Act.4-4 ローザ一行の初遠征と、三つのクエスト scene.4
<一人称視点・リーリエ>
パトラスの森に着く頃には陽が傾き掛けていた……ああ、ここで野宿だねぇ。
「とりあえず、陽が沈み切る前に拠点の方を整えておくから、みんなはその間に好きに狩りをしてきていいよ? ああ、後でボクもクラブスパイダーの討伐はする予定だから、少しは残しておいてねぇ」
……いくら魔物が討伐しても討伐してもどこからともなく湧いてくるとはいえ、そんなすぐには復活しないからねぇ。
「あっ、それとイスタルティさんは残ってねぇ」
「えっ……俺?」
「身に覚えがないけど何か気に障ることをしたのか!?」って思っているみたいだけど、ボクを邪知暴虐の限りを尽くす短気な暴君か何かと勘違いしているのかな?
「ちょっと渡し忘れていたものがあってねぇ。はい、これ」
「……笛ですか? ローザ嬢が八脚軍馬? を召喚した笛に似ていますが……」
「これは、伝説級の『空翔ける天馬の召喚笛』だよ。まあ、空飛ぶ馬を召喚できる笛ってところだねぇ」
「まさか、神話の!? 空飛ぶ馬!! そ、そんな貴重なものを!!」
いや、君達が貰った武器や防具も何気に神話に登場するようなものだからねぇ。
「まさか、第一騎馬隊長ともあろうものが、乗りこなせないなんて、言わないよねぇ」
「…………はっ、第一騎馬隊長の名に賭けて必ずやローザ様のご期待に応えて乗りこなして見せましょう!!」
……なんか大幅に扱いが変わった気がするけど、気のせいかな? なんというか、忠誠心が芽生えた、みたいな?
まあ、『空翔ける天馬の召喚笛』で召喚できる空翔ける天馬はどんな召喚者でもしっかり扱えるから問題はないだろうけどねぇ。
ちなみに、この時のボクは全く予想していなかったけど、この人って『天翔ける騎士』っていう異名で後世に名を残すんだけど、間違いなくこの時に『空翔ける天馬の召喚笛』を渡したからだよねぇ。
「それじゃあ、ほどほどに頑張ってね〜」
「はっ! 沢山狩って参ります!!」
食い切れないくらい狩っても統合アイテムストレージ行きなんだけどなぁ。
拠点の設営は統合アイテムストレージから取り出した遺物級のテントをボンボンボンボンと並べるだけ。欅達が「手伝いましょうか?」って気を利かせてくれたけど、まあ、これくらいならボク一人でもできるからねぇ。ちなみに、メイドのアクアさんはディランと一緒に魔物狩りへ……まあ、アクアに家事手伝いを求めるべきじゃないか。
「へっくしょん!!」ってどこかでくしゃみが聞こえた気がしたけど、多分気のせいだよねぇ。
設営を終えたところでアカウントを切り替える……まあ、ちょっと久しぶりに使ってみたくなったからねぇ、『End of century on the moon』時代の相棒を。
「アカウントチェンジ/沫雪」
『End of century on the moon』第二位で、『銀閃』の二つ名を持つ、腰まで届く銀髪を黒いリボンでツインテールにした、牡丹色の瞳を持つピスクドール風美少女。
やっぱり、馴染むねぇ……メインで使っていたアカウントは。
統合アイテムストレージから当時愛用していたビームサーベル『カゲロウCR-1』の二刀を取り出して、そのまま森を駆ける。ああ、勿論見気を使ってクラブスパイダーや他に美味しそうな魔物の位置を調べているから闇雲に走っている訳じゃないよ? 獰猛なる牙猪とか、突撃鹿とか、大岩蜥蜴とか……まあ、ライヘンの森でも狩ったから程々にするけどねぇ。
クラブスパイダーを発見すると同時に『カゲロウCR-1』のスイッチをオンにしてビームの刀身を生成――ちなみに、刀身の長さも幅も自在に調整できるからビームサーベルで大剣を作ることも理論上は可能だけど、バッテリーの容量がガクッと減るからあまりお勧めはしない――長く細く、刀剣のように伸ばした二刀を「圓式基礎剣術」の残像すら捉えられない無音の神速太刀で全ての脚を落とした。
クラブスパイダーはボクを視認した時点で蜘蛛の糸を吐いてきたけど、吐いた瞬間にボクは全ての脚を切り落としていたからねぇ。……脚が落ちたから方向転換もできないし、これでチェックメイトかな? ……というか、もう死んでる? これ??
「……誰? っつうても、十中八九ローザ嬢だろうけど、とりあえず自己紹介頼めるか?」
ああ、バルトロメオ達も来たねぇ……そんなに騒いだつもりはないんだけど、見た目的に目立っちゃったかな? まあ、リーリエには劣るだろうけど絶世の美少女だし。
「まあ、それは夕食を食べながらゆっくりとねぇ。かなり暗くなってきたし、そろそろ用意するよ」
◆
<一人称視点・沫雪>
普通は、王弟とか大臣クラスが動くと大体専属のメイドがついてくる筈なんだけど、何故か今回の旅には同行してないんだよねぇ。……ラインヴェルドはボクをメイドか何かと勘違いしているのか……まあ、当たらずと雖も遠からずではあるんだけど。
ということで、本来なら毒味役が必要にも関わらず、何故かそのまま食事用テント(ちなみに中はダ・ヴィンチ村のレオナルド・ディ・セル・ピエーロの名画『最後の晩餐』に出てきそうな長テーブルが置かれていて、王宮の晩餐会で使われる部屋と比べても遜色がないレベルというどう考えてもキャンプで使うものではない)に王族も大臣も臣下も関係なく思い想いに座り、机の上に並べられた料理(茹でたクラブスパイダー……というか最早巨大な蟹の足とか、オーク肉で作ったフィレカツとか、獰猛なる牙猪と突撃鹿の二色の肉で作った猪肉バーガーと、鹿肉バーガーとか……なんかよく考えると胸焼けしそうだねぇ……)を、大倭秋津洲最高峰の名山の登山で食べるカレーは何故か美味しいと同じ空腹は最高の調味料だ理論で、猛烈な勢いで食べていくボク以外の全員……というか、みんな結構食べるねぇ。まあ、一番小柄なアクアが大の大人に匹敵するくらい食べているのはいつものことだからスルーするけどさ。
『やっぱり美味しいなぁ〜。圓さんの料理を食べちゃうと、もう元の生活には戻れないよ』
「ありがとう、ナトゥーフさん。料理人冥利に尽きるよ」
と、お礼は言ってみたけど、よくよく考えるとこれって古代竜に餌付けしてゲットした風に見られても別におかしくない状況だよね!? アルラウネ七人――ちなみに、七星侍女って呼んでいる――は従魔扱いだけど、古代竜は違うよ!!
ついでに、最近は呼び出していないけどメタモルスライムのペルちゃんは召喚獣……意外と難しいんだよねぇ、この区分って。まあ、ボクは分かっているからいいんだけどさ。
『お姉様、美味しいですわ! 人間なんか食べていたかつての自分が本当に馬鹿らしく思えてきます』
「ウン……ソウダネ」
最初は『そんな……お姉様と同じ席でお食事なんて、滅相もございません! 私達は光合成だけで充分ですわ!!』とジルイグスとイスタルティが全く遠慮をしない中、遠慮して同じ席に着かなかったんだけど、そんなこと無かったみたいに馴染んでいるねぇ、欅達。というか、言動が物騒すぎるんだけど。
ちなみに、アクアは最初からディランの隣に座っているし、ミーフィリアは当然の権利だと遠慮すらなく最初から椅子に座っていた……まあ、遠慮するような人じゃないよねぇ、この人は。
ラル達も肝が座っているからか普通に座って、ちょっとだけおっかなびっくりだったのがヴァケラー達冒険者チーム。
でも、まあバラバラに座ったペストーラ、スピネルと談笑しているし、ジャンローとハルトが紫色のロングヘアのほんわか天然お姉さんで不思議と色気のあるスピネルに釘付けになって、紅一点のティルフィに「男って馬鹿よね」……というか、若干嫉妬の篭った視線をスピネルに向けているし……もしかして、これってプチ修羅場?? ちょっとだけ不穏な空気だけど、緊張はしていないんだし、いいんじゃないかな?
「さて、そろそろ本題に入ろっか。このアカウントは、『End of century on the moon』第二位の通称『銀閃』の沫雪。『北欧美少女型終焉兵器』とか、『銀狼の凶戦士』とか、『世界観を間違えた天使という名の殺戮旋風』とか、『たった一人の厄災旅団』とか、『赤い瞳の死神』とか、『キラー・ピスクドール』とか……まあ、『銀閃』以外に真っ当な二つ名は無いねぇ」
「『銀閃』よりも、他の異名の方が似合っているように思えますが……」
「ターニャさん、何か言ったかな?」
「……いえ、何も」
うん、さっきのはきっと空耳だねぇ。こんな可愛い女の子が恐ろしいものみたいに呼ばれる訳ないよ。『漆黒の一人最終戦争』と呼ばれているどこぞの吸血姫様はあくまで創作の話だからねぇ……えっ、お前も似たようなものだって?? というか、下手するとあっちよりもタチが悪いって? ……またまた、どこかの本好きを拗らせた変態より億分の一くらいマシ、つまり常識人の範囲内だよ、ボクは……何か引き合いに出してはいけないものを出した気がするけど、失敗したかな? えっ、そもそも論点すり替えが発生しているって……ついでに、あれを引き合いに出したら殺人鬼も常識人になっちゃうって?? ……あれでも、まだ飛脚召喚しそうな自称モブくんよりはマシだと思うけど……まあ、別ベクトルだからねぇ……で、一体全体なんの話だったっけ??
ターニャを黙ら……じゃなかった、なんとなく全員に来歴を理解してもらったところで、スピネルから質問が飛んできた。
「……あの、ところでなんで二位なんですか?」
「「「「「「「「「「「「「『――あっ!?』」」」」」」」」」」」」」
一見天然ボケだけど、結構核心を突いた質問をしてくるねぇ、スピネルって。
まあ、その話もしないといけないか……なんでボクがランキング制のゲームで唯一、『End of century on the moon』だけ一位を取れなかったのか、その理由を。
お読みくださり、ありがとうございます。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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