Act.9-436 シーワスプ商会のベーシックヘイム大陸訪問に向けた準備 scene.1
<三人称全知視点>
ジェルエナとの面会を終えた後、圓はラポワント一世に謁見した。
圓は顔合わせと挨拶程度のつもりだったが、ラポワント一世はここまでの間にフィクスシュテルン皇国の方針を決めていたらしく、玉座から立ち上がり、直接多種族同盟への加盟を希望する書状を手渡した。
「……よろしく頼む、圓殿」
「この後、多種族同盟会議で審議をすることになりますが、できる限りフィクスシュテルン皇国が加盟できるように尽力させて頂きます」
「――謁見中、失礼致します。圓様、先程サンアヴァロン連邦帝国に派遣されている諜報員から連絡が入りました。加盟希望書を圓様に提出したいとのことです」
ラポワント一世との謁見が終了した後、圓は帰国するつもり満々だったのだが、謁見の途中にサンアヴァロン連邦帝国に派遣されている諜報員から連絡が入った。
サンアヴァロン連邦帝国に派遣されている諜報員はサンアヴァロン連邦帝国政府に「加入希望は自分達に提出して欲しい」と伝えていたようだが、より確実性を増すために直接圓に手渡して、心から加盟を希望していると伝えたいと思っていたようである。
仕方なく、圓はサンアヴァロン連邦帝国に転移し、ゲルネイーラ三世から多種族同盟への加入希望書を受け取った。
ちなみに、先代ラピスラズリ公爵家と『瑠璃色の影』の暗躍で『這い寄る混沌の蛇』はラスパーツィ大陸から根絶されたものの、その過程で小国のほとんどは機能不全に陥ってしまっている。困り果てた残された者達はサンアヴァロン連邦帝国やフィクスシュテルン皇国に助力を求め、ラスパーツィ大陸はサンアヴァロン連邦帝国、フィクスシュテルン皇国、レインフォール湊都市国の三国による分割統治の形へと変化した。
今回、フィクスシュテルン皇国とサンアヴァロン連邦帝国の加盟が正式に認められればラスパーツィ大陸の全ての国が多種族同盟に加盟することになる。
多種族同盟の本場であるベーシックヘイム大陸や先に臨時班が派遣されていたペドレリーア大陸よりも早い大陸の統一であるが、小国が乱立していたとはいえ大きく三つの国が存在し、その全てと関わりを持ったこと、そもそも大陸自体が比較的小規模であったことが要因となっており、極めてレアケースであると言えよう。……まあ、ペドレリーア大陸も中心となっているオルレアン教国が加盟を決断すれば、その流れで全ての国が加盟を決断してしまいそうなところはあるのだが。
◆
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン・レインフォール>
ラスパーツィ大陸に赴いてフィクスシュテルン皇国とサンアヴァロン連邦帝国を訪問した日の翌々日、セントピュセル学院での学生生活と王女宮筆頭侍女の仕事を終えたボクはいつも通りビオラ商会合同会社本社の会長室に出社……はせず、三千世界の烏を殺して過去に飛んだその足でマルゲッタ商会へと向かった。
「アネモネ閣下、ようこそいらっしゃいました」
先触れを送っていたとはいえ、会頭御自ら出迎えるとはねぇ。……VIP待遇とは、ボクも随分と出世したものだ。
「私のような新参者の訪問に会頭御自らお出迎え頂けるなんて、身に余る光栄ですわ」
「いやいや、貴女様のお出迎えを部下に任せるなど、そんなことできる筈がありませんよ。……しかし、先触れを送って頂けるのは非常にありがたいのですが、諜報員を伝書鳩代わりに使うのはやめて頂きたいものですな。突然、天井から降りてきて寿命が縮む思いでしたよ」
「……まさか、図太い神経が服を着て歩いているような狸爺でも寿命が縮むような思いをするとは思いませんでした。とても勉強になりますわ」
「貴女様は本当に正直に仰いますね。……まあ、国王陛下に対しても臆さず発言できるお方ですから、当然と言えば当然ですが」
「メールとかできたら楽なんですけどねぇ。……必要性を感じていなかったので郵送関連の仕事には手を出していませんでしたが、何か考えた方がいいかもしれませんねぇ。例えば、魔力で作った生物に手紙を運ばせるとか、手紙を運ぶのが得意そうな魔物を飼育・調教して運ばせるか、それとも郵便部門を新設して……でも、既にそういった仕事を引き受けている商会もありますし、無理して新規参入しなくても良いか」
ルアグナーァのに案内されたのはマルゲッタ商会の本社内にある商談用の小部屋だった。……今回は買い物するつもりはないんだけどいいのかな? まあ、立ち話できるような話じゃないとルアグナーァは判断したんだろうねぇ。
「そうでした、お中元でしたか? ありがとうございました。ああいったものを贈る文化ははいので驚きましたよ。……前世の文化ですか?」
「えぇ。年末に一年間お世話になった方に感謝の気持ちを込めて贈るお歳暮と夏頃に感謝の気持ちと夏の健康を願う気持ちを込めて贈るお中元、どちらも前世の文化ですねぇ。知らぬ間柄でもありませんし、折角なので今年からお世話になった方々に贈ることにしました」
ちなみに、お中元の内容はフルーツの盛り合わせだ。メロンをメインに据え、夏が旬の果物を盛り合わせてみた。
同じものをジリル商会、マルゲッタ商会、ル・シアン商会、ガネット商会の各トップや、多種族同盟加盟国の君主、王族に贈っている。……まあ、ラインヴェルド、ヴェモンハルト、オルパタータダ、エイミーンといった連中に贈ったお中元からはメインのメロンの部分を嫌がらせの意味を込めて空洞にしてやったんだけどねぇ。ビアンカとかカルナとか、イリスとかシヘラザードとか、ミスルトウとかに贈られた完全版のお中元と比較して扱いの差に不満を言ってくるかと思っていたけど、まだそれがないってことはさてはそういうものだと認識しているのかな? ……いや、流石にそれはないか。
「流石に手ぶらでは参れませんので、本日はこちらをお持ちしました。ビオラ商会合同会社で作ったバターと蜂蜜になります。バターはライヘンバッハ辺境伯領の牧場で取れた乳牛をライヘンバッハ辺境伯領内の牛乳加工工場にて素早く加工したもので、自慢できる逸品です。蜂蜜の方は蜂の魔物と協力して生産したものになります」
「……ほう、魔物ですか?」
「別に危険はありませんよ。基本は蜜蜂と変わりませんから。ただ、女王蜂と意思疎通が可能なのでかなり緻密に蜂蜜の元になる花の蜜の調整が可能でした。本日は三本蜂蜜をお持ちしまして、二本は複合蜜、一本は単花蜜となっていますが、この複合蜜……十万回以上の試行錯誤を経てようやく形になったというレベルでして、まだまだ女王蜂のアピトハニー・θ・ラビュリント共々精進しなければならないと思っている次第です」
「……本当に貴女様の探究心は底なしですな。こちらはありがたく頂戴致しましょう。……美味しいものを頂くとついつい食べ過ぎてしまいますので、体型が少しだけ心配になりますな。……さて、そろそろ本題に入りましょうか。本日、貴女様は王女宮筆頭侍女としてお越しになっているのですか? それとも、ローザ=ラピスラズリ公爵令嬢としてですか? それとも、やはりビオラ商会合同会社会長としてお越しになっているのでしょうか?」
「本日は私人アネモネとして参りました。……ビオラ商会合同会社としてのお願いではなく、ボクの個人的なお願いだと理解してもらえると助かるよ。まあ、余計なお節介かもしれないけどねぇ」
「……はぁ」
まあ、ここまでのボクの説明だけで理解できたら途轍もない勘の良さというか、最早超能力者や超越者のレベルだからねぇ。……一を聞いて十を悟るとか、どこの自由奔放で傍若無人な性格の名探偵だよ。
「ボクがペドレリーア大陸とラスパーツィ大陸で臨時班の活動を進めていることはご存知ですよねぇ?」
「えぇ、まあ、実際その活動の一端は王女宮でお聞きしましたし」
「そのペドレリーア大陸で五大商会の一角に数えられるシーワスプ商会の商会長キロネックス・シーワスプさんが、近々ベーシックヘイム大陸の多種族同盟影響圏に視察に来るつもりのようです。主の目的は我々ビオラ商会合同会社ですが、他にも複数の商会を視察したいとお考えになるかもしれませんので、もし、キロネックスさんが視察を希望される場合は受け入れて頂きたいのです」
「えぇ、それくらいなら構いませんが。……圓様は色々と商人にしては甘いところがあるお方ですが、わざわざ事前にお願いに来るということは彼にそれだけの何かがあるということでしょうか?」
「実はキロネックスさん、ビオラ商会合同会社がスクルージ商会と敵対することによって生じる経済的な悪影響を懸念して事前に各商会の長にお渡ししていた賠償金の受け取りをビオラ商会合同会社の好敵手になりたいからと拒否したのですよ」
ボクの言葉を聞き、何が面白かったのかルアグナーァは紅茶を吹き出した。……その全てがボクの顔面と服にかかって……うわぁ。
「……流石にこれは酷くないかな!?」
「も、申し訳ない! 服は私の方で弁償を――」
「必要ないよ。魔法ですぐにリカバリーできるからねぇ。……で、紅茶を吹き出すくらい面白かったのは何だったのかな?」
「いえ、面白かった訳では。……まさか、あのビオラ商会合同会社に真っ向から立ち向かおうという剛の者がいるとは思わなかったので。……いや、スクルージ商会も形は違えどビオラ商会合同会社に喧嘩を吹っ掛けていましたね」
「まあ、ビオラ商会合同会社の巨大さを正しく理解してはいないみたいだったからねぇ。……でも、ボクは嬉しかったんだ。あんなに真っ直ぐ視線を向けて好敵手になりたいと言ってくれることなんて滅多にないからねぇ」
「そりゃそうでしょうね。……しかし、ビオラ商会合同会社に勝つ方法なんてあるのでしょうか?」
「正直に言えば、総合力では無理だと思うよ。そのレベルまでビオラ商会合同会社は育ってしまったからねぇ。それもこれも、社員の頑張りの賜物だよ。でも、一つの分野に絞れば方法はある。ビオラ商会合同会社の弱い分野や意図的に手を出さなかった分野、そういった分野を重点的に攻めるという方法があります。後はそれに気づけるかどうかでしょうねぇ」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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