Act.9-401 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜ビオラ・スクルージ商会戦争〜 序章〜ダルカ・クロエフォード、倒れる〜 scene.2
<三人称全知視点>
その日、生徒会の会合のために生徒会室にやってきたミレーユはリオンナハト、カラック、アモン、マリア、リズフィーナ――臨時班に参加していた面々が揃って浮かない顔をしていることに気づいた。
「皆様、一体何があったのかしら?」
言葉にしたのはルーナドーラだったが、サファルス、フィリィス、ウォロスやフォルトナ=フィートランド連合王国からの留学生であるガラハッドとリーシャリスもリズフィーナ達の異変に気づいたらしく心配そうにしている。
「……臨時班の任務で取り返しのつかない失敗をしてしまったのよ」
「いえ、失敗ではありませんわ」
ノックと共にエルシーを伴ったエイリーンが生徒会室に入ってくる。
「……ごめんなさい、エイリーン様」
「……だから、謝ることじゃないって言っているでしょう? あの任務で苦い思いをしたのは分かっています。私も報告を聞いた時、複雑な心境になりましたが。ですが、当初の任務は達成し、全員無事に帰還できたのです。これを成功と評価せず何を成功と評価するというのですか? リズフィーナ様、貴女は突然隕石が降ってきて大量絶滅が起きたとして、死後の世界で私は取り返しのつかない失敗をしたと嘆くのですか? あれは降って湧いた厄災……対処しろという方が理不尽です。それに、悪いだけの話でもありませんよ。気を取り直していきましょう! 本日は臨時班に参加された皆様に報酬をお支払いに参りました」
「あの理解し難い金額の報酬か……」
「流石に手渡しは不用心なので、別のものをご用意致しました。こちら、特殊な小切手になりますので換金を希望する際はお手数ですが、ビオラの諜報員が待機する隠れ家かフォルトナ=フィートランド連合王国にあるビオラの支店、またはベーシックヘイム大陸にあるビオラの本社か支社にお越しください。もしくは、希望日時を教えて頂ければその日に指定した場所にお持ちし、交換することも可能です」
エイリーンはそう言いつつリオンナハト、カラック、アモン、マリア、リズフィーナ……と、何故がミレーユに小切手を手渡していく。
「ちなみに、リオラ様には既に渡しておきました。……こんな大金は受け取れないと三回も断られてしまいましたので、少々面倒でしたけどね」
「あの……エイリーン様? 何故、わたくしの分もあるのですの? 臨時班には……」
「生徒会選挙――青の試練と、ヴァルマト子爵領でのメイッサ嬢の勧誘。この二つを合算し、臨時班に匹敵する内容であったと判断しました。……それと、残る試練の報酬の前払いも含まれていますので必ず残る三つの試練をクリアしてください。まあ、『帝国の深遠なる叡智姫』であるミレーユ様に発破をかける必要などある筈もありませんが」
「がっ、頑張りますわ!!」
エイリーンからプレッシャーを掛けられたミレーユは少し震えながら答えた。
「あっ、あの! エイリーン様ッ! 少し後でお時間を頂戴してもよろしいでしょうか?」
実は顔色が悪かったのはリズフィーナ達だけでは無かった。
近くまでクロエフォード商会の荷馬車がやってきているとのことで父に会うために島を出ていたフィリィスが切迫した表情でエイリーンに尋ねると、エイリーンは微笑を浮かべて「勿論」と答えた。ミレーユにはその笑顔が恐ろしく獰猛なものに見えたのだが、見なかったことにして目を逸らす。
「ところで、サファルス様。あまり時間が経っていない状況で恐縮ですが、例の件の進捗はどうでしょうか?」
「……あまり芳しくはありませんね。やはり尻尾を捕まえさせてもらえないので、荒療治が必要かと考えているところです。……その時はお力をお貸しして頂くことになるかと思います」
「見極めは重要ですね。頼るばかりでは依存してしまうのでダメですが、なんでも自分達でできると過信して失敗してしまうと、取り返しのつかない痛手になりかねません。まあ、お好きなタイミングでお声掛け頂いたら対処しますが、ここから先少しだけ忙しくなりますので、多少ご期待に添えなくなるかもしれませんね」
「エイリーン様、忙しくなるとはこれから何かあるのでしょうか?」
ウォロスの問いにエイリーンはただ微笑むのみ。しかし、そこから何かを察したのだろうガラハッドとリーシャリスはエイリーン……と、拳を強く握り締め、取り繕った笑みの下に怒りを滲ませるエルシーから視線を逸らした。
「大切な生徒会の会議の途中で失礼致しました。それでは私とエルシーは失礼致します」
◆
<一人称視点・エイリーン=グラリオーサ>
生徒会の会議が終了した後、フィリィスは寮にあるボクとソフィスに割り当てられた部屋へとやってきた。
ちなみにセントピュセル学院では基本的に一人一部屋ずつ割り当てられる形なのだけど、ソフィスの希望もあって二人で少し広めの部屋を使わせてもらっている。
決して少数派という訳ではなく、未来から来た道標であるミラーナをできるだけ側においておきたいミレーユや、婚約者の弟で従者であるダリスと部屋を同じとするサファルスなど、他にも相部屋を選択する者がいない訳ではない。まあ、従者には従者用に部屋を割り当てられるんだけどねぇ。ライネとかはミレーユの部屋の近くに自分用に割り当てられた部屋があるし。
「折角なので、ここではなく別の部屋でお話をしましょうか? ……カレンさん、申し訳ないけど空きラウンジを探してきてもらえないかな?」
「承知しました、ローザお嬢様」
「それと、今回の話なんだけど差し支えなければ同席してもらいたい人がいるんだ。許可をもらえないかな? フィリィスさん」
「……ミレーユ様ですか? 流石にご迷惑をお掛けするのは……」
「この話、別にミレーユ姫殿下にも無関係って訳じゃないでしょう? 親友に心配を掛けたくない気持ちも分かるけど、あんまり隠し事はやめた方がいいと思うよ」
「分かりました。ミレーユ様には私の方から……」
「じゃあ、許可をもらえたしボクが――」
「お待ちください、圓様。マンジュリカさん、申し訳ないけどミレーユ姫殿下にラウンジに来てもらえるように声を掛けてもらえませんか?」
「――承知致しました、ソフィス様」
フィリィスはボク達の手を煩わせないように自分がミレーユを呼びに行こうとしたみたいだけど、ボクが動く前にソフィスがマンジュリカに声を掛けてミレーユを呼びに行ってしまった。
ボクがミレーユを呼びにいくつもりでカレンに声を掛けたんだけど……失敗したねぇ。まあ、こんなところで争っても仕方ないし、切り替えていこうか。
「……先にボク達だけでラウンジに向かいましょうか?」
フィリィスとエルシーを伴ってラウンジの受付に向かい、カレンが予約をしていたラウンジに入る。
王侯貴族も通う学院だからこういう施設もかなり充実しているみたいだねぇ。
ボク達の到着から数分後、ライネを伴ったミレーユがラウンジに現れた。マンジュリカはミレーユを呼びに行ったところで自分の役目は終わったと判断したのか割り当てられた部屋に戻ったらしい。
先手を打って全員分の飲み物とケーキを用意する。後手に回ったカレンが少しだけ不服そうな顔をしていたけど、そっと目を逸らして気づかなかったフリをしてやり過ごす。
「フィリィスから大切なお話があるとマンジュリカさんから聞きましたわ。生徒会の時間もほとんど上の空でしたし、何かあったのですわね? 水臭いですわよ、フィリィス。貴女は、わたくしの大切なお友達ですわ。貴女の元気がないと、わたくし、こんなに甘いココアだって美味しく頂けませんわ」
「いや、どんな状況でもそのココアは美味しく飲めちゃうんじゃないかな?」とボクが視線を向けると、ミレーユは慌てて目を逸らした。……目を逸らすって暗に認めているってことなんだけど、その辺り分かっているのかな?
「わたくし、友達とは本当に困っている時に悩みを共有し、共に考えることができるものだと思っていますわ。ですから、もしも貴女がわたくしのことを、お友達だと思っているのなら、是非話してくださらないかしら? 必ず力になりますわ」
「み、ミレーユ様……うう」
ずっと耐えてきた、隠してきたフィリィスの気持ちがミレーユの言葉で耐え切れなくなったんだろうねぇ。堰を切ったように眼鏡の奥の瞳からポタポタと涙が零れ落ちる。
「ほら、フィリィス……落ち着いて。涙をお拭きなさい」
ハンカチを差し出して、フィリィスの背中を摩ってあげる聖女という以外に表現のしようのない優しさに溢れたミレーユ。
そして、フィリィスとミレーユの友情……百合の波動に「ご馳走様でした」という顔になるボク。そして、そんなボクを微笑ましそうに見るエルシー……これ、側からは絶対に「何この状況」と思われる絵面だよねぇ。特に後ろの変質者二人は。
「すみ、ません、ミレーユ、様……。実は……お父さんが、倒れて、しまって」
「…………はぇ?」
「…………はぃッ!?」
「……えっ!?」
しゃくり上げ、途切れ途切れのフィリィスの声を聞いた瞬間、完璧に見えた笑みが崩れ落ちるミレーユ。
そして、ボクの予想が外れ、咄嗟に出た驚いた声に更に驚いたエルシーが驚きの声を上げるという「何これカオス」な状況である。……というか、ソフィスさん。君のボクへの評価ちょっと、どころか相当おかしくなっているんじゃない? 予想だってここ最近結構外しているんだけどなぁ……。主に、突然降って湧いた案件で。
まあ、今回は完全にボクの計算ミスだけど。
「なっ、おっ、はっ、ふぃ、フィリィスのお父様……クロエフォード卿が、倒れた!? くっ、詳しい話を聞かせていただけないかしら!!」
ミレーユにとってクロエフォード商会は飢饉による帝国破滅を回避するための生命線だからねぇ。
もし、そのトップである商会長のダルカに何かあったら……と考えたらゾッとするのも当然のこと。
「実は……うちの商会に攻撃を仕掛けてきた商会があるんです」
「シャイロック・スクルージ率いるスクルージ商会だねぇ」
「……スクルージ」
「やはり、圓様もご存知でしたか。……実は意識を取り戻した父がスクルージ商会がビオラ商会合同会社を敵視し、攻撃を仕掛けようとしていることを圓様に伝えて欲しいと私に伝言を頼みまして、一刻も早くお伝えしないとと思っていたのです」
「……本当に申し訳ございません。ヘイト管理をミスりました。完全にうちに敵意を向けさせたつもりだったけど、思った以上にクロエフォード商会への敵意を消せなかったみたいだねぇ。これはボク……っていうか、アネモネが正式にダルカさんに謝らないといけない案件だ。今後の対策も含めて伝えたいところだけど……流石に療養中のところに押し掛けるのは申し訳ないか」
……って、少し話を飛躍させ過ぎたか。フィリィスもミレーユもついて来れていないし、もう少し噛み砕いて、現状を説明しないとねぇ。
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