Act.9-411 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜ビオラ・スクルージ商会戦争〜 二章〜アルマトゥーラ商会と、不楽本座の秘密〜 scene.3
<三人称全知視点>
蒼甫の様子がおかしかった日から三日後の突然の死。
清七自身は腐れ縁だと語るものの蒼甫に友情を感じていなかった訳では無かった清七は蒼甫の葬式に参加した後、蒼甫の家族から聞いた蒼甫が借りていたという部屋に向かった。
つい最近、彼が借り始めたというマンションの一室には将棋関連のものが一切置かれておらず、本当に蒼甫が借りていたのかと疑問すら覚えた。
「……四之宮公爵家の悲劇について情報を集めていたのは確かみたいだな。探偵を雇い、情報を収集すると共に自分も事件を知る者達を探っていたらしい」
彼らしい几帳面な字で書かれた資料には、四之宮公爵家の悲劇に関する情報と共にとある人物に関する同行調査も含まれていた。
「四之宮愛凪……悲劇の公爵令嬢か。当時、結構話題になったよなぁ。……ん?」
そして、清七は見つけてしまう。
彼の遺品の中に唯一残されていなかった蒼甫が愛用していた黒皮の手帳――何故、それがこんなところに置き忘れられていたのかと疑問に思いつつ頁を捲る。
「これまでの調査で驚くべき真相が明らかになった。いや、理解し難い真相というべきか。この事件の犯人の心は大凡人のものではない。少しでも人間性を持っていれば、このような犯行に及ぶことは無かっただろう。……あいつらしい勿体ぶった言い方だな。まあ、続きを読んでいくか。犯人は……四之宮愛凪!? 彼女は自分の恵まれた生活に退屈し、骨肉の争いを自らの手で引き起こした。大凡理解し難い犯行、彼女は現在、武装思想家組織を名乗るテロ組織『天人五衰』の頭目、不楽本座を名乗っているが、その名に相応しい所業と言えば所業なのかもしれない。相手は大連に拠点を置く少数精鋭の闇組織の首魁、厳しい戦いを強いられることになるだろう。信頼できる仲間を募る必要があるが、そのためには更なる情報を集める必要がある。……この時点でもはや理解不可能だが、まだ続きがあるのか。……不楽本座について信憑性が微妙な情報を一つ入手した。彼女が不楽本座と名乗り、行動を開始する以前に混沌の使者アポピスを名乗り、大倭秋津洲のスラム街を拠点とする半グレ達を率いていたという話だ。アポピスは太陽神ラーの天敵で混沌を司る存在でもある。彼女の在り方に近しいものも感じるが、少し腑に落ちない部分もある。彼らは無貌の神を旗印に掲げていたというが、アポピスにそのような逸話はない。アポピスと無貌の神――この二つの繋がりを探るうち、とある創作に行き着いた。とあるゲームに登場するアポピス=ケイオスカーンという人物……以前対局した投資家の少女に薦められ、プレイした記憶があるスマートフォン向けのゲームだ。『ダイアモンドプリンセス〜這い寄る蛇の邪教〜』の登場人物、しかし本当にそんなことがあり得るのだろうか? 俺は異世界については素人。今度、友人に聞いてみよう。……結論は出ない。最早直接会って確かめるしかない。彼女は今、大倭秋津洲帝国連邦に来ているという。直接会って、真実を聞けるチャンスだ。……危ない橋だが、志を同じくする同志と共に挑めば情報を持ち帰る事ができる筈だ。真実を明らかにし、四之宮公爵家の無念を晴らす。そのために、俺は最期の戦いになるかもしれない戦場に足を踏み入れることとする」
手帳の記述はそこで終わっていた。彼はこの手帳を置いて不楽本座に――四之宮愛凪に会いに行ったのだろう。
「……やはり、厄介な男でしたね。彼の方の言った通り、まさかこんなものを残していたとは。貴方もお可哀想に。知らなければ普通の一生を送ることができたでしょうに」
――音も気配もなく、一人の男が立っていた。
純白に染まった若白髪を無造作に伸ばし、黒いスーツに身を包んだ男は場違いな剣を鞘から抜く。
彼が四之宮愛凪の手先であることは流石に清七にも分かった。
「……しかし、彼も哀れでしたね。まさか、志を同じくしていると錯覚していた方々が既に不楽本座の手に堕ちていたとは。ああいうやり方は美しくない……ですが、雇い主の意向には逆らえません。俺は底辺の世界を生きていた……その世界で彼の方に拾われなければこうして清潔な衣に身を包むこともできなかったのですから。しかし、まだ貴方のような友人がいたのですね。……少しだけ羨ましく感じますよ」
「お前が、蒼甫を――ッ!!」
「いかにも、俺、身体臭穢が殺しました。そして、今から貴方のことも殺します。それが俺のお仕事ですので。……苦しむことはありません。俺は世界最強の剣士、その一角に足を踏み入れた猛者です。美しい切れ味ですぐにあの世に送って差し上げましょう。……願わくば、貴方の来世が欲に塗れ、楽しい世界でありますように」
ここがマンションの十階であることも忘れ、清七は窓を突き破って飛び降りようとした……が、それよりも早く残像すら捉えきれない、辛うじて大気を擦過するキラキラとした輝きを捉えることが精々という神速の太刀が清七に殺到し、その首を切り落とした。
◆
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン・レインフォール>
「これが前世の私の死因です。……言質が取れた訳ではありませんが、刺客が放たれ、待ち伏せをされていた以上、あの手帳の記述が本物だった可能性は高いと思います」
「恐らく、逆ですねぇ。あの手帳の隠し場所は敵も察知していなかった。葬儀の場で情報を集め、貴方が彼が借りている部屋に行くことを知ったので尾行したという可能性の方が高い気がします。あの用心深い蒼甫さんが、部屋の場所を大人数に教えていたとは思えない。知っていたのも家族だけでしょうから」
「……では、私は連中に踊らされたと?」
「その後証拠は綺麗さっぱり、ついでに私の知る限り清七さんの死も報道されていません。つまり、死に損ですねぇ」
「……圓殿、もう少しオブラートに包むことはできぬのか?」
「流石にカルパッチョさんが可哀想ですわ!」
アスカリッドとクラウディアがボクにジト目を向け、ミレーユ、ミラーナ、ルードヴァッハ、リズフィーナ、アンドリュアスもボクに批判的な目を向けるけど、事実じゃん。
というか、迂闊も迂闊。折角、蒼甫さんが残してくれていた証拠品が見事に消されちゃったんだからねぇ。
「とりあえず、『這い寄る混沌の蛇』に関する情報の共有についてはまた後日。今日は色々と事情がありまして……なので、代わりにこの世界について説明をさせて頂こうと思います」
ミレーユ達には聞かせられない話もあるからねぇ。『這い寄る混沌の蛇』に関して情報提供をするのはまたの機会に。
代わりにこの世界の真実――三十のゲームによってこの世界が作られていることと、この世界で『管理者権限』を求める神々の争いが行われていることを話した。まあ、前半の方は察していたみたいだけど。後、ボクがローザに転生したことと、ここにいるソフィスが『スターチス・レコード』のソフィスであることも明かしたよ。
「……まさか、そのような事態になっていたとは。その話、アンルワッフェ侯爵様とも共有した上で今後の方針を決めていきます。『這い寄る混沌の蛇』についての情報提供はまた後日ですね。侯爵様にも同席して頂いた方が良いでしょうし、侯爵様に予定を聞いた後、圓様の予定と擦り合わせて日にちを決めましょうか?」
「こちらはいくらでも時間を捻出できるからねぇ。予定が決まったらセントピュセル学院か、ビオラの支店に手紙を送ってもらえると助かるよ」
「承知致しました」
◆
今回、事前のアポを取らなかった理由はその手間を面倒くさがったからだと言ったけど、何の目論見もなく非常識な行動を取ったという訳ではない。
アポイントを取らずに突撃する利点は二つある。
一つ目は相手の不意を付けることにある。事前に面会することが分かっていれば、それまでに心算をすることも可能だ。こちらの出方を伺って情報を集め、用心深くして待っている相手の心を開くのはなかなか難しい。その点、アポ無し突撃は相手に非常識だと思われるという欠点はあるけど、完全に不意を突く形のため、心算をする余裕がない。
前世でも、厄介な相手と面会しないといけない場合にはこうしてアポ無し突撃をするといった奇策も使ったものだ。……まあ、正面から戦うのだけが全てじゃないからねぇ。
もう一つは今回のスクルージ商会との戦いの前準備には時間制限があること。当然ながら、ビオラ商会合同会社とペドレリーア大陸の各商会が密談を交わしているというのは、スクルージ商会にとってはとても不都合なことだ。その密談の内容が分からないとなれば、嫌な想像の一つや二つは浮かんでくる筈。……とくに、用心深い商人となれば尚のことねぇ。
彼は最終的に販路を潰せないと悟ればネガティブキャンペーンに移行するだろう。その際、当然ペドレリーア大陸の商人達を頼るという選択をする筈だ。……もし、そのタイミングでビオラ商会合同会社とペドレリーア大陸の大多数の商会が密談を交わしていたとしたら、その前提が成り立たなくなる可能性が出てくる。
当然、スクルージ商会も妨害の手を打ってくる筈だから、スクルージ商会まで情報が伝わる前にできるだけ多くの商会と密談を交わしておきたいと思っていた。……しかし、流石にアポイントを取って向こうの希望日にってなるとなかなか時間が掛かってしまう。そこで、少しズルをして時間短縮を図ろうとアポ取りという段階を飛ばしたんだけど……やっぱり、多少時間が掛かっても正式にアポイントを取った方が良さそうだねぇ。
ということで、真面目にアポを取ることにした。
ミレーユ達をセントピュセル学院に送り届け、ルードヴァッハをダイアモンド帝国に、アスカリッドとクラウディアをブライトネス王国とラングリス王国に送り届けた後、ラピスラズリ公爵邸の自室でスクルージ商会、ワイゼマル商会、アルマトゥーラ商会、クロエフォード商会以外の商会の長宛てに面会依頼の手紙を書くと、闇の魔力で無数の梟を作り出し、手紙と手紙を受け取ったことを確認する受け取りサインの欄が空欄になっている受領書をセットにして風呂敷に包んで梟の背に背負わせてラピスラズリ邸の窓から放つ。
「相変わらずお忙しそうですね、お嬢様。……手紙ですか?」
「ペドレリーア大陸の商会宛てに面会依頼書をねぇ。面倒だからと手順を踏まなかった結果、後手に回るのは悪手だと思い知らされたし。まあ、その程の手紙を認めることなんて些細なことだよ」
「凄まじい数の手紙だったように見えましたけどね」と生欠伸を噛み殺しながらヘクトアールが言った。
「お仕事お疲れ様。よければ甘いものでもどうぞ。疲れによく効くよ」
「宝石飴ですか? ありがとうございます。……俺を労ってくださるのは旦那様とお嬢様くらいですよ。……サボり魔って、夜警とかしっかりやっているんですけどねぇ。あっ、美味しい」
「それじゃあ、ボクはビオラの仕事があるからねぇ。これにて失礼するよ」
「俺がいうのもなんですけど、ほどほどにした方がいいですよ……働き過ぎは体に毒ですからね」
少し呆れ顔のヘクトアールに見送られ、ボクはビオラ本社へと転移した。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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