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百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜  作者: 逢魔時 夕
Chapter 9. ブライトネス王立学園教授ローザ=ラピスラズリの過酷な日常と加速する世界情勢の章〜魔法の国事変、ペドレリーア大陸とラスパーツィ大陸を蝕む蛇、乙女ゲームの終焉〜

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Act.9-470 大商会時代の前日譚〜エナリオス海洋王国とカエルラ〜 scene.2

<三人称全知視点>


「お父さん! お帰りなさい!!」


 仕事を終えてブライトネス王国の王都郊外の家に帰ったカエルラを出迎えたのは、愛しの娘であった。

 夜遅くにも拘らず珍しく起きていた愛娘のビーグリス=犬光(チュェン・グァン)=ブルーストン=カニスがカエルラの胸に飛び込んでくる。カエルラが玄関先でビーグリスをなんとか受け止めると、カエルラの妻であるヨークーシァ=犬牙(チュェン・ィア)=シトリエン=カニスが姿を見せた。


「お帰りなさい、あなた」


「ただいま。ヨークーシァ」


 暖かい家庭で、家族と一緒に食卓を囲む――それは、カエルラにとっても宝物だった。

 しかし、その日のカエルラはとてもその幸せを噛み締められるような心境では無かった。


「あなた……何かあったの?」


 いつもと違うカエルラの姿に気づかないヨークーシァとビーグリスではない。

 ヨークーシァに問われても何も話そうとしなかったカエルラだが、やがて根負けしたのか閉ざしていた口を開いた。


「ビオラ商会合同会社に入社する際に親切にしてくれた人がいたんだ。ビオラ商会合同会社の人事秘書課に勤めていたその女性――シリェーニ殿は俺が融資部門に所属してからすぐにビオラ商会合同会社を辞して新たな商会を立ち上げた。アネモネ会長に多大な恩があると話していた彼女が何故ビオラ商会合同会社を辞めたのかずっと不思議で、だから、彼女がビオラ商会合同会社を辞めてからしばらくして偶然再会した時に食事に誘って彼女の本心を尋ねたんだ。その結果、彼女がアネモネ会長の望む競争のある市場経済を実現するためにビオラ商会合同会社を離れたのだと教えてもらった」


「お父さん、競争のある市場って?」


「ビオラ商会合同会社……つまり、私が勤めている会社だけでなく、様々なライバル企業が切磋琢磨……お互いに競い合っている市場のことだよ。そういった市場であれば、良いものが生まれる可能性が高いんだ。……その時、シリェーニ殿は私を誘おうと言葉を掛けようとした」


「……それは、あなたのことを引き抜こうと提案したということかしら?」


「彼女の会社、アルヴヘイムインダストリアルに入社して欲しいという話では無かったと思う。私に新たな企業を興すことを期待していたんじゃないかな? だが、シリェーニ殿はそれを躊躇った。私には大切な家族が、ヨークーシァとビーグリスがいることを知っていたからだ」


 話の流れからカエルラの浮気を疑っていたヨークーシァだが、すぐにそれが誤りだと気づいた。


「私にとってル・シアン商会は唯一考えられる就職先だった。それ以外の道を教えてくださったアネモネ会長には感謝してもしきれない。しかし、同時に本当にこれでいいのか、という問いがずっと渦巻いていた。もしかしたら、それはアネモネ会長と面談をした時にアネモネ会長に言われた『もし、君がこれからビオラ商会合同会社で働く中で本当にやりたいこと(・・・・・・・・・)を見つけた時にはボク達に遠慮なくその道を選んで欲しい』という言葉がずっと呪いのように引っかかっていたからかもしれない。私は家族を幸せにできればそれで良いと思っていた。融資部門での仕事も楽しいけど、心の底からやりたいと思える仕事ではないと思う。……そんな中、私は見つけてしまったんだ。今日の仕事先のエナリオス海洋王国では漁師達の一部で新商会設立に向けた動きがあった。でも、そもそも彼らが商会を設立しなかったのは、そのノウハウが無かったからなんだ。もし、ル・シアン商会の行商人として、ビオラ商会合同会社の融資部門の一員として働いてきた私の力があれば、そして、新たな輸送手段を発明できれば、もしかしたら、作れるかもしれない。ビオラ商会合同会社に及ばずとも、世界有数の商会が。……もしかしたら自惚れかもしれない、力不足で失敗するかもしれない。それでも、まだ見ぬ新たな商会を思い浮かべるのは、楽しかったんだ。とてもとても楽しかったんだ。……だけど、ビオラ商会合同会社に勤めていれば安定した生活を送れる。そんな危険を冒す必要なんて本当はないんだ。……だから、その夢は諦めるつもりだったんだが、それでも何故か諦めきれないんだ」


 ヨークーシァとビーグリスにも、自分達がカエルラの夢を阻む錘となっていることが分かっていた。

 ビオラ商会合同会社への就職は生活が好転するという利点があった。ヨークーシァとビーグリスが後押しをしたこともカエルラがビオラ入りを決めた大きな要因だったのだろうが、それ以上に家族の生活が好転するという確信があったことがカエルラの背中を押したのだろう。


 だが、カエルラが抱いてしまった夢は約束された安息を捨てて茨の道を歩むことと同義である。


「……あなたにとって、私達は重石になっていたのね」


「――ッ! そんなことは!!」


「お父さん、諦めちゃダメだよ! 私も我慢する……お父さんが私達のために頑張ってきたの、私も知っているから。だから、今度は、私がお父さんを応援したい!!」


「ビーグリスもこう言っているわ。私はカエルラ、あなたのことを信じてついてきたわ。それはこれからも同じ……大丈夫よ。どんな結末になるとしても、私はあなたの選んだ道を一緒に歩きたいわ!」


「お母さんだけじゃないよ! 私だって!」


「ヨークーシァ……ビーグリス……」


 二人に背中を押され、カエルラの覚悟は決まった。

 それから、カエルラは融資部門の職員として働きつつ、密かに新商会設立のために動き出すこととなる。



 最愛の妻と娘の後押しを受けてから四日後、カエルラの姿はビオラ=マラキア商主国にある冒険者ギルド本部へと向かった。

 背中を押されて覚悟こそ決まったカエルラだが、肝心の課題を解決する鍵はまだ見つかっていなかった。ビオラ商会合同会社の図書館で資料を探すという手もあるが、独創的な輸送手段のアイディアがあるかどうかは微妙である。


 そこで目をつけたのが冒険者ギルド本部であった。Dr.ブルカニロという人物の前世の記憶を持つというコルヴォ=ロンディネは革新的なアイディアを次々と実現していった人物であったという。

 夢幻魔法や空間魔法――多くの希少な魔法で革新的なアイディアを実現していたが、そんな魔法よりも重要なものはやはりアイディアである。


 まだ再現されていないアイディアが冒険者ギルドの本部には残されているかもしれない……そんな淡い期待を抱いて、カエルラは冒険者ギルド本部にやってきたのだ。


「ようこそ冒険者ギルド本部へ。冒険者登録をご希望ですか?」


「本日、本部長殿への面会を希望したカエルラと申します」


「カエルラ様ですね。……はい、確かに。確認が取れましたのでご案内致します」


 身分証明書代わりに写真付きのビオラ商会合同会社の社員証を見せると、受付嬢はカエルラを上の階へと案内した。


「二十階、本部長室は廊下の突き当たりにあります」


 エレベーターを再現したような転送装置から降りたところで受付嬢は会釈をして一階に戻っていった。

 カエルラはそのまま廊下を突き進み、本部長室の扉をノックしてから「どうぞ」という声を聞き、扉を開ける。


「初めまして、ヴァーナム=モントレー本部長様。本日は面会に応じてくださりありがとうございます」


 ヴァーナムの性格はカエルラの耳にも入っていた。嫌な予感を抱いて扉を開けたカエルラだが、どうやらヴァーナムのお眼鏡には適わなかったらしく、そのまま黒皮のソファーに座るように促された。


「書状は読ませて頂きました。……正直、正気を疑いましたね。ですが、その意思の強さは伝わってきました。……コルヴォ=ロンディネはその類稀なる魔法の資質で様々なものを生み出していきました。再現できないのは彼の固有魔法くらいでしょうか? 夢幻魔法…….限定的ながら夢を現実化させる魔法ですね。同時に他者の夢に干渉する魔法でもあったとか。残された文献で判明していたのはその程度でしたが、その後の圓様の研究である程度の仮説が立ちました。その本質は思考を実体化させる魔法――様々なエネルギーを自在に組み換えて様々なものを創造したり、動かしたり、そういったことが可能な万能な魔法です。エネルギーは質量と等価である、そういった物理法則を拡大解釈した魔法ということになります。黒衣の歴史家という幻影を生み出したのも、外からテレパシーのように言葉を届けることができたのも、この魔法のおかげでしょう。思念もまたエネルギーですからね。……ただ、そんなバランスブレーカーな魔法が無条件に使える訳ではありません。少なくとも地上では、膨大な魔力を消費してしまうようです。物理法則が、ルールが違うからでしょうか? ……ということで、コルヴォ=ロンディネが残したものでお役に立てるものはないと思います。……ただし、コルヴォ=ロンディネが目指したものであれば再現が可能なのではないでしょうか?」


「コルヴォ=ロンディネが目指したもの、ですか?」


「えぇ、即ち銀河鉄道。この宇宙空間を走る鉄道は恐らく、夢幻魔法と同じ技術で走行していのだと思いますが、詳細は不明。線路を自在に作り出して走るのか、そもそも線路が不必要なのかどうかも分かりません。……まあ、そんなことはどうでも良いのではありませんか? どんな悪路も空中も、それこそ水上だって自在に走ることができる鉄道……もし、それが実現すればそれに勝るものはありません。さて、ご期待に添えましたでしょうか?」


 これ以上にない才能のヒントは得られたものの、それを実現する方法は皆目検討がつかない。

 先行きに不安を抱きながらカエルラはお礼を言って冒険者ギルド本部を後にした。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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