Act.9-393 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜五国会談〜 scene.2
<三人称全知視点>
「まず、私の意見を述べる前に前提となってくる今後の農耕国ウェセスタリスの統治の方法を確認して行きましょう。まず、農耕国ウェセスタリスから新たな国の首長を任命し、その首長に国家を運営してもらうというものがありますね。農耕国ウェセスタリスの国の形を最も変えない方法ではありますが、一つ前の統治者が『這い寄る混沌の蛇』と繋がりを持っていたという前例がありますから、この選択肢を選ぶ場合はオルレアン神教会から信頼できる人物を監視者を置く必要があると思います。……まあ、これが一番収まりのいい形ではありますが、国王というのは基本的に由緒正しく正統な血筋でなければならないという考え方がありますからねぇ。どのような基準で次の首長を選定するかという点が争点となるでしょう」
「もういっそ、共和制とかにして、選挙で首長を選ぶ形にしちまえばいいんじゃねぇか?」
「ラインヴェルド陛下、他国のことだからと好き勝手言わないでください。……王権と教会による統治が一般的な大陸で共和制なんて導入してみなさい、混乱の元ですよ。ベーシックヘイム大陸でのビオラの扱いがどうなっているか、知らない訳ではありませんよねぇ? 異端かつ画期的過ぎる国家の運営に奇異な目が向けられていますよ。表立って文句を言われないのは、我々が成功を収めているから、単純に力を持っているから、こういった理由からでしょうねぇ。それに、私は急激な共和制に否定的な立場です。……重要なのは、どういった立場の人間が統治するかではなく、その統治で何を目指すかです。誰が治めていたって、富を独占しようとすれば、民を蔑ろにしていけば国は腐敗していきます」
絶対王政が崩壊し、民衆による政治が始まっても必ずしも素晴らしい統治になるとは限らないことを圓は身をもって知っていた。
民の代表たる政治家達に、彼らが運営する『国家』に圓は命を狙われ、財産を狙われ、その度重なる行いに怒りを覚え、前世の圓は国を滅ぼす許可を家族に出したのだから。
「二つ目の方法は、今回の件で動いた多種族同盟がこの地を治めるというものです」
「多種族同盟……ってか、この場合はビオラ――つまりお前を頂点とした新国家の樹立だろ? 親友?」
「――ッ!? まさか、貴女方の統治を我々に認めさせるためにオルレアン教国の公爵様と陛下を招いたということですか!?」
アネモネが正当性の欠片もない侵略行為を目論み、この秘密会談を利用して後ろ盾を得ようとしていると勘違いした近衛騎士がアネモネに非難を込めた視線を向ける。……まあ、その顔からは先ほど霸気に当てられたこともあって完全に血の気が引いていたが。
「あのさぁ、なんでボクが統治しないといけないのさぁ。先日、尻拭いする形で統治することが決まってしまったラスパーツィ大陸の海洋都市レインフォールの統治者代行を誰に委任するかすら決まっていないんだよ!? ……それに、オルレアン神教会に睨まれたくない。一応、この大陸の最高権力だからねぇ……ことを構えるとか少し面倒だよ」
「流石はアネモネ閣下だな。ペドレリーア大陸中を全て敵に回して戦争をしたところで勝利できるお方の仰ることは違う。閣下の慈悲に心から感謝を」
「ダイアモンド帝国も多種族同盟と敵対するつもりはない。……勿論、勝利の可能性が皆無であることも理由の一つだが、ミレーユの友人と敵対はしたくないからな」
マティタスとバーデルゲーゼの言葉に、マティタスの護衛を務める近衛騎士二人とイグルは「虚言ではなく、本当にそれだけの力を持っているのか!?」と驚き、頭を抱えた。
「しかし勿体ねぇなぁ。アネモネが貴族として治める領地と、アネモネが君主になっている国はその後、圧倒的な発展を遂げている。しかも、ただ豊かなだけじゃない。一人一人にアネモネ自らが寄り添い、夢を叶える手助けをする……その結果、幸福度も桁違いだ。これほどいい為政者は世界中探してもいねぇだろ。うちの国もお前に任せたいんだけどなぁ、そうすりゃ、俺もクソめんどくさい国王の仕事から解放されるし」
「いや、お前は真面目に働きなよ、クソ陛下」
「へいへい……なんで親友はこんなに俺に冷たいんだろうなぁ? なぁ、マティタス、バーデルゲーゼ」
ラインヴェルドから鋭い視線を向けられ、マティタスとバーデルゲーゼはお関わりになりたくないとばかりに視線を逸らした。英断である。
「後は、オルレアン教国による統治、ダイアモンド帝国による統治、ラージャーム農業王国による統治――この三つの選択肢が、今回の会議に三国の代表者が招かれた時点で容易に想像が付くと思いますが、この中でラージャーム農業王国による統治が一番良い形であると考えています。ラージャーム農業王国と農耕国ウェセスタリスは共にダイアモンド帝国建国以前に肥沃な三日月地帯で暮らしていた先住民ですからねぇ。……まあ、農耕国ウェセスタリスの方は、肥沃な三日月地帯の支配を目論んだ当時の次期族長の弟が同志達と共に建国した国ですが。……同じ民族でありながら確執がある両国ですが、もし、ラージャーム農業王国が農耕国ウェセスタリスを取り込む形で再び統一することができれば、農耕国ウェセスタリスの歴代王族に対するいい意趣返しになると思いませんか?」
「うわぁ、親友がめっちゃ笑顔なんだけど……ああっ、怖っ。俺、知〜らない」
「ここでオルレアン教国が出張るのは少し違う気がする。私はアネモネ閣下の意見を支持させてもらう」
「我も異論はない」
ここでアネモネの提案にマティタスとバーデルゲーゼが揃って乗ってくるとは思いもよらなかったイグルが衝撃を受けて固まった。
イグルの顔が絶望に染まる……が、マティタスに視線を向け、断れないと判断したのだろう、イグルは項垂れ、「謹んでお受け致します」と呟くように言った。
◆
五国会談を終えた後、アネモネは「ディオンさんによろしくお伝えしてくださいね」とにっこり笑いつつマティタスと近衛騎士達をダイアモンド帝国に送り届けて、騎士達を絶望のどん底に叩き落とし、続いてバーデルゲーゼをオルレアン教国へと送り届けた。
「それでは、イグル陛下。ラージャーム農業王国までお送り致します。近々、農耕国ウェセスタリスの前王国政府の中核を担っていた方々をラージャーム農業王国まで送り届けますので、彼らと話し合った上で国の運営を進めて行ってください。……突然、このようなお話をお願いして申し訳ございませんでした。勿論、我々もできる範囲で陛下に協力させて頂きますので、どうかよろしくお願いします」
「……全く、アネモネ閣下もお人が悪い。いや、ご存知ないのなら致し方ないことかもしれませんな。……ダイアモンド帝国とラージャーム農業王国の関係をご存知ならこのようなことを言い出す筈がない。この件でダイアモンド帝国に貸しを作ってしまった。……今後、帝国からどのような無理難題を言われるか、想像するだけで恐ろしい」
「総て知っていますよ。ダイアモンド帝国とラージャーム農業王国の因縁も、ラージャーム農業王国の置かれているその立場も。その上でのあの提案です。……先程の私の発言から察せるところもあったのではありませんか?」
「ならば! 尚更です!! 何故、このような真似を!!」
感情を露わにするイグルに対し、アネモネは一切感情に波風を立てることなくゆっくりと口を開いた。
「……かつて、全てに絶望し、豊かな恵みを享受する農耕民族を羨み、憎しみ、呪いを掛けた男がいました。そして、近い未来、その呪いに真っ向から向き合い、ダイアモンド帝国を、そしてこの大陸を変えようと動き出す者が現れるでしょう。――彼女はきっと変えるでしょうねぇ、四人の信頼できる友と共に、大切な仲間達と共に。貴方は何も変えられないと思っている……農奴へと転落したその立場を、消えない忌むべき慣習を。まあ、私が今、何を言っても信じてはもらえないでしょうからねぇ。まあ、今は恨んでくれて構いませんよ」
アネモネの瞳はイグルに向けられていたが、同時に別の場所に向けられているようにも見えた。
彼女の瞳には、ミレーユが四人の公爵子息・公爵令嬢と共にラージャーム農業王国に掛けられた呪いを打ち砕く光景が映っていたのだが、勿論、イグルはそのことを知る由もなく、アネモネの言葉の意味を理解することはできなかった。
◆
イグルをラージャーム農業王国に送り届けたアネモネはその後、兵士長のリチェルド・カッシュバールとリチェルドが推薦し、諜報員達からも信用を得た農耕国ウェセスタリスの文官であるノヴァヌス・フォルグワールと面会し、五国会談の結果を報告した。
「では、当初の予定通りラージャーム農業王国が旧農耕国ウェセスタリスの統治を引き継ぐということですね。承知致しました」
「それで、アネモネ閣下? 我々はいつ頃ラージャーム農業王国に赴けばいいのですか?」
「流石にすぐって訳にはいかないからねぇ。向こうにとっては寝耳に水の会議結果だった訳だし。とりあえず、一週間後に資料を持ってラージャーム農業王国に赴けるように準備を進めていくのがいいんじゃないかな? まだ国に留まっている諜報員に伝えれば送り届けるし、その他、必要なことがあれば遠慮なく諜報員に伝えてくれれば対応するよ」
リチェルドの問いに回答したところでアネモネの農耕国ウェセスタリスでの仕事は終わった。
「さて、緑の試練の前にスクルージ商会との対決を終わらせておかないといけないか。ただ、やることは絞られているし、少しゆっくりできるかもしれないねぇ」
そんな風に考えつつ、ラインヴェルドと共にブライトネス王国に戻ろうとした圓のスマホに一通のメールが届く。
その内容を確認した圓は落胆と自嘲、喜びがない混ぜになった複雑な表情を浮かべた。
「どうしたんだ? 親友?」
「ラインヴェルド陛下、明日、臨時の多種族同盟会議を開かないといけなくなった。……残念なお知らせが届いてねぇ、それを共有しないといけなくなった」
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