Act.9-437 シーワスプ商会のベーシックヘイム大陸訪問に向けた準備 scene.2
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン・レインフォール>
中年の狸爺に口に含んだ紅茶をぶっ掛けられるという精神的にも物理的にもかなりのダメージを負ったものの、シーワスプ商会が視察を希望した場合に応じてもらえるようにルアグナーァに無事に約束を取り付けることはできた。
……うーん、魔法で綺麗に洗浄した筈だけど、やっぱり精神的に来るものがあるねぇ。とりあえず、この鬱憤はメルトランに告げ口して解消するとして……やっぱり風呂に入って身綺麗にしよう。……乙女でなくても傷つくよねぇ、あれは、
一旦ラピスラズリ邸に戻って風呂に入って気持ちを落ち着けてから、ローザの姿に戻って向かった先はジリル商会に向かった。
しかし、ここは昔から変わらないねぇ。ログハウスっぽい建物の中で様々なジャンルの商品が売られている。売り子のメイドさんが一人と、後は奥で仲良く座っている会頭のモルヴォルと妻のバタフリアがいるだけ。……昔は番頭台にカルロスが座っていたけど、あの事件以後が誰もあの場所に座っていない。……ここの空気も少しだけ冷たくなった気がするねぇ……まあ、ボクにその責任の大半があるんだけどさぁ。
でも、ボクは決して間違った行いをしたとは思っていない。
攻略対象のジィード=ジリルは以前はこのジリル商会に居たけど、ここ最近はジリル商会を離れているらしい。
なんでも将来、ジリル商会を継ぐために外で修行をしているとか。……ブライトネス王国の大手の商会であるマルゲッタ商会やル・シアン商会、それからうち――ビオラ商会合同会社にも教えを乞いに来たそうだ。
モルヴォルは金融のスペシャリストであり、ジリル商会は三大商会の一角まで一代で育て上げた敏腕商人だ。そのモルヴォルの元で学ぶのが一番良いとボクは思ったんだけど、ジィードはその道を選ばなかった。
モルヴォルにカルロスが実は死んでいなかったことを伝えたあの日、ジィードは平常心だったように見えたけど、やっぱり父親を失った心の傷がそう簡単に癒える筈がない。……ましてや、カルロスは母親亡き後ジィードを育ててきた唯一の親だった。
モルヴォルとバタフリアが子育てに関わっていたとしても限界はある。……彼の中にその傷は今も根深く刻まれていて、その孤独が父親との思い出が沢山残っているジリル商会から彼を遠ざけたのかもしれないねぇ。
しかし、何故このタイミングなのか? ……もしかしたら、カルロスが事故死した(と伝えられた)日からずっとジリル商会を離れたいと思っていたのかもしれない。だけど、その許しをもらえる年齢にジィードは達していなかった……少なくともジィード自身はそう判断していたんじゃないかな?
だから、許可をもらえそうな年齢に達したところでモルヴォルとバタフリアを説得し……というのが一番ありそうな気がする。まあ、あくまで想像だから間違っている可能性が高いんだけど。
◆
「アルマ先輩じゃないですか。もしかして、ファンデッド伯爵領に戻る前にお買い物ですか?」
ジリル商会に向かうと、買い物をしていたアルマが居た。
彼女も宮仕えを始めてから利用するようになり、今では実家のような安心感を覚えているとか。
「よォ、久しぶりだな。ローザの嬢ちゃん。なんだ? アルマの嬢ちゃんと知り合いだったのか?」
「えぇ。所属する宮は違いますが、アルマ先輩はボクが尊敬する先輩です。先輩の職務に直向きに取り組む姿をボクも見習っていきたいと思いつつ、日々精進しております」
「ろ、ローザさん!」
「勿論、誠実な商売を貫いてきたモルヴォル様、モルヴォル様の側で献身的に支えてきたバタフリア様のことも一商人として尊敬しています。……まあ、ボクは商人としては駆け出しで、本業は投資家と作家なんですけどねぇ」
「……ブライトネス王国どころか世界規模で事業を展開しているビオラ商会のトップが駆け出しの商人な訳ないと俺は思うんだけどなァ」
アルマとモルヴォル、二人して納得がいかないって顔をしているけど、ボクって何も嘘は言っていないんだけどなぁ。
「今日は買い物が目的じゃないんだったな?」
「まあ、ジリル商会を訪問して買い物一つせずに帰るというのもどうかと思うので、後で買い物はさせて頂きますよ。ああ、そうでした。こちら、つまらないものですが」
「そんなに気を遣ってくれなくてもいいんだけどなぁ。俺と嬢ちゃんの付き合いも長いだろう? まあ、折角だからありがたく頂戴するよ。ああ、それと、お中元、ありがとな。果物の詰め合わせ、美味しく頂いたよ。来年は必ず俺達からも贈るから楽しみにしてくれよな」
「本当に美味しかったわね。ありがとう、ローザさん。そうだわ、二人とも新作の飴があるから見て行ってもらいたいわ。勿論、サービスさせてもらうわよ」
「はい、そうさせていただきます」
「お心遣い、ありがとうございます。楽しみにしますねぇ」
「おい、俺ぁ客人と中に入るから店を頼むよぉ」
「では、私は買い物を――」
「ああ、そうだ。折角だし、アルマさんも同席したらどうかな?」
「……圓さんのお話って大抵トラブル関連ですよね? 正直、同席はお断りしたいというか……」
「一体ボクって何だと思われているのかな!? 今回は別段トラブルとは関係ないよ……うん、まあ、スタート地点はトラブルだった気がしないでもないけど」
頑なに逃げようとするアルマを引っ張り、ボクはモルヴォルの案内で応接室へと入っていった。
モルヴォルがアルマに少しだけ憐れみの視線を向けていたけど、別にボク、何も悪いことしてないよねぇ!?
応接室に到着すると、バタフリアが冷たいお茶と冷えた果物を用意してくれた。
本当に心遣いが行き届いているよねぇ。
「それで、嬢ちゃんの用事ってのは一体なんなんた?」
「勿体ぶるつもりはないのですが、その前に前提になることからお話ししましょう。本日、ボクはジリル商会を訪問する前にマルゲッタ商会を訪問してきました。そして、本日中にル・シアン商会を訪問する予定です」
「三つの商会を一日で訪問するとはたまげたなぁ」
「ということは、三つの商会を訪問する必要のあることということでしょうか?」
「ルアグナーァさんには口頭で説明したのですが、折角なのでお二人には映像を見て頂きましょうか? これは、ペドレリーア大陸の臨時班の活動の一部です」
ボクはスクルージ商会と敵対するに至る経緯から実際に敵対した時に取った行動、スクルージ商会との戦いの顛末までを簡単に纏めた映像を『統合アイテムストレージ』から取り出したパソコンで再生した。
「相変わらず嬢ちゃんは凄いなぁ」
「……これってビオラ商会合同会社の仕事や王女宮筆頭侍女の仕事と並行して進めていたのですよね?」
「うん、まあ、そういうことになるねぇ」
「……前々から思っていましたが、圓様ってハイスペック過ぎませんか?」
「まあ、今回の件でボクがやったのってスクルージ商会の動きを先読みして、損害を帳消しにするためにお金ばら撒いて、襲撃者を返り討ちにして側近を性転換させて諜報員に仕立て上げ、側近からシャイロックが倒れたという報告を受けて医者を連れて行って彼の拝金主義にトドメを刺しただけですからねぇ。ある程度の財力と技術、ゲームの知識と読み力さえあれば誰にだってできる簡単なお仕事ですよ」
「最早、ゲームの知識云々でどうにかできる話ではないですよね!?」
「まあ、嬢ちゃんがぶっ飛んでいるのは昔からよく知っているが……嬢ちゃん本人の自己評価が低いのがずっと納得いかないんだよなぁ」
「本物の天才ってのを前世で見たことがありまして……本当の天才ってのは、まさに理不尽そのものなのですよ。ああいう本物を目の前にすると、自分の力なんてただの鍍金なんだと思い知らされます。まあ、その影澤さんに『圓さんは努力の天才やな。わいには真似できへん』って言われたんですけどねぇ……解せぬ」
生まれ持った超共感覚と、血の滲むような努力――この二つでどれだけ頑張っても、彼はその上を軽々と飛び越えていく。
……ああいう理不尽に、勝てる訳がないんだよ。
「しかし、この臨時班絡みのお願いとなると、シーワスプ商会の視察に関することかァ?」
「流石は会頭、その通りです。彼らの目的はビオラ商会合同会社の視察ですが、その過程で他の商会の視察を希望する場合があるかもしれません。なので、事前にシーワスプ商会が近々ベーシックヘイム大陸に訪問することをお伝えし、彼らが希望する場合は視察を受け入れて頂けるようにお願いして回っているのです」
「なるほどなぁ。まあ、嬢ちゃんには返し切れない恩があるし、勿論協力はさせてもらうぜ」
「ありがとうございます」
モルヴォルの協力を取り付けられたところでお話は終了。その後は買い物タイムとなった。
宝石飴は美味しいし、メイドや侍女達のご褒美にも最適、それにちょっと……というか、相当勿体無いけどファイスをやる気にさせるためにも使える最高な品物なので、少し多めに買っておいた。
アルマもここの飴はお気に入りらしく、メイド達へのご褒美と自分へのご褒美のために買っていくつもりだったみたいだ。本当にいい趣味しているよねぇ、アルマさんって。
本人は全く自覚がないみたいだけど、いい審美眼を持っていると思うよ。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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