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百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜  作者: 逢魔時 夕
Chapter 9. ブライトネス王立学園教授ローザ=ラピスラズリの過酷な日常と加速する世界情勢の章〜魔法の国事変、ペドレリーア大陸とラスパーツィ大陸を蝕む蛇、乙女ゲームの終焉〜

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Act.9-469 大商会時代の前日譚〜エナリオス海洋王国とカエルラ〜 scene.1

<三人称全知視点>


 カエルラがビオラ商会合同会社に入社してから、かれこれ三ヶ月が経とうとしている。

 会長のアネモネはペドレリーア大陸とベーシックヘイム大陸を往復して忙しくしていたが、カエルラの業務には特に影響もなく、その日も上司であるモレッティの指示を受けて融資部門の職務を遂行していた。


 ここ最近はブライトネス王国での仕事が多かったカエルラだが、今回は久しぶりの遠出である。

 といっても、向かう先は多種族同盟加盟国の一つであるエナリオス海洋王国――転移門を使えば一瞬で到着できる場所であるため、遠出をしたという感覚は薄いのだが。


 到着早々、カエルラは王城へと向かった。通常、融資部門の仕事をする際には直接融資先の元へと向かって交渉を進めるのだが、今回はいつもと勝手が違うらしい。

 こういった話に国家が絡んでくるのは珍しいため、カエルラは少しだけ嫌な予感を抱いて登城した。


「エナリオス海洋王国国王のバダヴァロート=アムピトリーテーだ。そう畏まらなくても良い。ビオラ商会合同会社の融資部門の方だな、この度は我が国にようこそいらっしゃった」


 謁見の間に通されたカエルラはバダヴァロートから歓迎の言葉を受けた。

 楽な姿勢を取ることを許可されたカエルラは頭を上げて失礼のない程度に姿勢を崩した。


「しかし、犬人族か、珍しいな。……いや、決して差別意識を持っている訳ではないぞ。ただな……」


「我々犬人族といえばル・シアン商会ですので、驚かれるのも無理はありません。かくいう私もかつてはル・シアン商会に所属していました。しかし、多種族同盟を発足させるための使節団で一緒になったアネモネ会長と再会し、商会に誘って頂いた際にビオラ商会合同会社に入るという全く別の生き方を知って、すぐさま行動に移した次第でございます。……正直、私にはル・シアン商会以外の答えが無かったのです。その答えをくださったアネモネ会長には返しきれない恩があります」


「アネモネ殿への計り知れない恩があるのは我も同じだ。……しかし、不思議だな」


「どうかなされましたか?」


「それならば、ル・シアン商会以外の選択肢を考えられない環境で育ったのは他の犬人族も同様なのではないか? しかし、アネモネ殿はカエルラ殿のみにビオラ商会合同会社への入社を進めた。人材の引き抜きはよくあることだが、アネモネ殿であれば他にも何か思惑があるのではないかと勘繰ってしまうな。……もしかしたら、アネモネ殿はカエルラ殿に何かを期待してル・シアン商会から引き抜いたのかもしれないな」


「……期待、ですか?」


 融資部門に所属して融資の仕事をすることが、アネモネが求めていたことなのだろうか?


『ただ、一つだけ約束して欲しい。もし、君がこれからビオラ商会合同会社で働く中で本当にやりたいこと(・・・・・・・・・)を見つけた時にはボク達に遠慮なくその道を選んで欲しい。ビオラ商会合同会社は君のことを心から歓迎するけど、君を束縛するつもりはないってことだ。自由に生きなよ、犬人族の商人さん』


 ビオラ商会合同会社を初めて訪問した日、アネモネから言われた言葉が脳裏を駆け巡る。

 思えば、ル・シアン商会を辞めてビオラ商会合同会社に入社することを決断したのも、アネモネがそれを促したからだ。まるで、アネモネの掌の上で踊っているような気にもなってくるが、その選択はカエルラ自身が選んだものであり、結果としてカエルラは家族を養うことができている。その選択に後悔はなく、掌の上で転がされているとしても、それが幸せに繋がるのであれば問題ないとカエルラは考えていた。


 あの時は、カエルラの選択とその後の人生を祝福する言葉だと考えていた。今思えば、その言葉にはそれ以上の意味が込められているのかもしれない。

 アネモネは何か思惑があってカエルラにル・シアン商会を辞めるように促し、ビオラ商会合同会社に入社するように仕向けたのかもしれない。しかし、それはカエルラのことを心から考えた故のものであった筈だ。


 いずれにしても、カエルラの人生はカエルラだけのものであり、選択も全てカエルラ自身が行ってきた。それは今後も決して変わることはない。


「さて、仕事の話に移ろう。……まず、何故わざわざ登城してもらったかというと、この話がそもそも融資以前の状態だからだ」


「融資以前の状態……ですか?」


「うむ。エナリオス海洋王国の特産品はご存知の通り海産物だ。寧ろそれ以外何もないと言っても良い」


「そんなことはないと思いますが」


「世辞はよせ。……紛うことなき事実だからな。実際、島の面積は狭く、農業や畜産ではライバルに勝ち目がない。幸いなことにエナリオス海洋王国の海産物は人気だ。しかし、エナリオス海洋王国にはそれを売る販路を持つ商会がない。エナリオス海洋王国は多種族同盟に加盟するまでどこの国とも国交を持っていなかったからだ。多種族加盟後は加盟後でビオラ商会合同会社の力を借り、エナリオス海洋王国の漁師達が経営する小売店がビオラ商会合同会社に委託販売をお願いする形を取ってきた。だが、ここに来て、このままでは良くないのではないかと考える者達が増えてきた。その方向性は二種類あり、現在はその二つの考え方でエナリオス海洋王国の漁師業界が大きく二つに割れてしまっている。一つ目の考えはビオラ商会合同会社に頼らずに自分達で商売をできる力をつけるべきだというもので、これは漁師が魚を取ってきてそれを販売するまでの全ての行程を行ってきたエナリオス海洋王国の伝統が根底にある考え方だと我は考えている。つまり、エナリオス海洋王国の小売店を束ねて商会を興し、自分達漁師が新鮮な魚介類を食卓に届けたいということだな。そのためには先立つものが必要となる。その融資をビオラ商会合同会社にお願いしたいと考えている一団ということになる。……他方、つまり二つ目の考えはビオラ商会合同会社の傘下に入るべきだという者達だ。これまでビオラ商会合同会社に頼ってきたのだから、ビオラ商会合同会社と小売店の関係は曖昧になりつつある。ならば、いっそビオラ商会合同会社の傘下に降ってしまった方が良いのではないかという考えだ。実はどちらもビオラ商会合同会社の善意に助けられてきた負い目が発端となっており、この中途半端な関係性を変えたいと本質は同じだ。……方向性はどちらも極端だがな」


「……あの、国王陛下。私はどのようにすれば良いのでしょうか?」


「理想としては、やはりどちらの願いも叶えられるのが一番だと考えている。方針を一つに決める必要は別にないのだからな。我が国の主要な産業が漁業であることはアネモネ殿も理解している。何かしら策は用意してくれるだろう……まあ、そうして甘えてきた結果がこれなのだがな。まずは、全ての漁師達の意見を聞き、意思の統一ができそうであれば、融資や傘下入りの話を進めてもらいたい。もし、それでも意見が割れるようであれば双方に対して必要なことをしてくれるとありがたい。……すまないな、難しい仕事をお願いしてしまって」



 バダヴァロートの協力を得て、漁師達への聞き取り調査は順調に進んでいた。

 しかし、漁師達の溝は根深く、とても意見を統一できる状況では無かった。仕方なく、カエルラはバダヴァロートの依頼通りにビオラ商会合同会社への傘下入りと融資、双方の準備を整えていくことにした。


 これで方針は決まり、カエルラがビオラ商会合同会社に入って以来最も難しい仕事にも光明が見えてきたのだが、カエルラの表情は何故かあまり芳しいものでは無かった。


「……本当に融資だけでいいのだろうか? そもそも、エナリオス海洋王国が商会を設立できないのはそのノウハウを持っていないからだ。そもそも、エナリオス海洋王国が融資をするという道も選ぶことができた筈だ。……恐らくだが、本当に新商会設立に必要なのはお金じゃない。販路とノウハウだ」


 エナリオス海洋王国には豊かな海産物という他にはない武器があった。ただ、その武器の使い方を知らなかっただけだ。

 そして、カエルラにはル・シアン商会の一員として働いてきた商人としてのノウハウがある。……流石に商会経営の経験はないが、エナリオス海洋王国で新商会を設立するにあたって本当に必要なものの一部をカエルラは期せずしてもっていたのである。


「これならば、アネモネ会長やシリェーニ殿の望みを叶えられるかもしれない。少なくとも海産物は唯一無二の武器になる。そこに細やかだが、私がル・シアン商会の一員の行商人としてエルフ族やドワーフ族と商売をした経験が加われば……いや、それだけでは足りない! 輸送はどうする? ビオラの力は頼れない……そうなると何か新しい輸送の方法が必要になる。頼れるとしたらドワーフ……既に海を超えてきた商会に力を貸したという前例があるから可能かもしれないな。シュレーガン工房は既にキロネックス商会と契約しているから、可能性があるとすればノーツガンド工房……だが、あそこの工房長は一癖も二癖もあるお方だ。やる気が出るほどの内容でなければ協力を取り付けられないが、かと言って抽象的過ぎても断られる可能性が高い。ある程度考えて……!?」


 そこまで半ば無意識に思考を重ねていたカエルラは唐突に我に返り、恐怖に駆られた。

 それは、シリェーニが選んだものと同じ、茨の道だったからだ。


『カエルラさん、貴女には大切な人達が、守るべき人達がいますね。奥様とお嬢さん……お話を聞いてとても良い家族だと思っていました。ビオラ商会合同会社にいれば、貴方達は幸せに暮らせます。先程の言葉は忘れてください』


 唐突にシリェーニの言葉がリフレインする。あの時、カエルラを勧誘しようとして躊躇ったのは、カエルラの守るべき者達を、妻子のことを慮ったからだ。

 茨の道を進めたのは、シリェーニに自分の願い以外に守るべきものが無かったからだろう。しかし、カエルラはそういう訳にはいかない。カエルラの双肩には家族の生活が掛かっている。


「どうしたら……私は、どうしたらいいのだ」


 エナリオス海洋王国での新商会の設立に少しだけ楽しい夢を見てしまったカエルラは、すっかりどうすれば良いか分からなくなってしまった。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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