Act.9-420 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜ジェルエナ=コーツハート、フィクスシュテルン皇国に現る〜 scene.4
<三人称全知視点>
「かっ、金縛りが解け……いや、違う! まさか、強力な金縛りを気合いだけで打ち破ろうとしているの!?」
ソアンジーナが驚愕する中、ジェルエナは尋常ならざる精神力で身体を強引に動かし、懐からナニカを取り出す。
「あっ、あれは、まさか魔人の種子!? タイダーラ、なんてものをッ!!」
「させませんよ! 風よッ!」
汀が行動に移すよりも、円華がジェルエナから魔人の種子を奪いに掛かるよりも早くネストが風を操作してジェルエナの手から魔人の種子を奪い取った。
「……ジェルエナ、貴女は私達と同じよ」
「やめて……違うッ! 違うの!!」
「この世界はユーニファイド……百合薗圓さんという方が仲間達と共に作り上げた三十のゲームが融合した異世界。私もネストさん達もその登場人物だったわ。……でも、異世界になって私達は物語の登場人物ではなくなった。自分で道を決めて好きな人生を歩むことができる……バッドエンドだって努力次第でハッピーエンドに変えられる。私が、ジェルエナ、貴女によって引き起こされる筈だった最悪の未来を変えられたように」
「……ええっ、分かったわ。……つまり、私の不幸な運命はその百合薗圓のせいなのね」
「……ジェルエナ、義姉さんに殺意を向けるのであれば今ここで抹殺しますよ」
「ネストだったかしら? 貴方だって物語の登場人物なんでしょう!? 沢山酷い目に遭わされたのでしょう!! なのに、なんで平然としてられるのよ!!」
「……圓様は、義姉さんは物語が異世界になるなんて想像していなかった。ただ、遊ぶ人みんなが幸せになって欲しい、その思いでゲームを作っていたんだと思います。物語である以上、良いことばかりではいけない。波瀾万丈があって、沢山苦しいことがあって……だからこそ、物語は物語になる。……この世界に義姉さんが召喚され、転生し、僕達のことを知ってから義姉さんは罪悪感でずっと押し潰されています。ずっと不幸なことを、苦しみを強いてしまったことを沢山後悔しています。……この世界が異世界になった時点で変えられる運命は自ら切り開くことができるというのに。……勿論、変えられないことだってあります。それでも、変えられることの方がずっと多い。義姉さんは例え、僕達に恨まれる可能性があったとしても、ずっとその運命を変えようと率先して動き続けています。そんな義姉さんを尊敬したことはあっても、恨んだことは一度もありません。僕は貴女のことは何も知りません。貴女の過去は圓様達――開発チームが設定しなかったもの、異世界になったことで辻褄を合わせるために生まれたものですから。……だから、貴女に圓様は直接過酷な前世を強いた訳ではないのです。それでも、義姉さんを恨むのですか?」
「わ、私は……それなら、私は……一体」
「物語の登場人物でも、転生者でも、何も変わらない。貴女は何をしたいのですか? その願いが、貴女の答えですよ」
自分が物語から生まれたことを知りながら、運命を変えようと努力し、未来を切り拓いてきた――そんなネストの姿がジェルエナには、椎奈美織には眩しく見えた。
「……円華様、私は『幸せ』になっても良いのでしょうか? ヒロインだと錯覚し、貴女の大切なものを踏み躙った愚かな女は、『幸せ』になっても良いのでしょうか?」
「誰にだって幸せになる権利はあると私は思います。……物語はもう終わったんです。役割を強制されることはもうないのですから。……ジェルエナさん、貴女も幸せになってください」
「円華様、イリオット皇帝陛下……申し訳ございません。謝って済む話ではないと思いますが、別の世界の私が行ったことは、今の私が行おうとしていたことそのものです」
「……円華が許すのであれば、私が言うことはない」
「セレンティナ様……本当はここで諦めるのが筋だと思います。私は、貴女の大切を踏み躙ろうとしたのですから。……でも、私はこの気持ちを捨て切ることはできません。イリオット殿下への憧れは本物ですから。だから、私は全力でイリオット殿下のお心を奪いに行きます! 覚悟してくださいね!!」
「そ、そんな……魅力のない私では絶対に殿下に愛想を尽かされてしまいますわ」
「……いいや、姉さんに限ってそれはないと思うよ」
「断言しよう、ジェルエナ=コーツハート、お前に俺が惚れることはあり得ない」
憑き物が落ちたように満面の笑みを浮かべてジェルエナがセレンティナに挑戦状を叩きつけ、セレンティナが自信無さそうな表情を浮かべ、ギィーサムとイリオットがセレンティナのフォローに回る。
そんな光景を円華達は少しだけ眩しそうに見ていた。
「……これで、ジェルエナ様の一件は解決ですね。では、私は一足先にブライトネス王国に向かいますわ」
「ソアンジーナさん、お疲れ様でした」
「……ネスト殿、汀殿、クレール殿、デルフィーナ殿、円華殿、イリオット、バイオリート殿、ミサリアーヌ殿、シトロリーナ殿。本当に感謝しても仕切れない。そなた達のおかげで平穏を取り戻すことができた。……コーツハート男爵令嬢の誘拐事件のことなどまだまだやることは山積みではあるが」
「そちらは我々ではできませんので、陛下、よろしくお願い致しますわ」
「……致し方ないか。……それで、今後のことであるが……」
「混乱を招くため、別世界のイリオット陛下にはベーシックヘイム大陸に来て頂きます。円華様、バイオリート様、ミサリアーヌ様も同様ですね。我々もラスパーツィ大陸での任務が本日この時をもって完了致しましたので、本国に帰還しますが、一部の人員は残していきます。話し合いを終えて多種族同盟に加盟するか否かが決まりましたら、残っている諜報員までご一報ください」
◆
コーツハート男爵令嬢の誘拐事件はその後、トレジャーハンターによって捕らえていた盗賊が討伐されて解放されたというシナリオで区切りがつけられることとなった。
そのトレジャーハンターとは円華がセレンティナであった頃、手解きを受けたヴァンジャンスである。勿論、協力を取り付けるために交渉役を買って出た円華はヴァンジャンスと交渉をしており、その過程でこの世界の秘密についても話している。
久しぶりの師匠との時間を円華は楽しんだ。
イリオットとバイオリートとミサリアーヌが嫉妬を滲ませていたが、シトロリーナ達の活躍で特に刃傷沙汰も起こることは無かった。……まあ、かなり危ない場面もあったが。
円華達はその後、フィクスシュテルン皇国の皇城で数日過ごした後、ブライトネス王国へと帰還した。
暫しの別れだが、今生の別れではない。フィクスシュテルン皇国が多種族同盟に加盟すれば、頻繁にとは行かないまでも会うためのハードルは格段に低くなるだろう。
特にイリオットとギィーサムが中心となり、セレンティナやジェルエナ、その他攻略対象の協力もあり、フィクスシュテルン皇国の多種族同盟加盟の議論は肯定的な意見が多数を占める形で進んでいる。
そう遠くない未来にフィクスシュテルン皇国は多種族同盟加盟に加盟することになるだろう。
「――以上が、フィクスシュテルン皇国での臨時班の活動の報告になります」
「シトロリーナさん、ありがとう。ソアンジーナさんも潜入任務、お疲れ様でした」
二人から報告を受けたリーリエ姿の圓がシトロリーナとソアンジーナに労いの言葉を掛ける。
「しかし、少し意外だったねぇ。まさか、ジェルエナさんと和解するなんて。……円華さんも随分とお人好しだねぇ。まあ、彼女らしいと言えばらしいんだけど。円華さんの視点から見れば憎い相手だった筈だけど、彼女もまた物語の登場人物として汚れ役を押し付けられた被害者であると考え、同情の余地があると判断したんだろうねぇ。……まあ、シナリオの影響は絶大で、自分の力ではどうしようもできないことも沢山ある。彼女の前世の境遇に関してはボクも彼女に謝罪しないといけないねぇ。まあ、謝ったところで許してもらえるような話でもないんだけど」
「……あの境遇は異世界化によって生じたものです。圓様が謝罪をする話ではないと思いますが」
「不幸な境遇を強いたのには違いないし、ボクにも非があるよ。近々、時間を作ってジェルエナさんに謝罪しに行かないとねぇ。……まあ、とにかくこれでラスパーツィ大陸での任務は終了だねぇ。各国の多種族同盟に加盟するかどうかの意思確認という仕事は残っているものの、『這い寄る混沌の蛇』は壊滅状態に追い込めたし、当初の目的は全て達せられた。こうして、中間地点を越えられたのは単に臨時班のみんなや彼らを支えてくれた君達のおかげだよ。改めて、本当にありがとう」
「「勿体無いお言葉ですわ!」」
シトロリーナとソアンジーナが去った後、圓は大きく伸びをした。
ラスパーツィ大陸での任務は最高の結果で幕を閉じた。しかし、ここはまだ中間地点――二大大陸並行臨時班の本番はここからである。
「まずは、シャイロックだねぇ。……さて、どうやって料理しようかな?」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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