Act.9-424 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜ビオラ・スクルージ商会戦争〜 七章〜盗賊崩れの傭兵団の襲撃、或いはスクルージ商会崩壊への序曲〜 scene.1
<三人称全知視点>
セントピュセル学院の改修工事に向け、具体的な改修の方針を決めるために、オルレアン教国にビオラ商会合同会社建築部門の代表者が二人派遣されることが決まった。
一人は建設部門の統括長であり、同時に常に現場の最前線に立ち続け、建設部門を牽引する棟梁の称号に相応しい名工である藍晶、そして、もう一人は建設部門設立直後から藍晶の補佐として設計に携わり、多くの建設現場を支えてきた影の立役者である設計師長のリルー=ハイドランジアである。
藍晶が優れた大工職人であると同時に、優れた剣術の使い手で時空騎士に選ばれるほどの実力者であることはベーシックヘイム大陸の多種族同盟加盟国の中では周知の事実だが、ペドレリーア大陸ではその事実が知られていないどころか、犬狼牙帝という種族……そもそも、魔物という存在に対する理解もほとんどない状況である。
その力が抑止力として機能するかも未知数であること、また流石に護衛抜きでオルレアン教国に赴くのは舐められる要因になりかねないということで、五人の護衛が同行していた。
四人の護衛はいずれも女騎士に扮したビオラ商会合同会社警備部門警備企画課諜報工作局――諜報部隊フルール・ド・アンブラルの諜報員である。
しかし、五人目の女性は諜報部隊フルール・ド・アンブラルに所属する諜報員ではない。
その五人目の女性――肩まで届くほどの長い濡れ羽色の髪には金色と深緑色の髪とプラチナブロンドの髪が混ざったようなオーロラグリーンと呼ばれる特別な色の髪が二本だけ混ざっているという稀有な髪色をした群青色と金緑色のオッドアイを持つ少女は漆黒色のブラとショーツを曝け出し、馬車の中で豪快に高鼾をかいていた。
女性としての恥じらいをどこに捨て去ったのか、異性がいるにも拘らず(いや、同性であってもアウトだが)、豪快な寝相を晒している女性に、リルーは目を覆いたくなり、藍晶は『そんな格好で寝ていたら風邪をひいてしまうのではないか?』と見当違いな心配をしていた。
馬車の床でドーンと倒れている少女の背後には漆黒の鞘に金泥で美しい紋様が描かれた美しい刀が立てかけられていた。
椅子の上には無造作に『カゲロウCR-1』にもよく似たビームサーベルの柄が複数置かれていることから、彼女が剣士であることは伺える。恐らく、漆黒の鞘の刀の方がメインの武装なのだろうと藍晶は推理していた。
「ふぁぁ……よく寝た。後どれくらいでオルレアン教国に着きそうですか?」
『オルレアン教国の国境までは後二時間ほどというところですね。そこからセントピュセル学院までは距離がありますから、それ以上の時間は掛かりますね』
「うーん、じゃあ後二時間以内かな? この格好だと痴女だと思われそうだし、そろそろ着替えておこうかな?」
変身を解除するのとほぼ同時に再び魔法少女に変身することで、着替えるという行為をショートカットした黒と橙色を基調としたドレスを身に纏う現身級の人造高級魔法少女――ルスワールは大きく伸びをすると立ち上がった。
「あの……これから何か起こるのですか?」
「リルーさんはスクルージ商会という商会について何か聞いていますか?」
「えぇ、多少は。圓様によれば、ビオラ商会合同会社を恨んでいるペドレリーア大陸の五大商会の一角に数えられる大商会だとか。その商会が……まさか、それでこれだけの護衛を揃えたのですか?」
「察しが良くて助かりますわ。ビオラ商会合同会社の拠点はベーシックヘイム大陸に置かれ、フォルトナ王国の飛び地――フィートランド大公領までは時空魔法で商品が輸送されています。元からペドレリーア大陸に基盤を有していないため、我々にとって不利な噂を流しても効果は薄く、取引相手も少ないので圧力や根回しを使って販路を潰すのも厳しい。彼らにできるのはもう実力行使だけです。オルレアン教国に向かうビオラ商会合同会社の馬車を襲撃して、セントピュセル学院の改修工事計画を阻止する。そして、あれだけ大風呂敷を広げておきながらビオラ商会合同会社から人員が派遣されてこないことを利用して、ビオラ商会合同会社は約束を平然と破る信用するに値しない商会だとレッテルを貼るつもりなのでしょうね」
「……正直、あの金の亡者といえども流石に直接的な武力行使を使ってこないのではと思っていましたが、ここまで思うように事が運ばないことが重なれば、危機感を覚えてあらゆる手を使ってくるようになるものなのですね」
シャイロックは金を狂信する悪党だが、二つの世界線でミレーユの前に立ち塞がったシャイロックは最後まで決して武力には訴えなかった。
商人として狡猾に策を巡らせていた彼の人物像を聞かされていた諜報員のゾフィーは、それほどまでにビオラ商会合同会社がシャイロックに与えた危機感が凄まじいものであったのだと察した。
「……オルレアン教国に入れば警戒も強まります。流石にそれまでに手を打つつもりだとは思っていましたが、やはり仕掛けてきましたか。……敵は盗賊崩れが二十人。すぐ近くには依頼主のスクルージ商会の関係者もいるようです。どうなさいますか? 先輩方」
目をキラキラとさせて戦いたそうにしているルスワールに、ゾフィー、イェレナ、マルセラ、ミッシェル――四人の諜報員達は「要するに私が戦いたいから全部寄越せということね」とルスワールの言葉の意図を察して溜息を吐いた。
「では、我々はスクルージ商会の関係者を捕らえましょうか? ……流石にこの人数は必要無さそうですね」
『ふむ、ではその仕事、私が引き受けようか?』
「本日の藍晶様は護衛対象です。頼みますから、大人しく馬車の中に居てください!」
結局、盗賊崩れ二十人はルスワールが対処し、ジャンケンで勝利したイェレナがスクルージ商会の関係者の捕縛を、残る三人が藍晶とリルーの護衛をすることとなった。
「おいおい、誰が出てくるかと思ったらドレス姿の嬢ちゃんじゃねぇか。一端に剣なんて持って騎士気取りかよ?」
「なかなか良い体しているじゃねぇか。ちょっと味見するくらいのことはダンナも許してくれるよな?」
現在、馬車がいるのは街から程遠い地点の街道である。周囲に他に馬車はいないため、助けを呼ぶこともできない。
ビオラ商会合同会社が使うであろうルートを事前に割り出し、この地点でならば確実に闇討ちができると判断して盗賊崩れの傭兵を配置したのだろう。
「私は高潔な騎士道精神を持ち合わせていませんが、弱者を痛ぶる趣味も持ち合わせておりませんわ。私にとって最高の美酒とは強者との戦い、ただそれだけです。我が双剣、『焔昼剣ラジュルネ』と『喰夜剣ラニュイ』を抜くまでもありません。それどころか、『ルミタンRR-1』でも良い戦いは演じられないでしょう。……では、固有魔法抜き、近接戦闘技術のみで今から皆様をボコって差し上げましょう!」
炯々と目を輝かせるルスワールに「どこが、弱者を痛ぶる趣味も持ち合わせておりませんだよ! 思いっきり自尊心粉々に砕きにいっているじゃねぇか!(意訳)」とゾフィー達が心の中でツッコミを入れる中、先に動いたのはルスワールの挑発に乗った盗賊崩れ達だった。
「ンだと!? 良い気になりやがって!! 行くぞ、てめぇら!! 俺達の強さをこの生意気なクソアマに分からせてやるぞ!!!」
盗賊崩れ達は一斉に抜刀するとルスワールに斬り掛かる。既に背後の馬車は眼中に無くなっているらしい。
……まあ、仮にルスワールに攻撃を仕掛けると見せかけて馬車への不意打ちを行っても不意打ちを止めて返り討ちにできる程度の戦力差が存在しているのだが。
ルスワールは華麗に盗賊崩れ達の攻撃を躱しつつ、掌底や拳、蹴りを叩き込んで次々と気絶に追い込んでいく。
武装闘気すら纏っていないそのままの状態でも高い身体能力を誇る魔法少女の膂力があるため問題ないようである。
「……あーあっ、眠気覚ましにもなりませんでしたわ。イェレナさん、例の方は?」
「既に捕らえております。これから、私は本部へと移送し、例の作戦を実行します」
「では、ついでに彼らも連れて行ってはいただけないでしょうか? ……これくらいの迷惑料は頂いてもバチは当たらないと思いますが」
「……圓様はスクルージ商会の関係者を捕らえた場合のことのみ決めておられました。襲ってきた傭兵達の処遇について何も仰られなかったれということは何か別のお考えがあるのかもしれません。一先ず本部へ移送した後、圓様に彼らの処遇を決めて頂きましょう。どちらにしろ、圓様しか処置を施せませんからね」
イェレナは盗賊崩れの傭兵二十人とスクルージ商会の関係者一名を連れて転移する。
イェレナが転移したのを見送った後、藍晶達は再びオルレアン教国を目指して馬車を走らせた。
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