Act.9-409 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜ビオラ・スクルージ商会戦争〜 二章〜アルマトゥーラ商会と、不楽本座の秘密〜 scene.1
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン・レインフォール>
「では、最後に私から。以前も申し上げた通り、私は腹芸が苦手です。なので、単刀直入に申し上げます。――ワイゼマル商会と業務提携をして頂けないでしょうか? ビオラ商会合同会社の高い技術力は魅力的です。しかし、このペドレリーア大陸での販路は限られている。我々は一応、五大商会の一角に数えられる規模を誇る商会ですから、販路拡大に貢献できる筈です。悪い話ではないと思いますが」
「既に旧フィートランド王国に出店していますし、本気でやろうと思えば販路を拡大することも可能なんですよねぇ。勿論、周辺の商会との間に軋轢が生じることを覚悟した上でということになりますが。それをしないということはどういうことか、聡明なヴァルフォンス様ならお分かりになるのではありませんか? 別に我々はペドレリーア大陸というマーケットにそこまで執着はないのですよ。既にベーシックヘイム大陸で稼がせてもらっていますし、ラスパーツィ大陸のレインフォール湊都市国のマーケットも持て余している状況ですから」
海洋都市レインフォールからレインフォール湊都市国に改名し、独立行政都市から一応国家の一つという位置付けに変わったレインフォールだけど、まだ全権代理者すら決まっていない状況だからねぇ。
ペドレリーア大陸でマーケットの開拓をするよりももっと取り組むべきことが他にある状況なんだよ。
「まあ、ビオラ商会合同会社ほどの巨大商会が販路拡大に乗り出さないという時点で交渉の余地はないことは明らかでしたよね。……駄目で元々のつもりだったのですが、少し欲を出してしまいました」
ヴァルフォンスの提案は本来ならば破格のもの――いくら高い技術をもっていても、それが実際に売れる土壌が無ければ宝の持ち腐れだからねぇ。
今回の失敗は、ボクらが想定以上に巨大な商会であったことと、ボクらがそこまでペドレリーア大陸のマーケットに興味を示していなかったこと。
自分達の利益を優先した少し欲が見え隠れする提案だったし、利益の天秤が明らかにワイゼマル商会側に傾いていたけど、決して悪い提案では無かったと一応擁護しておくよ。まあ、提携には全く旨味を感じないから断るんだけどねぇ。
◆
その後、ボク達は少し談笑をしてから王城を後にした。
ボクが治めている国以外の多種族同盟加盟国がどのような国なのかアシュガルダは気になったようで、アスカリッドとクラウディアにそれぞれの治める国について色々と話を聞いていたねぇ。
クラウディアはラングリス王国が崩壊寸前のところをスティーリアとボクに助けられたことが多種族同盟加盟を決意した切っ掛けだったと話し、想定していた以上にハードな半生を送ってきたクラウディアに衝撃を受けたようだ。
……まあ、それと同じだけ婚約を認めさせるために自分の父である魔王を打ち倒し、王位を継承したアスカリッドにも驚いていたけど。
この大陸は同性愛にも不寛容だし(ってか、ベーシックヘイム大陸でも大半の国は否定的か)、アスカリッドが愛している人の正体が女性であることにもかなり驚いていた。……まあ、その後、彼女が魔族の天敵だった宗教関係者だと知ってそれ以上の衝撃を受けたみたいだけど。
謁見を終えた王城から出たところで時間を確認し、もう一つ商会を訪問する余裕がありそうだったので、ミレーユ達に許可をもらい訪問することにした。
念のために来てもらったクラウディアとリズフィーナとは王城での会談が終わったところで別れるつもりだったんだけど、クラウディアから社会勉強の一環として付いていきたいという申し出があったので、引き続き同行している。
ソフィスとミラーナと合流した後、ソフィス、ミレーユ、ミラーナ、ルードヴァッハ、リズフィーナ、アスカリッド、クラウディアに変身魔法を掛けてからボク達は『管理者権限・全移動』を使って港湾国セントエルモからアルマトゥーラ商会が本社を置いているアンルワッフェ侯国へと転移した。
アンルワッフェ侯国はライズムーン王国のアンルワッフェ侯爵家が代々元首として治めている国で、ライズムーン王国の貴族が治めている。
侯爵が治める国ということからライズムーン王国の属国の一つなのではないかと思う人もいるかもしれないけど、アンルワッフェ侯爵家はライズムーン王国でも英雄の家系としてその名を知られる貴族であり、元々戦争で功績を挙げたアンルワッフェ第三代侯爵に下賜された領地が基礎となっているため、かなりの独立性を保っている。
アルマトゥーラ商会の商会長、カルパッチョ・アルマトゥーラはこのアンルワッフェ侯国で起業し、アンルワッフェ侯爵家のお抱え商人としてその地位を築いてきたという。
港からはかなり遠い距離の国にも拘らず、現在までこの地に本拠地を置いている理由はアンルワッフェ侯爵家に拾ってもらった恩を忘れないようにするためなのかもしれないねぇ。
まずは駄目元でアポイント無しで突撃することにした。まあ、駄目ならば受付で面会依頼の手紙を渡してアポイントを取ればいいだけだし。
「面会のご予約はないのですね。紹介状もお持ちではいらっしゃらない。……お手紙はお預かり致します。面会の許可がおりましたらこちらから御社にご連絡を差し上げますので、本日はお引き取りくださいませ」
まあ、これが当然の反応だよねぇ。社会人の常識としてアポイントを取るのは必須……それを面倒くさがって、これまでアポ無し突撃をかましてきたけど、こうやって断られるのが普通の反応だ。……うん、ここまで普通に対応してもらえた方が異常だったんだよねぇ。
「皆様、この私の失敗を覚えておきましょう。アポイントを面倒くさがってはいけませんよ。……事前に人を動かして面会の許可をもらっておけば良かったですねぇ」
「……圓様にしては珍しい失敗ですね。というか、圓様って失敗するのですね」
……クラウディア、君は一体ボクをなんだと思っているんだい?
まあ、かなり心証が悪いし、面会希望の手紙も途中で握り潰されるのがオチだろう。ペドレリーア大陸ではビオラ商会合同会社は弱小扱いだし、こういう面会希望は星の数ほどあるだろうし……ってことで、熱りが冷めた頃に今度は正式にアポイントを取って面談に臨もうって思っていたんだけど。
「やれやれ……連中の出没報告を聞くと憂鬱な気分になるね。あのクソ邪教徒共、本当にゴキブリの親戚の親戚なんじゃないか? ……ゲームに描かれていたのが実際には氷山の一角だったなんて」
「……社長、少し声が大きいかと。ここには一般の客もいます。いつ、誰に聞かれるか分かりませんよ」
まさか、こんな偶然があるなんてねぇ。どこの三文小説だよ。
商談を終えたのか、革の鞄を持った仕立ての良いスーツ姿の男が、秘書と思われる男を伴ってアルマトゥーラ商会本社一階に姿を見せた。
……しかし、ゲームねぇ。もしかしたくても、カルパッチョというここの商会長は転生者なのか? 五大商会についてはスクルージ商会以外ほとんどノーマークだったから、正直そこまでの情報は持っていなかったんだよねぇ。……今回は本当に後手に回り過ぎているなぁ。不甲斐なさ過ぎる。
「ミルフィさん、お疲れ様。私がいない間に何かあったかな?」
本社に戻るとカルパッチョは受付嬢に声を掛けた。
社長クラスになれば、秘書辺りに情報を吸い上げさせることもできる筈だけど、カルパッチョは社員と接する機会を大切にしているらしく、部下に頼らず一人一人の社員の顔を覚えて積極的に話す機会を作っているらしい。……これ、規模が小さい商会ならともかくここまで大きくなるとなかなかできることじゃないよ。
ほんの少し記憶を読ませてもらったけど、本当に社員を大切にしている社長さんみたいだねぇ。
部下達の意見を自ら聞いた上で、常により良い職場環境にする方法を模索している。誰よりも社員を大切にするからこそ、部下も社長であるカルパッチョを信頼して付いてくる。……アルマトゥーラ商会の結束は鎧の如く頑強である、なんて言われているみたいだけど、まあ、確かにこの社長に付いていきたいと思うのはよく分かるよ。
「それが、先程社長に面会をしたいという方がいらっしゃいまして。信頼に足る人物からの紹介もなく、アポイントも無かったためお手紙だけお預かりしてお引き取りを願いました」
「……このタイミングで私と面会を希望。……まさか、例の邪教徒共が……。その訪問客の名前は聞いていますか?」
「ビオラ商会のアネモネを名乗っていました」
「――ッ!? その方は今どちらに!?」
「今、本社中央入口から出られようとしていますが――ッ!? 社長、どちらに!!」
カルパッチョがボクの方に振り返ったのは、ボクが本社の出口を出てすぐだった。
折角ここまで来たし、ミレーユ達にアンルワッフェ侯国での観光を提案しようと思っていたんだけど。
「――ッ!! お待ちください、アネモネ様!! はぁはぁ……やはり、貴女様でしたか」
「お初にお目に掛かります、カルパッチョ様。本日はアポイントも取らずに訪問してしまい、申し訳ございませんでした。また、機会を改めて訪問させて頂きますね」
「アポイント……そんなものはどうでもいい!! ……本当に、本当に貴女様が。貴女様のお噂は耳にしましたが、半信半疑でした。しかし、直接お目に掛かって分かりました。アネモネ様、どうか私に、いえ、私達に力をお貸しください!!」
初対面の筈のカルパッチョがボクのことを知っているのが少し不思議……というか、不気味で限定的にしか使っていなかった見気を強化し、カルパッチョの記憶を全て読み解いた。
……まさか、こんなところで前世の知り合いに会うとはねぇ。やっぱり、世間は狭いなぁ。
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