Act.9-457 ファンデッド伯爵領にて〜ファンデッド伯爵家とルーセント伯爵家の顔合わせ〜 scene.18
<一人称視点・アルマ=ファンデッド>
『クラブ・アスセーナ』のコース料理では、最初に二段構えの突き出しが出されるようです。
小品と突き出しの二品ですが、『クラブ・アスセーナ』で食事をした経験がある第四王子殿下と第二王子殿下から話を聞いていた国王陛下によると、突き出しは「蟹と魚介のリエット」で固定されているようです。最初の二品はメニューには載っていませんが、常連客にとっては実質小品のみがお楽しみの品ということになるのでしょう。
今回の小品は『三種の小寿司』。名称は第四王子殿下に供されたものと同じようですが、どうやらネタは異なるみたいですね。
「左からマグロの漬け、蛤の煮詰め、芝海老のオボロを含んだ出汁味の厚焼き卵をご用意させて頂きました。前世の記憶を持つアルマ様には馴染み深いものばかりだと思いますが」
「……こういった高級なお寿司とは縁がない前世だったので」
「そうでしたか。……小品は通常シェフからの気持ちを表すもので、メニューは当時にアレルギーなどを聞いてから構想を練って作成するのが普通です。結婚式で実際に供されるメニューで確定しているのは、突き出しの『蟹と魚介のリエット』以降のもので、小品は当日のお楽しみということでよろしくお願いしますねぇ。勿論、『蟹と魚介のリエット』もメニューにはありませんが。それと、アレルギーがある場合は代替のメニューを用意する準備も整えています。この辺りは『クラブ・アスセーナ』と同じですね。これから、順にコース料理が運ばれて参りますので、食事を召し上がりつつ、感想やご希望をお伝え頂ければ幸いです。こちらも全力で希望に沿う品を用意する所存ですので」
「それじゃあ、野兎の王家風を頼むぜ!」
悪戯っ子がタチの悪い悪戯を思いついた時のように笑顔を浮かべて楽しそうに発言する国王陛下と、感情が一切消えた表情で舌打ちを一つする圓様の温度差が凄いですね。
……しかし、いくら腹が立ったとはいえ一国の国王陛下に面と向かって舌打ちができるのは、流石は圓様ということでしょうか。
「……そう仰ると思って、既に準備をしております」
「さっすが親友!」
国王陛下には圓様の周囲で黒い稲妻がバチバチいっているのが見えていないのでしょうか?
淑女らしからぬ圓様の態度に一瞬顔を顰めた王妃殿下でしたが、圓様の視線が一瞬王妃殿下の方に向けられると余程恐ろしかったのか恐怖で震えてしまいました。……あの、王妃殿下に関しては完全にとばっちりですよね!?
「あら? 圓様にしては珍しいわね。面と向かって文句を言うんじゃなくて、舌打ちして睨め付けるなんて」
「ルクシアは実際食べたみたいだが、野兎の王家風はかなり手間もお金も掛かる品みたいだぜ。王家風の名前を冠しているだけあってな。圓の前世の世界では、古い時代に王家に供されていたみたいだが、そのあまりの大変さに現代ではほとんど廃れてしまったそうだ。……まあ、圓からレシピもらって、ブライトネス王家の総力を上げて食材を調達、それを我が国の精鋭料理人達を総動員すれば作ることもできるんだろうが」
「では、圓様はそれほど手間が掛かる料理だから不機嫌になったのでしょうか?」
「いや、親友はかなり天邪鬼な性格をしているからなぁ。作るのが大変なことを知っていながら何も対価無しに気安く野兎の王家風を注文したから怒っているんだと思うぜ」
……いえ、そういうことなら天邪鬼とか関係無しに圓様もお怒りになると思いますが。
王妃様も圓様のお気持ちを理解されたのでしょう、国王陛下に全力でジト目を向けておられます。
「あっ、勿論野兎の王家風もご希望でしたらお出ししますよ。『クラブ・アスセーナ』と同じシステムですので、追加料金は取りません」
「なんなら、『クラブ・アスセーナ』で食べるよりも遥かに安い料金になるんだろうなぁ。お前の友達価格って恐ろしいぜ」
「……その友情にラインヴェルド君は少々付け込み過ぎだと思うんだけどねぇ。いつか、貴方に天罰が下らんことを」
「この世界の神であるお前にそれ言われると洒落にならないからマジでやめてくれ!!」
一つだけ確かなことは、この二人、相当仲が良いということですね。……決して思考停止している訳ではありませんよ!!
◆
小品の「三種の小寿司」、突き出しの「蟹と魚介のリエット」、食前酒に始まり、前菜の「玉ねぎのムース」、「トマトとバジルのブルスケッタ」、「旬の野菜と茸の低温蒸し」、スープの「林檎とチーズのなんちゃってヴィシソワーズ風スープ」、魚料理の「舌平目のムニエル〜フライドポテトを添えて〜」、口直しの「オレンジとハニーレモンのシャーベット」、肉料理の「フランボワーズと赤ワインソースの鹿肉ステーキ」、生野菜として「生野菜とシーフードのサラダ」、チーズとして「七種のチーズ」、冷たい甘いお菓子の「三種の小さな大倭風ショートケーキ」と温かい甘いお菓子の「ホットバナナプディング」、フルーツとして「季節のフルーツの盛り合わせ」、そして締めにコーヒーと小菓子としてフランボワーズ、チョコレート、アールグレイの三種のフレーバーのマカロンと一連のコース料理が運ばれてきます。
それに合わせて議論もヒートアップ。表面上は優雅ですが、王太后様もクィレル様も圓様も全く譲る気はないようで、少しでも主導権を握ろうと激しい攻防が繰り広げられています。
ファンデッド伯爵家としても流石に何もせずにという訳にはいかないので、お父様、お義母様、メレクが必死で食らいついていこうとしていますが旗色はあまり良くありません。このままだと圓様が恵んでくださったあの生地だけになってしまいそうです。
ちなみに、バルトロメオとオルタンス嬢は当事者として意見は言っていますが、議論には加わっていません。まあ、あの話し合いの輪に飛び込んでいくなんて無理ゲーですからね。
……本来は、私も頑張らなければならない立場ですが……あの中に飛び込んで意見を言うのは難しい。これが誇れる特産品とかあればまた別なんですよ。
「母上と圓とクィレルが得意分野を晴れの舞台で発揮したいって気持ちはよく分かるぜ。だが、ファンデッド伯爵家やファンデッド領の領民達だって貢献したいって思うんじゃないか? ……まあ、流石に厳しい話ではあるが」
「まあ、ボクはともかくルーセント伯爵領の職人やニーフェ先輩は素晴らしい技術の持ち主だからねぇ。……確かにその点は懸案事項だ。ファンデッド伯爵家の皆様が良ければだけど、後日、ファンデッド伯爵領内の服飾職人の工房の視察をさせてもらえないかな? まあ、指導なんてご大層なことはできないけど、できる限りのことはさせてもらおうと思っている」
「……僕達は構いませんが、圓様は大丈夫なのですか? お忙しいのではありませんか?」
「まだ忙しくなるまで時間はあるからねぇ。オルタンス嬢希望の視察も控えているみたいだし、そこに同行させてもらうという形で構わないよ」
「それじゃあ、ついでにファンデッド伯爵家の料理人達にも料理に参加してもらったらどうだ? ペチカもいるし、王国の精鋭料理人達も参加する。こういう機会は得難いものだぞ?」
「たまにはクソ陛下も良いこというねぇ。……明日の天気は流星群かな?」
「流石に酷くねぇか! 親友!?」
圓様や無遠慮で話しを掻き回す国王陛下の助け舟もあって、なんとか最悪な事態だけは免れそうですね。比率は圓様優位、ファンデッド伯爵家の貢献できる部分は最小で、それすらもお情けで与えられたものですが、圓様ほどの料理人の間近で料理を学べることや、圓様の有する高い服飾の技術を学べるということは今後の財産になること間違いなしです。
……あっさりと決まってしまいましたが、これって相当凄いことなんですよ!!
「では、アルマ先輩、バルトロメオ殿下、メレク様、オルタンス様のご希望も一通り聞けましたし、ファンデッド伯爵家、ブライトネス王家、ルーセント伯爵家の要望も一通り確認できました。……ちょっとお待ちくださいねぇ、今、ダブル結婚式のプランを完成させますので」
圓様がそう仰ってから五分後、なんと圓様の手には結婚式のプランを纏めたパンフレットが。流石の手際ですね。どこから出したんだとか、そういった突っ込みは致しませんよ。あの方が常識外れであることは重々知っていますから。
お値段は相応。ただし、ファンデッド伯爵家が負担できるのは些細な額ですから、それに合わせてファンデッド伯爵家、ルーセント伯爵家、アグレアスブリージョ大公家、ブライトネス王家が出す額も少額になりました。四つ合わせて費用の半額ですから、残る半額を全て圓様にもってもらう計算ですね……いえ、それ以上に圓様の持ち出しが多いのですから、結局のところは圓様がほとんど負担させてしまっているんですけどね。
本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。
お読みくださり、ありがとうございます。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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