Act.9-412 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜ビオラ・スクルージ商会戦争〜 三章〜シーワスプ商会商会長との面会と、ビオラ特殊科学部隊のボディガード〜 scene.1
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン・レインフォール>
アンルワッフェ侯国での謁見が先かと思いきや、最も早く面会希望の手紙の返信を送ってきたのはシーワスプ商会の商会長であるキロネックス・シーワスプだった。
手紙には、「こちら側はいつでもシーワスプ商会を訪問する準備がある」と送ったけど、まさかアンルワッフェ侯国を訪問した翌日になるとはねぇ。……まあ、向こうも無理難題であることを承知の上でボクの出方を伺うために送った可能性はあるけど。
梟から返信を受け取ったボクは翌日、ソフィスと共にシーワスプ商会の本社が置かれているルーニマリシス王国へと向かった。
この地は昔、湿地帯で領内を流れる無数の河川が氾濫を起こしていた。人が住むには不向きだったこの地に後のルーニマリシス王国初代国王は住民達と協力して治水工事を行い、運河を整備したという。
この運河はルーニマリシス王国の王都とルーニマリシス王国の港を結ぶ水運物流の軸として発展してきた。
ルーニマリシス王国は運河を利用した水産物流で発展してきた国であり、商人の国という側面も持ち合わせていた。いくつか有力な商会はあるけど、その中で最も影響力を有するのが今回、ボク達が訪問するシーワスプ商会ということになるねぇ。
「海月と碇のシンボルマーク……ここがシーワスプ商会の本社ですわね」
黒いパンツスーツに身を包んだ少し大人びたソフィスが、掲げられた看板に描かれたシーワスプ商会のシンボルマークを一瞥して少しだけ双眸を鋭くした。
相手は百戦錬磨の商人、ソフィスは少し緊張しているみたいだねぇ。……失敗した結果、ボクの不利益に繋がることを恐れているらしい。
「いらっしゃいませ。海の品から異国の品までなんでも揃うシーワスプ商会本店へようこそ」
「商会長のキロネックス様に面会希望の手紙を出させて頂きました、ビオラのアネモネと申します」
「ビオラ商会合同会社のアネモネ様ですね。社長よりお話は伺っております。ご案内致しますね」
ボクの訪問は既に本社社員全員に通達されていたらしく、出迎えてくれた女性店員に訪問理由を伝えると奥へと案内された。
シーワスプ商会の本社は大きく二つの建物からなる。一階から五階まで全てが店舗となっている道路に面した東棟と、社長の執務室や倉庫、オフィスなどが入っている西棟――その二つの棟は全ての階で繋がっているものの、訪問客には必ず一階から入ってもらい、西棟内部の階段で移動することをお願いしているらしい。……通常のお客様の迷惑にならないようにと配慮した結果みたいだねぇ。
ちなみに、荷下ろしは全て西棟の方にある専用の入り口でやっているらしい。……こっちから訪問するようにって手紙に書いておけば更に良かったんじゃないかと思うけどねぇ。
そこから階段を上がって五階へ……応接室や社長室は最上階にあるらしいけど、少し動線が悪過ぎやしないか? まあ、エレベーターとかは存在しないし仕方がないことなんだけど、何かこの構造に悪意的なものが込められているような気がしないでもない。
階段を上り終えてから西棟の突き当たりにある五階の応接室に向かう。
応接室の扉の前まで来たところで女性店員にお礼を言って、持ち場に戻る彼女を見送った後、ボクはノックをしてから応接室の扉を開けた。
「ようこそいらっしゃいました、アネモネ殿。ささっ、どうぞ中へお入りください」
黒皮のソファーに座った狐顔の男は立ち上がるとボクとソフィスをソファーに座るように促す。
「本日は突然の手紙にも関わらず面会の時間を作って頂きありがとうございます」
「いえいえ、アネモネ殿のお噂は耳にしておりましたから是非一度お会いしてみたいと思っておりました。……本日はアネモネ殿お一人でお越しになった訳ではないのですね。差し支えなければご紹介して頂けないでしょうか?」
「彼女はソフィス嬢、ベーシックヘイム大陸の一国ブライトネス王国で宰相を務めるアクアマリン伯爵家のご令嬢です。縁あって現在は私の秘書を務めていらっしゃいます」
「ソフィス=アクアマリンと申しますわ。以後、お見知りおきくださいませ」
流石に彼女が伯爵家のご令嬢だとは想像していなかったのだろう、仮面のような狐顔に僅かに驚きの感情が生じたように思えた。
……それに、彼女が宰相の娘であるというのもかなり大きな驚きの要素だろう。ベーシックヘイム大陸のことを知らないキロネックスにとっては彼女が具体的にどれほどの影響力を持つのか推し量るのは難しいだろうけど、宰相の娘の持つ影響力は想像できる筈だ。……まあ、ここにいる令嬢はソフィスだけじゃないんだけど。
「アネモネ殿とお会いした時に是非お話ししたいと思っていたことがありましたが、まずはアネモネ殿のご要望をお聞きするのが筋でしょうな」
……やっぱりか。見気で心を覗くとこの階に応接室を置いた理由が分かったけど、やはりその話題はスルーするつもりみたいだねぇ。
本来、来客の対応をするなら入り口に近い一階に応接室を置くべきだ。……長い階段を歩かせるなんて言語道断だけど、キロネックスはあえてこの階に応接室を設置したらしい。
その理由は大きく二つ。一つ目は階段を登らせることで来客を疲れさせること。疲れた頭では思考が乱れる……その隙を突き、自分達にとって利益のある商談を結ぶことを狙ったんだろう。そして、もう一つは相手を苛立たせること。怒りでカッとなった相手を掌の上で転がすくらいは百戦錬磨の商人には赤子の手を捻るが如く容易なことだからねぇ。
疲れさせて、怒らせる。相手の感情をコントロールした上で、冷静さを失った相手をいいように丸め込むのがキロネックスの狙いだったんだろう。
まあ、ボク達は鍛えているから、あんまり効果ないんだけどねぇ。
……しかし、この階に社長室を置いたのはミスだったんじゃないかな? ダイエットのためという目論見で設置したみたいだけど、階段の行き来で来客の比じゃないくらい精神的にも肉体的にも蓄積ダメージを負っているみたいだし。
「我々ビオラ商会合同会社とペドレリーア大陸を代表する商会が一つ、スクルージ商会の仲があまりよろしくないことはご存知でしょうか?」
「えぇ、お噂は聞いております。……随分と厄介な商会に目をつけられてしまったようですね。スクルージ商会はかなりの影響力を有する商会です。我々も戦いになればかなりの負傷を覚悟しなければならない相手です。……ビオラ商会合同会社様はベーシックヘイム大陸では有力な商会だと聞いておりますが、ペドレリーア大陸ではなかなか苦戦を強いられているとか。もし、お望みであれば我々にも御社に協力する準備がございます」
かなりボク達に好意的な態度を示しているように思うかもしれないけど、狐顔で揉み手をするキロネックスは明らかに胡散臭い。
……ここで借りを作ったら一体後でどんな要望を出されるのか……あゝ、恐ろしや、恐ろしやだねぇ。
「キロネックス様のご提案は大変嬉しいことではありますが……我々がスクルージ商会程度の商会に遅れを取ることなどあり得ませんので、ご心配には及びませんわ」
「でっ、では! 一体どのようなご用件で……」
大口を叩いたボクに対し、思うこともあるだろう。……これ、遠回しにスクルージ商会と同等の力を有するシーワスプ商会を貶したと捉えることもできる訳だし。
だけど、それ以上に全く読めないボクの意図に困惑している。……よしよし、完全にペースはこっちのものだねぇ。
「私が憂慮しているのはその先ですわ」
「……その先ですか?」
「スクルージ商会との戦いは多かれ少なかれペドレリーア大陸の経済に悪影響を及ばします。我々はベーシックヘイム大陸から商品を運んでいますから、仕入れルートを潰すことは不可能。そもそも太い販路を持っていませんから、販路を潰すという手も使えません。となると、できることは過剰な値下げか、闇討ちですからね。まあ、どちらも容易に対処ができますが、過剰な値下げは何も我々だけに影響を及ぼすものではない。ペドレリーア大陸の様々な商会が被害を被ることになるでしょう。それを見越し、私は各商会を巡っているのですわ。今回、キロネックス様との面会を希望したのも、その一環ということになりますわね」
そう言いつつ、ボクは金貨の入った麻袋を床に並べていく。
「こちら、スクルージ商会とビオラ商会合同会社の経済戦で生じる損益の補填にお使い下さいませ。一応、フェルミ推定で算出しましたが、足りないようでしたら迷惑料を含めてお支払い致しますわ」
「――ッ!? 各商会、と仰りましたか!? それは、まさかスクルージ商会以外の全ての商会という訳ではありませんよね!!」
「仰る通り、全ての商会にお支払いする予定ではいます。ただし、現在はクロエフォード商会とワイゼマル商会の二つのみ。アルマトゥーラ商会の会長様にもお会いしたのですが、別件のゴタゴタでお渡しできなかったので、後日、アンルワッフェ侯爵様も交えた場でお渡しする予定でいます」
「……ふふふ、あはははっ! 全く、なんでお方ですか!! いやいや、失礼。少し馬鹿らしくなってきましてな。……ただの馬鹿か、それとも遥か先を見ておられるのか」
ソフィスがボクに対する暴言に反応し、殺気を剥き出しにしている。……ソフィスを宥めつつ、未だに肩を震わせて笑っているキロネックスににっこりと微笑んだ。
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