Act.9-452 ファンデッド伯爵領にて〜ファンデッド伯爵家とルーセント伯爵家の顔合わせ〜 scene.13
<一人称視点・アルマ=ファンデッド>
驚きの連続でしたが、お茶会は大成功だったのではないでしょうか?
あの後、実はオルタンス嬢が上手く領民と打ち解けられるのか不安だと私に打ち明けてくださいましたので、お義母様を倣ってみてはどうかと提案させて頂きました。……本当は私を頼って欲しいと言えたら格好良いのですが、ずっと城勤めをしてきたので私にアドバイスできることは何もないのですよね。
まあ、現在屋敷には圓様という領地経営のプロがいますが、あの方は規格外過ぎてほとんど参考になりませんからね。
流石にそれだけだと幻滅されてしまいそうなので、見栄を張って「今回の滞在中にでもメレクと共にこの館の近辺を護衛の者を連れて視察に赴かれてはいかがでしょうか」と提案してみました。勿論、クィレル様の許可を得る必要もありますし、メレクとも相談する必要があるでしょうが。
オルタンス嬢は屋敷まで馬車で来る途中でファンデッド伯爵領を見てきたと思いますが、実際に領民と触れ合う中できっと違った発見があると思います。オルタンス嬢も乗り気でしたし、後でメレクとクィレル様に話を通しておこう。
そんなことを考えつつ私とオルタンス嬢がサロンに戻ると、私達が戻ってくるタイミングを見計らっていたのか圓様がサロンにやってきました。
「お二人とも有意義なお茶会できたみたいだねぇ。良かった良かった」
「圓様、本当にありがとうございました。あの時、圓様にお茶会に誘って頂けたおかげで、私はアルマ様やメレク様に出会うことができました」
「……さぁねぇ。ボクはただ愚痴を聞いてもらっただけたよ」
「そういえば、あの日お話してくださったジェーオ様に関する悩みは解決できたのですか?」
「アルマ先輩と違ってあちらは糸口すら掴めない状況でしたが、つい先日、遂に最後のピースを発見しました。わざわざ海を隔てたペドレリーア大陸まで赴いた甲斐があったというものです」
「元ヴィクスン商会の会長、アマリア・艶花・ヴィクスンさんですね」
ジェーオ様の場合のピースがアマリア様だったと圓様は仰っていました。では、私の場合は……と考えると、もしかして王弟殿下ですか!? あの恋愛好きの圓様のことです、レイン様と共に王女宮に行った日以前から色々と目論んでいたのかもしれません。……というか、オルタンス嬢に私のことを話していた時点でほとんど黒ですよね。まあ、私はバルトロメオのことが好きですし、相思相愛の今の関係はとても好きですから、嬉しいことではあるのですが……。
「そうそう、お二人に業務連絡をしに来たんだった。まず、ダブル結婚式の具体的な内容を決める会議だけど、少し休憩を挟んで四時頃から行うことになった。まあ、お茶でも飲みながらゆっくり気楽に決めていけばいいと思うよ」
気を抜くと圓様に主導権を握られて大変なことになりそうなんですが……まあ、圓様のこういう言葉は間に受けない方がいいですね。
「それと、迷宮に向かったラインヴェルド陛下だけど、現在中盤層を攻略中。ルイーズさんが連れてきたプリンセス・エクレールがショートカットを作ってくれているおかげでかなりの速度で侵攻が進んでいるようだよ。……そのクソ陛下から要望があってねぇ……『今日の夕食は圓の美味しい料理を期待しているぜ! スペシャリテ級をよろしくな!』だってさ。……ということで、後でロウズさんとメレクさんから許可はもらいたいけど、アルマ先輩、厨房を借りてもいいですか?」
「私は構いませんが……」
圓様の本気の料理が食べられるのは嬉しいことですが、その圓様は笑顔で青筋を立てていらっしゃるんですよね。
霸気まで纏って恐ろしい雰囲気になっています。オルタンス嬢も平静を装っているみたいですが、顔に汗が滲んでいますよ。
「……どうやら、クソ陛下はスリーアウトを超えるアウトを重ねて寧ろ開き直っているみたいで……同行したクレールやデルフィーナからも苦情のメールが届いているんですよねぇ。まあ流石に見過ごせませんので、こちらはこちらで手を打とうかと。勿論、ロウズ様とクィレル様には流石に許可を取らないといけませんが。……実は二人ほど本日の夕食に招待させて頂こうかと考えております。ああ、この話はバルトロメオ殿下にも内緒でお願いしますねぇ」
最早嫌な予感しかしませんが、この方の許可ってほとんど決定事項ですからね。
しかし、一体誰を呼ぶのか……国王陛下とバルトロメオが恐れると言えば、王太后様と王妃様ですが……流石にうちに呼ぶなんて非常識な真似をしない筈……筈……嫌な予感しかしませんね!!
「では、ボクはロウズ様、メレク様、クィレル様に話を通した後、厨房に挨拶をして、それから一旦『クラブ・アスセーナ』に戻ります。時間になったらファンデッド伯爵邸に戻ってきますので、その時にまたお会いしましょう」
……本当に嵐のような方ですね、圓様は。
私とオルタンス嬢は圓様を見送った後、まだ時間がありそうだったので、オルタンス嬢に提案したファンデッド領内での視察の話を実現させるためにクィレル様とメレクのもとに向かうことにしました。
◆
クィレル様とメレクに視察を提案すると、クィレル様は「良いことだ。メレク殿、オルタンスのことをよろしく頼む」と言ってくださいました。
メレクも快く受け入れてくださいましたし、これで視察の件は無事に纏まりましたね。
さて、そうこうしているうちに四時になりました。時間に合わせてメレクとクィレル様、オルタンス嬢と共にサロンに戻ると、お父様達もサロンに戻ってきました。
圓様がサロンにやってきたのは、ファンデッド伯爵家、ルーセント伯爵家、バルトロメオ――つまり、今回の顔合わせの主要人物が席に着いてから五分後のこと、四時八分のことでした。ホストの圓様が自らが指定した時間に遅れることなんて珍しいなぁ……と思っていたら、圓様の後ろをゾロゾロと我が家のメイド達とジェルメーヌさんがついてくるではありませんか。その手には明らかに圓様のお手製のケーキとティーセットが。
それを見た瞬間、私は全てを察しました。打ち合わせの際に食べるケーキと紅茶を準備していて遅れたのだと。
今夜は圓様がスペシャリテをご用意してくださると仰っていますし、打ち合わせの時には圓様お手製のケーキですよ!! もう一生分の運をここで使い切っているようで本当に怖いです! こんな贅沢をして本当に良いのでしょうか?
「皆様、大変お待たせ致しました。……八分もオーバーしてしまいましたね。ご迷惑をお掛けしました」
「全員分のケーキと紅茶を準備していて遅れたんだろ? 謝る必要はないと思うけどなぁ」
「あの短時間で必要な準備を全て終えた上で、厨房でケーキの準備までしていた……圓殿が謝罪するような点はどこにもないと私は思うが」
「圓様、我々も今来たばかりですから」
「バルトロメオ殿下、クィレル様、メレク様、フォローくださりありがとうございます。……では、まずはケーキと紅茶をご堪能しつつ、こちらの資料をご覧ください」
こちらの資料……って、一体どの資料? と思っていたら、我が家のサロンに一人の女性が入ってきました。
バンツスーツに身を包んだ長身の美しい女性です。とても脚が長くて美しい方ですね。背中まで伸びる髪は銀色に輝いています。髪からちょこんと飛び出した耳は三角……エルフ族の方でしょうか?
「まずは彼女の紹介を。ビオラ商会合同会社でモレッティさんの部下として働いているファビエンヌ=ライムローズさんだ。今はボク達ビオラ商会合同会社の幹部の秘書として働いているけど、今後はある仕事を彼女達に任せたいと思っている。その仕事とは、ビオラ商会合同会社のブライダル部門だ。これまでブライダル関連の仕事は請け負って来なかったけど、今後はそういった仕事も受けようかと思ってねぇ。今回のダブル結婚式ではビオラ側は基本的にボクが仕事を請け負うつもりだけど、彼女達にもサポートをしてもらい、その経験を活かしてブライダル部門の職務に従事してもらおうと思っているんだ。……まあ、つまり今回の件はビオラにとっても利点のある話だってことだよ。尊敬するアルマ先輩とメレク様、オルタンス嬢と……まあ、ついでにバルトロメオにとって忘れられない結婚式にしたいという気持ちは勿論あるけど、それだけじゃない。だから、君達も積極的にボク達を利用するつもりでいればいいと思うよ」
……つまり、こちらはビオラ商会合同会社のブライダル部門開設の踏み台にするつもりだから、そちらも遠慮なく利用する姿勢を見せればいいということですか。はい、そうですか……なんて言う訳にはいきませんよ!!
バルトロメオもクィレル様も苦笑いをしています。
「ファビエンヌと申しますわ。結婚式のお手伝いの仕事は未経験のためお力になれることは少ないと思いますが、圓様に教えて頂きながら結婚式を素晴らしいものにできるよう、微力ながらお手伝いさせて頂きます」
「あの、圓様?」
「アルマ先輩、どうされましたか?」
「その、今回の結婚式をお手伝いしてくださる方はどのような条件でお選びになられたのでしょうか?」
別にファビエンヌ様に不信感があるとか、そういう訳ではありません。
そして、圓様の性格上、私達のビオラ商会合同会社を利用することへの精神的なハードルを下げるというだけのためにブライダル部門の開設をでっち上げたとも考え難い。つまり、圓様が最も得意とする一石で二鳥、三鳥、四鳥を捕える素晴らしい一手なのだと思います。
……ただ、私達の結婚式のために急遽、無理をして人を集めた可能性もないとは言い切れないのではとも思ったのです。それ故に質問をしたのでしたが、質問をしてすぐにそのような質問をした自らの愚かさを呪いました。……圓様は関わる人全てが幸せになることを願うお方です! そのような方が無策で適当に人を集める筈がありません。
「圓様に代わり、私がお答え致しますわ。ビオラ商会合同会社内でブライダル部門開設の話が上がった際、ブライダル部門への異動を希望する人を募りました。その応募者を圓様が一人一人面接し、最終審査まで残った私を含む百人が今回、ダブル結婚式のお手伝いをさせて頂くことになります。アルマ様、お気遣いありがとうございます。我々は自ら望み、その願いを圓様に汲んで頂けたからこそ、今この場にいることができているのですわ」
にっこりと微笑を浮かべたファビエンヌ様は、誇らしげにそう仰ったのです。
お読みくださり、ありがとうございます。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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