Act.9-477 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜真夏の海と緑の試練の開幕〜scene.5
<三人称全知視点>
ミレーユが選んだのは白麗馬だった。
説明をされる前から既に心に決めていたようなので、能力ではなく見た目や自身の直感を重視した上での選択なのだろう。
「彼女はとても気性が穏やかで、思慮深い。人の本質をよく見抜いている子だ。……まあ、本当に嫌いな相手には当然従ってくれないのだけど、ミレーユさんのことは認めてくれたようだよ。そうだねぇ……まずは撫でてあげたらどうかな?」
「あら、貴女、涼しくて触り心地がいいのね。とても気に入ったわ。……圓様、この子の名前って?」
「名前はまだないんだ。ミレーユさんが好きにつけてあげるといいよ」
「では、ディアマリー。これからよろしくお願いしますわ!」
ミレーユが白麗馬に名前をつけると、白麗馬――ディアマリーは嬉しそうに嘶いた。
「彼女は八技と闘気を習得している。ボディガードとしても一流だよ」
「それは凄いですわね。それなら、別にわたくしが魔法を学ばなくても……」
「そういう訳にはいかないよ。これからしっかりと習得するまで頑張ろうねぇ」
「でも、何故このタイミングなのですの?」
「天馬ではない馬が必要な場面が近々あるからねぇ。それに向けて信頼を築いておいて欲しいという親心というか。……まあ、色々と事情があるんだよ」
「それは……聞いてはいけない事情ということですわね」
「お早いご理解で助かるよ。さて、それじゃあ真夏の特訓と参りましょう! まずは光属性の基本、回復魔法から!」
◆
「ううっ…………地獄の日々でしたわ」
練馬場「煌馬庭」に戻ってきたミレーユはそれまでの日々を思い出して愚痴をこぼした。
練馬場「煌馬庭」に詰めている騎士達の感覚ではミレーユがローザと共に姿を消してから十分も経っていないのだが、見たことのない白い馬と共に戻ってきたミレーユの姿は明らかに様変わりしていた。
「お戻りになりましたか、姫殿下」
「えぇ……とても濃密な日々を過ごしてきましたわ」
「そちらの美しい馬は……」
「ディアマリーといいますの。圓様から譲り受けた特別な馬ですわ」
「なるほど、とても賢そうな馬ですね。そちらの馬は厩の方に?」
「いえ、圓様に放牧に適した島を一緒にもらいましたので、普段はそこで暮らしてもらいますの。時空魔法でその島とは自在に行き来できますわ」
「流石は多種族同盟……本当に規格外ですね」
「本当に、その通りだと思いますわ」
バノスの部下である顔馴染みの騎士とそのようなやり取りをしていると、練馬場の入口に見覚えのあるメイドの姿があることに気づいた。
そこにいる筈のないライネは本来、更衣室で待機している筈だったのだが……。
「ライネ、どうかしまして?」
「ミレーユ様、先程ライズムーン王国並びにプレゲトーン王国の使者の方がいらっしゃいました」
ほんの少しだけ困惑した表情でライネが振り返った。その視線の先にいるのは用のフードを被った三人の者達だった。
一人は恐らくカラックだろう。だが、他の二人は何者だろうか?
ほんの少しだけ……というか、かなり大男を期待していたミレーユはちょっぴり残念な気持ちになった。
「ご無沙汰しております、ミレーユ様」
最初にミレーユに挨拶をした先頭の男がフードを取る。その正体はやはりミレーユが予想した通りカラックだった。
「カラックさん、ご機嫌よう。この度は感謝いたしますわ。よろしくお願い致しますわね。……と、そちらの方々は、はじめましてかしら?」
「夏休み中も乗馬練習に励んでいるとは……やっぱり君は勤勉だね、ミレーユ」
ミレーユが全く想定していなかった声が耳朶を打ち、ミレーユは思わず驚きを露わにした。
その言葉で初対面の相手であると考え、完全無欠の愛想笑いを浮かべていたミレーユの表情に綻びが生じる。
「えっ? どどどいうことですの!? アモン……それに、リオンナハトまで!? 何故こんなところに?」
「実はボクがリオンナハトに相談したんだ。今回の件は流石に心配だからね。それに、圓様もミレーユに同行することを止めるような言葉は掛けなかった。つまり、それは同行することを許可している、或いはそもそも同行することが前提になっているんじゃないかと思ってね。まあ、ボクは圓様に止められてもミレーユについていくつもりだったんだけどさ。ということで、ボクらも護衛としてミーアに同行させてもらおうと思っている。いや、まさかこんな風に国を抜け出す方法があるとは思ってもなかったよ」
「お気持ちは嬉しいですけど……大丈夫なんですの? そんなことして……」
アモンとの旅はとても嬉しい……が、二人は一国の王子である。流石のミレーユも本当に大丈夫なのかと心配になった。
「もちろんお忍びだが……まぁ、問題はないだろう。君やグリーンダイアモンド公爵令嬢と一緒に船遊びに行く……ただそれだけだからな」
「リオンナハト殿下は昔から色々とやんちゃなことをやってますからね。まあ、お忍びで外国に来るぐらいならば、よくあることと言いますか。……ただ、今回はそれだけで終わらないみたいですけどね」
「……えぇ、何が待ち受けているのか分かりませんけど、本当に恐ろしいですわね。今回ばかりは圓様も本気みたいですし」
「ん? ミレーユ、圓様に会ったのかい?」
「えぇ……ほんの少し前に圓様に拉致されて無人島で二週間ほど地獄のような日々を過ごしてきましたわ。馬選びと光魔法の習得を目的としたものでしたけど……もうあの方との特訓は二度とごめんですわ」
「ミレーユ様を拉致したなんて!? いくら圓様でも……」
基本的には圓に良い感情を抱いているライネも流石に今回のことは許せないらしく怒りの感情を露わにしている。
一方、リオンナハト達はミレーユの言葉に全く別の印象を抱いたようで……。
「圓様が光魔法の習得が必須だと考えたということは、それほどの何かが起ころうとしているのか」
「馬選び? でも、ミレーユも馬を保有しているよね?」
「えぇ、アモン。ですが、相棒のような馬がいる訳ではありませんわ。セントピュセル学院とダイアモンド帝国では別の馬に乗っていますし」
「まあ、そうだろうね」
「ですが、圓様はわたくしの相棒となる唯一の馬が必要だと考えていたみたいですわ。近々、しっかりと信頼を結んだ愛馬と呼ぶべき存在が必要となるとか。七種類の馬を用意してくださった中で私が選んだのがこの子――ディアマリーですわ」
「なるほど、確かに賢そうな馬だね。とても美しい毛並みをしている」
「圓様によるととても希少な魔物のようですわ。その身に纏う冷気はあらゆるものを凍て付かせるなんていう伝承も存在するみたいですけど、とても賢くて穏やかな子だと思いますわ」
「確かに少し辺りが涼しい気がするね。……ということは、今後はその子を連れ歩くのかい?」
「いえ、圓様から修行に使った島と行き来する時空属性の魔道具と小島を譲り受けたので、今後はその島で普段は暮らしてもらおうと思っていますわ。島との行き来も楽ですし、設備も揃っているので何も不自由はありませんわ」
「……島を一つ丸々とは流石は圓様だ。……しかし、何故このタイミングなのだろうか? 少し気になるね」
緑の試練と馬は関係なさそうだ。となると、その先に馬が必要となる機会があるのだろう。
しかし、それがリオンナハトには皆目検討がつかない。圓の考えを読もうとリオンナハトが思案を巡らせていると、ルードヴァッハが急ぎ足でやってきた。
「ミレーユ様、本日のご予定ですが……」
そう言い掛けたルードヴァッハは、ミレーユの側にいるリオンナハトとアモンに気づいたからか一瞬だけ虚を突かれたように固まった。
「り、リオンナハト殿下にアモン殿下!? な、何故帝国に!?」
「やあ、ルードヴァッハ殿。プレゲトーン王国で会って以来だね」
その後、カラックから経緯を説明されたルードヴァッハはほんの僅かな時間、思案を巡らせていたが……。
「……なるほど、圓様が。正直、私個人としてはそのような危険だと明らかに分かっている場所にミレーユ様に行って頂くのもライズムーン王国とプレゲトーン王国の王子殿下に同行して頂くのもおやめ頂きたいのですが、そういう訳にもいかないのですね。後々のことを考えるとそれも必要なステップなのでしょう。……剣の腕が立つ名高きお二方の王子殿下が味方にいるというのは、実に心強い。こちらこそ、よろしくお願い致します」
「まあ、正直どこまで戦えるか分からないが、ミレーユのことは全力で守ると約束させてもらうよ」
ミレーユが王子様然としたキラキラな笑顔で「ミレーユを絶対に守る」と誓ったアモンに内心黄色い声を上げる中、ルードヴァッハはリオンナハトとアモンの目を見つめて深々と頭を下げた。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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