Act.9-396 臨時班活動最中のブライトネス王国の日常〜憤怒するジェルメーヌと、迷えるエルヴィーラ〜 scene.1
<三人称全知視点>
王子宮筆頭侍女の交代に伴い、新設された次席筆頭侍女の主だった仕事は所属する宮の筆頭侍女の仕事の補佐である。
侍女としての仕事は勿論遂行するが、筆頭侍女の秘書としての仕事の方が多く、そのため、筆頭侍女と行動を共にする場面が極めて多い。
当然、勤務時間も重なるため、アルマとジェルメーヌは相談の上、同じタイミングで休憩を取ることにしていた。
この休憩もただ休んでいるだけでなく、仕事中の気づきなどの情報を交換する場として機能している。更に、二人が対応しなければならないレベルの仕事ができた場合には対応に当たらないといけないため、完全に仕事と切り離された休憩とは程遠い内容になっていた。
二時頃、少し遅めの昼食を摂っていたアルマと向かい合うように、いつものようにジェルメーヌが四次元空間から取り出したパフェを、コーヒーを飲みながら食べていた。
ちなみに、ラインヴェルド達が好んで飲む最高級の珈琲豆をこれでもかと冒涜するように蜂蜜やホイップクリーム、角砂糖などが放り込まれた最早コーヒーとは呼べない飲み物はジェルメーヌとなってからも健在である。
当初は色々と思うところがあった圓からも「もう少し色々と控えた方が良いんじゃないかな?」とアドバイスを受けたが「自分が一番美味しいと思う飲み方をするべきだと私は思うのですわ」と真っ向から意見を述べたらしい。
色々と拘りが強過ぎるくらいにある圓すら何も言い返せなくなるほどの気迫で意見を言われてしまい、それ以降、説得を諦めたのか「せめて、定期的な健康診断はしっかりと受けてねぇ」というアドバイスをして以降、この話題に触れないようになったようだ。
真正面から圓に舌戦で勝ったということで、ラインヴェルドとオルパタータダの耳に入ると「クソ面白い!」と笑いのネタにされ、圓の怒りを買ったラインヴェルドとオルパタータダが揃ってボコボコに遭ったとか、遭ったとか。
しかし、それにしてもジェルメーヌがその日コーヒーに投入する角砂糖の数は異様に多いようにアルマの目には映った。
「ジェルメーヌさん、何かあったのかしら?」
「……少しストレスが溜まることがありましたので、つい砂糖の量が多くなってしまいましたわ。ストレスにはやっぱり、甘いものですから」
「……もしかして、王子宮の仕事のこと? こういう話は共有した方がストレスが減るものだと思うのだけど、よければ話を聞かせてくれないかしら?」
「流石にお節介が過ぎたかしら?」と思いつつ、アルマがジェルメーヌに尋ねると、ジェルメーヌは満面の笑みを浮かべて「お気遣いありがとうございますわ。でしたら、お言葉に甘えて」と言いつつ、王子宮筆頭侍女の執務室に結界を張った。当然、ジェルメーヌの行動から防音対策をしなければならないような話題であることを察知したアルマが「もしかして、とんでもない話が飛び出すんじゃないかしら!? これって下手に聞かない方が良かった話だったのでは!?」と今更ながら藪蛇を突いたことに気づき、冷や汗を流す。
「つい先日の臨時班の任務でのことなのですが――」
「ちょっと待ってくれないかしら!? 臨時班の任務って確か守秘義務が発生するのよね。その話って本当に私が聞いてもいいものなのかしら?」
「ああ、大丈夫ですよ。本当に話してはいけない部分についてはぼやかしますので。先日、『這い寄る混沌の蛇』と繋がりの深いブライトネス王国の貴族を粛清するべく、ブライトネス王国の暗部と共同で任務に赴いたのですが、その最中、クソ陛下共が乱入したのですわ。致し方なく、ビオラの闇の三大勢力の一角が開発した新型兵器との模擬戦をセッティングすることになったのですが、ラインヴェルド陛下、オルパタータダ陛下、エイミーン陛下はあろうことかその新型兵器を大人気なく破壊してしまったのです!! 普通、完全に破壊するところまでやりますか!? 一体作るだけでも正規の方法なら膨大な時間とブライトネス王国の王城が三つ以上立つほどの莫大な資金が必要となるんですよ!! ああ、もう本当に好奇心に正直な阿呆共はッ!!!」
「――この王城が三つ分!? ……そっ、それは本当に膨大な損害ね」
王子宮筆頭侍女として、王家の買い物を代行することがあるアルマだが、流石にアルマでもそれほどの天文学的な金額を動かすことはない。
勿論、子爵令嬢アルマでは絶対に一生掛かっても払い切れない金額がある。本来、それほどの賠償金を支払わなければならないほどのことをしでかしたラインヴェルド達の暴挙にアルマの頭はクラクラした。
「……兄貴は相変わらずだな」
「バルトロメオ殿下、貴方もあの場にいたら参戦していたのでは? というか、圓様のご好意であの話は有耶無耶になったとはいえ、本来であればビオラがブライトネス王国に賠償請求をするような話です。……まあ、確かに私に非がないとは言いませんよ。ダメージがフィードバックしないようにするとかやり様はありましたし。でも、常識の範囲内で考えてあれは流石にないでしょう!!」
当然のように窓を経由して入って来た呆れ顔のバルトロメオにジェルメーヌが鋭い眼光を向ける。
「とりあえず、この件はバルトロメオ殿下の普段の勤務態度と共に王太后様に報告させて頂きました」
「――ッ!? ちょっと待てッ!? なんでそこで俺の話が出てくるんだよ!! 頼む、アルマッ! お前からも何か言ってくれ!!」
「私としても本当はバルトロメオのフォローをしたいところなのよ? でも、フォローできる余地がどこにもないわ」
「そんなッ!?」
冷たくあしらうアルマにショックを受けた……フリをするバルトロメオ。
ちなみに、正式に婚約後、アルマはバルトロメオからの頼みもあって基本的には敬称を付けずに呼び捨てで名前を呼んでいる。
「あっ、そういやジェルメーヌ。朝からクソ兄上がどこにも見当たらないんだけど、何か知っているか?」
「……もしかして、聞いていないのですか? 本日、ラインヴェルド=クソ陛下は圓様と共にペドレリーア大陸・農耕国ウェセスタリスの王宮で行われる今後の農耕国ウェセスタリスの未来を決める重要な会議――五国会談に多種族同盟の代表として参加されていますよ。本来、三千世界の烏を殺して参加すべきところを、『俺は国の代表として仕事をしてくるんだ! 今日の仕事は全部キャンセルするに決まっているだろ!!』という極めて身勝手な理由で本日の仕事を全てキャンセルしています。本当に身勝手な輩ですわね」
「ああ、だからメアレイズ達がブチギレていたのか」
「バルトロメオ、そろそろ仕事に戻った方がいいんじゃないかしら?」
「恋人としては、もう少し一緒にいたいって言われたいんだけどなぁ。でも、あいつら怖いし、俺、そろそろ戻るわ」
バルトロメオが去ったのを横目で見つつ、コーヒー……だったものを口に含み、ホッと一息吐いたジェルメーヌが少し考えるような仕草をした。
「バルトロメオ殿下の普段の行いは目に余りますが、恋人と甘々な時間をなかなかお二人が過ごせないのは後輩として心苦しいところですね。一度、圓様に相談してみましょうか?」
「――ッ!? ジェルメーヌさん、落ち着いて! あの方、そういう話を持ち出すと絶対悪ノリするタイプだから!!」
「大丈夫ですよ! 圓様は悪ノリではなく誠実に全力で仲を深める方法を考えてくださる方ですから!!」
満面の笑みを浮かべるジェルメーヌに「ああ、これは説得ができないパターンだ」と察し、項垂れるアルマだった。
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