Act.9-454 ファンデッド伯爵領にて〜ファンデッド伯爵家とルーセント伯爵家の顔合わせ〜 scene.15
<一人称視点・アルマ=ファンデッド>
その後はパンフレットを見ながら圓様が現時点で構想しているダブル結婚式の内容や、必要な費用(金額としてはパンフレットにあるプランで一番高いものになるようです)についての説明を受けました。
ただ、これはあくまで現時点の話。これから、主にビオラ商会合同会社側とルーセント伯爵家、ブライトネス王家の間で交渉が行われることで増減が発生することになります。ファンデッド伯爵家には二人も当事者がいる筈ですが、その交渉のテーブルに席は無さそうですね。
圓様の説明が終わったのは五時頃でした。といっても、クィレル様達にとっての本番はこれからなのでしょうが。
「……絶妙なタイミングだねぇ。ラインヴェルド陛下のナイフは全部回収した筈だけど、盗聴器か盗撮用のカメラでも仕掛けたのかな?」
圓様が心底嫌そうに眼鏡のつるに触れました。
圓様の眼鏡――「E.DEVISE」は現代のスマートフォンの機能を全て眼鏡に搭載したようなハイテクノロジーの結晶です。電話機能も搭載しているようなので、恐らくラインヴェルド陛下から電話が掛かってきたのでしょう。
圓様はサロンの面々に断りを入れてからスピーカー機能をオンにしました。
『おう、圓。そっちは説明が終わった頃か?』
「その様子だと盗聴器やカメラの類は残していかなかったみたいだねぇ。……このタイミングで連絡ということは、迷宮の攻略が完了したのかな?」
『バッチリだぜ! なかなか面白い迷宮だったぞ!! で、これからクレールとデルフィーナ、ルイーズの立ち会いの元、お楽しみの時間を堪能するつもりだ。……本当はルイーズ達に報告を押し付けるつもりだったんだが、三人に睨まれて渋々連絡を入れたってところだ。……女性陣が三人ともアウェイなの、本当に辛いぜ』
「……三人だけじゃないけどねぇ。少なくともボクはラインヴェルド陛下の横暴っぷりが目に余っている側の人間だよ。……じゃあ、残りは迷宮の方で直接話そう」
ラインヴェルド陛下と圓様のやり取りを聞いて、私は思わず安堵の溜息を溢しました。
それは、お父様とお義母様、メレク、オルタンス嬢も同様だったようです。
「……兄上が信用できなかったか?」
「いえ、そのようなことは。……ただ、大丈夫だと思っていても身近に脅威が生まれたというのは恐ろしいことで……それが消えたと聞いて安堵したのです」
「バルトロ、アルマ嬢の反応の方が自然だ。……寧ろ、迷宮があると聞いて喜ぶ陛下や君の方が異端なんだよ」
「……まあ、まだ実際に攻略できた訳じゃない。迷宮統括者との戦いが終わってようやく迷宮の脅威は去ったと言える。……クィレル、流石に酷くねぇか? ってか、それを言うならラインヴェルドが迷宮統括者の間の扉前まで到達したと聞いてウキウキしながら準備している親友も異端側じゃねぇか?」
「バルトロメオ君、失敬じゃないか? ボクはただどんな可愛い女の子をお持ち帰りできるのか、今からワクワクドキドキしているだけなんだよ?」
「――しまった、別の意味でヤバい奴になっていやがる!!」
その後、満面の笑みでバルトロメオをボコボコにした圓様は夕餉の準備のために六時には戻ると言い残して迷宮に向かいました。
……迷宮と言えば危険な場所の筈ですが、近所のスーパーに買い出しに行くような足取りで向かって大丈夫なのでしょうか?
◆
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン・レインフォール>
一応、アネモネの姿にアカウントを切り替えてからクレールに手渡しておいたナイフを使って《蒼穹の門》を発動すると、迷宮の地下九百九十九層ではラインヴェルドが複数のNBr-熾天-と交戦していた。
NBr-熾天-2・ミューズ・ムーサ・ムーサイに、NBr-熾天-3・リツムホムラノメノカミ……NBr-熾天-7・イヴ=マーキュリーもいるみたいだ。NBr-熾天-が五体とはまた随分と奮発したねぇ。
当然、ラインヴェルドに余力なんてものはないほとんど防戦一方な状況を辛うじて耐えているというのが表現としては正しい。
なのに、全く顔から楽しそうな表情が消えていない。流石は戦闘狂だねぇ。
そんなラインヴェルド達をクレール、デルフィーナ、ルイーズ、「電磁杭」で迷宮のショートカットを作成するためだけに呼び出されたプリンセス・エクレール、後一人、全く見覚えのない女性が心底呆れたという表情で見守っていた。
金色から青色へと鮮やかにグラデーションする豪奢な金髪を腰まで伸ばした蒼玉の如き美しい瞳を持つ女性だ。
凛々しい女騎士といった雰囲気を纏った女性で耳はエルフのように少し尖っている……けど、 プリムヴェール達と同族だと安易に考えるべきでは無さそうだ。種族に一言もエルフなんて書いてないからねぇ。
『もしや、貴女が挑戦者ですか?』
「まあ、そういうことになるねぇ。初めまして、迷宮統括者のレイチェルシーナ・ξ・ラビュリントさんだねぇ。ボクは百合薗圓、以後お見知り置きを」
花々が美しく咲き乱れ、清らかな小川が流れる一見地下迷宮の中だとは思えないほど美しい世界……その光景はボクがレイチェルシーナと話している間にもラインヴェルド達の戦闘の余波で破壊されていく。
……まあ、戦っている本人達にはそんなこと気にする余裕はないんだろうけどさぁ。
『外が騒がしくなったのにも拘らず、一向に挑戦者が部屋に入ってこないので外の様子を確認しようとしたら既にこのような状況になっていました。ルイーズさんより、大凡の事情は聞いております。正直、あのような戦いを見せられた後で、あの国王陛下よりも遥かに強いという圓様と手合わせをするというのは恐ろしい。今すぐにでも全てを捨てて逃げ出したい……ですが、私も迷宮統括者です。迷宮の管理者としての意地があります! 例え勝てないとしても、全力を尽くします!! 準備ができましたらこの扉を潜り、中にお入りください。……あの、できれば数分お待ち頂けたらと、私も心の準備をしたいですし』
本当に正直な子だねぇ。……虚勢を張るより素直に本音をぶち撒ける子の方が好感は持てるよ。まあ、その虚勢の仮面が砕け散るように追い詰めていくのもそれはそれで楽しいんだけどさぁ。
レイチェルシーナの気持ちを重んじて八分ほど扉の前で待ち、扉の奥のレイチェルシーナの気持ちが落ち着いたのを見気で確認してからボクは部屋の中に突入した。
これまでの庭園のようなエリアとは異なり、ボスの間は無数の小島が浮かぶ湖のような場所だった。
湖の水深はかなり高めだねぇ。恐らく、攻略者側は湖に掛かる橋を利用して湖を回避しながら戦うことを想定しているんだと思う。
一方、レイチェルシーナは自身の種族――妖精剣士の特性である妖精の翅によって飛行が可能だ。更に、洌刀魔剣師の職業技能は恐らく名称からして剣術と水魔法の融合……大量に水のあるフィールドは彼女の独擅場と化すだろう。
もっとも、空歩による空中歩行や吸血姫の翼による飛行が可能なボクにとってはこの地の利もそこまで厄介ではない。……まあ、攻撃の威力が強化されるのは厄介ではあるんだけどねぇ。
この水を無視して戦うという選択肢も十分に視野に入るけど、今回は億が一の負け筋も潰させてもらうとするよ。
「水喰らいの草!」
木属性魔法で作り出した、周囲の水分を超高速で吸収して成長する特殊な草の種を湖に放って湖を干上がらせつつ、リーリエにアカウントを切り替えて「吸血姫の翼」で飛翔――翼に神速闘気を纏わせて高速飛行で一気にレイチェルシーナとの距離を詰める。
『湖の水を全て枯らすなんて!? それに、吸血鬼の姿に変わった!? やはり、常識が通じない相手ということですか! ……本来は水があるフィールドでこそ十全に扱える技ですが、致し方ありません!! 激流の放剣!!』
ボクが吸血姫に変化したことや、湖を一瞬にして干上がらせたことに驚きつつも、流石は迷宮統括者だねぇ。
すぐに冷静さを取り戻すと剣に激流を纏わせて無数の水の刃をボクに向けて放ってきた。
本来は湖の水も利用することで技自体の威力も水刃の数も上昇するんだろうけど、既に湖の水はない。まあ、それでも十分脅威なんだけどねぇ。
それでも、武装闘気と覇王の霸気を纏わせた剣で「刃躰」の要領で飛ぶ斬撃を放てば十分に命中する前に破壊できる程度の攻撃だ。
裏武装闘気で作り出した剣で放った飛ぶ斬撃で水の刃を破壊し、左手で【万物創造】で創り出したドミネートMOBポーションの蓋を開けてガブ飲みする。
MOBの捕獲確率に影響を与えるっていう隠し効果がある『魔眼』を併用して捕獲率を上げてから、嫌な予感がしたのかボクから距離を取ろうとするレイチェルシーナに肉薄――死なない程度に加減した威力で「武流爆撃」を叩き込んだ。
そして、意識を失い掛けているレイチェルシーナに捕獲用の専用課金アイテム、支配者の鎖網を投げる。
レイチェルシーナは為す術なく支配者の鎖網に囚われた。鎖がチカチカと緑色に点灯を続け、八回、鎖が明滅すると緑の光が消え、パリィーンと音を立てて鎖が砕け散る。
よし、レイチェルシーナ、無事捕獲だ!!
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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