Act.9-418 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜ジェルエナ=コーツハート、フィクスシュテルン皇国に現る〜 scene.2
<三人称全知視点>
「状況をおさらいしましょう。コーツハート男爵領でティ=ア=マットの海賊達に誘拐されたジェルエナはタイダーラ・ティ=ア=マットと海洋都市レインフォールで会った後、ティ=ア=マットの海賊達から資金提供を受けるとその資金を旅費として皇都を目指し始めました。そして、部下からの報告で本日、ジェルエナがこの皇都に足を踏み入れたことが分かりました」
フィクスシュテルン皇国の皇城――謁見の間にて。
人払いされたその場にはネスト、汀、クレール、デルフィーナ、円華、セレンティナ、ギィーサム、イリオット、エルストス、フォビア、ラポワント一世、アンガートン騎士団長、皇帝イリオット、バイオリート、ミサリアーヌ――ジェルエナとの戦いの鍵を握る面々が集結していた。
イリオットから既にエルストスとフォビアから必要な情報は提供されているが、シトロリーナは確認のために現在の状況を説明する。
「……少しジェルエナの動きが遅かったようですね。誘拐され、タイダーラと邂逅したのは我々がラスパーツィ大陸を訪れる少し前。……流石にこのタイミングで皇都への到着はあまりに遅過ぎる気がします」
「ネスト様の仰る通り、本来ならとっくの昔に到着していてもおかしくはない状況でした。……ジェルエナとしても、一刻も早く攻略対象を誘惑してハーレムを築きたかったところでしょうが、彼女には欲望を我慢しても優先しなければならないことがあったのですわ」
ギィーサム、イリオット、エルストス、フォビアが揃って顔を顰める。
セレンティナはイリオット達が揃って自分の敵に回る未来を想像したのか、ブルブルと震えていた。
「……既に魅了の力は手に入れているのよね?」
「えぇ、食べた相手の心を鷲掴みにして洗脳してしまう特別なクッキーのレシピは既にジェルエナの手に渡っています。しかし、タイダーラはそれだけでは心許ないと判断したのか、『絶対魅了洗脳の呪術』という闇の魔法をジェルエナに授けたようです。この魔法は視線を合わせてしまった人間を自分のことを愛するように洗脳してしまうというものですが、かなり長時間目線を合わせなければ洗脳ができないという重大な欠陥を抱えています。その欠陥を解消し、より強力で即効性のある魔法にするために魅了魔法を増幅する『イグシア鉱石』を手に入れるためにイグシア王国まで足を運んでいたようですわ」
イグシア王国はラスパーツィ大陸に存在する小国の一つだ。
これといって特筆することもない小さな国で主な産業は農業。宝石が算出するといったこともないため、鉱山産業とも無縁である。
「……イグシア鉱石ですか? 聞き覚えがないです石ですね」
「まあ、フィクスシュテルン皇国随一の大商会ルーヴゼント商会のご子息でもご存知ないでしょうね。その鉱石の価値が判明するのは、どこぞの暴君の時代ですから」
「イグシア鉱石はラスパーツィ大陸で唯一イグシア王国だけで算出される鉱石だ。偶然発掘されたこの鉱石には電撃を吸収するという特殊な性質があることが発見されていた。……まあ、当時はそれ以上のことは分からず、応用の研究が始まったばかりだったがな」
「作中で語られていないため、円華様もご存知ないとは思いますが、イグシア鉱石には大きく二つの性質があります。前者は先ほどご説明した魔法を増幅する性質。そして、後者はあらゆる電波や電磁波を吸収する性質です。……今回、後者は関係ありませんが、完璧なステルス兵器を作る時に必須となりますわね。ちなみに、我々もVSSCから依頼を受け、不法入国にて既にいくつかサンプルを採掘・回収しておりますわ」
「……今の話は聞かなかったことにしよう」
地雷臭を感じ取ったラポワント一世が、この件にはお関わりたくないという意思を表明すると、シトロリーナは「お心遣い、感謝致しますわ」とメイド服で美しいカーテシーをした。
「流石はベーシックヘイム大陸が誇る最高の諜報機関……と言いたいところだが、本当にそれほどの情報を遠方から観察しているだけで入手できるものなのか?」
ここで疑問を口にしたのはエルストスだった。
ここまでの話でビオラ商会合同会社警備部門警備企画課諜報工作局の実力を思い知らされたエルストスだったが、それでもそんなに近場で潜入を続けて見つからないものかと疑問に思ったのである。
「以前、私はジェルエナ=コーツハートに張り付いている諜報員が情報を収集して報告しているとお話ししましたが、語弊がある言い方でした。現在、ジェルエナの情報収集を行っている諜報員は三名――そのうち二人は皆様の想像するような方法で少し離れた場所から情報を収集していますが、もう一人はジェルエナと行動を共にしておりますわ。イグシア王国への秘密裏の入国もイグシア鉱石の不法発掘も全てこの諜報員がジェルエナと共に行っています」
これには、円華達だけでなく圓と付き合いの長いネストまで驚いたようで「はっ?」とらしくない声を上げた。
「今、ジェルエナは誰と行動しているのか、そういえば聞いていなかったね。……時間は掛かり過ぎているけど、助言をもらったとはいえジェルエナ一人で動いているにしては少し行動が早い気がする。……同行者がいる可能性は考えていたけど、ティ=ア=マットの海賊達ではないとすると『這い寄る混沌の蛇』の関係者辺りかな?」
「えぇ、ダウズ=ルーローという『這い寄る混沌の蛇』の信徒ですわ。かつて海洋都市レインフォールの史上最悪のブラック企業と呼ばれていたディープシー社で社員として働いていた彼は些細な失敗でクビになり、路頭に迷っていたところを『這い寄る混沌の蛇』から勧誘されて仲間に加わったようですわね。ディープシー社の破滅は彼が失職してから三年後に起こったようですが、彼が裏で手を引いて崩壊に追い込んだという噂もありました。……彼はディープシー社の崩壊後も海洋都市レインフォールで混沌を広めるべく活動していました。ティ=ア=マット一族とも交流を持ち、タイダーラから優秀な手駒に数えられるほどまで信頼を勝ち得ていたようですよ。それほど御誂え向きな人材をそのままにしておくのは勿体無いので、タイダーラ達の目を掻い潜り、秘密裏にダウズを捕縛――圓様に助力を願い出て御自ら彼を洗脳して頂きました。今では『這い寄る混沌の蛇』への信仰心を一切捨て去り、新たな人生をお与えになった圓様への感謝を胸に潜入捜査員として頑張っていますわ」
「……義姉さんらしいと言えばらしいけど……できるんだね、『這い寄る混沌の蛇』の信徒の洗脳なんて」
「……そこまで執着心の強そうな『這い寄る混沌の蛇』の信徒の心を折って別人にしてしまうなんて……本当に恐ろしい人だよね。あたし、直接敵対しなくて本当に良かったと思っているよ。……まあ、ネストさんも相当恐ろしいけどさ」
「私もデルフィーナも母を殺された怒りに身を焼かれていたとはいえ、とても恐ろしい真似をしてしまったと後悔しているわ」
「……あの時は、圓さんの慈悲で不問にしてもらえたけど。……それに、あの時、私がこの道を選んでいなかったら大切な人を救える可能性を掴み取ることだってできなかった」
シャッテン・ネクロフィア・ シャハブルーメの『死者蘇生』によってメリエーナやアーネェナリアと同じようにグローシィも復活する可能性が出てきている。
二人の知らないところでグローシィは自らの命を燃やし、その炎を戦争の引き金とした。
しかし、今回は違う。二人の手の届かない場所ではなく、二人も参戦するあの戦場に彼女も姿を見せるだろう。
自らの手で母を取り戻すチャンスが……二度と訪れる筈のなかったチャンスが偶然転がり込んできたのだ。
ならば、それを逃す訳にはいかない。……これを逃せば二度と家族を取り戻すことはできなくなるのだから。
「……つまり、ジェルエナ包囲網は既に完成しているのね」
「まだ画竜点睛を欠いています。皆様にこちらを」
円華は皇都到着時点でジェルエナを追い詰める包囲網が完成していると思っていたが、円華は肝心なことをすっかり忘れていた。
シトロリーナは少し抜けている円華に呆れ顔を向けつつ、セレンティナ、ギィーサム、イリオット、エルストス、フォビア、ラポワント一世、アンガートン、皇帝イリオット、バイオリート、ミサリアーヌに指輪を手渡していく。
「状態異常を無効化する魔法を使える方はベーシックヘイム大陸から来た臨時班の面々に限られます。魔法を習得している円華はともかく、他の方々は魅了に無力です。そこで、この指輪が必要となります。この指輪には、大気中の魔力を取り込み、自動で状態異常を無効化する魔法を常時発動する効果があります。この指輪を装着している限り、ジェルエナに攻略対象の皆様を魅了することは不可能です」
「これで、今度こそ包囲網の完成ということですね」
「えぇ、ネスト様。……ダウズ、いえ、ソアンジーナさんは皇城の方に誘導してくれているようですし、もう間も無く到着すると思います。それでは皆様、決戦に向けて準備を進めてくださいませ」
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