Act.9-405 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜ビオラ・スクルージ商会戦争〜 一章〜ワイゼマル商会の長ヴァルフォンスとの交渉と、ヴァルフォンスの要望〜 scene.1
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン・レインフォール>
スクルージ商会との真っ向勝負を始める前には下準備が必要となる。これを怠るとペドレリーア大陸の経済が冗談抜きで崩壊するからねぇ。
事前に中小含めたスクルージ商会以外のペドレリーア大陸中の全ての商会を回らないといけないのだけど、まずはスクルージ商会以外の五大商会に数えられる商会から回って行くことにした。
当初はボク一人で全て巡るつもりだったんだけど、ソフィスが同行を希望――更に、ミラーナにとって良い社会勉強になりそうだからとミレーユが「わたくし達も同行させてもらえないかしら? ミラーナにも良い勉強になるでしょうし。勿論、無理にとは言いませんわ。圓様の邪魔にならないように務めるつもりですが、邪魔になってしまわないとは言いきれませんし」と少し遠慮がちに同行を志願し、迷いながらも許可を出したことでミレーユとミラーナ、そしてルードヴァッハの同行が決定、更にアスカリッドからも「後学のために是非圓殿の手腕を是非間近で見たい」という希望があって了承し、結果として六人というかなりの大所帯となってしまった。
といっても、流石にこのメンバーで四つ全ての商会を巡るつもりはない。
ワイゼマル商会、シーワスプ商会、ヴィクスン商会、アルマトゥーラ商会……このうち、得られた情報から特に厄介な商会だと判断したシーワスプ商会とヴィクスン商会にはボク一人で赴くつもりでいる。
前者のシーワスプ商会の商会長であるキロネックス・シーワスプは狐顔の油断ならない人物みたいだし、古くからポーツィオス大陸と交易を行ってきたヴィクスン商会の商会長であるアマリア・艶花・ヴィクスンは異国風の衣装に身を包んだ女性で、「危険な花には毒がある」という諺を象徴するようにその美貌に目が眩んだ者達や女商人故にその美貌だけのし上ったと勘違いした者達の隙を的確に一突きし、五大商会の一角まで上り詰めた油断ならない相手だという。……というか、二人の性質を聞く限り家名を逆にすべきなんじゃないかと思う。その方が名は体を表していて分かりやすいし。
今回、五大商会に接触するに当たり、ソフィス、ミレーユ、ミラーナ、ルードヴァッハ、アスカリッドには変身魔法を掛けて別人に変身してもらっている。
流石にダイアモンド帝国の皇女が赴けば交渉の場に国家権力を持ち込むことになり、公平な交渉にならないし、純魔族であるアスカリッドの姿を目立つ。ルードヴァッハも面が割れている可能性があるし、ミラーナもその容姿から帝国皇族の縁者であると見抜かれる可能性も高い。
ソフィスの場合はそのままでも良かったんだけど、ソフィス自身の希望で時空魔法で観測した大人になったソフィスの姿に変身した。
勿論、この姿のソフィスはゲームにも登場しない。
濃紺のスカートスーツに身を包んだその姿はまさに優秀な美人秘書って感じだねぇ。というか、既に今のソフィスの実力ならアネモネの秘書として十分通用すると思うよ。
◆
今回、最初に狙いを定めたのはワイゼマル商会だ。
『管理者権限・全移動』で港湾国セントエルモに転移すると、大通りを通って港方面へ南下――目当ての路地を見つけると路地裏へと入っていく。
「……圓様、ワイゼマル商会の本社とは方向が違うようですが?」
港湾国セントエルモの王宮がある中心街――その一等地にワイゼマル商会の本社が置かれている。
ボクが目指しているのは、本社とは明らかに逆方向だからねぇ。ルードヴァッハもボクの意図を察せずに困惑しているんだろう。
「ヴァルフォンス・ワイゼマル商会長殿が本社に顔を見せるのは月に四、五回ほどだそうだよ。元々、戦争が終わったら海の見える小さな喫茶店を経営しながらゆっくりと余生を過ごしたいという願いを持っていた方みたいだからねぇ。商会発足以前に使っていた喫茶店とは別の海が見える喫茶店を作り、普段は知る人ぞ知る名店で少数の常連客達と共にゆったりとした時間を過ごしているそうだ」
かつて、ヴァルフォンスが経営していた喫茶店は商会が発足後、ワイゼマル商会が成長するにつれて知名度を増して人気店になっていったという。
ワイゼマル商会の噂を聞きつけた観光客が集まり過ぎた結果、その喫茶店は常連客が手軽に飲みに来れる場所では無くなってしまい、昔からの常連客を蔑ろにする現状に申し訳なさを感じたヴァルフォンスは喫茶店を信頼できる者に任せると別の場所に小さな喫茶店を開業し、また一から商売を始めたそうだ。
ヴァルフォンスの願いを尊重し、現在、ヴァルフォンスが運営している喫茶店の場所はこの街に昔から住んでいる常連客達だけが知る秘密となっている。
じゃあ、なんでボクがそれを知っているかって? 義理堅い常連客達からは当然聞き出せない情報だから、街で集めた噂から彼が小さな喫茶店を隠れ家にしていることを知った後、諜報員を動かして常連客を尾行――店を特定するという方法を取ったんだよ。
ボクを先頭に路地を進んでいくと、急に視界が開けた。
路地の突き当たりには煉瓦造りの小さな喫茶店が一軒だけ建っている。その喫茶店の目前には大きな建物がなく、急な坂のようになっている色取り取りの建物に彩られた街を見下ろすと、その奥には美しく輝く青い海が広がっていた。
「綺麗ですね、ミレーユお姉様」
帝国で生まれ育ったミラーナにとって海は初めてだったのかもしれないねぇ。日の光を浴びて煌めく海と、街の対比が織りなす絶景に感動しているみたいだ。
「気に入ってくれて何よりだ。――私は海が好きでね。いつか、この海を一望できる場所で喫茶店を開きたいと思っていたんだ。港は賑やかだ。商売人達の声が響き渡っている。それを否定する訳ではないが、私は静かな海をそれ以上に愛しているんだ」
ボク達の姿を見つけ、観光客と思しき見慣れない男女のグループが間違って路地裏に迷い込んできたのかと思い、帰り道を教えようと思ったのか店から白髪混じりの紳士が姿を見せた。
「まあ、観光客にとっては賑やかな市場やお洒落なカフェがお気に召すものなのだろうな。道に迷ったのであれば、大通りまで案内しよう」
「いえ、私達はこの喫茶店を目指して参りましたわ。お初にお目に掛かります、ヴァルフォンス・ワイゼマル様。私はアネモネと申します」
ボクの名前を聞いた時、ヴァルフォンスの顔が少しだけ不快そうに歪んだ。……ここは彼にとって商会の仕事を忘れられる息抜きの場だ。その神聖な場所に土足で足を踏み入れたことに苛立ちを覚えるのは至極当然のこと。
「……お噂は予々。しかし、まさかこの喫茶店にお越しになるとは思っておりませんでしたよ」
「ヴァルフォンス様の原点は喫茶店だとお聞きしておりますわ。正式にアポイントを取った上で商会を訪れるべきところですが、やはりヴァルフォンス様とお会いするのならばヴァルフォンス様にとって特別な場所である喫茶店を選ぶのが良いかと思い、訪問させて頂きました。……それに、是非、ヴァルフォンス様の淹れる珈琲が飲みたいと思いまして」
「ほう、アネモネ殿は珈琲がお好きなのですか?」
「えぇ、珈琲に限らず紅茶や緑茶なども好きですわ。ヴァルフォンス様の淹れる飲み物はどれも美味しいと聞いておりましたから、お会いする際には是非ご相伴に預かりたいと思っておりました。ところで、ヴァルフォンス様が発案したモーニング文化、朝早くから漁に出る漁師達に少しでも満足してもらいたいと始めたものだと聞いておりますわ。ただ利益のみを追求するのではなく、お客さんに満足してもらえることを優先し、ずっと港湾国セントエルモのことを大切にしてきたヴァルフォンス様のことをもっと知りたいと思っておりますわ」
「なるほど、既に私のことは大体知っているということですね。なかなかの情報力ですね、お見逸れしました。立ち話もなんですし、どうぞ中へ。美味しい飲み物と癒しのひと時をご提供させて頂きましょう」
とりあえず、山場は超えたみたいだねぇ。彼にとってこの喫茶店は神域――ただの珈琲好きの観光客ならともかく、同業者を店に入れるつもりは無かった筈だ。
場所を変えることもできたというのに、店に入れるということはそれだけボクのことを気に入ってくれた……と考えても自惚ではないと思う。
「ご注文はどうなさいますか?」
メニューを見て僅かに思案……やはり、ここはヴァルフォンスが情熱を注いできた珈琲を単体で味わおうと思い、ブラックコーヒーを注文する。
ちなみにソフィスはストレートの紅茶、ミレーユはミルクティー、ミラーナはミルク、ルードヴァッハはカフェオレ、アスカリッドは抹茶を注文したらしい。流石にケーキは置いていないのでミレーユが少し……というか、かなりがっかりしていた。
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