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百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜  作者: 逢魔時 夕
Chapter 9. ブライトネス王立学園教授ローザ=ラピスラズリの過酷な日常と加速する世界情勢の章〜魔法の国事変、ペドレリーア大陸とラスパーツィ大陸を蝕む蛇、乙女ゲームの終焉〜

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Act.9-462 大商会時代の前日譚〜シリェーニによる新商会設立〜 scene.2

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン・レインフォール>


 シーワスプ商会と港湾国セントエルモの使節団によるベーシックヘイム大陸訪問を明後日に控えたその日、いつものように王女宮筆頭侍女の執務室で仕事をしているとダダダダと廊下を駆け抜ける騒がしい音が耳朶を打った。

 ……プリムラ姫殿下に迷惑だし、行儀悪いからやめて欲しいんだけどなぁ。ってか、手本になるべき父親が率先してやるのはどうかと思うよ。まあ、今更か。もう反面教師にしてもらうしかないねぇ、国王陛下と第一王子殿下のことは。


 声すら掛けずにバンっと執務室の扉を開け放ったのはやはりラインヴェルドことクソ陛下。

 その後を追うように、エイミーン、ミスルトウ、マグノーリエ、プリムヴェール、アーネストが続く。こういう時にアーネストやミスルトウが来るって珍しいよねぇ。


 騒ぎを聞きつけたソフィスもいつの間にか合流……今日はプリムラ様の部屋で仕える当番の日だった筈なんだけどなぁ。


「ソフィスさん、お仕事放り投げてきたの?」


「シェルロッタ様にお任せしてきました! そっちの方が圓様も喜んでくれると思いましたので」


「俺としては、シェルロッタは勿論だか圓とプリムラももっと親睦を深めてもらいたいんだけどなぁ」


「ボクは十分、親睦を深めているつもりだけどねぇ。陛下の期待通りに」


「まあ、お前も子煩悩発揮するくらいにはプリムラのことを好いてくれているし、プリムラもお前のことを自分の母親みたいに信用しているし、うん、問題ないな!」


「……騒がしくしてすまない。しかし、そうも言ってられない状況なんだ」


「まあ、普段はストッパーになる筈のアーネスト閣下やミスルトウさん、常識人のマグノーリエさんやプリムヴェールさんまで、そこの狂人二人と同じノリで突撃してきたんだ。重要な案件なのは嫌でも分かるよ」


「誰が狂人なのですよぉ〜!!」


「お前らのことだよ、お前ら! クソ陛下と阿呆族長! ……さて、ケーキとお茶を用意しないとねぇ」


「圓様、お任せください! スカーレット様を呼んできて、二人で給仕致しますわ!!」


 あーぁ、行っちゃった。……ソフィスさん、この頃暴走列車が過ぎるんじゃないかな?

 その後、ソフィスに捕まってしまった哀れなスカーレットはソフィスと共に給仕をしてくれた。……アーネストが娘の暴走に巻き込まれたスカーレットに何度も謝罪し、スカーレットが宰相閣下からの謝罪にどうしていいか分からず困惑していたのが印象的だったねぇ。まあ、いくら完璧令嬢といえども、宰相閣下の謝罪を受けて動揺しない方が無理があるか。


 そこで自分は関係ないみたいな顔をしているソフィスさんや、君は少し反省すべきだと思うよ。色々なことを。


「圓殿、私達は今朝の新聞を見て衝撃を受けた。そこには、絶対にあり得ない筈の記事が書かれていたからだ。最悪なことに、その新聞を発行していたのは中庸新聞だ」


 この世界で最初の新聞はビオラ商会が発行したけど、その後印刷技術が浸透したことで多くの新聞社が生まれた。

 国家寄りの新聞、民衆寄りの新聞、その方向性は前世の各種新聞社同様様々だけど、その中で最も信頼されている新聞社を挙げれば、中庸新聞社ということになるだろう。


 トールキン・ジョージ・エクルバーグ氏によって設立されたこの新聞社は、最も公平な地点から記事を書くことを何よりも大切にしている。右も左もない、どこに阿ることもない無色透明な神の目からあらゆるものを俯瞰して記事を書く。

 勿論、完全に主観を排除することはできないけど、できる限り客観的に物事を捉えようとする姿勢は評価され、ビオラ商会合同会社が発行する純恋新聞に僅差で勝る購読者を抱えている。


「記事に書かれているのはあくまで客観的なことです。近々、社長兼編集長のトールキン氏自ら取材するとして、記事は締め括られていますが……圓様、本当なのですか? ビオラ商会合同会社を退社したエルフの女性が、新たに会社を興したというのは」


「アーネスト閣下の仰る通りです。その記事に嘘はありませんよ」


「いや、それだけは絶対にあり得ない! 私は緑霊の森にいた頃からシリェーニ殿のことを知っている。彼女は、彼女は絶対に恩人に恩を仇で返すようなことをする人ではない!」


 怒りと悲しみでないまぜになったプリムヴェールは手に持っていた新聞を握り潰した。

 シリェーニは、エルフ達から尊敬を集めている。彼女の功績はそれだけ大きい。だからこそ、プリムヴェールは……いや、エイミーン、ミスルトウ、マグノーリエ、プリムヴェールの四人は彼女の行いを信じられないのだろう。


「ビオラ商会合同会社は最も幸福度が高い職場です。わざわざビオラ商会合同会社を辞めるなど前代未聞……正直、私もミスルトウ殿からこの記事を見せられて困惑しましたよ」


「みなさん、勘違いしている様子ですねぇ。……発想を転換してください。今のシリェーニさんは皆様の知るシリェーニさんと何も変わらないのですよ」


「ですが、シリェーニ様は圓様の会社を退社されて競合する企業を設立したのですよね?」


「スカーレット様、良い事を仰りますねぇ。そうです、ビオラ商会合同会社と競合するライバル企業を設立した、ここに意味があるのですよ」


「シリェーニさんは研究の援助を圓様にお願いして、ビオラ商会の庇護下で研究を成功させて、その恩返しをするために研究の道を捨てて秘書課に入ったと聞いたことがあります。……そんな彼女が何故」


「マグノーリエ様、今、恩返しと仰いましたか?」


「……ソフィス、何か気づいたのか?」


「えぇ、お父様。必ずしも、社内で働くことだけが恩返しではありませんわ。圓様の理想は、ビオラ商会合同会社が市場を独占する世界ではありません。……しかし、現実はビオラ商会合同会社の一強時代。古き商人達は、保守の道を選び、その差は開く一方です。シリェーニ様は勇気のない前時代の商人達に愛想を尽かし、見切りをつけて自らが圓様達の、ビオラ商会合同会社の敵になることを選んだのではないでしょうか?」


「……だとしたら、一体どれほどの覚悟をもって彼女はビオラ商会合同会社を退社したのだろうか? その道は険しい、などという表現が生易しい道だ」


「ビオラ商会合同会社の中でも彼女に誹謗中傷の声が出た。それすらも織り込み済みだったんだと思うよ。……まあ、うちの幹部達は彼女の本当の思いを理解していて、その覚悟に畏怖の念を抱くか、その道を選んだ彼女の未来を案じるかのいずれかだったんだけど」


「なるほどなぁ……。恩の返し方も一つだけじゃないってことか。…………ところでさぁ、親友。そのシリェーニって奴はどこまでを射程距離にしているんだ? ビオラだけじゃないだろう?」


「恐らくは百合薗グループや前世の企業も仮想敵に位置付けていると思うよ。前世の世界との繋がりが生まれる瞬間がいよいよ現実味を帯びてきたからねぇ。そのための布石の一つだろう。そして、シリェーニさんは多分これから精力的に動くことになると思うよ。シリェーニさんの会社だけでは仮に強くなっても二巨頭時代……もう少しライバル企業は欲しいと思ってそうだからねぇ」


「つまり、大商会時代が間近に迫っているってことか。……なんでだよ! 俺の知らないところでクソ面白いこと始めやがって!!」


「君が楽しいかどうかは関係ないからねぇ、ラインヴェルド君。ああ、ボクは決してシリェーニさんの意思決定に干渉はしていないよ。彼女の選択は本当に嬉しかったし、彼女の進む道に幸あれ、と願ったのも本心だからねぇ」


「……そういうことだったのか。……だとしたら、シリェーニ殿とエクルバーグ氏の対談がとても楽しみになってくるな」


「圓様、本日はお仕事の邪魔をして申し訳ございませんでした。……これは、責任を持って連れ帰りますので。それからソフィス。ほんの少しでいいから淑女らしく振る舞いなさい。少々暴走気味に私には見えているよ。圓様にくれぐれもご迷惑をお掛けしないように」


「勿論ですわ、お父様」


 満面の笑みで簡単に約束を結んでしまうソフィスをやっぱり信用できなかったのだろう。

 アーネストはスカーレットに「またご迷惑をお掛けするかもしれない。その時は遠慮なく私に伝えて欲しい」と伝え、ラインヴェルドを連れて去っていった。……ボクは英断だと思うよ。


 エイミーン達も仕事に戻って行ったし(エイミーンは留まろうとしたけど、流石にミスルトウ、マグノーリエ、プリムヴェールによる包囲網を突破することはできなかった)、書類仕事に戻りますか。


 ……さて、シリェーニ。君は君の理想のために、次はどんな手を打つのかな? とても楽しみだよ。

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