Act.9-406 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜ビオラ・スクルージ商会戦争〜 一章〜ワイゼマル商会の長ヴァルフォンスとの交渉と、ヴァルフォンスの要望〜 scene.2
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン・レインフォール>
「私はあまり腹芸は苦手な方でしてな。単刀直入に参りましょう。今回、アネモネ殿が来訪なされた目的は我々を味方につけることでしょうか?」
「……あの、ヴァルフォンス様? まずは珈琲を堪能させて頂けないでしょうか? 折角の美味しい珈琲が冷めてしまいますわ」
ヴァルフォンスはボクが珈琲を好きだといったのをお世辞だと思ったみたいだけど、普通に好きなんだよねぁ。珈琲も紅茶も。
ゆっくりとカップを口に運び、口に含むと香りと味を堪能する。
「お噂通り、とても美味しい珈琲ですわね。実は私も珈琲や紅茶にはかなり五月蠅い方でして……とはいえ、基本的にはそこそこの味でも満足することにしているのです。私の理想が無駄に高過ぎるということもありますから。美味しさも人によりけり、好きな飲み方で、食べ方で楽しむのが一番だと理解はしています……が、流石に珈琲豆をこれでもかと冒涜するように蜂蜜やホイップクリーム、角砂糖などを放り込む輩は許容できません。そういう輩が部下に居まして、かなりの口論になったものですよ。ベーシックヘイム大陸にある多種族同盟加盟国の王族の方々にも卸し、満足頂けている比較的飲みやすいブレンドの豆ですから、一度くらいはそのものの味を味わってもらいたいというのは罰当たりなことなのでしょうか?」
「なるほど、珈琲を淹れる側の理想と、飲む側の希望する飲み方の乖離ですか。なかなか難しい問題ですな。……お客様を第一にするのが商売人のあるべき姿ではありますが、一方で作った側の善かれと思った客を思う気持ちを踏み躙るのもどうかと思います。やはり、客側も最低限のマナーを守って来店する必要があるのでしょう。幸い、私はそういったお客様に当たったことがありませんでしたので、悩むこともありませんでしたが」
律儀に答えてくれるけど、まだ警戒心が強いねぇ。
「ふぅ、美味しい珈琲でした。さて、本題に参りましょう。先程のヴァルフォンス様の予報は完全に見当違いですわ。まあ、普通はスクルージ商会から嫌がらせを受け、困った末に同格の商会に援助を頼むためにやってきたと考えるところでしょう。ですが、私の目的は違いますわ。本日はヴァルフォンス様に今回の件でご迷惑をお掛けしてしまう分の補填――つまり、迷惑料をお持ち致しました」
立ち上がり、テーブル席の方へ進むと机の上に金貨の入った袋を六つほど置く。
「……ふむ、クロエフォード商会の時と袋の数が違うようですわね」
魔法によって姿を変えたミレーユが「少し不公平なんじゃないかしら?」と少しだけ不機嫌そうに視線を向ける。
「なるほど、一律の支給ではなく商会の規模に応じて今回の騒動による損益を算出――適切な金額を用意したということじゃな」
「流石はアスカリッド様ですわね。まあ、僅かな情報からの予測ですから、思わぬ長期化で足りなくなってしまう場合もありますが、その場合は別途迷惑料を上乗せしてお支払いさせて頂きます」
ヴァルフォンスは机の上に並べられた金貨入りの麻袋の意味を理解できていないようだった。
いや、理解できていないというよりは裏の意図があると思い込んでしまっているといった方が正しいのかもしれないねぇ。
「流石にただ迷惑料を払いに来たという訳ではないのでしょう? 我々に借りを作るのが狙いですか? それとも、業務提携などを……」
「いえ、今回の件で借りを感じて頂く必要はありませんわ。元々、これは私が種を蒔いた争いです。その補填を私が行うのは当然ではありませんか?」
「そもそも、アネモネ様が率いるビオラ商会合同会社は高がスクルージ商会程度の弱小商会に攻撃されたところで全く痛痒も感じませんわ。ヴァルフォンス様はビオラ商会合同会社の商業規模をご存知でしょうか?」
「ビオラ商会合同会社がスクルージ商会程度に遅れを取る筈がない!」と若干の怒気を孕んだ視線を向けつつ、ソフィスがヴァルフォンスに尋ねる。
「いえ……海を隔てたベーシックヘイム大陸において有力な商会ということくらいしか」
「ビオラ商会合同会社は実質的に国家を二つ治めている……つまり、国家二つ分に匹敵、或いは凌駕するほどの力を有し、アネモネ閣下は多種族同盟の議長――つまりリーダーに推薦されるほどのお方ですわ。ブライトネス王国、フォルトナ=フィートランド連合王国からも多くの領地と爵位を賜り、その領地・国家、全ての運営で成功を収めています。ビオラ商会合同会社の素晴らしさは決して領地経営ではありませんわ! 商会が多分野で成功を収めるだけでなく、未来ある者達へ融資を行い、融資を受けた者達が成功した事例は数知れず! ビオラ商会合同会社がこれほどの成功を収め、現在もなお成長を続けている理由は確かにアネモネ閣下が才能ある方であることもありますが、何よりも閣下が貫かれている姿勢にあると私は考えておりますわ。どんなに才能ある人物でも、その才能に胡座をかく人間に人をついてきませんわ。アネモネ閣下は商会の誰よりも率先して働き、頻繁に傘下企業や領地、融資先に赴いては一人一人の言葉に耳を傾け、改善するべき場所を正していくお方ですわ!」
「……うーん、流石に恥ずかしいからその辺りにしてもらえないかな? ソフィスさん」
「まあ、全てソフィス殿の仰る通りなのじゃが」
「……脱線したので話を戻しましょう。ビオラ商会合同会社は実際、スクルージ商会程度の攻撃で揺らぐ屋台骨はしていません。ただ、我々にとってペドレリーア大陸はアウェイな環境であるということは確かです。……まあ、我々ビオラ商会合同会社が流通に使っているのは基本的に空間魔法と呼ばれる魔法技術――現地で仕入れをしている訳でも船などで運んでいる訳でもありませんから仕入れ先を潰すなんてことは不可能。まあ、やるとしたらベーシックヘイム大陸にわざわざ赴くという形になるでしょうが、こちらは長きにわたり信用を築いてきたと自負していますから、ポッと出の商会に仕入れ先を潰されるということはありませんねぇ。というか、仕入れ先も何も商会の傘下が品物を生産していますから、彼らにできるとしたらビオラ商会合同会社の部門の買取くらいでしょうか?」
「……まあ、どれくらい金を積まれても売却に応じる筈はないじゃろうがな。それに、そのような不埒な輩が現れればビオラの幹部達が黙っていないだろう。……いや、場合によってはもっと恐ろしい連中が出張ってくる可能性もある。ビオラは現時点において最高クラスの闇の戦力を保有する組織でもある。ほとんどの加盟国がビオラとの戦争を避ける道を選ぶじゃろうな」
流石に信じられないという顔をするヴァルフォンス。
まあ、それほど恐ろしい組織が存在するという方が悪夢だからねぇ。人間は信じたいことを信じる生き物――虚言を疑うのは至極当然のこと。
「ふむ……やはり、身分を明かさずに信用を得ることは厳しいか。アネモネ閣下、魔法を解かせてもらうぞ」
ここで膠着した状況を打開するためにアスカリッドは変身魔法を解除して魔族の姿になった。
褐色の肌に碧眼と金色の瞳のオッドアイ、黒いツノの生えた姿――明らかに人間ではない容姿にヴァルフォンスが恐れ慄き、僅かに後退りをする。
「挨拶が遅れたな。我はアスカリッド・ブラッドリリィ・オルゴーゥン――かつてベーシックヘイム大陸において人間……主に教会と敵対していた魔族の王、魔王である。まあ、父を打ち負かして魔王となったものの、まだ勉強中の身――今は前魔王である父に職務を代行してもらっているがな。長年にわたる魔族と人間の確執、それを取り除いたのはアネモネ閣下の尽力によるものが大きい。まあ、それだけではないのじゃが。これは多種族同盟の加盟国が一国、オルゴーゥン魔族王国の女王としての言葉じゃ。ビオラ商会合同会社だけは絶対に敵に回してはならぬ。本気になればペドレリーア大陸どころかベーシックヘイム大陸すら制圧できてしまうというおっかないにも程がある力を有しておるのじゃからな。……今回の件は完全にアネモネ閣下の慈悲と思った方が良い。迷惑料、それ以上の意味はないのじゃ」
「……なるほど、一国の王としての言葉ですか。それなら信用する他ありませんな。しかし、困りました。……魔族という存在はオルレアン神教会において敵と判断されるようなもののように思えてなりません」
「その点は大丈夫だと思いますわ。リズフィーナ様達、オルレアン神教会の上層部だってくだらぬ教義のためにペドレリーア大陸全土を火の海に変えたくはないでしょうから。アネモネ閣下は慈悲深いお方です。大切な仲間に手を出されれば苛烈になるほどに。……お分かり頂けましたか?」
ソフィスの満面の笑みが怖いねぇ。……まあ、別に嘘じゃないんだけどさぁ。
「オルレアン神教会の上層部がそう考えているのであれば、私が何かを言うつもりはありません。……しかし、困りましたね。これはスクルージ商会が仕掛けた戦争、ビオラ商会合同会社は被害者です。それに、貴女に本来、ペドレリーア大陸の経済を守る義理はない筈です。お話から察するにペドレリーア大陸の全ての商会に融資を行い、戦禍から守るおつもりなのでしょう。……貴女ほど聡明なお方なら分かる筈です。焼け野原になったペドレリーア大陸の経済を支配し、寡占市場を築き上げた方が利益になるに決まっている!! 何故それをしないのです!!」
「ペドレリーア大陸の商会の可能性を信じているからです。私は別に富を独占したい訳じゃない。全員は無理でも多くの人々が夢を叶えられる……そんな世界を作るためにでき得るならば力を貸したい、それが私が融資を始めた原点なのですわ。互いに切磋琢磨し、共に高め合っていきたい。その前に潰れられたら困るので、そのための先行投資です」
ボクの言葉にヴァルフォンスは固まり……肩を震わせて笑い出した。
「はははは、愉快な気分ですよ! まさか、こんな方がいらっしゃるとは。同業者として、貴女のことを誇りに思います。……本当はお気持ちだけ受け取る形でお断りしたいところですが、閣下のお気持ちを不意にする訳にもいきませんし、こちらは受け取らせて頂きます。……アネモネ閣下、施しを受けた者がこのようなことを言うのは厚かましいと思いますが、どうか閣下にお会いして頂きたい方があります。私と共に少しご足労頂けないでしょうか?」
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