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百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜  作者: 逢魔時 夕
Chapter 9. ブライトネス王立学園教授ローザ=ラピスラズリの過酷な日常と加速する世界情勢の章〜魔法の国事変、ペドレリーア大陸とラスパーツィ大陸を蝕む蛇、乙女ゲームの終焉〜

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Act.9-403 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜ビオラ・スクルージ商会戦争〜 序章〜ダルカ・クロエフォード、倒れる〜 scene.4

<一人称視点・エイリーン=グラリオーサ>


「まず、ミレーユ様の誤解を訂正させて頂きたいのですが、商人同士の争いの場合、盗賊を雇うなどして、直接的に攻撃することは確かにあります。しかし、それはそこまでよくあることではありません。特に相手が大きな商会の場合、ほとんどそんなことはしません」


「ルードヴァッハ先生、それは何故なのですか?」


 ミレーユの疑問を代弁するようにミラーナがルードヴァッハに尋ねた。

 しかし、ルードヴァッハ先生か。……ミラーナと未来のルードヴァッハがどのような関係を築いていたのか、この場面からだけでも窺い知ることができるねぇ。ミラーナが問い掛け、ルードヴァッハが答える……そんなやり取りを幾度となく行ったのだろう。


「ミラーナ様、明確な悪事には、当然、制裁があります。法を犯せば国の介入を求めることができますからね。商会同士の小競り合いに国家や法が絡んでくるのは攻撃を仕掛けた商人の望むことではない。それに、規模の大きな商会であれば、自衛の手段を整えることもできましょう。いずれにしてもリターンに対するリスクが大き過ぎます。証拠の残りやすい分かりやすい方法はまず取ってこないと思った方が良いでしょう」


「ビオラ商会の初期メンバーにもなっているアンクワールさんなんかは思いっきり暗殺者差し向けてきたけど、それはまだボクが一介の冒険者だった頃。簡単に潰せるという判断の上だった。流石に三大商会に名を連ねる商会相手に戦う度胸はなかったって言っていたっけ」


「圓様の方がよっぽど敵に回すと恐ろしいと聞きますね。まあ、私は絶対に敵に回しませんし、寧ろ圓様の敵は全力で狩りに行く所存なので何も問題ありませんが!!」


「……ソフィスさん、殺気を抑えようねぇ。もう一つ対峙したことのある商会があるけど、あちらはマフィアの隠れ蓑だった。ルードヴァッハさんの言う通り、直接実力行使をするのは少数だよ」


「では、どのような方法を……もしかして、値下げかしら?」


 フィリィスが来訪した時のボクの話を思い出したのか、ミレーユが正解を口にする。


「流石はミレーユ姫殿下。やはりお気づきになられましたか?」


「ルードヴァッハ先生、ミレーユお姉様。値下げということは……?」


 きょとん、と首を傾げたのはミラーナだった。

 そんなミラーナの姿をルードヴァッハは少しだけおかしそうに笑う。……いや、質問したのこそミラーナだけど、ミレーユもついさっきまで分かっていなかったよねぇ? 何、微笑ましそうに孫と忠臣の姿をお婆ちゃんみたいな顔で見ているの?


「そうか。ミラーナ様には、少し難しいかもしれませんね。……そうですね、例えばミラーナ様は同じ味、同じ大きさの焼き菓子が片方は銅貨一枚、片方は銅貨二枚で売っていたとしたら、どちらを買いますか?」


「え? えっと、銅貨一枚の方、でしょうか?」


「そうですね。わざわざ高いものを買おうとはしない、安いものがあればそれを購入するのは消費者の心理として当然のものです。だから、敵対する商人より安い値をつけて、自分のところの商品を売りつけることは、相手の商人の商売を邪魔する上での基本的なやり方になります。……そして、悪質な場合には、利益を度外視した安売りを仕掛けてくることがあります。極端なことを言えば、銀貨一枚で仕入れたものを銅貨一枚で売ったりとか」


「へ? そんなことをして、何の意味があるんですか? 損になってしまいますけれど……」


 そう、単純な損得勘定で考えれば損をする。ただ、それは一回の取引のみを見た場合だ。広い視野で見るとこれには大きな意味がある。


「これをされた場合、大商人が資金力にものを言わせて、ライバルとなる商人を全て潰してしまえば、市場を独占することができます。即ち、自分達のところのみが販売をすることになれば、その値付けは思いのままになります。そこ以外では買えないのですから、いくらでも高い値段をつけることができるのです」


「これが、まあ焼き菓子とかであればまだ良いかもしれない。でもさぁ、それを水とかでやられたらどうなると思う? 人にとっては無くてはならないもの。それを牛耳ってしまえば恐ろしいことが起こってしまう。非競合性あるいは非排除性の少なくとも一方を有する財……これを経済学の用語で公共財と呼ぶんだけど、先ほども言った通り、水……他に国防などのサービスが挙げられるけど、こういったサービスを独占されてしまえば生活に支障が出るし、最悪の場合は死者も出る。逆に普通の形で提供しようとするとフリーライダー……つまり、金を払わずに利益を得ようとする輩が出てくる。こういったものは商売として機能しない、だから民間に任せず集めた税を利用して国家が公共事業として行うことになる場合が多い。少し脱線したけど、この辺りのことはミラーナさんも覚えておいた方がいいんじゃないかと思ってねぇ。……ごめんねぇ、ルードヴァッハさん。口を挟んで」


「いえ、素晴らしい補足をありがとうございます」


 ルードヴァッハはミラーナに学ばせるためにあえて分からないフリをしたと考えたんだろうねぇ。それに乗じてボクもミラーナ向けに補足説明をした風を装ったけど……おい、そこ、餡子の練り込まれた焼き菓子を堪能するのに夢中になっているなよ。ミレーユ、君にも決して無関係な話じゃないからねぇ!!


「ただ、今回の場合は市場全体の独占ではなく、クロエフォード商会に対する攻撃が目的なのでしょう。そして恐らくクロエフォード商会の持っている販路を譲り受ける……それが狙いなのではないでしょうか? 交渉に応じれば攻撃を止めるという話がシャイロック殿から来ているのではないかと私は考えているのですが」


「敵いませんね。……本当にそこまで分かってしまうものですか?」


「シャイロック・スクルージから、連絡がありました。クロエフォード商会との契約を打ち切り、自分達と契約をしないか……と」


 ルードヴァッハは懐から書状を取り出して、ミレーユに差し出す。


「詳しくは書いてありますが……クロエフォード商会よりも安価に大量に小麦を輸送すると、そのように書かれております」


「……やはり来ていましたわね」


「やはり、ミレーユ様はこの状況を想定していたのですね」


 自分の手柄みたいな雰囲気出しているけど、それ、ボクが教えた……まあ、良いけどさぁ。


「さて、ミレーユ姫殿下。貴方には選択肢が二つあります。シャイロックの手を取るか、ダルカ殿の手を取るか」


「ふふ……圓様は冗談が得意ですわね。そんなの答えは決まっていますわ! そのような見え透いた罠に嵌りに行くつもりはありませんし、私は友であるフィリィスとの友情と、ダルカ殿との友誼を大切にしたいと思っていますわよ」


「では、この件――全てボクに一任してもらえるかな? ミレーユさん」


 スクルージ商会と戦うことは決まった。しかし、ここでミレーユが悩み始める。


「……今回の敵は、スクルージなのですわよね? 『商人王』の」


「えぇ、ミレーユさんのご想像の通り。あの因縁のシャイロック・スクルージです」


「ふむ……困りましたわね。……この件をただ圓様に一任するのは少し違うと思いますの。わたくしも個人的にあの方には意趣返しをしたいところですし」


「……もしや、ミレーユ様は彼をご存知なのですか?」


 初対面に思われたミレーユとシャイロック……そこに浅からぬ因縁があることを察したルードヴァッハが疑問を投げかける。


「えぇ、わたくしはよーく覚えておりますわよ。……とりあえず、圓様の邪魔になってはいけませんし……そうですわ! ルードヴァッハ、もしもクロエフォード商会が嫌がらせを受けているのであれば、わたくし達の方でも、何か助けて差し上げられないかしら? 例えば、抱え込んでいる商品を、帝国で買い取って差し上げるとか。それとも、お友達のお父様の商会だからといって、売れ残った商品を買い取ったりしたら、無駄遣いになってしまうかしら? それよりも安い商品があるのに、高い値で買い取ったりしたら、怒られてしまうかしら?」


「……問題ないでしょう。それよりも安い商品があったとしても、その値段が適正のものであれば、それを買うことは無駄ではないと考えます」


 ミレーユの言葉から裏の意図を察したルードヴァッハがその意図を汲んで答える。さて、疑問を持っていそうな顔をしているミラーナのために少し補足しようか?


「お金とは労働の対価だ。職人、農家、漁師……彼ら第一次産業の担い手達によって商品は生まれている。物を安く売るためにはどこかで損をする者を出さなければならない。良識ある商人なら自分達が損益を被る形を取るんだけど、残念なことにその負担を第一次産業の担い手達に求める場合もある。自分達の負担を減らすためにねぇ。……それに、過度な値下げは労働者の努力の価値を貶める行為にもなる。まあ、その労働者って安さを求める消費者であることが大半だから救い難いんだけどねぇ。これはまだ自国の問題だけど、それが海外に派生すると植民地支配みたいな話になってくる。侵略した国の人々を支配し、安価な労働力を使って安い商品を生産する。当然、発展途上の国々の生活は貧困を極めることになり、国の成長など夢のまた夢。前世だと、チョコレートや珈琲はその際たる例だった。フェアトレードという概念が生まれたのだって最近のことだからねぇ。利益を得ることは容易い、でも、適正な価格で取引がなされるマーケットを維持するのは大変なことなんだ。どんなに素晴らしいお題目を掲げたって、その裏には一人や二人、ルールの隙間を掻い潜り利益を得ようとする者がいる。人間に欲が存在する限り、理想が現実になることはない。でも、だからこそ、真摯に向き合っていくことが大切なんだ。まあ、言わなくても分かっていることだと思うけどねぇ」

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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