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百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜  作者: 逢魔時 夕
Chapter 9. ブライトネス王立学園教授ローザ=ラピスラズリの過酷な日常と加速する世界情勢の章〜魔法の国事変、ペドレリーア大陸とラスパーツィ大陸を蝕む蛇、乙女ゲームの終焉〜

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Act.9-465 大商会時代の前日譚〜シーワスプ商会長、ド=ワンド大洞窟王国へ〜 scene.1

<三人称全知視点>


 ド=ワンド大洞窟王国にて、国王ディグラン=ヴォン=ファデル=ダ=ド=ワンドに謁見したキロネックスはディグランの許可を得て二つの工房へ赴くこととなった。


 ところで、元々商会という概念が無かったド=ワンド大洞窟王国では工房は全て国の管理下に置かれている。

 工房それぞれには一定の裁量権を与えられており、有事を除けば基本的に工房長の自由に研究や開発を行うことができるため、正確には管理下というよりも国家がパトロンになっているという表現の方が正しいのかもしれないが。


 これまで、多種族同盟加盟国やビオラ商会合同会社からの依頼があっても、基本的には間にド=ワンド大洞窟王国が入ってド=ワンド大洞窟王国からの指示という形で工房に品物を製造させていた。

 こうして直接工房とのやり取りをド=ワンド大洞窟王国国王が許可することなど前代未聞なのだが、何故、友好的な関係を築いていた多種族同盟やビオラ商会合同会社には出さなかった工房との直接交渉の権利を海を越えた先にある大陸の一商人に与えたのかというと、それには数週間前に謁見を希望したとあるエルフの女性が関係していた。


「陛下、本当によろしかったのですか?」


 エリッサの問いに、ディグランは小さく首肯した。


「エリッサは覚えているか? アルヴヘイムインダストリアル社長のシリェーニ殿のことを」


「えぇ、覚えております。様々な種族の人々と手を携えてエルフ族を救った技術者……私も、技術のドワーフ族の一員として彼女のことは尊敬しています。ビオラ商会合同会社に恩義あるあの方がビオラを離反して新会社を発足させたと聞いた時には聞き間違いを本気で疑いましたが、私も謁見の間で彼女のお考えを直に聞いて、彼女の選択の意味を理解しました。……誰にでもできることではありません。少なくとも私は、どれほど恩義を感じていてもそのような選択はできないと思います」


「で、あろうな。……彼女が古参の商会に欠片も期待していないことは、あの日の謁見でよく分かった。シリェーニ殿が謁見を希望したのは、我らに期待したからだろう。しかし、我にその期待に応えることはできないと判断した。……我らも同じだからだ。行動を起こさなかった古参商会と何も変わらない。勿論、このまま終わるつもりはないぞ。将来、経済界が虚像の地球の参入によりどのような変化を遂げるのかは定かではないが、少なくともこの世界で最初の純粋な複合娯楽施設――ドリーミーランドを運営する株式会社ドワーフランドは十分、先の時代でも通用する切り札となるだろう。この複合娯楽事業を中心に、来たる新たな商売の時代に備えるつもりではある。……だが、もし、本気でビオラ商会合同会社と対峙する覚悟がある者が現れたのならば、そのために我も力になりたいとも思ったのだ。シリェーニ殿の影響を受けて動き出した我とは違う、高い壁であることを承知で挑むことを選んだ勇気ある者の力になりたい。……もしも、工房の長が認めればド=ワンド大洞窟王国の二大工房のいずれかは差し出すつもりでいる。まあ、流石に差し出せたとしても二つまでだ。それでもかなりの痛手だが、幸い、それぞれの工房から巣立った優秀な若者達も育っている。それでド=ワンド大洞窟王国の技術関係が滅ぶ訳でもない。ならば、勇気溢れる者に投資することも別段悪い話ではないだろう。まあ、それは工房の長のお眼鏡に適えば、という話ではあるが」


「これまでド=ワンド大洞窟王国の工業分野を牽引してきたシュレーガン工房とノーツガンド工房の二つがド=ワンド大洞窟王国の手から離れる。……全く想像ができませんね」


「いずれにしても、新たな時代に向けて工房の再編成は必須だ。……それに、工房の中には風通しの悪いところもあるという噂を聞く。優秀な若者達に活躍の機会が与えられれば、今以上の成果も期待できると我は考えている。……我らは少しシュレーガン工房とノーツガンド工房に頼り過ぎていたのかもしれない。どんなに優れたものもいつまでも繁栄する訳ではない。次の時代に向けて種を蒔き、水を与えて育てる時期が来たのかもしれないな」



「要件は分かった。だが、儂にお主らに協力する気は微塵もない」


 ド=ワンド大洞窟王国で二巨頭に数えられるノーツガンド工房を訪れたキロネックス一行はすくに工房長のジュードル=ヴォン=ノーツガンド=ダ=ド=ワンドの元へと通された。

 このままの勢いで協力を取り付けられるのではないかと淡い期待を抱いてジュードルに事情を説明したキロネックスだったが、その期待をぶち壊すように結果は拒否の二文字――そもそも、交渉のテーブルに着くことすら許されなかった。


 ジュードルの態度に怒りを隠せなくなった部下達を宥めてから、キロネックスはジュードルに理由を尋ねる。


「それは、我々がこの地とは縁のない異邦人だからですか? それとも、人間(・・)だからでしょうか?」


 ドワーフ族は長きにわたって人間に迫害されてきた歴史があるという。多種族同盟が発足し、種族差別が禁止されたことで関係性は改善したが、それでも完全に差別が根絶された訳ではない。

 それに、迫害された側の傷も決して癒えるものではない。ジュードルは人間族を恨んでおり、それ故に依頼を拒否したのではないかとキロネックスは推測していたが、ジュードルは首を振ってその考えを否定する。


「言っておくが、儂は人間だから、異邦人だからということで断った訳ではない。……実は、かつて儂も空に憧れを抱いていた。あの大空を飛びたいと、幾度となく試作を重ねては失敗したものじゃ」


「でしたら――」


「それが、儂ではなく誰かが見た夢だからじゃ。その本に載っておる通り、その夢は既に誰かによって叶えられておる。お主が求めておるのは夢を叶えることではなく、本に書いてあることを再現することじゃ。そんなことは、儂じゃなくてもできる。儂は一人の職人であると同時に開拓者じゃ。一人の職人として未開の地平を切り拓き、様々なものを生み出してきた。儂の力を借りたいのであれば、まだ叶えられていない夢を持って来い。或いは、既存のものであっても別のアプローチが必要であるものとかも良いな。いずれにしても、儂が腕を振るうに値するものを用意してから出直して来るが良い。それでは、お引き取り願おう」


 ジュードルはそう言うと、ドーンと力任せに扉を閉めてキロネックス達を締め出してしまった。


「……皆様、ご気分を害してしまったこと、心よりお詫び申し上げます。ですか、決して我らの工房長も悪気がある訳ではないのです」


 工房長の部屋から締め出されたキロネックス達を不憫に思ったのか、それとも誤解を解きたいからなのか、キロネックス達を丁重に迎え入れてくれた副工房長はシーワスプ商会の使節団一行を食堂へと案内し、お茶とお菓子を振る舞った。


「ノーツガンド工房は、一パーセントの閃きと九十九パーセントの量産体制によって成り立っていると言われています。……工房長のことを偏屈な人だと思ったかもしれませんが、あの方のアイディアはいつも素晴らしく、それを形にするだけの力も持っている方です。しかし、面白いのは新しいものを作り上げることで、それを量産することはつまらないと考えています。……実際、本国に品物を収めることが多いのですが、その多くは量産品であり、工房長の興味の外です。ですので、我々が量産を行って工房を支えてきました」


「……苦労をなされているのですね」


「いいえ。ここに残っているのは、皆、工房長の腕に惚れ込んだ者ばかりですから、苦労だと感じたことはありません。……国の依頼であれば致し方ありませんが、今回のお話は一商会との契約ですからね。工房長にその気が無いのに契約を結ぶことは残念ながらできません。……我が国の陛下から紹介されたのはノーツガンド工房だけでしょうか?」


「いえ、シュレーガン工房のことも紹介して頂きました」


「でしたら、シュレーガン工房を訪ねるのが良いでしょう。シュレーガン工房の工房長様といえば、ジュードル様と鎬を削るもう一人の天才ですからね。そして、選り好みをせずに様々な品物を作り出してきた名工……あの正統派の工房長様であればきっと引き受けてくださると思いますよ」


 副工房長からシュレーガン工房の工房長宛の手紙を預かったキロネックスは気を取り直してシュレーガン工房へと向かった。



 シュレーガン工房へと向かったキロネックスは工房長の部屋へと案内された。

 今回も呆気なく中まで通されたことに少しだけ疑問を覚えたキロネックスだったが、工房長の部屋まで案内したドワーフの職人曰く、国王から既にシーワスプ商会の使節団が工房を訪問するという通達が届いていたらしい。


「初めまして、遠路遥々ようこそいらっしゃいました。シュレーガン工房長のキルヴィス=ヴォン=シュレーガン=ダ=ド=ワンドと申します」


 出迎えたのはドワーフらしからぬ長身痩躯の男だった。

 片目にモノクルをつけたその男は、いかにも町工場の職人というジュードルとは対照的で、ほとんどのドワーフが伸ばしている髭もきっちり剃り、どこか学者然とした気配を纏っている。


「お待ちしておりました、キロネックス様ですね。なんでも、空を飛ぶ乗り物を欲しているとか」


「……ビオラの図書館に本があり、既にどこかで実現された技術のようですが、多種族同盟加盟国中を探しても見つけることはできませんでした」


「あの場所は叡智の集まる場とは聞いていましたが……これは一度足を運ぶべきだったかもしれませんね。私も空を飛ぶ乗り物には興味があります。是非、協力をさせて頂きたい。一先ず、業務提携という形でいきましょう。実は国王陛下から必要と判断すれば、業務提携の枠を超えて正式にシーワスプ商会の傘下に下っても良いとお言葉をもらっております。勿論、その際にはド=ワンド大洞窟王国からシュレーガン工房を購入するという形になりますが。まあ、それも先の話、まずは空を飛ぶ乗り物を完成させてしまいましょう」


 あくまで業務提携の範疇で終わりそうだった話に予想外のおまけがついてきて驚きつつも、キロネックスは一欠片の希望を抱いてキルヴィス達と共に打ち合わせを始めた。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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