表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/1357

【季節短編 2022年ハロウィンSS】血濡れたハロウィン事件

<三人称全知視点>


 ローザ=ラピスラズリに転生した百合薗圓がかつて暮らしていた地球とはまた別の地球――並行世界(パラレルワールド)の大倭秋津洲の尾張国の外れに位置する広大な山を開拓して作られた百合薗邸に、その日錚々たるメンバーが集められていた。


 メンバーは、屋敷の主人である百合薗圓とその護衛である常夜月紫――財閥七家に匹敵する力を有する超新星(ニュービー)


 財閥七家の一角を担う桃郷財閥の当主名代の桃郷霊験とその兄である桃郷燎験と燎験と共に行動することを強いられている燎験の被害者のローレッタ・カーミラ。

 財閥七家の一角を担う光竹財閥の当主である光竹赫映。

 財閥七家の一角を担う浦島財閥の会長である浦島子。

 財閥七家の一角を担う海宮財閥の当主である海宮浅姫。

 財閥七家の一角を担う邪馬財閥の当主である邪馬凉華。

 財閥七家の一角を担う蘆屋財閥の当主であるち蘆屋祓齋。

 財閥七家の一角を担う庚大路財閥の一人娘で、法儀賢國フォン・デ・シアコルの人事部門の部門長を務める庚大路花月とその従者である村木護。

 以上、大倭秋津洲帝国連邦において絶大な力を有する財閥七家の中心メンバー。


 続いて『特異災害対策室』の所長である千羽雪風と、その息子で一番隊隊長を務める千羽宗治郎、『特異災害対策室』の一番隊副隊長を務める坂上絢華、元《鬼部》所属の鬼斬で現在はフリーの鬼斬として活躍する不動家の系譜に属する葛葉の系譜に位置する鬼斬の少女――蓮華森沙羅。


 そして、世界中の紛争地域を巡っては調停のために尽力する調停者として活動する赤鬼小豆蔲、大倭秋津洲の頂点に君臨する三大妖怪の一角である九尾狐の血を受け継ぐ女性――玉藻久遠、三大妖怪の一角である八岐大蛇の末裔の八岐智美。


 照慈寺の住職の迦陵大蔵と大蔵でも頭が上がらない天台宗の重鎮――桜庭(さくらば)白浪(はくろう)入道。


 あまり表舞台に出てくることはない大倭秋津洲を陰から支配する権力者の一人(ちなみに他には颱堂訃嶽、皇導院などがある。また、財閥七家や百合薗グループも権力側ではないが、多大な影響を及ぼす力を持つ裏世界の者達である)である白浪が大蔵を経由して百合薗グループの有する人脈を使わせてこれだけの者達を集めさせたのには大きな理由があった。

 百合薗グループは白浪の影響下にはないため、今回の件で白浪は圓達に大きな借りを作ってしまったことになる。しかし、百合薗グループに対して大きな借りを作ることになったとしても戦力を揃えなければならない理由が白浪にはあった。


「……かなり厄介な状況になっているようだねぇ。あの国家主義者……とんでもないことをやらかしてくれたよ。本当にどうする気だよ……このままだと国が滅ぶじゃないか」


 楽しそうなのは燎験くらいで、他の面々は皆、白浪からもたらされた情報を聞いて頭を抱えている。

 その情報とは信濃国の山中にあった奈落神社に封印されていた「天魔・奈落」の異名で知られる強大な鬼――奈落迦媛命(ならかひめのみこと)と、奈落迦媛命の封印を強固にするために越後国、三河国と遠江国の国境、飛騨国、甲斐国に設置されていた四護神社に封印されていた奈落迦媛命の配下の中で最も強い四人――奈落迦四天王が復活としたという話だ。


 平安時代、『世界の神』になるという野望を持ち、台頭した奈落迦媛命はたった一人でも英雄クラスの猛者が束になってようやく太刀打ちできる相手だったが、更に厄介なことに奈落迦媛命には強力な仲間達――奈落迦媛命の信奉者達がいた。

 中でも頭一つ以上抜きんでいた力を持ち、奈落迦四天王と呼ばれていたのが、沼這(ぬまばい)花蘭(からん)沼這(ぬまばい)絹江(きぬえ)白銀夜叉(しろがねやしゃ)葛城(かつらぎ)南宴(なんえん)の四人である。


 奈落迦四天王最強と言われたのが、鬼姫花蘭。

 荒廃した羅生門に棲みつき、鬼と成り果てていた老婆を後に大盗賊となって京を震撼させる下人だった男が強姦して誕生した鬼で、身寄りのなく貧しい最底辺の暮らしを送る中でやさぐれ、京を中心に暴れ回っていたが、奈落迦媛命に敗北して配下となった。

 当然、苗字など持っていなかったが、「天魔教団」に入ってから義姉妹の契りを交わすほど大切な存在に巡り合い、彼女と姉妹になるために沼這の苗字を名乗るようになる。


 二人目は後に花蘭と義姉妹の契りを交わすことになる絹江。

 とある村出身の孤児で奈落迦媛命への生贄に捧げられた。

 その後、奈落迦媛命の慈悲で配下に加わることになり、並々ならぬ努力をして「天魔教団」の内部で頭角を現し、遂には「天魔教団」のナンバースリーにまで上り詰めた。

 ちなみに、奈落迦媛命の配下に加わってから数年後に生まれ育った村を襲撃して滅ぼしており、生贄に捧げられた借りはきっちり返している。


 三人目は白銀夜叉。

 「強さ」とは何かを求め続けた流浪者で、「強さ」の本質を追い求める実験の一環で大嶽丸の支配地であった鈴鹿山や酒呑童子の支配地であった大江山にも単身で乗り込んだこともある。

 ただの戦闘狂かと思いきや鬼の中では比較的会話が成立するタイプで、新たな戦いを求めて人間の用心棒を引き受けることも多々あったという。

 あらゆるものを俯瞰で観察し、公平な視点から「強さ」の本質を見定めようと考え、最も戦いに触れられる可能性が高い「天魔教団」に所属した。


 四人目は葛城南宴。

 葛城山出身の大天狗だったが、更なる力を求めて金鰲島に渡って修行に励み、天仙へと至った。

 仙術と法力を獲得して無敵になったと錯覚していたが、大倭秋津洲に帰国後すぐに奈落迦媛命にボコボコにされて天狗の鼻をへし折られる。

 その後、奈落迦媛命の強さの秘密を知るために「天魔教団」に所属した。


 「天魔・奈落」と斎嶋霽月、天満大自在天神菅原道真、渡辺綱、桃郷太郎、鞍馬玄瑞、羅生童子、安倍晴明、蘆屋道満を中心とする混成連合軍が衝突した戦争は「天魔・奈落」側、京の都側――双方に甚大な被害を出し、死者は数万人にも上ったが、双方それだけの犠牲を出しながらも奈落迦媛命と奈落迦四天王を討伐することはできず、強力な陰陽封印術によって封印することとなった。


 封印は強固でそれから千年以上封印が内部から破壊されることは無かった。

 しかし、いくら強固な封印でも完璧なものは存在しない。内部から破壊が不可能でも、外部から封印を破壊できる可能性は十分にあった。そのため、奈落迦媛命と奈落迦四天王の封印された場所は徹底的に伏せられ、奈落迦媛命の封印は長らく天満大自在天神菅原道真によって監視されてきたのだが、白浪によれば数日前に奈落神社より比較的手薄だった四護神社の封印が破られてしまったらしい。


 奈落神社の封印を強化する四護神社の封印が解かれたことは奈落迦四天王の復活を意味するだけでなく、奈落神社の封印が弱まったことも意味している。


 奈落神社を目指して動き出した奈落迦四天王。

 そして、四護神社の封印の破壊に関わっていることが発覚した颱堂訃嶽率いる颱堂機関。

 このどちらかの勢力、或いは両方の勢力の尽力で最悪の鬼が復活してしまう――その可能性を白浪は危惧し、現代の最高戦力を集結させてこの最悪の事態に対抗しようと圓を頼ったのだ。


「とりあえず、私に思いつく作戦は二つだな。奈落迦四天王の各個撃破を狙うか、奈落神社に総戦力をぶつけるか」


「……庚大路の嬢ちゃんの言う通りだが、前者はアウトだと思うぜ。まあ、まず間違いなく奈落神社には颱堂機関の手の者がいる」


「勿論、奈落神社には天台宗の僧兵を送り込み、颱堂機関の手の者達を封じてはいるが、相手もなかなかの強敵でこちら側が随分と押されている。天台宗の力だけでは颱堂機関の手の者を抑え込めなくなるのも時間の問題だろう。一応、陰陽寮と《鬼部》にも皇導院経由で協力を要請を要請したが……」


「……まあ、あの時代錯誤な連中は大して使い物にならないでしょうね」


 陰陽寮と《鬼部》の古い体質の厄介さを嫌というほど思い知らされてきた『特異災害対策室』所長の雪風が溜息を吐く。


「その皇導院は今回の件で動くんだよな?」


「いいや、皇導院はまだ静観するつもりのようだよ。彼らは颱堂訃嶽を黙認してきたからね。今回も訃嶽が何かしらの作戦を成功させれば良し、できなければ颱堂機関や財閥七家、百合薗グループと奈落迦一派をぶつけてからでも十分に対応できると考えているようだよ」


「……本当に虫唾が走る連中だわ!」


 赫映の問いに対する大蔵の答えを聞き、怒りを露わにしたのは月紫だけだったが、財閥七家と百合薗グループ、妖怪、『特異災害対策室』などからなる連合軍を矢面に立たせ、自分達は漁夫の利を狙う(皇導院にとっては財閥七家も目障りなので、奈落迦媛命と同士討ちになることを願っているのだろう)皇導院のやり方に圓、花月、霊験、赫映、島子、浅姫、凉華、祓齋、雪風、小豆蔲、久遠、智美は揃って怒りを覚えていた。


「何も力を貸す気がない皇導院のことよりも、まずはどのように動くべきかを考えた方が建設的ではありませんか? 刻一刻と敵も奈落神社に近づいているようですし」


「村木さんの言う通りだねぇ。……そういえば、鞍馬山の天狗達は今回の件でどう動くつもりなのか知っている人はいるかな?」


「……彼らは静観を決め込んでいるよ」


「あんな保身しか考えていない老害連中になんて期待する方が無駄だわ。……アイツらと皇導院は菊夜さんを見殺しにした。朝陽さん達無関係な人も巻き込んだのに、アイツらは平気な顔して謝罪一つせずのうのうと生きている。そんな奴らが自らの身に危機が迫るような場所に出てくる訳がないじゃない。……迦陵大蔵、貴方もよ。私は貴方達がしたことを今でも許していない。いえ、一生許すつもりはないわ」


 菊夜に誘われて訪れた喫茶店が菊夜と最後に会った場所となった。

 別の世界線の沙羅とは違い『天啓』の超共感覚(ミューテスタジア)を持っていなかった沙羅はあの日、菊夜を引き止めることも菊夜について行くと言うこともできなかった。


 逃げ遅れた沙羅を救うために無茶を重ねた菊夜は沙羅をホテルの外まで送り届けたところで力尽き、命を落とした。

 誰かのために命を賭した彼女の最期に、常に誰かのためを考えてきた彼女らしさを感じつつも、唐突な菊夜との永遠の別れは長い時を一緒に過ごし、菊夜と絆を深めてきた沙羅には到底受け入れられる筈もなく、通夜の日になっても全く実感を持つことができなかった。

 葬儀の日に菊夜の亡骸を入れた棺が燃やされてようやく、彼女がこの世を去ったのだと理解した沙羅は泣き崩れ、自分にとって菊夜がどれほど大切な存在だったのかを理解することになった。


 そんな沙羅が皇導院や鞍馬山の天狗達を信頼できないのも当然のことである。


「やっぱり、これ以上の戦力は望めないと考えるべきだと思う。だとしたら、戦力分散は好ましくない。敵の戦力が集中することを勘案しても、信濃国で奈落迦一派と颱堂機関の手の者と激闘する方がいいと思う。異論がある人はいるかな?」


 花月と圓の提案に誰も異論を上げることはなく、連合軍は信濃国に向かうことになった。



 化野が開発した原子力飛空戦艦グレート・イーグル号に乗った圓、月紫、學、石澤業彬、斎羽勇人、霊験、燎験、ローレッタ、赫映、島子、浅姫、凉華、祓齋、花月、護、雪風、宗治郎、絢華、沙羅、小豆蔲、久遠、智美、大蔵、白浪は信濃国の山奥にある奈落神社付近に到着した。


「……状況は最悪ですね」


 見気を使えるローレッタが奈落神社周辺に見気の範囲を広げて敵勢力の状況を確認して溜息を吐いた。

 目に見える範囲だけでも奈落神社周辺には黒のスーツを着て、黒のサングラスを嵌めた黒い翼を持つ男達――量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】が犇いている。


 更に、後方からは途中で合流した花蘭、絹江、白銀夜叉、南宴が奈落迦媛命の封印を解くべく奈落神社に近づいてきているおり、最悪の場合は復活した奈落迦媛命と奈落迦四天王による挟撃を受けることになる。

 平安時代に大倭秋津洲を震撼させた「天魔教団」の最高戦力に加え、量産型とはいえ颱堂機関の戦闘アンドロイドの軍勢と戦うとなれば戦力の分散は避けられない。


「兄上、圓殿、ローレッタさん! 先に行ってくれ! ここは俺達が引き受ける!」


「おう、任せたぜ! 行こうぜ、圓! ローレッタ!」


「圓様をお一人で行かせる訳には参りませんわ! 私も参ります!」


「いや、一人じゃなくて俺もローレッタもいるからな!!」


 戦力分散が避けられないなら圓、燎験、ローレッタの三人を奈落迦媛命にぶつけ、残る戦力で奈落迦四天王と量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】を片付けるのが最善と判断した霊験は圓達に先に行くように指示を出した。

 霊験と同じ手を考えていた圓、燎験はローレッタと圓の護衛である月紫を連れて奈落神社の本殿へと向かった。


「痺れてもらうよ! こっちだよ? ついて来られるかな? ほら、こっちだよ? それじゃあ効かないよ? ほらほら、どんどんいくよ? 追いつけるかな?」


「九尾妖術・九焔大連爆!」


「毒蛇格闘術・蛇尾毒撃!」


 圓達が本殿へと向かって動き出した直後、残ったメンバーに狙いを定めて一斉に動き出した量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】に最初に攻撃を仕掛けたのは小豆蔲、久遠、智美の三人だった。


 まず、小豆蔲が麻痺の妖気で動きを封じた後、小豆蔲は神速闘気を纏い、武装闘気を纏わせた双短刀を握って次々と量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】を斬りつけて撃破していく。

 小豆蔲と共闘経験のある久遠と智美も小豆蔲が麻痺の妖気で量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】の動きを封じたタイミングを狙い、久遠は出現させた九尾の尾から無数の青い火の玉を放って量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】の目の前で炸裂させ、智美は生み出した毒蛇の尻尾に毒を集中させて次々と鞭のように量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】に打ち付けていき、麻痺によって動きを封じられた量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】達を確実に戦闘不能に追い込んでいった。


「私達も負けてはいられないね。纏幻の秘儀! 鬼火灼天」


 大蔵は本体とそっくり同じ色と形と音と熱を本体からずれた位置に映し出す幻術で量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】達を撹乱しつつ、青い鬼火を無数に発生させ、焼き尽くす術で量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】達を確実に撃破に追い込んでいく。


「錫法・地獄焔柱! 神境・修羅錫舞!」


 白浪は錫杖を地面に打ち付ける同時に地獄の火柱を彷彿とさせる自然エネルギーを変化させた火柱を展開して量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】達を焼き尽くし、運良く火柱から脱出することに成功した量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】達には武装闘気と覇王の覇気を纏わせた錫杖を構え、飛行、水面歩行、壁歩き、擦り抜け、縮地などを可能とする法力である「神境」を駆使しながら次々と高速で錫杖を振るい、量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】達を撃破していく。


「本当は高火力の反物質爆弾で焼き払いたいところですが……仕方ありませんね。C8N8O16(オクタニトロキュバン)手榴弾!」


「武装拳法・颶煉連拳!」


「いくら強くても対物(アンチマテリアル)ライフルで心臓を撃ち抜かれて生きていられる奴はいねぇよ」


 勿論、百合薗グループの面々も負けていない。

 學はC8N8O16(オクタニトロキュバン)を込めた手榴弾を次々と投げつけて無煙爆発に量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】達を巻き込んでいく。

 業彬は武装闘気を纏わせた拳を摩擦で発火させると灼熱の拳で量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】達を殴り飛ばしていき、勇人はPGM ウルティマラティオ・ヘカートIIに込めた弾丸に武装闘気を纏わせて量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】の心臓目掛けて次々と弾丸を放っていく。


「島子、足を引っ張るなよ!」


「それはこちらのセリフですよ、赫映」


 島子に張り合うように竹筒型のビーム砲を連射して量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】を次々と撃破していく赫映と、仙氣を漲らせ、武装闘気を纏い、仙氣を込めた拳で次々と量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】を打ち砕いていく島子。

 仲が良いのか悪いのか、ナイスコンビネーションを見せる二人の姿に、薄桜仙女と亀比売(ジト目を向ける者)はこの場にはおらず、二人と縁深い浅姫も二人のやり取りにツッコミを入れられる状況では無かった。


 量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】達が連携しながら放ってくる怒涛の斬撃を躱しつつ仙氣を込めた拳を振るって一体ずつ量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】を撃破していく浅姫。

 しかし、戦闘経験が島子に比べて少ないため、どうしても敵を撃破するスピードは島子に劣ってしまう。


「蠱毒操術!」


「篝、仕掛けますよ! 桔梗陰陽印・劫火! 桔梗陰陽印・飛泉! 桔梗陰陽印・樹海! 桔梗陰陽印・地祇! 桔梗陰陽印・真金! 五芒創世!」


『篝流・灼熱拳掌』


 凉華は蠱毒によって巨大化した蜈蚣を操って次々と量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】に仕掛けさせ、祓齋は式神の篝を呼び出し、篝に前衛を任せつつ自身は素早く後方から火、水、土、木、金――陰陽五行の奥義を放った後、天に陰陽五行エネルギーを照射して完成させた巨大な五芒星から聖なる光を地上に降り注がせる。

 降り注ぐ光の合間を縫うように灼熱の炎と化した篝が戦場を駆け抜け、生き残った量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】に灼熱の拳を振るっていく。


 一気に大量の量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】を仕留めた祓齋だが、流石に戦場にいる量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】を全て撃破できた訳ではない。

 それどころか、量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】の数は戦闘開始時点から増えているようだった。

 倒しても倒しても一向に減る気配がなく、夥しい死体の山を超えて次々と量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】が戦場に姿を見せる。


「どうやら、各地に派遣されていた【烏丸(カラスマ)】達が集まってきているようだね」


「……お嬢、それってかなりまずいのではありませんか?」


「まあ、想定の範囲内だ。封印から解放された奈落迦四天王がこちらにやってきているなら、封印を解いた【烏丸(カラスマ)】もこちらにやってくるのは当然のこと。……さて、こちらも切り札を出すとしよう。護、蟹式大戦車の用意を――」


「承知致しました」


 護は内部が四次元空間になっている布の袋から袋には到底入り切らない車椅子を改造した巨大な蟹型の戦車を引っ張り出した。

 花月の指示にイラつきながらも花月をお姫様抱っこし(常に車椅子に座っている魔法少女姿の花月だが、決して足が動かせないという訳ではない)、そのまま蟹式大戦車に乗り込んだ。


 搭乗と同時に戦車の目型のライトがピカリと光り、ライトから猛烈な光条が放たれる。

 光条は敵陣後方を纏めて薙ぎ払い、鎮守の杜諸共量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】を焼き払った。


「おうおうおう! 随分と派手にやってくれるじゃねぇか!」


「……お姉様、言葉遣いが少し荒いと思いますわ。もっとお淑やかに参りましょう」


「ふむ、強者達が集まっているようですね。……しかし、平安の世に比べて随分と質が落ちているようだ。鬼斬も陰陽師も堕落した……簡単に敵を屠れる弓矢の強化版のようなものを手に入れ、単純の火力は上がったものの戦いに対する意識が足りない。……君達はどうでしょうか? 『鬼部(モノノベ)』達よりも強いのか、それとも? 貴方達の覚悟を、『強さ』をこの私に見せてください」


「まあった始まったぜ。そんなくだらない問答をしているより暴れようぜ! 暴れよう、そうだ暴れよう! 強さ云々なんてなぁ、結局、答えは決まりきっているんだぜ! どんな方法を使っても勝った奴が最強なんだ! うぃーーーーうりゃ!!」


 袿の上から小袖を少しはだけるように纏った妖艶な長身の鬼の美女、小袖と褶を腰布で固定した庶民の王道の服装の少女、武士常装の直垂を纏い、腰に二本の太刀を帯びた姿の二本の大きな角を頭から生やした美青年、山伏の修験装束を身に纏った黒い天狗の翼を持つ老人。

 その姿は、陰陽師や鬼斬の中で語り継がれている奈落迦四天王と一致する。


「……奈落迦四天王、遂にここまで」


「この先に奈落迦様の反応がある。……それにしても、凄まじい霸気の持ち主がいるようですね。やはり主力を奈落迦様の方に割きましたか。まあ、当然の判断です。私がそちら側なら絶対にそうします。……しかし、我らは奈落迦様より奈落迦四天王の地位を賜った強者四人。止められますか? 貴方達に?」


「止められるかなんて関係ありません。止めるしかありませんよ! 桃郷浄剣流奥義・烈風浄界桃源斬」


「日輪赫奕流・劫火赫刃爆」


「千羽七星流・計都!」


「千羽七星流・弼星!」


「坂上流二ノ太刀 殃禍!」


「アハハハ! 面白ェ! あの腰抜け共よりは骨があるみてぇだな!!」


「……だからお姉様、言葉遣い」


「いいぜ! アタシらも全力でてめえらをぶっ殺してやるよ!」


「……私の言葉を聞いていない。でも、戦いに一生懸命なお姉様も素敵♡」


 霊験、沙羅、雪風、宗治郎、絢華が同時に奈落迦四天王に攻撃を仕掛けたのを皮切りに連合軍と奈落迦四天王、そして量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】達の三つ巴の戦いの幕が切って落とされた。



 一方、奈落神社の拝殿では訃嶽によって奈落迦媛命が復活し、圓、月紫、燎験、ローレッタの四人と奈落迦媛命、そして訃嶽陣営による三つ巴の戦いが巻き起こっていた。


「常夜流忍術奥義・禍焔飛龍!」


「血刃黒染刀・覇纏斬り!」


「覇纏斬り何するものぞ! 大・威綱斬り!」


 筋肉を異形と言えるレベルまで膨れ上がらせ、剣に膨大な覇王の霸気を乗せると武装闘気を全身に纏って月紫の放った圧倒的高温の透明な焔の龍を受けたまま平然とローレッタに向かって斬り払った。

 ローレッタは咄嗟に後ろに飛んで訃嶽の斬撃を躱す。


 そのまま打ち合っては押し負けると判断して撤退を選択した経験は最強クラスの吸血鬼であるローレッタには過去に一度しかない。

 その相手は燎験――つまり、訃嶽は燎験に匹敵する強敵とローレッタが判断したということになる。


「『黒妖刀・群蜘蛛斬』の切れ味も恐ろしいけど、それ以上に化け物じみているねぇ、訃嶽。生半可な攻撃じゃあ、訃嶽の武装闘気に弾かれておしまいってことか。それを常夜流の奥義『透明禍焔』でやられるのはかなり辛いよ。……本当はボクが相手をしたいところだけど」


「あの男、なかなかやるようじゃな。あの霸気はなかなかの者、お主らと同じく是非配下に加えたいところじゃが……良いのか? お主らの仲間を助けに入らなくても」


「……奈落迦媛命相手だと燎験さんと二人でも厳しいからねぇ。正直、猫の手も借りたいところだよ。こんだけいるのに、更に雑魚敵の相手とか……」


「その雑魚敵は我には関係ない話じゃが……まあ、うじゃうじゃと正直邪魔じゃからな。よし、迅雷夜行(じんらいやぎょう)!」


 奈落迦媛命は棍棒を構え、一瞬にして圓の目の前から消える。

 黒い稲妻を迸らせながら次々と棍棒を振り回して量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】達を粉砕していく。軽く振るった一撃でも量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】達を粉砕するには十分なようで、奈落迦媛命の底の知れない強さを実感した圓と燎験は冷や汗を流した。


「《神魔変転(フォールン・ヌーメン)》! 仕掛けるぜ、相棒! 《神域の門(ディヴァイン・ゲート)》!」


「圓式比翼!」


「ジュワイユーズ流聖剣術 滅ノ型 大魔導滅斬!」


「ほう、転移系の魂魄の霸気か。なかなか珍しい力を持っておるようじゃな! ますます欲しい! 我が配下となれ!」


「なる訳ねぇだろ!」


 《神域の門(ディヴァイン・ゲート)》で圓を転移させ、圓か常人であれば大気を擦過する輝きを捉えるのが精々の神速の太刀を放つのに合わせて大気中の魔力が根こそぎ燎験の支配下に、一刀の振り下ろしと同時に激しい魔力の奔流が霊力の奔流を放った燎験だが、奈落迦媛命はあっさりと回避すると、一瞬にして燎験と距離を詰める。


迅雷夜行(じんらいやぎょう)!」


「させるかよ! 《神域の門(ディヴァイン・ゲート)》――からの、神避(カムサリ)


「そのような生温い霸気では倒せぬぞ?」


 転移と同時に武装闘気を纏わせた剣の上に覇王の霸気を纏わせると、奈落迦媛命の背後から無造作に薙ぎ払いを放った燎験だったが、奈落迦媛命が背後に振り返りながら放った二発目の「迅雷夜行(じんらいやぎょう)」によって燎験の霸気は消し飛ばされ、燎験自身も衝撃で吹き飛ばされた。


 圧倒的に見えた奈落迦媛命だが、流石に圓、燎験、訃嶽という『王の資質』の持ち主三人を相手にするのは分が悪く、月紫、ローレッタ、量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】達も交えた混戦の中では勝利は厳しいと判断して奈落迦四天王との合流を目指し始めた。

 そのため、戦いの場は奈落神社の拝殿から入り口付近へと移動していき、遂に連合軍と奈落迦四天王、そして量産型戦闘アンドロイド【烏丸(カラスマ)】達の三つ巴の戦いが行われている第一鳥居付近に全勢力が集結することとなった。


「奈落迦様!」


「久しぶりじゃな、絹江。花蘭、白銀夜叉、南宴も息災じゃったか?」


「……封印されていた以外は特に問題はありません」


「封印は我もされていた。……さて、我の最強の仲間も揃った。さあ、戦いを再開するとするか……」


 奈落迦媛命と奈落迦四天王が集結し、考え得る最悪の状況になってしまったことを理解し、圓達の表情が絶望に染まる。

 しかし、まだ勝利の可能性が潰えた訳ではない。大切なものを守るために剣を握り直す圓達だったが……。


「ほう? これは面白いことが起きたようじゃな」


 眩い光が奈落迦媛命と奈落迦四天王の足元から溢れ出した。

 光は幾何学の魔法陣のようなものを形作る。


「――奈落迦様!」


「花蘭、良い。これもまた一興じゃ。……我と剣を交えたそこの二人よ。最後にお主らの名を聞いておきたい」


「百合薗圓」


「桃郷燎験」


「その名、確かに覚えたぞ! では、また相見えることがあれば、その時に決着をつけようぞ! さらばだ!」


 眩い光が奈落迦媛命と奈落迦四天王を包み込み、次の瞬間には奈落迦媛命と奈落迦四天王の姿は跡形もなく消えていた。


「……作戦は失敗だ。撤退する。……百合薗圓、財閥七家、今回の借りは必ずや返す。夷敵は、大倭秋津洲の敵は全てこの私が排除する!」


 その後、訃嶽も撤退したが、百合薗グループと財閥七家と訃嶽の敵対はこの戦いで決定的なものとなった。

 奈落迦媛命と奈落迦四天王にも勝利できず、謎の現象に救われなければ圓達は敗北していた可能性が大きかった。


 大倭秋津洲の平穏を一応は勝ち取ることができたものの、勝利というにはあまりにもほろ苦い気分を味わいながら圓達はそれぞれ帰路に着いた。

 お読みくださり、ありがとうございます。

 よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)


 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ