Act.9-431 ビオラ商会合同会社・幹部会議 scene.1
<三人称全知視点>
エイリーンがミレーユとターリアを伴ってシャイロックのお見舞いに行った日の翌日、ヴィクスン商会会長のアマリア・艶花・ヴィクスンの姿はビオラ=マラキア商主国にあるビオラ商会合同会社の第一本社にあった。
ちなみに、ビオラ=マラキア商主国に移転する前にブライトネス王国にあった元本社は移転後も利用率が高かったことから第二本社という扱いになり、本社機能の一部も第一本社から戻されている。また、同じく利用率の高いフォルトナ=フィートランド連合王国の王都にあったビオラ商会合同会社の支社と旧フィートランド王国の王都に建てられた支社にも本社機能が与えられ、現在、四つの本社が各地に分散する形となっている。
この四つの本社は直接空間魔法で繋がれており、一つ一つの本社が実際に建っている場所は遠く離れているが、内部を移動する際にはその距離を全く感じられない。
アマリアはフォルトナ=フィートランド連合王国にあるビオラ商会合同会社の第四本社に護衛のロゼリエ=寒蘭=ベルヌーイと共に赴き、待っていたモレッティの案内で第一本社まで移動したのだが、その間、全くと言っていいほど海を越えた大陸へと移動したという実感が湧かなかった。
「本日、急遽開催されることとなった幹部会議は会長のアネモネ様、副社長を務めるジェーオ=フォルノア様、アンクワール=ゼルベード様、服飾雑貨店『ビオラ』店長で職人も兼任されているラーナ=フォーワルト様、服飾雑貨店『ビオラ』本店の店長であるアザレア=ニーハイム様、アゼリア=ニーハイム様、料理店『Rinnaroze』店長でアンクワール様のご令嬢のペチカ=ゼルベード様、警備員派遣会社『ビオラ・セキュリティ』のトップであるラル=ジュビルッツ様、そこに私、モレッティ=レイドリアスを加えた古参メンバーと、警備員派遣会社『ビオラ・セキュリティ』と共にビオラの闇の三大勢力を構築するビオラ商会合同会社警備部門警備企画課諜報工作局リーダーの白夜様、ビオラ特殊科学部隊リーダーのシア=アイボリー様、それと各分社長の皆様が出席されます。各分社はアネモネ様が各国から譲り受けた領地を管理する領主代理、名代と支社長の仕事を合わせたようなもので、現在九つある分社のうち一つが空席となっております。ドゥンケルヴァルト分社長はルイス=サヴォーノ様、ライヘンバッハ分社長は藍晶様、オルトザール分社長はアーソニー=カリッシュ様、ウォルザッハ分社長はソーニャ=コットンス様、インヴェルザード分社長はバリトン=ルキソフォン様、ジードラバイル分社長はイポメーア=ベルドゥジュール様、ヒューレイツ分社長はエンデミュオン=ロックハート様、グラリオーサ分社長はカモミーナ=シトロイン様が務めております。また、通常は幹部会議には出席しませんが希望する場合は傍聴や発言が可能な部門統括長という役職が各部門ごとにあります。ただ、こちらの方々は基本的に統括長会議の方に参加され、そこで出された議論の結果が幹部会議まで上がってくるという形となります。また、ビオラ社員が興味を持ったものについて、幹部会議の許可を得られれば、その企画に必要な資金を全てビオラが持つというチャレンジ・プロジェクトを希望する場合は事前に統括長会議に掛けることなく、直接幹部会議の議論まで持っていくことが可能です。……ただし、こちらは幹部全員の前でプレゼンテーションという形になりますので、会議とは少し違いますが」
「お話には伺っていましたが、ビオラ商会合同会社は領主の役割も担っているのですね」
「より、正確に言えば会長であるアネモネ様が賜った領地を分社長を頂点とした支社が治めているという形ですね。領民一人一人を社員とし、税を納めるのではなくそれぞれの支社で得られた利益を他の利益と総合し、そこから各国に収める税の源泉徴収、労働組合に所属している場合は労働組合費、企業年金、健康・労働保険料を引いた後の手取りを支払うという形になります。直接税を納めるか、事前に税金その他諸々が引かれたものを受け取るかの違いですね。何か困ったことがあれば、分社長に意見を伝える形になるのでその辺りも領主代理、代官と基本的には変わりません。一つ違いがあるとすれば、他の領地への移住が比較的簡単なことでしょうか? 部署から別の部署への異動のように異動願いを一つ出して承認されれば移住できますので、他の貴族が治める領地よりは簡単に移住することができます」
ロゼリエがモレッティにした質問の答えを無言で聞きつつ、アマリアはビオラ商会合同会社を乗っ取るために必要な隙となる部分を探していた。
アネモネは確かに人望溢れる人物なのだろう。これだけの領地を任されていることからも高い信頼を各国政府から得ていることが分かる。
しかし、それでも所詮は人間。できることには限りがある。
ビオラ商会合同会社が直接治めているのはビオラ=マラキア商主国のみで、残りの領地は全て分社長に一任している。アネモネが選んだ以上は信頼に足る人物ばかりだが、やはり代官――きっと各地の者達は不満を抱えている筈だとアマリアは予想した。
「ビオラ商会合同会社には十七の部門があり、一部の部門は幹部メンバーが兼任しています。ホームセンター部門統括長とソフトウェア開発部門統括長はジェーオ=フォルノア様、服飾部門統括長はラーナ=フォーワルト様、服飾部門副統括長はアザレア=ニーハイム様とアゼリア=ニーハイム様、出版部門統括長と融資部門統括長、保険商品部門統括長は私、書籍販売部門統括長はレネィス=リーヴル様、図書館部門統括長はグラヴェル=イッコン様、ブックカフェ部門統括長はミゼルカ=蒼華=スラッシュ=ラーテル様、食料品販売部門統括長はウィルクロッス=ラプツァファー、医療品販売部門統括長はナンシィー=シラクサ様、宝飾品金属加工販売部門統括長はドノヴァン=ヴォン=リューノヴァ=ダ=フェデッル様、銀行部門統括長はアンクワール=ゼルベード様、建築部門統括長は藍晶様、地下鉄運営部門統括長はポルツァマス=ビムトーイ様、異世界技術研究応用開発部門統括長はグローニン=フェイル様、警備部門統括長はラル=ジュビルッツ様、営業広報部門統括長はティエグル=ワノルイェ様、領地経営コンサルタント部門統括長はルイス=サヴォーノ様……この各部門の統括長のお名前は覚えておいた方が良いと思います。後は労働組合長のラインハット=マグノリア様ですね」
モレッティによる各部門統括長の紹介を聞きつつ、アマリアはビオラ乗っ取りの第一段階となる幹部会議に向けて気を引き締めた。
◆
「まずはお忙しい中、突然の幹部会議招集に応じてくださりありがとうございます」
「一番忙しく働いているアネモネ様が何を言っているんだろう?」という言葉を皆が飲み込んで始まった幹部会議には突然の招集にも拘らずジェーオ、アンクワール、モレッティ、ラーナ、アザレア、アゼリア、ペチカ、ラル、白夜、シア、ルイス、藍晶、アーソニー、ソーニャ、バリトン、イポメーア、エンデミュオン、カモミーナ――全幹部が出席し、会議の傍聴権を有する各部門の統括長も労働組合長のラインハットを除いて全員出席していた。
ちなみに、ラインハットは招集すると幹部陣営の働き方改革を訴えて長くなりそうだということで今回の幹部会議の通達は行っていない。そのため、臨時幹部会議が開催される通達を受けた全員が出席したということになる。
「本日、お時間を頂きたい理由は全部で二つあります。まずは、既に皆様もお気付きだと思いますが、この度ビオラ商会合同会社に新たな仲間が加わることになりました。ヴィクスン商会のアマリア・艶花・ヴィクスン様と護衛のロゼリエ=寒蘭=ベルヌーイ様です。ヴィクスン商会はペドレリーア大陸で五大商会の一角に数えられる商会なのですが、スクルージ商会の一件でご挨拶とご提案に伺った際にビオラ商会合同会社への傘下入りを提案されました。皆様に相談なく決めてしまったことは申し訳なく思いますが、アマリア様をこの度、分社長待遇でビオラ商会合同会社に招くことになりましたので皆様ご理解のほどよろしくお願いします」
五大商会の一角に数えられるほどの大商会の長が無条件で傘下入りを自ら提案したという話は怪しい以外の何者でもないが、アンクワール達は「まあ、圓様のことだし何か目論見があってのことだろう」と異議を唱えることは無かった。
ここで反対意見が出ると踏んでいたアマリアはその好意的な反応に「こいつらは平和ボケしているのか。乗っ取られる可能性を考えて危機感を覚えることはないのか(意訳)」と拍子抜けすると共にその無防備過ぎる姿勢を心の中で嘲笑った。
「つまり、幹部待遇でアマリア様を受け入れるということですね」
「……黎明期からビオラを支えてきた皆様にとっては不服かもしれませんが」
「ペドレリーア大陸の五大商会の長というのであれば、その対応は当然だと思います。……というか、そもそも旧三大商会の一角の商会長や秘書殿はともかく俺みたいな奴が副社長の地位にいるのがおかしいですからね。アマリア様よりもキャリアが劣る俺が上司になるのはおかしいと思いますし、これを機に副社長は辞任して一兵卒に戻ることをお許し頂けないでしょうか?」
「――ッ! ジェーオさん、貴方は自分のことを過小評価し過ぎです!! それを言うなら私も元はただの情報屋ですよ!」
「ジェーオ殿、モレッティ、私達はずっと三人でアネモネ様をお支え……いや、それほどアネモネ様の役に立っていなかった気がするが、側近としてやってきたではないか。……私はアネモネ様に選んで頂けたことを誇りに思ってこれまでやってきた。その判断は我々を選んでくれたアネモネ様の顔に泥を塗ることになるのではないか?」
「泥を塗ったことになるか否かは別として、私は一人ではビオラ商会合同会社をここまで経営することはできなかったと思います。皆様の尽力があったからこそ、これほどの成長が望めたのだと思いますよ。……現在の副社長三人体制を変えるつもりはありません。まあ、皆様が私の会長辞任を願うのであれば会社の体制に大きな変化が生じることになるとは思いますが」
「……あの、アネモネ様? それはまずあり得ないことかと。この商会はアネモネ様の人望で成り立っています。そのアネモネ様が会長を辞任されるとなれば、ビオラ商会合同会社は崩壊すると思いますわ」
ビオラ商会合同会社の幹部達や会長が辞任を提案する異常事態はアマリアが全く予想していなかったものだった。
その流れはビオラ商会合同会社の乗っ取りを狙うアマリアにとってはこれ以上のない好機なのだが、アネモネが予想以上の人望を有していることや、幹部の結束が強固なことからなかなか思うような方向に話は進んでいかないようである。
「……それなら、私もこの際幹部を降りたいわ。接客のお仕事も全てアザレアさんとアゼリアさんに任せきりだし、私が統括長である状況に不満を持っている人はいっぱいいると思うのよ」
「――それはあり得ません!!」
「服飾雑貨店『ビオラ』はラーナさんのお店です! 私達に統括長を務められる筈がありません!」
「アザレアさんとアゼリアさんの仰る通りですよ。ずっと服飾雑貨店『ビオラ』を守ってきたラーナさんだからこそ、服飾部門の統括長に相応しいのです。……他にも仰りたいことがある方もいると思いますが、私はこの体制をこれからも維持したいと思っておりますので、ご理解のほどよろしくお願いします」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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