Act.9-415 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜ビオラ・スクルージ商会戦争〜 五章〜アルマトゥーラ商会と、アンルワッフェ侯爵への謁見〜 scene.1
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン・レインフォール>
ヴィクスン商会での面会を終えたボクとソフィスはその足でアンルワッフェ侯国へと向かった。
……まあ、実際に足で移動した訳でも、転移系の力を使った訳でもなく飛空艇に乗ってアンルワッフェ侯国の王城の上空まで空の旅をしただけなんだけどねぇ。
当然、空飛ぶ船なんてものが現れたのだから王城は大パニック。そして、迎撃するべきか、静観を決め込むべきか、交渉の席を設けるべきか――方針すら決め切れずに騎士達や国家上層部があたふたする中、「あっ、これがあの飛空艇ですか!? まさに、浪漫ですね!!」と王城の窓から顔を覗かせ、興奮する空舟清七……君、一体何しているの?
「本日、侯爵様とカルパッチョ殿と面会を約束していたアネモネですわ」
ソフィスと共に飛空艇から飛び降りつつ、『統合アイテムストレージ』に飛空艇を戻す。
「……まさか、あの高さから飛び降りて無傷とは。流石は『Eternal Fairytale On-line』のプレイヤー……ですが、ソフィス伯爵令嬢は確か乙女ゲームの登場人物ですよね? それにしては流石に身体能力が常人離れしているようですが」
一先ずボク達が敵ではないと判断し、騎士の一部が裏付けを取るために王城に戻り、残りの騎士達が念の為に警戒態勢を取る中、一人だけズレた疑問を浮かべるカルパッチョ。
……うーん、少し遠いねぇ。風魔法で拡声すればいいかな?
「精神の力を用いて身体能力を底上げする技術や長い訓練を重ねることで人体を武器に匹敵させる体術が存在しています。ソフィス様はその技術を使って華麗な着地を決めたのですわ。今のソフィス様は魔法抜きでもある程度のレベルの騎士程度なら余裕で倒してしまえると思いますわ」
騎士達は「本当にこんな非力そうな貴族令嬢(?)にそんなことができるのかよ?」っていう顔をしているけど、魔法抜きってだけで闘気や八技の使用はありって話だからねぇ。まあ、闘気による身体強化の底上げ無しでも闘気や八技の心得のない騎士程度なら倒せる水準まで達しているんじゃないかな? 何がそうさせるのか知らないけど、ソフィスの成長速度は異常だからねぇ。
何故か降りてこないカルパッチョとあまりにも非効率的な会話をしていると、王城の中庭に護衛を伴った紳士が姿を見せた。
しかし、流石はライズムーン王国の英雄の一族の当主だねぇ。一見すると長身痩躯に見えるけど、着痩せするタイプなのかよくよく観察すれば鍛え抜かれた体の持ち主であることが分かる。
鋭く見開かれた瞳には怜悧な知性が宿っており、文武両道を体現した人物であることが読み取れる。
「カルパッチョ殿からお話は聞いております。閣下のお立場を考えれば、本来ならばこちらから出向くべきところ。……まずは、閣下に足を運ばせてしまったこと、謹んでお詫び申し上げます」
カルパッチョから話を聞いたからか、アンルワッフェ侯爵は遜る姿勢を見せた。
当然、騎士達の間にも激震が走る。……アンルワッフェ侯爵が頭を下げるとすれば彼が仕えるライズムーン王国の国王くらいだろう。
それなのに、アンルワッフェ侯爵はどこの馬の骨かも分からない女商人に頭を下げている。……一体何がどうなればそのような態度を取ることになるのかと疑問を覚えるのは当然のこと。勿論、ボクも困惑している。
「それは、私が多種族同盟の議長を務める三つの国の主であることを踏まえての態度ですか? それとも――」
「勿論、両方でございます。……ご挨拶が遅れました。私はグリューエグ・アンルワッフェと申します。それでは、応接室までご案内致しましょう。――すまないが、カルパッチョ殿を応接室まで連れてきてはもらえないだろうか?」
侯爵自ら応接室に案内するという前代未聞の状況に騎士達も困惑する中、グリューエグは騎士の一人にカルパッチョを応接室まで連れてくるよう指示を出すと、ボクとソフィスを応接室まで案内した。
応接室に到着し、侍女達が給仕を終えると侍女達に部屋からの退出を命じた。
人払いがなされた応接室にはボク、ソフィス、カルパッチョ、グリューエグの四人だけが残される。
ところで、今日はアンドリュアスがいないみたいだねぇ。まあ、彼もこの世界の秘密を知っている側の人間だし、後でカルパッチョの方から説明するつもりなんじゃないかな?
「先程の私への対応から察せる部分もありましたが、改めてお聞きしましょう。……グリューエグ侯爵様はどの程度ご存知ですか?」
「カルパッチョ殿がアネモネ閣下からお聞きした話は全て報告を受けております」
「では、この世界の真実や私の前世については割愛し、『這い寄る混沌の蛇』に関することを中心にお二人が気になっていることを話していきましょうか? ……というか、そこまでご存知なら普段の口調に戻しても問題なさそうだねぇ。それじゃあ、本題に入る前に何故、前回ボクがカルパッチョさんに『這い寄る混沌の蛇』に関する話をしなかったのかという点について話そうか?」
「それ、私もずっと気になっていました。……あの場に『這い寄る混沌の蛇』に関する話をする訳にはいかない理由があったのですね」
「前回の訪問の際、ボクとソフィスさん以外にも同行者が居たことを覚えているかな? 実はボク以外の同行者は全員姿を偽装していたんだ。まあ、ソフィスさんに関しては今も姿を偽装しているんだけどねぇ。現在のソフィスさんはこの世界に転生した時の姿、ローザ=ラピスラズリと同い年だから」
「魔法学園の本編が始まっていない状態だと聞きましたので、ソフィス伯爵令嬢はまだ未成年ですよね。……正直、あまり実感は湧きませんが。女の子の方が早熟という傾向があると聞いたことはありますが、それにしても流石に……転生者ではないということですし、そうなると物語の中核に関わる人物だからでしょうか? ……まあ、それは本筋ではなさそうなのでここまでとして、他の六人が何者だったかですか? ……ふむぅ?」
「メンバーのうち二名は多種族同盟の加盟国の君主だったから分からないと思うよ。一人目はオルゴーゥン魔族王国の女王アスカリッド陛下……今代の魔王と言った方が伝わるかな? もう一人はラングリス王国の女王クラウディア陛下。実はアルマトゥーラ商会の本社を訪問する前に港湾国セントエルモで国王陛下と謁見してねぇ、念の為に加盟国の君主二名に同行を依頼したんだ」
「まさか、魔王陛下もお越しになっていたとは。……『スターチス・レコード』を遊んだ身からすると、あの魔族が仲間になっているということに物凄い違和感がありますが」
「魔族と人間、亜人種族は多種族同盟の中に限りますが和解している。……あまり偏見を持った目で見ないようにしてもらいたいねぇ」
「しかし、二名が多種族同盟の関係者だったとすると……残りは一体何者だったのか、皆目検討が付かないな。カルパッチョ殿、お会いした時のことを思い出して、何か手掛かりになりそうなものはありますか?」
「……いいえ、全くです」
「残る四人のうち、三名はダイアモンド帝国の関係者で、もう一人はオルレアン教国の関係者です。……全くピンと来ていないようだねぇ。ミレーユ姫殿下、その孫のミラーナ姫殿下、ミレーユ姫殿下の忠臣の一人であるルードヴァッハ殿、リズフィーナ様の四人だよ」
「――ッ!? ダイアモンド帝国の姫殿下に、オルレアン教国の聖女様ですか!?」
「ミレーユ姫殿下のお孫さんってどういうことですか!? そんな人物、『ダイアモンドプリンセス〜這い寄る蛇の邪教〜』には登場しませんでしたよね!?」
グリューエグの反応はこのペドレリーア大陸の出身者らしいものだった。
ダイアモンド帝国はライズムーン王国と肩を並べる大国、オルレアン神教会は大陸の唯一宗教――皇女ミレーユとリズフィーナ公爵令嬢は大国と宗教団体の最高位の娘という高貴な身分だから、そんな人物が小国を拠点とする一商会をわざわざ訪問したことに衝撃を受けたのだろう。
一方、ゲームの内容を知っているカルパッチョはボクが彼女達と接触している可能性があることも事前に予想していたのか、その点には然程驚きはしなかった。それよりも、ゲームには登場しなかったミラーナという皇女が何故この世界に時を超えて現れたのか? そっちに疑問を持ったらしい。
「ミレーユ姫殿下の提案で孫娘のミラーナ様に実地勉強を、という流れになったみたいでねぇ。ルードヴァッハ殿とミレーユ姫殿下はその付き添いだよ。リズフィーナ様にはオルレアン神教会の魔族に対する見解を話してもらうために来てもらった。で、そのままの流れで訪問する形になったから、こういうメンバーになったって訳。で、ミラーナ様に関してだけど、確実な理由はまだ分かっていない。……そもそも、この世界はあくまでゲームを基にした異世界だからねぇ。それも、三十個のゲームを融合したという混沌とした世界だ。ただでさえ、異世界化によって物語の空白が補填されて予測不能になっているというのに、そこにそれぞれのゲームの要素が複雑に絡んでくるんだから、一応ゲームの制作に携わっていたボクでも先が見通せないくらいだよ」
「圓様に分からないなら、俺に見通せる筈がありませんよね……」
「……というか、この世界で最も唯一神に近いアイオーンにすら恐らく全体像は見えていないと思うよ。……さて、そろそろ本題に入ろうか? ボク達の『這い寄る混沌の蛇』との戦いの軌跡を全てお話ししよう。……ただし、ボク達はできる限り物語の流れを変えたくないという立場を取っている。物語の外で起きている、彼女達の手で解決できない問題に関しては助力を惜しむつもりはないけど、それ以上の働きをするつもりはない。『這い寄る混沌の蛇』との戦いはミレーユ姫殿下達の成長に必要なものだからねぇ。……その点を理解して、この話は他言無用とすることを約束してくれるかな?」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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