Act.4-6 ローザ一行の初遠征と、三つのクエスト scene.6
<一人称視点・アネモネ>
「はぁ? 十二刀流だって? 馬鹿なの? 格好付けなのォ? 世間知らずな冒険者さんだなァ。……ハッ、これだから女は」
喧嘩を売ってきた男性冒険者(と、そいつらに媚びて甘い汁を吸うことを選んだらしい女冒険者)達は僕のことを鼻で笑って、そんな冒険者達に虐げられてきたらしい低ランク冒険者や女性達は一気に落胆したみたいだねぇ。
そうやって、十二刀流なんて無理だろって鼻で笑ったプレイヤーが何人もリスポーンしてデスペナルティを喰らう羽目になったなんて……まあ、知らないか。
『背繋飛剣ディス・チェーサー』は複数の剣が自動で攻撃する背中装備なんだけど、AIが単調で使えないって言われていた所謂ゴミアイテムなんだよねぇ(一応幻想級)。で、それなら、と手動操作できる宝珠を『背繋飛剣ディス・チェーサー』とセットにすることにして、『背繋飛剣ディス・チェーサー』を持っているプレイヤーに無料配布したんだよねぇ……まあ、結局複数のキーボードを使って操作しないといけないから、「そんなの無理だろっ!」ってことで、宝珠も含めてゴミアイテム扱いになったんだけど、並列思考が可能なボクには十分扱えたんだよねぇ。
まあ、基本は最大六分割だけど、流石に剣の操作だけだったら十本分操作して、更にアネモネも操作できたし、結果的に十二刀流――つまり、同時に十一人を相手にしているような厄介なプレイヤー像が出来上がった訳なんだけど……。散々ぱらチート扱いされたなぁ……別に何も不正はしていないし、真似れるものなら真似てみろってその時は思ったねぇ。
「舞い踊る飛剣」
まあ、スキルというよりはプレイヤースキルの名称だけどねぇ。縦横無尽に襲い掛かる飛剣――これはあくまで基本中の基本で、真骨頂は自身の現在のHPと現在のMPの半分を犠牲にする代わりに、相手の防御力やHP残量に関わらずクリティカルダメージを与える武器攻撃系四次元職の共通奥義『ジャガーノート・ソード』の「リキャストタイムが武器とスキルのセットになっている」というところを利用して十二本ある全ての剣で発動する十二連撃攻撃――通称『クレイジーミーティアバニッシュ-ジャガーノート-』という奥義を放つところにあるからねぇ。……まあ、そんなの放ったら確実に絡んできた冒険者は全員絶命で、冒険者ギルドが全壊しそうだけど。……勿論、やらないよ??
大剣をちらつかせて脅しかけていた最初に絡んできた男は真っ先に大太刀の《月》の峰打ちを受け、一気に壁まで吹き飛ばされた。
そこからツヴァイハンダーの《雪》、レイピア の 《風》、フランベルジェの《花》、タルワールの《朧》、ソードブレイカーの《空》、ファルシオンの《天》、ズルフィカールの《光》、クレイモアの《泡》、パンツァーシュテッヒャーの《霧》が一斉に攻撃を開始し、縦横無尽に冒険者ギルドを飛び回った。
「いくら完璧な制御だって分かっていてもやっぱり怖いものは怖いですね……あっ、捏串美味しい」
「あっ……手が滑りましたわ。オホホホホ」
混乱に乗じて焼き鳥まで注文して寛いでいたヴァケラーに鉄槌……じゃなかった。手が滑ってヴァケラーの方にパンツァーシュテッヒャーの《霧》が飛んでいって、そのままヴァケラーの頬を掠った……まあ、セーフだよねぇ。
「酷過ぎますよ、アネモネさん! 当たりどころが悪かったら死んでいたじゃないですか!!」
「えっ……ちゃんと完璧に操作していたから当たりどころが間違うなんでありませんよ!」
「じゃあ、手が滑ったとか嘘ですよね!!」
……まあ、あっさり騙されてはくれないよねぇ。だからなんだって話なんだけど。そもそもこんな状況で「俺は関係ない」という顔でエールを飲んでいるヴァケラーが悪い。
「……まあ、本当に擦り傷なので気にしませんが……一体いつまで続けるつもりですか?」
「いつって…………責任者が出てくるまで??」
途端、血相を変えてギルドの奥へと走り込んでいく受付嬢。ちなみに、関係ない低ランクの冒険者や女性冒険者、ギルド職員の方は避けて飛ばしている……まあ、ヴァケラーの方には狙って飛ばしたんだけどねぇ。
「な、何が!? 一体どうなっておる!? おっ、お主は王都のスカウト課所属のヴァケラー殿!?」
ああ、出てきたねぇ、ギルドマスター。随分ハゲ散らかしたおっさんだねぇ……ストレスでハゲたの? 将来、宰相ってあんな感じになるの?
「あっ…………そういえば、王都の冒険者ギルドのギルマスのイルワさんから『もし他の冒険者ギルドに立ち寄るならそこの責任者にこれ渡してくれ』って頼まれていたっけ」
「なんだと!? イルワ殿から!?」
ヴァケラーから手紙を受け取ったギルドマスター(名札にはスコヴィル=レシニフェラトというなんとも火傷しそうな名前が書かれている)が一行読み進める度に顔がどんどん青くなっていき、ストレスで毛が何本か抜けていった……まあ、ボクのせいじゃないよねぇ。渡したのはヴァケラーだし……。
「馬鹿共! なんで御仁に喧嘩を売ったのだ!? この方は世界で唯一のSS+ランク冒険者『二刀絶剣』のアネモネ様だぞ!!」
『二刀絶剣』って何!? また知らぬ間に新しい二つ名が増えているんだけど!!
「た、大変申し訳ございません! お怒りはごもっともでございますが……」
「ヴァケラーさん? 私ってそんなに怖いですか??」
「そりゃ、怖いでしょ! ブライトネス王国を秒で制圧できる冒険者とか!! というか、これで三回目ですよ、冒険者ギルド壊すの! 最近見境無くなっていませんか!?」
「……壊したらまた作り直せばいいだけですし、傷ついたら癒せばいいですし、殺したら生き返らせればいいでしょう? 何か問題はありますか?」
「……まあ、アネモネさんが容赦ないことは知っていますし、毎回全面的に悪いのは相手さんなのであまり強くはいえませんが……というか、アネモネさんが全部損害保証をしてくれますし、いい薬になったということでいいのか」
ヴァケラーが諦めたように明後日の方を向いて現実逃避をしている……いやいや、まだまだ自重している方なんだよ? 本気だったらこの程度秒で制圧できたし。
「それでは、ギルドを直しますね。あっ、それから列も空いたことですし、直し終わったら依頼完了の受理をお願いします」
……なんでブルブル震えて撃沈しているのかな? 受付嬢。そっちには剣が飛んでいかないようにしていたんだけどねぇ。
◆
適当な木材と材料(そこまで高価ではない)でギルドを修復し終え、受付に依頼書二枚と証拠の部位を持ち込んだ。
「た、確かに依頼達成ですが……たった三日!? そもそも王都から飛ばしてここまで来るのには丸一週間は掛かりますし、BランクやAランクの魔物も混ざっていますよ!!」
ちなみに、新設の冒険者ランクは魔物の強さと対応している。
ランクは最上級がSSSで、『Eternal Fairytale On-line』のレイドランクのボスに匹敵する強さ、SS+は『Eternal Fairytale On-line』の超越者級、そこから人間の英雄――勇者や魔王に匹敵するSS、それには劣るものの英雄に相応しい力を持つ者をSS-、そこからS+、S、S-、A、B、C、D、E、F……と続いていく。ちなみに、以前アネモネに与えられたSSランクは現在のSS-と同等ということになるからねぇ。
まあ、これでもまだまだ甘いとは思うんだけど……同じレイドボスや超越者でもピンからキリまであるからねぇ。
絶句する受付嬢さん。なんか学がありそうな雰囲気だし、貴族の五女とか六女とか、そんな辺りの出身かな? まあ、子沢山の家とかだと結局全員の良縁を結ぶのは難しいからってことで、自力で頑張れスタイルになることは結構あるみたいだし、もしくは貴族社会に嫌気が差して自力で稼ぐ道を選んだか……まあ、ボクとしては他人の選んだ人生に文句をつけるつもりはないけどねぇ。というか、そういう「自分で自分の道は切り拓いていくぜ!」っていう生き方は凄く共感が持てるからねぇ
「それで、あと一つは……はいッ!? 護衛クエストって、三から四つのパーティで行うのが普通のものですよ!! それをいくら強いといっても七人パーティ一つで!?」
まあ、実際は居るんだけどねぇ……本来護衛されるべきもっとヤバい人達が。商人よりももっと厳重に守らないといけない気がするけど、無駄に強いからなぁ……暴走大臣とか。ヒゲ殿下の方も多分強いんだろうし。
「はぁ……王都でしっかりと受理されたものですし、私達からは何も言いませんが」
「……それについては大丈夫でしょう。手紙に『あの台風みたいな女に関わるかもしれない盗賊達の方が可哀想だ』って書いてありましたから……ひっ、ひぃぃ!!」
全く、なんでボクが視線を向けただけで怯えるんだよ、スコヴィル。……しかし、扱いが酷くなってないかい? マスター・イルワ。
「い、以上で依頼は受理致しましたが、さ、最後に一言何かありますかっ?」
なんで怯えながらこっちに振ってきたんだろう? 何か喋らせろって雰囲気醸し出したっけ?? ……記憶にないなぁ。
「そうですね……まあ、とにかく私から言いたいのはそういう男だからとか女だからとか、そういうのを理由に差別するのは良くないと思うということです。高レベルの冒険者に女も男もありませんし、見ての通りこんな私一人に蹂躙されるようでははっきり言ってオハナシにすらなりません。そんなつまらないことで苛めなんてクソつまんないことをしている時間があるのなら、切磋琢磨して腕を磨いてください。以上です」
「アネモネさん……良いこと言い切ったって顔をしていますけど、ただ悪戯に怯えさせただけでは?」
全くヴァケラーは何を言っているのかな? 「もう差別みたいなつまらないことはやめて切磋琢磨してくださいね」って我ながら素晴らしいメッセージなのに、それを脅しだなんて、そんな……人聞きの悪い。
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