Act.9-451 ファンデッド伯爵領にて〜ファンデッド伯爵家とルーセント伯爵家の顔合わせ〜 scene.12
<一人称視点・アルマ=ファンデッド>
「圓様は、あの日、確かに仰っていました。『もし、その地位に最も相応しい彼女がいなければ、この王女宮筆頭侍女の地位はファンデッド子爵令嬢が賜るべきものであったと私は考えています。彼女であれば王女殿下の心の傷を埋め、主従として、そして母娘として良き関係を構築できたでしょう』と。圓様と姫殿下はとても固い絆で結ばれています。そんな圓様がそこまでのことを仰ったのは、アルマ様の努力をご存じだったからでしょう。私はそれを理解した時、アルマ様のことがとても羨ましかった。でも、同時に羨ましいで終わらせてはいけないと思ったのです。私が頑張ってきたものは私の財産です。ですが、それに満足してはならないと気づかされたのですわ。私は私自身のために、そして、家族のために努力を重ねていきたいと思いました。……ただ、腐っていくだけの私にアルマ様は生きる目標を与えてくださったのです」
ちょっと……というか、かなり多大過ぎる評価を受けている気がします。少なくとも、私はそこまでのことをした記憶がありません。
……しかし、私が王女宮筆頭侍女ですか。
王女殿下があのゲームの悪役王女のようにならなかったのは、前王女宮筆頭侍女様や圓様のお力が大きいと思います。その役割を私が本当に果たすことができたでしょうか? 母と娘のような関係になれたでしょうか?
その答えはもしもの世界を見通せない私には分かりません。……ですが、それほどの評価を圓様からして頂けているというのはとても嬉しいことだと思います。
なんたって、あの圓様の心の底からの評価ですからね!!
「メレク様との出会いは王女殿下の誕生パーティーの六日後に開かれた別のパーティーでしたわ。兄にメレク様をご紹介頂いて、初めて言葉を交わしたのです」
オルタンス嬢にとって、メレク様との出会いもまた衝撃的なものだったようです。……私とメレクとの出会いを同列に語っていますが、私に関しては九割九分くらい圓様の行いの結果ですから、圓様とメレクとの出会いに衝撃を受けたという方が正しいような気がしますね。
なんでも、クィレル様に追いつきたいと考えていたオルタンス嬢は魔法学園の学生時代から常に勉強に邁進していたらしく、学生時代には同い年の男性陣と会話をする中で『女の癖に』と言われるとついつい議論を吹っかけて言い負かしてしまうことがしばしばあったようです。それで、可愛げがないと言われて辟易としていたそうですね。
流石に学園を卒業して外交官になると、そのように議論を吹っかけるような状況になることは減ったようですが、やはり仕事ができる女はやっかみの対象になると言いますか、陰口を叩かれたり、嫌がらせを受けたりという経験もしていたみたいです。……まあ、女性の社会進出に対して風当たりが強いのは筆頭侍女を務めている身としてはよく分かっているつもりです。ただ、優秀な兄を持ち、自身も外交官として優秀なオルタンス嬢ともなれば、私とは比較にならないほどかもしれませんが。
圓様であれば、「面と向かって暴言を吐く度胸もない輩のことなんて歯牙にもかける必要はないよ」なんて涼しい顔で言いそうですが、あれは鋼鉄どころかアダマンタイト級の精神を持っている圓様だからこそ成立する話です。
オルタンス嬢もそういった形のない悪意に悩まされたこともあるのでしょう。
まあ、それに挫けず直向きに外交官の職務を務め上げているのですから、彼女も只者ではないのでしょう。
クィレル様の「跳ねっ返り」発言は、学生時代のオルタンス嬢のことが念頭にあるのだと思いますが、その精神は形を変えているだけで本質は変わらないのだと思います。
「メレク様は私の知識を賞賛してくださり、努力を認めてくださいました。自分が知識量で負けていると知っても、可愛げがないと切り捨てることもなく、寧ろ高く評価してくださって」
我が弟ながら素晴らしい対応ですね! お姉ちゃんは嬉しいです!!
オルタンス嬢の人生で出会った方々は、相手に勝てなかったからと嫉妬の炎を燃やしたり、捨て台詞を吐いたり……いえ、そもそも真正面から言う度胸のある方の方が珍しいくらいで、ほとんどがオルタンス嬢のいないところで陰口を叩くような方々だったのでしょうか?
だからこそ、メレクの反応は余計にオルタンス嬢に強い印象を刻み込んだのではないでしょうか?
もしかしたら、そんなメレクだからこそクィレル様も気に入って妹さんを紹介してくださったのかもしれません。姉としては誇らしい限りです。
「私……殿方に勉強をしていたことを褒められるなんて初めてでしたの! あの日のことは今も鮮明に思い出せますわ!」
「そうだったのですね。メレクとの思い出を嬉しそうに話してくれて、私もとても嬉しいです」
「メレク様は、自分にも働いている姉がいて、とても尊敬していると仰られて、私も兄を尊敬しておりますし、お互い話題が尽きなくて……メレク様を通じてですが、私もアルマ様のお話や考え方に触れることができたと思っております。それがとても嬉しゅうございました」
本当は素直に喜びたいのですが……私が話題の中心になっているので素直に喜べない。
クィレル様と私の話題で盛り上がって、それが二人の恋愛に発展したって……クィレル様はともかく、私は力不足では?
本来、この話の流れで尊敬される圓様だと思うのですよ。でも、オルタンス嬢は圓様の凄さを知った上で圓様ではなく私を尊敬していると仰っているのですね。
真面目にお仕事に打ち込んでいたことが評価されるというのは大変ありがたいことですね。……圓様が天賦の才を持ちながら、私以上に努力をしている超人で、本当は私よりも尊敬すべき人物である、ということは一先ず今は忘れることにしましょう。
「どのような形であれ、信頼を築き上げるまでがいかに大変か……脇目も振らずにお役目を全うなさる姿勢をアルマ様が貫いてきたからこそ、多くの方々がアルマ様を評価しているのでしょう。私のように惑うことなく、為すべき道を見つけ、周囲の期待に応えてみせるアルマ様は、私にとって尊敬すべき女性なのです」
「オルタンス様……ありがとうございます」
色々と腑に落ちないところもありますし、かなり上方修正されている好感度に戸惑いも隠せませんが……オルタンス嬢の言葉を纏めると、クィレル様に追い付こうと努力を重ねていたけど、クィレル様のことを知れば知るほど高い壁にただただ圧倒されて、活路を見出せずにいた。
そこで、圓様を含む様々な方々にお膳立てをされて窮地を脱した私を見て、それだけ沢山の人に力を貸してもらうことができたのは直向きに職務に励んでいたからだと理解した。それが、ただ上を目指して他の全てを蔑ろにしてきた自分のこれまでの立ち居振る舞いを見直す切っ掛けになった……と、こういうことでしょうか?
私の存在を見てきたメレクは向上心の強い女性に対して忌避感がないどころか立派だと思うように成長し、その結果、彼女のことを褒め、それが彼女にとってはとても嬉しい出来事だったということですね。
「ですので、私はもう背伸びなどせず、初心を忘れぬよう心掛けて、自分にできることから始めようと思ったのです。その際に、メレク様との婚約の話が正式に出たんです」
これは後から圓様に聞いたことですが、クィレル様がメレクのことを高く評価してくださっていたのは間違いないようですが、オルタンス嬢とメレクの婚約を後押ししてくださった方がいたようなのです。
てっきり、今回の件も圓様が一枚噛んでいるかと思っていましたが、動いたのは次期ラピスラズリ公爵のネスト様。彼がオルタンス嬢の婚約者としてクィレル様にメレクを強く推薦してくださったのはネスト様の独断だったようです。……まあ、「ボクならきっとそれを望むだろうと考えて動いてくれたみたいだけどねぇ」と仰られると少し嬉しそうに話してくださいました。
あの王女殿下の誕生パーティーで、メレクはネスト様やヴァルムト宮中伯子息のルークディーン様と友達になっていましたね。
それはとても嬉しいことですが……正直、それをそのまま受け取る訳にもいかないんですよね。
私の知る乙女ゲームのネスト様はザ・チャラ男という感じの攻略対象でした。愛に飢え、その心の隙間を埋めるべく、そういった方向に進んでいったのでしたね。
ただ、乙女ゲームと現実は乖離しています。……ネスト様の場合はそれが悪い方向のような気がしてなりません。だって、次期『血塗れ公爵』ですよ!
まあ、彼には彼なりの目的があってメレクと友達になってくれたのでしょう。今のところそれが悪い方向に働いていないようなので、私もスルーするつもりです。……いえ、スルーするもしないも私にどうこうできる領域を逸脱してしまっているのですけどね。
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