Act.9-404 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜ビオラ・スクルージ商会戦争〜 序章〜ダルカ・クロエフォード、倒れる〜 scene.5
<一人称視点・エイリーン=グラリオーサ>
「……真摯に向き合っていくことの大切さ、圓様の仰る通りですね。商人ができる以上の値下げを行い、労働の価値を貶める……そのようなことを助長させてはならない。ただ目先の安さに釣られるのでは無く、その裏にあるものを見抜く消費者の目を鍛える必要があると、自分の労働は高く値付けし、他人の労働には安い値付けをする――そのような都合の良い話はないのだということを買う側は認識しなければならないと私は思います。……だから、私としては利用価値のない贅沢品や度を越して高値を付けている物以外は買っても良いと考えます。お金の循環を歪めてしまわないためにも。……流石に圓様のやり方は強引が過ぎると思いますが」
「そんなに強引じゃないと思うけどなぁ……まあ、財布の紐は緩いけど。その分稼がせてもらっているし」
「そういう訳ですから、クロエフォード卿、貴方の商会が抱え込んでいる在庫を適正価格で買い取らせて頂きますわ。帝国だけで難しければ、そうですわね、わたくしの友人達にも協力を求めましょうか。売れ残っているからといって過度な値下げは不要。互いに敬意を持った取引をお願い致しますわね」
ここでボクも名乗りをあげようかと思ったけど、ここは空気を読んでスルーすることにした。
この話は、少しでもシャイロックに意趣返しがしたいというミレーユの悪意と、読み友の父親を助けたいという善意によるものだからねぇ。折角のミレーユの頑張りを上塗りするのは気が引ける。
「さて、そろそろ具体策の方を話していきましょうか? 事前にこの場の皆様には対シャイロック・スクルージの方針をお伝えしておこうと思います」
一応、今回の本題となる話だからミレーユ達の期待もかなり高まっている。
……そうやって過度な期待されると、応えられるか少しだけ不安だねぇ。
「まず、二つの方針を取ることが可能ですので、その二つの方針の説明から始めて参りましょうか。一つはスクルージ商会に正面から値下げ戦争を仕掛けること。あちらが降伏するまで利益度外視の戦争を仕掛けますので、スクルージ商会だけでなくペドレリーア大陸全体の商業が破綻しますねぇ」
「圓様、いつになく生き生きしていますわね」
楽しそうなのはソフィスくらいでミレーユ、ミラーナ、ルードヴァッハ、ダルカ……この部屋にいる全員がドン引きしている。
「あの……圓様? さっき言っていたことと全く逆のことをしているようにわたくしには聞こえましたわ。きっと気のせいですわよね?」
「いや、気のせいじゃないよ? こういう攻撃に晒された時、スクルージ商会は危機を回避するために仕入れルートを潰そうと目論むだろうけど、うちはベーシックヘイム大陸から供給しているし、商品はほとんど全てビオラの傘下で賄えている。スクルージ商会に取れる手は直接攻撃やうちの悪い噂を流すといった営業妨害だけど、前者はリスクが大き過ぎるし、後者の効果は薄いからねぇ。後少しで倒せるとチラつかせておけば、歯止めが効かなくなり気づいたら破滅していたってオチになる。ただ、経済への影響は計り知れないからねぇ、正攻法で大きな商会を潰すんだから中小の商会は淘汰されるだろうし、大商会のいくつかも倒産の憂き目に遭うだろうことが想像に難くない。勿論、それはボクにとっても不本意だ。そこで、ペドレリーア大陸に存在するスクルージ商会以外の全ての商会に対し、商会戦争を乗り越えられるだけの返済不要の融資を行うつもりである。別名、迷惑料とも言うけどねぇ。ただ、消費者へ与える影響は大きいままだから、この方針は結局使えない」
「……ペドレリーア大陸に存在するスクルージ商会以外の全ての商会に対し、商会戦争を乗り越えられるだけの返済不要の融資を行う。また、とんでもないことを言い出しましたね、圓様。数年分の国家予算にも匹敵する額をそれほどあっさりと出してしまうとは」
ルードヴァッハは呆れてものが言えないという顔でボクに視線を向けている。
……まあ、お金あってもペドレリーア大陸で流通している各国の貨幣とベーシックヘイム大陸で流通しているお金は当然ながら違うからねぇ。本当に、ゲーム時代に所持金の上限を撤廃しておいて良かったよ。……ペドレリーア大陸ではお金、出て行くばっかだからねぇ。
「もう一つの方針も基本的にはこれと変わらない。唯一違うのは一切値下げをせず適正価格で勝負を挑むというものだ。いくらスクルージ商会でもずっと圧倒的な安さを維持できる筈がない。どこかに綻びが出る。それを気長に待てばいい。こっちはまだ比較的経済に与える影響が小さいからねぇ。こっちを実行するつもりだよ。ということで、ボクはしばらく学業や侍女業、商会の通常業務と並行してペドレリーア大陸各地の商会を巡ろうと思っている。特に意図しない第三者の介入を避けるためにもスクルージ商会以外の五大商会クラスの商会に中立を保ってもらえるように頼むことは必須だねぇ。……ペドレリーア大陸の商会vsビオラ商会合同会社という構図は避けなければならないし。スクルージ商会がその構図に持っていく可能性もゼロとは言い切れないから打てる手は早めに打っておくよ。ということで、ダルカさん。融資……というか迷惑料を渡しておくよ。一応、これで足りる目算だけど、もし足りなかった場合は遠慮なく言って欲しい。その時は慈悲無く踏んだくってくれていいよ」
『統合アイテムストレージ』から大量の金貨が入った袋を取り出してベッドの前に置く。
「……流石にこれほどの金貨を受け取るのは。せめて、借金という形で」
「駄目ですよ」
「では、せめて足りなかった場合の追加申請は無しということで」
「駄目です」
食い下がってきたダルカに満面の笑みを向けると説得は不可能と判断したのだろう、大人しく金貨の入った麻袋を受け取った。
「さて! 不謹慎ですけど楽しくなってきましたねぇ!! こういう商会との全面戦争は久しぶりですからねぇ」
「私が同じ立場に置かれたら胃が痛くなりますが……流石はアネモネ閣下ですね」
苦笑いを浮かべるダルカ。ミレーユ達の反応も似たようなものか……いや、普通に楽しくない!? ボクの感覚がズレているのか??
「圓様、こういう商会と全面的に戦いを繰り広げたことはあるのですか?」
「前世で一度ねぇ。【経済界のナポレオン】の異名を持つ才岳龍蔵という男が百合薗グループが融資している様々な企業を買収しようと動いたことがある。今と似たような状況だねぇ」
「まあ、圓様相手に正面から喧嘩を仕掛けるなんて余程畏れ知らずな方でしたのね」
ミレーユは才岳龍蔵が「無知故にボクに正面から戦いを吹っ掛けた」と思ったみたいだねぇ。……でも、その認識は間違っている。
「この才岳龍蔵は世界一傲慢な男だ。金も名声も欲しいものは全て手に入れるという欲深く傲慢不遜な性格……そして、その欲を満たすだけの力を有していた。特殊な才能である超共感覚――『金の匂いを嗅ぎ分ける』という力を持ち、それまでの人生において一度も失敗したことは無かった。……これは後に知ったんだけど、実はボクの前世の前世において瀬島奈留美との因縁を作る切っ掛けとなった魔女狩りを取り仕切っていた当時の上司――ヴォリィヤァート=アンティオキアを前世に持っていてねぇ。浅からぬ因縁がある相手でもあった。今思えば、『王の資質』も有していたし、傲慢に振る舞えるだけの資質は備えていたんだと思うよ。彼に勝てたのは、ボクが信用を積み重ねていたからだと思う。誠実に融資を積み重ねたからこそ、才岳龍蔵に付け入る隙は無かった。前世から全てが思い通りになってきた彼にとって、それが初めての挫折だったんだろうねぇ。彼はボク達に敗北したという耐え難い屈辱を受け、ストレスで視覚障害に陥ってしまったみたいだよ。まあ、奪われたのが嗅覚では無く視力だったのは不幸中の幸いだったんじゃないかな?」
「……でも、それほどの大きな罪を犯した男が今でものうのうと生きているんですよね?」
ソフィスの後ろから「ゴウゴウ」という音が聞こえてきそうだ。張り付いたような笑顔が怖い……。
「まあ、あれで諦めるような男じゃない。次は徹底的に潰すよ。それに、あの男には隠影音羽がついている。常夜流のライバルである隠影流の現当主で、過去には月紫さんを暗殺しようとしたこともある憎い敵だからねぇ。チャンスがあれば纏めて潰すつもりでいるよ」
「……本当に清々しいまでに圓様の地雷を的確に踏み抜いていく方ですわね」
「更に言えば、瀬島奈留美とも共闘関係を結んでいる。まあ、その時点で潰す理由は十分なんだけど」
かなり空気が重い……聞かれたから答えただけだけど、龍蔵との因縁の話はしない方が良かったかもしれないねぇ。
その後、この空気をどうにかしようとミレーユとルードヴァッハとダルカが奮闘したけど、どんよりと沈んだ空気は解消できず、今回の秘密会談はお通夜ムードで終了となった。……反省はしているよ?
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