Act.9-474 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜真夏の海と緑の試練の開幕〜scene.2
<三人称全知視点>
「夏休みに、グリーンダイアモンド家の令嬢と船遊び?」
ミレーユの話を聞いた生徒会の面々は、ごく一部を除いて心配そうな顔をした。
ちなみに、そのごく一部とは会計監査コンビのガラハッドとリーシャリスである。
「……その様子だと、お二人は圓様から何かしら聞いているのね?」
「えぇ、圓様から大凡のことは。ただし、シナリオに関することはあまり話せませんので……イレギュラーな事態ではないことだけは保証しておきます」
リズフィーナの問いにガラハットが少し考えてから答えを口にした。
ミレーユ達の成長のためにはあまり情報を開示すべきではない。圓の考えを重んじるガラハッドとリーシャリスも同じ考えなのだろう。
この場に圓とソフィス――エイリーンとエルシーの姿はなく、情報源になり得るのはガラハッドとリーシャリスの二人だけということになる。流石に圓よりも口が堅いということは無さそうなので、もしかしたら情報を溢してくれるのではと期待したミレーユだったが、現実はそう甘くは無かったようである。
「……正直、わたくしはエメラルダさんに関してはそこまで心配はしておりませんの。そうした陰謀に加担して平然としていられるような性格ではありませんし……それよりも問題なのは、その目的地がスクライブギルドの一つがあった海域であることですわ」
「グラレア海だね。確か唯一調査が終わっていない場所だとか。……本当に大丈夫なのかい?」
ペドレリーア大陸とラスパーツィ大陸間にある島々の中にスクライブギルドがあったという情報はアモン達も知っているものだ。
唯一調査が終わっていない海域に、船遊びとはいえミレーユが赴くこととなる。……アモンも流石に偶然だとは考えていないらしい。
「……確か他のスクライブギルドと比較しても類を見ない巨大さを誇ると圓殿も話していたな。だが、それでも圓殿達――多種族同盟の技術力は秀でたものだ。どんな難題も特殊な能力と人海戦術を駆使して理解を超えた速度でこなしてきた多種族同盟がただ広いだけのスクライブギルドの探索に遅れを取るとは思えない。……俺は圓殿の方針か、或いは多種族同盟側の何者かの考えかは分からないが、圓殿が意図的に探索を遅らせているように思えてならない」
「……なかなか鋭いですわね。流石はライズムーンの王子殿下。……私の独断で開示しますが――」
「……スドォールト伯爵令嬢」
「ガラハット様。この程度のこと、ミレーユ様もお気付きだと思いますわ。あまり調査の進展しない『諸島の地下遺跡のスクライブギルド』とシナリオにも記されているグリーンダイアモンド公爵令嬢の誘い、流石に無関係だとお考えではない筈です。――ただ、私が言えるのは圓様がこのタイミングを待っていたということだけです。……圓様の推察通りならば、今回の夏季休暇の旅でシナリオ外の何かしらが起こると思いますわ。或いは圓様が巻き込む気満々と言うべきか。まあ、正確には緑の試練の内容ではないというだけで近い将来に再びあの地を訪れたミレーユ姫殿下が対峙する諸悪の根源というか、全ての元凶といいますか……まあ、端的に言うとラスボスですわね」
「ら、ラスボスですの!? ラスボスって……『這い寄る混沌の蛇』に関わるラスボスですわよね!?」
「『這い寄る混沌の蛇』のラスボス……圓様の話によれば『混沌の蛇』の化身であるアポピス=ケイオスカーン。或いは、邪神そのもの……アポニャソーレーペテップかしら? でも、確かに私達オルレアン神教会がまず調査をしない場所とはいえ、圓様がシナリオを熟知しているのは敵も知っている筈でしょう? 流石にそこに親玉が留まっているということはないんじゃないかしら?」
「圓様もその点は懸念しておられるようですわ。ただ、あの地の性質上、何もないということはあり得ないかと。それに、圓様の考えを敵が読んでいる可能性もありますわね。確実に敵が来ることが分かっているのであれば罠を仕掛けないというのもあり得ない話ではないかと思いますわ。なので、本当に倒されると困るものは既に回収し終えていて、敵の親玉をぶっ叩くべくその地を訪れた圓様を逆に潰すべく化身の一匹や二匹は置いておくんじゃないかな? と圓様は仰っていました」
「……読み合いのレベルが高次元過ぎてついていけなくなったわ」
リズフィーナだけではなく、リオンナハト、アモン、カラック、マリア、リオラ、フィリィス、サファルス、ウォロス、ルーナドーラが揃ってげんなりした顔になった。
かくいうミレーユも既についていけなくなっていたが、後半は完全に真顔で話を聞き流していたからか、普通に話についていけていると大半の者達から思われてしまったらしい。
「総括するとグリーンダイアモンド公爵家についてはノーコメントですが、それ以外にも何かが起こる可能性があるというか、巻き込まれる可能性があると頭の片隅に置いておくべきだとは思いますわ。ただ、その時は圓様もいらっしゃいます。危険はないと思いますが……」
「だが、万が一という可能性もある。……リオンナハト、少しいいだろうか?」
アモンはそれから、そっとリオンナハトに耳打ちする。
「ん? お二人とも、どうかしましたの?」
「いや、なんでもないよ。大丈夫」
不審に思ったミレーユが話しかけてみるがらアモンが慌てた様子で首を振った。
「そうですの? でも……」
ミレーユが話しかけるのを無視して、二人は席を立って部屋の外に出て行ってしまった。
◆
しばらくして戻ってからアモンは早々に席を立とうとしていたミレーユに話し掛けた。
「ミレーユ。一つお願いしたいことがあるのだが、聞いてもらえるかい?」
「はて? お願いですの?」
「我がプレゲトーン王国とライズムーン王国からそれぞれ護衛を出させてもらいたいと思ってね」
「まぁ! 護衛を?」
アモンの言葉に驚くミレーユに、アモンの隣で腕組みしていたリオンナハトが首肯する。
「シナリオを知っている圓殿達が今のところ何も提案してこないことが少し気になるところだが、やはり『這い寄る混沌の蛇』の邪神の存在は気になる。……いずれにしても何かが待ち構えているのは確かだ。護衛の人選はこれからになるが是非願いを聞いてもらいたい」
実際のところ、ミレーユも護衛に関してかなり頭を悩ませていた。
恐らく、『這い寄る混沌の蛇』の邪神との戦いはグラレア海の無人諸島に潜んでいる多種族同盟の時空騎士と合同で討伐することになるだろう。正直、ミレーユ自身は何の戦力にもなれないどころか足手纏いになることが容易に想像できるが、あの話ぶりからしてミレーユが巻き込まれないという可能性は万に一つも無さそうである。
では、圓達が護衛としてこの旅に同行してくれるかどうかと問われると微妙だ。そもそも、圓達はグリーンダイアモンド公爵令嬢から避暑地へ誘われることを知りながらここまでアクションを起こしていないのである。
圓――エイリーンに頼めば凄腕の諜報員の一人や二人貸してくれるかもしれないが、この時点でそういった提案が無い時点で現時点では不要と考えている可能性が高い。
そうなると、必然的に避暑地へ向かうまでの道中の護衛はミレーユ達側で選定する必要があるということになる。
しかし、今回は視察などではなく友人に遊びに誘われたという形である。流石に護衛の兵団を連れて行く訳にもいかない。
なんといっても相手は帝国の四大派閥の一角の長、グリーンダイアモンド家なのだ。
当然、自前の護衛を用意しているだろうし、もし仮に過剰な兵をミレーユが連れて行くとしたら、それは相手を信用していないことになってしまう。
そうなると連れて行けるのは精々一人か二人ということになる。
見映えと剣の腕を鑑みれば一番の候補はディオンなのだが、ミレーユにとってその人選はあり得ない。いざという時に頼りになる人材であるのは確かだが、前の世界線での恐怖からミレーユはディオンに未だ強い苦手意識を抱いていた。……まあ、その苦手意識は一生消えない類のものではあるのだが。
それにディオンを伴って船遊びに赴き、仮に海で溺れでもしたら、面倒くさがって助けてくれないんじゃないかとまで思ってしまう。彼の性格からして別段あり得ない話でもない。
最もベストなのはバノスが同行してくれることだが、彼は見た目が荒くれ者である。流石にエメラルダが了承しない可能性が高い。
あの二人以外の騎士達については剣の腕が些か不安ではある。顔が良いだけの護衛など頼りないし、目の前で身を挺して庇われでもしたら、寝覚めが悪い。
帝国の外部に視野を向けると、ヨナタンとジョナサン――二人の神父が。と、ここまで考えてミレーユはすぐさま思考を振り払った。
あの二人はディオン以上のドSであり、あの圓すら手を焼く厄介な者達だ。二人とも時空騎士であるため実力は確かだが、実力以外の部分に不安要素しかない。あの性格上、あまり交流のないミレーユの頼みでも断ることはないだろうが、その後が怖い。流石に危険な場所にこれ以上の爆弾は抱えていきたくはないと早々にヨナタンとジョナサンを連れて行く案を放棄した。
セントピュセル学院内に派遣されている諜報員達を借りるのは圓の許可が必要となる。前述の通りこの時点で提案がない以上、やはり選択肢には入らないと考えた方が良さそうだ。
では、ラピスラズリ公爵家の関係者はどうだろうか? ローザの護衛としてついて来ているカレン、ルクシアの護衛としてついて来ているヘレナとヒースの姉弟――このうち、ヘレナとヒースはルクシアの護衛の方が重要なため恐らく応じてはもらえないだろう。
一方、カレンの方は好戦的な性格が少々厄介だが、メイドに紛れ込む形で連れて行けるため別枠で連れて行くことが可能である。
こちらもあまり交流がないため応じてもらえる可能性は低いが駄目元で提案をしてみようか、とは考えていた。
……まあ、そうなると許可を取る関係で結局どこかで圓――エイリーンを捕まえる必要が出てくる訳だが。
ここ最近はかなり忙しくしているようですぐに学院から姿を消してしまうため、なかなか圓を捕まえることはできない。ならば、いっそカレンに希望を伝えた後、彼女に圓と連絡を取ってもらえば良いのではないかと考えていた。
しかし、カレンはあくまで隠し球という立ち位置である。他に連れていく護衛はしっかりと護衛であるとアピールできるような人材が望ましい。カレンという存在を隠す意味でも。
現時点で護衛を頼む相手が決まっていなかったミレーユにとって二人の王子からの提案は都合が良かった。特にカラックの腕前には、ミレーユも一目を置いているのだ。
エメラルダの方も、流石にリオンナハトやアモンの心遣いと言われては嫌とも言えまい。
それより何より、エメラルダは確か面食いだった筈だ。となれば……。
「ん? どうかしましたか? ミレーユ姫殿下。私の顔に何かついていますか?」
「いえ、なんでもありませんわ」
そう言いつつ、心の中で「うむ、合格!」と頷くミレーユであった。
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