Act.9-394 緊急招集・多種族同盟臨時会議 scene.1
<一人称視点・リーリエ>
昨日の今日の突然の招集にも拘らず、今回の多種族同盟臨時会にはブライトネス王国、フォルトナ=フィートランド連合王国、ニウェウス自治領、翠光エルフ国家連合、ユミル自由同盟、ド=ワンド大洞窟王国、エナリオス海洋王国、ルヴェリオス共和国、風の国ウェントゥス、ラングリス王国、ムーランドーブ王国、神嶺オリンポス、魔法の国、オルゴーゥン魔族王国、ノスフェラトゥ王国、ネファシェム天翼国、冒険者ギルド、魔法師ギルド『不死鳥の尾羽』、クラン『烈風の旅人』、クラン『紅の華』、フォティゾ大教会――つまり多種族同盟を構成する総ての国と団体が出席してくれた。本当にありがたいねぇ。
ちなみに、ビオラ=マラキア商主国の代表としてボク――リーリエが、黒百合聖女神聖法神聖教会及びクレセントムーン聖皇国の代表として白夜が出席している。
「ウェルフィンドさんは今回が初の多種族同盟会議出席だったねぇ。……本来は定例会の形を取っているけど、稀に緊急性が高い話題があって、共有しなければならない場合はこうやって臨時会を開くこともあるんだ。今回は流石にメールで共有って訳にはいかない話だから無理を言って臨時会を開かせてもらったよ。最初の会議がこんな形になってしまって申し訳無かったねぇ」
「こうして外界の方々との会議に出席することは初めてですので、至らないところがあるかもしれませんが、皆様どうかご容赦ください」
「ウェルフィンド、そう緊張する必要はないと思うぜ。フランクに行こうぜ、フランクに」
「ラインヴェルドにはもう少し緊張感を持って会議に望んでもらいたいけどねぇ。はぁ……。それから、多種族同盟加盟国の合同訓練のためにネファシェム山を解放し、ご協力頂けたこと、心よりお礼申し上げます。良き訓練ができていると方々から報告を受けているよ」
「こちらこそ、我々にとっても良き刺激を受けました。圓様には偽天翼族の少子化対策のために技術を提供して頂いているという恩がありますので、流石にこれで恩返しという訳にはいかないと思いますが、お役に立てて光栄ですわ」
「そういえば、圓殿は偽天翼族の少子化対策を引き受けていたんじゃったな。具体的にはどのような手段を使ったのじゃ?」
質問をしたのはアスカリッドだったけど、他の参加者達もかなり興味を持っている話題みたいだねぇ……興味無さそうなのはラインヴェルドとオルパタータダくらいか。
「皮膚細胞などを採取した上で、その細胞から生殖細胞を生成、クローンを作りたい訳じゃないから直接的な遺伝子の改変と、生殖細胞の生成及び体外受精・人工母体による成長……まあ、思いっきり人道から外れた方法だねぇ。そもそもここまで数が減ってしまったのは偽天翼族という種の性質と、悠久の時を生きる最強種が故の生殖に対する意識の問題によるものだし、まともな方法で数を増やせるなら既にやっているだろうしねぇ。……まあ、あくまで最終手段であって、ある程度数が増えてきたら意識改革の方に移行していってもらうよ。しっかりと後遺症とかがないように時空魔法を使って確認して行っているから、生まれた子供も自然に生まれた偽天翼族と全く差がないよ」
ゼルドマン、アトラマ、クレスセンシア、セルーシャ――ボクとの付き合いがそこまで長くない面々は絶句、ラインヴェルド、オルパタータダ、エイミーンを除く他の面々は苦笑いを浮かべている。
この場で最もこういった話題に忌避感を示しそうな宗教家のレイティアも、ボクが禁忌とされているものを平気でいくつも踏み潰して進んでいることを知っているからか、深く考えることはやめているらしくスルー。……まあ、肯定的な反応をしているのがいつもの好奇心旺盛な阿呆三人衆だけだから、それでもアンチが大半な話題であることは分かっているよ。
「……しかし、驚いたね。まさか、そう言った研究を既に進めているなんて。化野學にこう言った研究は任せるつもりだとあたしは記憶しているんだけどね」
生殖細胞を変化させる技術はレジーナが完成を楽しみにしていたものだった。やっぱり、最愛の人との愛の結晶は欲しいものだからねぇ。
それをボクと化野さんの再会まで待っていたレジーナにとって、それよりももっと早く類似の技術がレジーナに内緒で完成していたというのは怒りすら覚えることだったんだと思う。
「……そのつもりだったんだけど、重い腰を上げざるを得なくなったというか。といいつつ、体細胞から生殖細胞を作る技術は既に前世にはあったから、生殖細胞に改変を加える技術よりはまだ簡単な部類だったんだけどねぇ。……まあ、気持ちも分かるし、どっちでもできるように化野さんに任せるつもりだった方の研究も進めておくよ。レジーナさんとユリアさん以外にもこの技術が欲しい人がいることは知っているからねぇ」
この場にいないマグノーリエとプリムヴェールを想像しつつ、レジーナに返答するとエイミーンが「ありがとうなのですよぉ〜!」と嬉しそうに言った。……まあ、実際には彼女達だけじゃなく、ボクにとっても重要な技術なんだけどねぇ。
既に完成した技術と合わせれば、性別の壁は無くなると言っても過言ではない……いや、『分身再生成の水薬』とかがある時点で壁なんてものはないに等しいんだけどさぁ。
「さて、前置きが長くなったけどそろそろ本題に入らせてもらおうか。現在、ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸で行われている臨時班は極めて順調に進んでいる。残すはセントピュセル学院を舞台とするミレーユさん達に纏わるものと、フィクスシュテルン皇国でのジェルエナとの対決のみ。こちらも、ジェルエナが国内に入ったという報告を受けているから時間の問題だろう。まあ、後はスクルージ商会との対決とかもあるけど、そういった細々としたことはあるけど、臨時班の関連じゃないから今回は置いておくよ。追加のスクライブギルドの壊滅依頼も、担当してくれた臨時班がそれぞれ最善を尽くしてくれた。昨日、ラインヴェルド陛下と共に五国会談に赴き、唯一の懸案だった農耕国ウェセスタリスの問題も解決に至った。今回の臨時班がかつてないほど成功を収めていた……この事実に偽りはないと思うよ」
「でも、それだったらペドレリーア大陸とラスパーツィ大陸の臨時班が終わったところで祝勝会をすればいいだろ? このタイミングで俺達を呼び出したってことは、ここまでの成功を特例でひっくり返すほどの何らかのイレギュラーが起きたってことじゃねぇか?」
まあ、流石にオルパタータダほど聡明じゃなくても気づくことだからねぇ。それを口にせず、ボクが言い出すまで待ってくれていただけであって。
「スクライブギルドの壊滅作戦は全て成功した……その事実に偽りはない。だけど、二つだけ失敗している任務がある。独立港湾都市セントポートのスクライブギルドを無事に壊滅させた後、臨時班が地上に戻ったところで『這い寄る混沌の蛇』が保有していたと思われる戦艦と遭遇した。乗船していたのは『綺羅星の夢』所属、四人目の三賢者である『蘇生の魔女』シャッテン・ネクロフィア・ シャハブルーメ、同同盟所属、アンドリューワーズ魔導王国の元大臣で『縮小大臣』の異名を持つラクツ=ファーナー、同同盟所属、元混沌の指徒パヴスェル、そしてタイダーラ・ティ=ア=マット……厳密には、彼の焼死体ということになる」
「――ッ!? まさか、『管理者権限』が奪われたってことか!?」
「奴が握っていたのは……おいおい、『ダイアモンドプリンセス〜這い寄る蛇の邪教〜』と『蛇の海〜絆縁奇譚巻ノ一〜』の『管理者権限』、二つともかよ!?」
流石にラインヴェルドとオルパタータダも驚くよねぇ。そして、雪菜と黒華は猛烈な勢いで罪悪感に押し潰されている。
「黒華さん達が罪悪感を感じることじゃないよ。もっと罪悪感を感じるべきカルファさんが、目を逸らしながら私は全く悪くないアピールをしていたくらいだからねぇ」
「圓殿の予想では、不完全なものも合わせて三つの『管理者権限』を保有している可能性があったのだな? そこに、二つの『管理者権限』が加わったとなれば合計は五つ……厄介だな」
「これまでの『管理者権限』を求める神々は基本的に共闘の姿勢を取った。圓殿を倒し、その後、神々の争いを経て真の神を決めるという方針を取っていた故に、向こうから仕掛けてくるのをただ警戒すれば良かったが……『綺羅星の夢』はやはり今後、ゲームチェンジャーとして存在感を増してくるのだろうな」
「……まあ、アイオーンさえ倒せば問題ないといえば問題はないんだけど、貪欲に『管理者権限』を取りにいくという意思を示しているっていうのは新しいパターンだねぇ。ディグラン陛下の仰る通り、彼らにはより一層注意を払っておく必要があると思う。バダヴァロート陛下が指摘してくれた通り、彼らの保有する『管理者権限』は今回の件で五つとなった……少なくとも唯一神が三つ、単独で複数の『管理者権限』を保有するのはボク、アイオーン、ヌースに続き、四陣営目となった」
「圓殿、一ついいだろうか? 今回の失態とは、シャッテン達を取り逃したことなのか?」
「ピトフューイさん、申し訳ないけど交戦はしていないんだ。取り逃したのではなく、見逃したが正しい。臨時班のサポート役として参加していた諜報員オウロアーナさんが交戦しようとしていたジョナサン神父を制止し、取引に応じてもらう対価もして見逃すことを約束した。個人でできる判断を越えてしまったということで、その後オウロアーナさんが直接詫びに来た挙句、責任を取って腹を切るなんて言い出すから宥めるのが大変だったよ」
「あのジョナサンを制止しただって!? しかも納得させた上で取引!? ウケるんだけど!! マジかよ!!」
「結論から言うと、オウロアーナさんの判断は英断だった。最善手だったんだ。だから、ボクは彼女を責めるつもりはないし、最大の貢献をしたということで個人的に褒賞を出すつもりでいる。……向こうに戦意は無かったそうだし、いつでも逃げられる状況だった。三人全員を倒せる可能性は限りなく低いし、準備ができていない不意打ちの戦闘でこちらが大きな損害を被る可能性だってあった。何度も言っているけど、臨時班で最優先なのは自分達の命だ。後少しだからと無理をして深追いするのはよろしくないからねぇ」
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