Act.9-446 ファンデッド伯爵領にて〜ファンデッド伯爵家とルーセント伯爵家の顔合わせ〜 scene.7
<一人称視点・アルマ=ファンデッド>
圓様や護衛として同行したクレールさん、デルフィーナさん、ジェルメーヌさんの協力もあって、無事に顔合わせの日当日を迎えることができました!
本当にこの短時間で準備を進められたのは偏に同行してくださった皆様のおかげです。
クィレル様は到着して早々だとご迷惑だからと一日空けて到着の日の明後日、つまり今日から数えて明日を提案してくださったのですが、お待ち頂いているルーセント伯爵家の皆様のことを思うと正直一日待って頂くのは申し訳ないと思っていたのです。ただ、準備もありますからファンデッド伯爵家が総力を上げても明後日の顔合わせが限界だったと思います。
圓様が車を運転しながら「ああ、顔合わせは到着日の翌日の開催で大丈夫だと思いますよ。うん、いけるいける……多分?」と一聞すると無責任にすら思える発言をした時には、正直、ヒヤヒヤしたのですが、事前にビオラ商会合同会社の社員の方々が協力して準備を進めてくださっていたこと、圓様や侍女兼護衛として同行してくださった皆様のご尽力で不可能に思えた顔合わせの翌日開催も無事に現実のものとなりました。
王子宮筆頭侍女として侍女としての立ち居振る舞いを教えることはできますが、流石に料理人に料理を指導することはできませんからね。
その点、圓様と言えば多種族同盟で最も腕の立つ料理人と言われています。ご用意してくださるケーキからでも伝わるのですが、何と言ってもあのブライトネス王国の人気料理店『Rinnaroze』の総料理長であるペチカ様を弟子に持つというのですからね。
ペチカ様も王家お抱えの料理人にしたいと国王陛下が仰られるほどの実力を持ちながら更に上を目指す求道者であると聞いたことがあります。……なんでも、神の舌を持つ圓様に至高の料理を出すべく日夜料理修行に明け暮れているとか。
まあ、とにかく私如きでは足を踏み入れることなど不可能な料理人世界の上位層――その一端に触れる機会を賜ることができたのは、我が屋敷の料理人達にとっても幸福だったのではないかと思います。……普通は教えを乞いたいと願ったところで叶う可能性が皆無に等しいほどの雲上人ですからね。料理以外にも多分野に手を伸ばして本当に忙しくしているお方ですし。
そんな圓様に、お父様が起こしてしまった事件から現在に至るまで手厚くフォローをして頂けていることは本当に幸福なことだと思います。
それと同時に、何故、圓様は数多ある貴族家の中で格別ファンデッド家に目を掛けてくださるのかずっと疑問でもありました。……やはり、圓様の友人であるレイン様の頼みだったからということが大きいのでしょうか?
そんなことを考えながら待っていると、ルーセント伯爵家の馬車が到着しました。
「やぁやぁファンデッド先代伯爵、それから先代伯爵夫人! 先日以来だが変わらず元気そうで何よりだ。メレク殿も、アルマ嬢も元気そうで大変結構!」
「ル、ルーセント伯爵様、お待ちしておりました」
開口一番元気いっぱいな挨拶をしてきたクィレル様に、お父様は既にタジタジです。
爽やかでキラキラな笑顔を見せられてしまってはこうなっちゃいますよね。
その気持ちは私もよく分かります。特にお父様は社交もあまりお好きではないということで社交界と言えばこの人っていう感じのクィレル様は眩しい存在として映ったのでしょう。
かくいう私も、王宮務めを始めてからバルトロメオ殿下や、宰相夫人のミランダ様といった色々な美形の方に出会って衝撃を受けましたからね。悪役令嬢と名高いローザ=ラピスラズリも少しキツめな印象というだけで美形であることには変わりないですからね。……まあ、ローザ公爵令嬢に転生した圓様の最も馴染む身体という吸血姫リーリエ様はこの世の美を超越した美しさというかなんというか……あのお姿を見た時には私の中の美という概念が吹き飛んで何が何だか分からなくなったものですよ。
「ところで、バルトロ? 国王陛下とあのお方は一緒ではないのかい?」
「……本当はうちの親友も一緒に挨拶をするつもりだったみたいだが、うちのクソ兄貴がなんか怪しい動きをしているってことで絶賛監視中だそうだ。まあ、そう遠くない未来で二人とも姿を見せるだろう。……折角の顔合わせの日に血を見せるようになるのだけは避けたいんだけどなァ。……圓もその辺りはしっかり弁えている常識人だから大丈夫だとは思うんだが」
「……つまり、君の兄上次第ということか」
バルトロメオとクィレル様、二人揃って溜息を吐くのはやめて頂けませんか!?
……もう、本当に恐れ多いことですが……なんであの陛下ついてきたんだよ!! と叫びたいです。本当にあの自由な性格、どうにかならないでしょうか? ストレスが溜まっているのは分かっていますけど!!
「そういえば、ファンデッド夫妻に妻を紹介するのは初めてだったね」
一先ずあのお二方のことは考えないことにしたのでしょう。クィレル様はニコニコ顔になって馬車の方に手を振りました。
すると、馬車から一人の女性が馬車から降りてきました。
ルーセント伯爵令嬢のオルタンス様とは実際に私もお会いしていますし、ファンデッド邸にも足を運んで頂いたことがあるそうですが、ファンデッド伯爵夫人とは園遊会の折にご挨拶させていただいた程度にしか面識がありません。
夫人はクィレルしまと共に社交なさることも多いと伺っておりますが、お義母様は夫人と言葉を交わすのは今回が初めてだそうです。
まあそもそも元子爵家のファンデッド家と名門伯爵家のルーセント家では参加する社交場のランクが異なりますからね。親しく言葉を交わす機会は今までなかったのでしょう。
国の行事での社交以外では伯爵位までの上位層と、子爵以下の下位層て社交の場も変わってきますからね。それも仕方のないことです。
メレクだってクィレル様がお声をかけてくださったからこそ今に繋がるのであって、下位の人間からは話しかけられない暗黙の了解がある以上、そういうチャンスを活かせたのは幸いなことだと私は思います。
ちなみに、ルーセント伯爵夫人はお美しいだけでなく音楽の女神に愛されていると言われるほど卓越した才能を持った方だという話を耳にしています。社交場でも一目置かれる存在だそうですよ。
美形な上に双方天才肌の夫婦って本当に凄いと思います。
ただ、今のところお子さんには恵まれておらず……色々という外野の方々に悩まされていると風の噂で聞いたことがあります。
成人年齢が早い分、この世界では若いうちに子を産み育むというのが一般的ですからね。子を成して、お家を次代に繋げることを何よりも重視するその姿勢は、ニウェウス自治領主でラインヴェルド陛下や隣国のオルパタータダ陛下とパーティを組まれていたレジーナ様とユリア様の同性愛カップルの出現などで崩れ始めたとはいえ、まだまだ色々と言う方々はいます。
そういった陰口を無視して突き進める心の強い人であれば問題ないのでしょうが、そういった方はごく少数なのです。
……同性愛に関しては有力宗教が挙って祝福の声明を出してこれなのですから、結婚や出産に関する古い因習に囚われた考え方は残念ながら今後も受け継がれていきそうですね。
まあ、そういった考えが薄い、一応男女平等を掲げていた前世でも、「結婚はまだなの?」とか「子供はまだなの?」とか無遠慮に聞いてきて「あら、そういうのは早い方がいいのよ!」なんて言ってくる人もいましたからね。
自分は親切心で言っていると本気で信じている大きなお世話な方もいましたし、中には親切を装った悪意で言ってくる人もいました。前世ではそういった方と距離を取れば良かった訳ですが、社交界という世間ではそれが厳しい場面も出てきます。それを含めて清濁合わせ呑んで立ち回るのが社交界での生き方なのでしょう。
……ただ、最近は少し事情が変わってきています。
かつては、社交界を中心に経済が動き、噂話を利用して立ち回ることができていた世界でした。ですが、アネモネ閣下という存在の登場で、社交界の力を得ずに何かを成し遂げることが可能であると証明されてしまったのです。
圓様は公爵令嬢ですが、社交界で権謀術数をする暇があったら自ら積極的に動いて物事を進めてしまえばいいという行動指針でここまで行動をしてきました。そんな圓様に代表されるように、個人の圧倒的な力が古い因習を粉々に吹き飛ばすという変革の時代がすぐ間近に迫っているのではないでしょうか?
その中核を成すのは圓様ですが、ラインヴェルド陛下やオルパタータダ陛下、レジーナ様……そういった方々なのだと思います。
その変革を恐らく貴族の大多数は受け入れられないのでしょう。古い慣習に囚われる貴族達と革新の方向へと駆け抜ける圓様達との衝突はこれまでも様々な場面で引き起こされ、多くの犠牲者を出してきましたが、その衝突は今後も起こりそうですね。
まあ、結局のところ善意を装った悪意のある言葉の裏にあるのはやっかみです。
その陰口もルーセント夫人がやっかまれるほどの女性だという証拠でもあるのでしょう。事実、馬車から降りてこられたルーセント夫人を目にしたお父様が目を瞬かせたかと思うとぽやーっと頬を染めてね……っておいおいおいおい!? 何、見惚れちゃってんのお父様!?
「あ・な・た!!」
「はっ、はひ!? だ、大丈夫だ! ちゃんと挨拶できるから心配するな!?」
お父様の様子に思わず私は内心慌てふためてしましたが心配無用でした。隣に立つお義母様から出た低い声のおかげでお父様は無事? 正気を取り戻されたようです。一瞬変な声を上げてはいましたが。
正直、聞いたことがない声がお義母様からしたので、私も少しビビってしまいました。
ちなみに、バルトロメオはルーセント伯爵夫人に見惚れたお父様にジト目を向けています。……まあ、気持ちは分かりますが、あちこちで浮き名を流していたバルトロメオがその視線を向けるのは少し違うような気が、いえ、なんでもございません。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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