Act.9-392 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜五国会談〜 scene.1
<三人称全知視点>
独立港湾都市セントポートにてスクライブギルド壊滅を目指す臨時班が任務を開始した日と同日、アネモネとラインヴェルドの姿は農耕国ウェセスタリスの王宮にあった。
「圓様、ラインヴェルド陛下、お手間を取らせてしまい申し訳ございません。既にマティタス・ブラン・ダイアモンド皇帝陛下、イグル・ビリーリーフ・ラージャーム国王陛下、バーデルゲーゼ・ジャンヌ・オルレアン公爵閣下はご到着されております」
「まあ、暇だしなぁ、そう恐縮しなくてもいいぜ。……ただ最近はかなり扱いが悪くなっている気がするから、こうやって謙る対応をされるのも悪くないなぁ」
「……ラインヴェルド、扱いが雑になっているのは日頃の行いのせいだよ。……今回は国が国だからねぇ、流石にこっちで適当に処分って訳にもいかないし、致し方ないことだよ。フィロレンティアさん達にも迷惑を掛けてしまったねぇ。ボクのできる範囲で埋め合わせはさせてもらうつもりだから楽しみにしておくといいよ」
今回、農耕国ウェセスタリスにダイアモンド帝国、ラージャーム農業王国、オルレアン教国の元首や顔役を招くにあたり、重要な役割を果たしたのがフィロレンティア達諜報員の面々である。
通常のルートで各国から農耕国ウェセスタリスにこれだけの面々を集めるとなれば、移動だけでもかなりの時間を使ってしまう。当然、時間だけが掛かる訳ではなく、馬車の用意、護衛達の選定、その他諸々で労力と費用も嵩むことになることが容易に想像がつく。
そこで、圓は事前に「当日、送迎役の諜報員を各国に派遣する」ことを通達――当日、諜報員達の時空魔法で農耕国ウェセスタリスに転移してもらうということで、最小限の労力と費用でこの五国会談を実現したのだ。
流石に各国の皇族、王族、貴族を護衛を付けることなくたった一人で会談に出席させるという訳にはいかないため、今回の会談では護衛を二人まで連れてくることを許可している。……まあ、アネモネとラインヴェルドは誰も連れてきてはいないが。
「ダイアモンド帝国は近衛騎士が二名、オルレアン教国は神殿騎士が一名、ラージャーム農業王国は護衛無しでお一人で参加されるようです」
「……まあ、ラージャーム農業王国は戦力を保持していない国だからねぇ。ダイアモンド帝国の祖となる狩猟民族が来るまでは外敵という概念が無かった訳だし、ダイアモンド帝国に従属した後は反抗の意思がないことを示すために軍事力を保有しない方が都合が良かった。別にこの場は力を示す場じゃなくて対等な話し合いの場だからねぇ、別にそれぞれの国が納得できる形にすればいいんじゃないかな?」
「ジルイグス達騎士団長の中から選抜して連れてくるのも、ラピスラズリ公爵家から戦力を出してもらうのも、王家の影から選抜するのも、魔法省特務研究室から人員借りるのも違うしなぁ……あっ、オルパタータダを護衛に連れてこれば良かったんじゃねぇか?」
「国王が別の国の国王を護衛に連れてきてどうするんだよ? やるならせめて、レジーナさんの護衛にクソ陛下二人をつけるって形にしてよねぇ。……ってか、ラインヴェルドとオルパタータダを揃えるとか戦争でもする気なの?」
「……もしかして、親友の中で俺やオルパタータダよりもレジーナの方が上だったりするの?」
「はっ? 何を今更。皆まで言わなくても分かっていると思っていたんだけどなぁ」
意気消沈するラインヴェルドを伴ってアネモネは会議室に足を踏み入れる。
設置されている円卓には既にマティタス、イグル、バーデルゲーゼが着席しており、マティタスの背後には近衛騎士と思われる護衛が二人、バーデルゲーゼの背後にはヴァルディゴが控えている。
「本日は突然の呼び掛けに応じて頂きましたこと、心より嬉しく思います。多種族同盟を代表し、本日の会議には議長を務めております、私、アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン・レインフォールってことになる。非公式だけど、ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン・レインフォールと、加盟国の一つであるブライトネス王国国王、ラインヴェルド陛下が参加致します。では、具体的な話を進める前に今回の会議の前提をお話し致しましょう。今回の会議において、参加する五ヶ国は対等な国として扱います。それを念頭に置いた上でご参加ください」
「――我らがダイアモンド帝国が農奴の国と対等だと!? それに、多種族同盟などという聞いたことのない者達が誰の許可を得て会議を主導している! 陛下! オルレアン神教会ならともかく、このような者達が主導する会議に何故参加されたのですか!?」
詳しい話を聞かされていなかったのだろうか? ダイアモンド帝国かオルレアン神教会――そのどちらかが会議を主導すべきだと、五国対等の原則を打ち出したアネモネを睨み付けつつ、マティタスに進言する近衛騎士に、マティタスは冷や汗を拭いつつ恐る恐るアネモネに視線を向けた。
ちなみに、ヴァルディゴの方は学院潜入前のフォルトナ=フィートランド連合王国での交渉の場で既に圓の恐ろしさを思い知らされているため、終始胃をキリキリさせながらバーデルゲーゼに「帰りたい」という気持ちを込めて視線を向けているが、バーデルゲーゼは見て見ぬ振り……かなり可哀想な目に遭っている。
「……そんなに序列を付けたいのであれば、序列を付けましょうか? ですが、その場合、ダイアモンド帝国の序列がこの場の最下位に転落するだけですけどねぇ」
「――ッ! 貴様ふざけたことを!! 今ここで叩き切ってやる!!」
「剣を仕舞うのだ!! アネモネ閣下に、いや、多種族同盟に喧嘩を売ることだけは絶対にしてはならぬ!!」
遂に抜刀した近衛騎士を止めるべくマティタスが近衛騎士達に命令を下す……が、それよりも早く圧倒的な霸気がアネモネから放たれた。
「そんなにやりたきゃ、やるかい、戦争?」
意識を失わないギリギリを狙って調整された霸気は凄まじく、近衛騎士達は揃って一瞬にして戦意を喪失させられた。戦ったところで絶対にアネモネには勝てないことを魂に刻み込まれたのである。
向けられた黒い渦を成す死の具現化を前に、近衛騎士達は恐怖に震え上がり、膝から崩れ落ちる。
しかし、これだけ場を支配するほどの圧倒的な霸気を向けられても全く動じないどころか向かって行きたくなるという例外中の例外がこの会談には参加しており……。
「よしッ!! その戦争買った!!」
「ふざけんな!! 買うな、ド阿呆!!」
一瞬にして覇王神クラスまで高めた霸気を剣に纏わせたラインヴェルドが獰猛に笑いながらアネモネに斬り掛かる。
遂に限界を超えたヴァルディゴが悲鳴を上げながら気絶し、フィロレンティアが「うわ、マジかよ」という顔で固まる中、空気を読まないラインヴェルドにブチギレだ圓が『銀星ツインシルヴァー』を鞘から抜き払い、同じく覇道神クラスまで強化した覇王の霸気を込めて圓式の斬撃を放った。
圓とラインヴェルドの霸気は、圓が多少加減をしたことで拮抗――触れ合わない刃と刃の空洞を中心として生じた衝撃波は王城の一角を粉砕し、天を二つに割る。
「……話には聞いていたが、まさかこれほどとは。次元の違う戦い――ここに参戦しようなどという方が馬鹿げておるな。我が国の近衛騎士達が失礼した」
数分間意識を飛ばしていたマティタスがようやく意識を取り戻し、アネモネとラインヴェルドに謝罪した。
「俺は別にいいぜ。アネモネと剣を交える口実ができたからな!」
「……流石に一人で来たら舐められて会議にならないかなと思ってラインヴェルド陛下を連れてきましたが、やっぱり人選ミスでした。これなら、レジーナさんに拝み倒して、貸一つとした方がまだ良かったかもしれませんね」
調子に乗るラインヴェルドの背後に魂魄の霸気を使って光の速度で移動し、脳天に踵落としを浴びせ、机に顔を減り込ませると、アネモネは微笑を浮かべて「それでは本題に入りましょうか?」と提案した。
勿論、既に気絶しているヴァルディゴと顔面が机に埋まっているラインヴェルド以外の面々は笑顔の気迫と会議が始まってからの数々のアネモネが刻み込んだ恐怖により顔を真っ青にしている。
「既に、本日、農耕国ウェセスタリスで会議を行うに至った経緯については説明があったと思いますが、改めて説明させて頂きます。我々多種族同盟とオルレアン神教会の共通の敵である『這い寄る混沌の蛇』という邪教の重要施設の一つがこの農耕国ウェセスタリスにあることが判明し、施設破壊のための臨時班を派遣したところ、農耕国ウェセスタリスの国王グエルヘヴン・ウェセスタリスが邪教徒と手を組んでいたことが判明致しました。グエルヘヴンに子はおらず、邪教と繋がりのあるグエルヘヴンを国王にしておく訳にはいきませんので、当然ながら、王が不在となったこの地を誰が治めるのかという問題が生じます。また、罪人グエルヘヴンの処分も決定しなくてはなりません。こちらは我々の手で処分しても構わないのですが、これは一応、オルレアン神教会の管轄範囲で行われたことですから、オルレアン神教会にお願いするのが一番良いのではないかと考えております。いかがでしょうか? バーデルゲーゼ様」
「我々への気遣い、感謝する。元国王グエルヘヴンの身柄、責任を持って引き受けさせてもらう」
ちなみに、オルレアン神教会に知られたくない情報はあらかじめ魔法でグエルヘヴンの記憶から抜き取ってある。
そのため、オルレアン神教会に安心して身柄を譲り渡すことが可能だ。
「では、グエルヘヴンの身柄の問題はバーデルゲーゼ様に引き受けて頂けたので解決として、もう一つの問題の方に移りましょう。農耕国ウェセスタリスをこの際誰が治めていくかという問題について、各国にそれぞれの思惑があると思いますが、私も一つ考えていることがあります。まずはそれを聞いて頂いた後、議論に入っていくという形で皆様よろしいでしょうか?」
お読みくださり、ありがとうございます。
よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)
もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




