言われたくないっス!」と内心思いつつもアルティナは決して口にせず、裏の見気で感情をひた隠しにする。
「ここはペドレリーア大陸の海洋国マルタラッタだ。次なる臨時班の舞台であり、『無人島に眠る初代皇帝の闇と緑の試練』が行われる無人島に程近い国。……まあ、別件でもっと厄介な問題を抱えているんだけどなぁ。で、今はダイアモンド帝国側のルードヴァッハとディオンと別行動することになって、やってくるであろう海賊への牽制のために『威国覇槍』の準備をしていたって訳だ」
「って、それオーバーキルじゃないっスか!? 現地民相手に使うならもっと威力を抑えた技を使うべきっス!」
珍しく真面なことを言っているアルティナだが、そんな言葉が自分達の愉しさが何もより優先であるラインヴェルドとオルパタータダに伝わる筈もなく……。
「で、どうするんだ? 一応、メアレイズとサーレから頼まれてはいないとはいえ、俺達にはアルティナがここにいたことを多種族同盟……というか、メアレイズとサーレに報告する義務があると思うんだ。アイツらのやる気もかなり落ちているしなぁ」
「……その、黙って頂くという選択肢は……ないんスか?」
「うーん、どうしようかなぁ? まあ、黙ってやってもいいが、そういうことなら何か見返りがねぇとなぁ……。俺もオルパタータダもお前みたいにバカンスを満喫したいんだ。分かるよなぁ? なぁ? なぁ? なぁ??」
ラインヴェルドの言葉の圧と無言のオルパタータダから発せられる圧に押されたアルティナは同意しそうになる……が。
「あの……今回の臨時班にはお嬢様も参加されていますよ? それに、この海洋国マルタラッタにいらっしゃっていますし、既にアルティナ様のことは捕捉されていると考えるべきではないでしょうか?」
「あんたら本当にウスラトンカチだね! ここには圓さん子飼いの諜報員がウヨウヨしているんだ。そんな中で密談も何もあったもんじゃないよ!」
ユリアとレジーナからの忠告を受け、正気に戻ったアルティナは「そもそもこの時点で詰んでいるじゃないっスか!?」と現実を直視してラインヴェルド達の要求を断った。
「ちぇー!」とラインヴェルドとオルパタータダが見るからに不満そうな顔をする。
「……ってことは、やっぱり連れ戻されるっスか?」
「……正直な話、アルティナさんを連れ戻す明確な理由はないのよね。別に役職を持っている訳ではないし、ずっと自由人として振る舞ってきて咎められなかった訳だし。今回の件も別に仕事をしている二人を煽るような置き手紙さえしなければ問題は無かったと思うわ。……ただ、二人が不満に思うのも当然のことだし、今後はアルティナさんにも何かしらの役割が与えられる可能性は高いと思うわ」
「……あぁっ、やっぱりそろそろ自由人は卒業っスか。もう少し自由に過ごしていたかったけど、良かれと思って置いていった置き手紙が……こんなことになるなら手紙を残さずバカンスに行けば良かったっス」
高圧的な魔女の仮面を脱ぎ去り、真面目口調でアルティナの今後置かれるであろう状況を説明するレジーナの言葉に、アルティナはがっくしと項垂れた。
「……もうこうなったら、せめて臨時班に参加させてもらって稼ぐっス!! ラインヴェルド陛下、オルパタータダ陛下、よろしくお願いするっス!!」
「って言ってもなぁ……俺達に権限ないしなぁ」
「そういうのは圓に言って許可をもらってくれねぇと」
ならば、せめて臨時班のメンバーに合流して小銭稼ぎを……と考えてラインヴェルドとオルパタータダに頭を下げるアルティナだったが、ラインヴェルドとオルパタータダに最終決定権はない。さて、どうしたものかと二人が頭を悩ませていると、一切の音も気配もなく黒いスーツ姿の一人の女性が姿を見せた。
「アルティナ様、私の方から圓様にお伝えしてきましょうか?」
「諜報員の方っスね! それじゃあ、よろしくお願いするっス!!」
「それと、今回の件は既に圓様も把握されていると思われますが、改めて私から圓様にしっかりと報告させて頂きます。……勿論、ラインヴェルド陛下とオルパタータダ陛下がアルティナ様を見逃す対価として国王の仕事をサボってバカンスに行けるように取り図るように求めていたことも含めて」
「なっ!?」
「おい、それは言わねえのが温情ってもんだろ!!」
「それでは失礼致します」
「おい、オルパタータダ! アイツを取り逃すな!!」
「絶対に捕まえて最悪の事態を回避するぞ!!」
現れた時と同様に一瞬にして姿を消す諜報員を必死で追いかけようとするラインヴェルドとオルパタータダを見ながら、レジーナは心底呆れたという表情で溜息を吐いた。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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