Act.9-391 『綺羅星の夢』の暗躍 scene.2
<三人称全知視点>
船の主を失っても『這い寄る混沌の蛇』の技術を結集して作られた戦艦ティア=マットは決して動きを止めることなく航海を続けた。
自動操縦装置によって運行された船はタイダーラ討伐の五分後、廃港ロックポートの海岸に到着する。
一方、施設破壊の任務を終えたアクア達も船が廃港ロックポートの海岸に到着したのとほぼ同刻に地上に戻ってきた。
「……幽霊船、じゃなくて近未来の戦艦みてぇだな? 掛けられた認識阻害の魔法が解けたのか、海賊船の噂自体が嘘だったのか……まあ、それはこの際どうでもいいか。オウロアーナさん、その焼死体が何者か特定できるか?」
「ディラン様も無茶を言いますね。……時空魔法で遡り、たった今確認を終えたところですわ。……しかし、まさかこんなことが……」
時空魔法を駆使して焼死体の生前の姿を特定したオウロアーナの表情がピキリと固まり、続いて額から大量の汗が噴き出した。
「彼はタイダーラ・ティ=ア=マットです」
「ティ=ア=マット……海賊の一族の関係者ね」
その名を聞き、彼がティ=ア=マット一族であることを察したリズフィーナにも、アクア達がその名を聞き、何故それほどまでに深刻な表情をしているのか理解できなかった。
「……君達ってさぁ、噂の『綺羅星の夢』のメンバーだよね? 四人目の三賢者のシャッテン・ネクロフィア・ シャハブルーメに、アンドリューワーズ魔導王国の大臣ラクツ=ファーナー、それと君は二人と共に行動している元混沌の指徒のパヴスェル、であっているかな?」
「流石は多種族同盟――既に我々の素性は把握済みですか? 名乗った私や、ヒントを与えたラクツさんはともかく、まさかパヴスェルさんのことまで知っているとは驚きでした。……ああ、やめてくださいよ、剣を鞘に納めてください。今は貴方達と戦うつもりは微塵もありません」
「――君達になくても僕にはあるんだよ!!」
剣に武装闘気と覇王の霸気を纏わせたジョナサンが地を蹴って加速――シャッテンに斬り掛かろうとした寸前、オウロアーナが裏武装闘気の剣を生み出してジョナサンの前に立ち塞がった。
「何のつもりなのかな?」
「……この状況、私にも最善手が何なのかは分かりません。ですが、ここでシャッテン達に攻撃を仕掛けるのは得策ではないと思いますわ。相手は神出鬼没――対話を放棄してこのまま姿を消してしまうこともできてしまいます。一人でも仕留められる自信があるならともかく、全員に逃げられてしまえば何も得ることはできません。それよりも、もっと建設的な手を打つべきです。――将来、彼女達を倒すためには情報が必要となります。今回の件、どうか私に任せて頂けないでしょうか?」
「既に一度パヴスェルを取り逃している。今回も同じ轍を踏む訳にはいかないしな。オウロアーナさん、よろしく頼む」
「うちの隊長はこう言っているし、俺も賛成だ」
「私も異論はありません。オウロアーナさん、頑張ってください」
「……高度な駆け引きは私には無理だ。オウロアーナさん、よろしく頼む」
「……仕方がないねぇ」
今回ゲストとして参加させてもらっているという立場にあるリズフィーナ以外の面々――アクア、ディラン、マグノーリエ、プリムヴェール、ジョナサンの同意を得たオウロアーナが一歩前に踏み出す。
「ほう、これは面白い展開じゃな。儂はどっちでもいいからシャッテンよ、お主の一存で決めるが良い」
「僕もこういうことに興味はないからねぇ、好きに決めちゃえばいいよ」
「では、お言葉に甘えて取り引きをしましょう。……ただし、交渉は等価交換に限ります。一つの質問に対し、一つの質問をする……その形でよろしいでしょうか? どちらか一方の質問が無くなった時点でこの取り引きは終了し、私達はパヴスェルさんの『ニコライの外套』で逃走させて頂きます。その際、妨害はしないようにお願い致します」
「取り引き、お受け頂きありがとうございます。では、私から質問をさせて頂きますわ。『綺羅星の夢』で『管理者権限』を獲得した場合、その『管理者権限』の扱いはどうなるのですか?」
「そうですね……もっと厄介な質問が飛んでくるかと思いましたので、少し拍子抜けしました。通常、『管理者権限』は複製の後、メンバー全員で分け合うことになっています。生前の太多繁松も自分が保有する『滅存の認識者〜絆縁奇譚巻ノ五〜』以外の『管理者権限』を彼以外の誰かが獲得した場合は共有すると約束していました。ただ、裏切り者のオルタ=ティブロンはその規約を破り、アポピス=ケイオスカーンに『管理者権限』を献上してしまい、条件が満たされないまま太多繁松も討たれて『管理者権限』を奪取されてしまった訳ですが。あれは完全なイレギュラーですよ……ただ、我々が知らないだけで我々を出し抜こうと考えている仲間がいないとは限りません。そういうことが嫌で、途中まではみんなで協力しようという志の元で作られた組織の筈なのですけどね。……少し喋り過ぎましたね。では、私から……来たる戦争に向け、多種族同盟は何かしらの秘密兵器を用意しているのでしょうか?」
「多種族同盟としては、そのような秘密兵器の開発を行ってはおりません。まあ、我々の預かり知らないところで何かをしているという可能性もないとは言い切れませんが。ただし、ビオラの闇の三大勢力の一角、ビオラ特殊科学部隊は来たる秘密兵器に向けて秘密兵器の開発に着手しています。ブリスゴラと呼ばれるトロールをサイボーグに改造した兵器の技術を応用し、創り上げた対神を想定した戦略兵器――その名はNBr-熾天。しかし、これ以上のことは話せません。先程の話と釣り合いが取れているのはここまでだと判断致しましたので」
今回の取り引きは、いかに相手に最低限の情報を渡しつつ、相手から欲しい情報を引き出すかが鍵となる。ただし、等価交換というルール上、情報をあからさまに小出しにするという選択肢は使えない。
「これ以上の情報が欲しければ我々も情報を提供しなければならないということですか。……では、次は私から質問を――」
「私はここで取り引きを降りさせて頂きますわ。応じてくださり、ありがとうございました」
シャッテンは多種族同盟側に他にも尋ねたい疑問が複数あると考えて取引に応じた。一度の取引で情報を引き出さす、小出しに情報を得ていけば良いと考えていたのである。
一方、オウロアーナが問いたかったのは『管理者権限』が『綺羅星の夢』の中で共有されるかどうかという一点だった。その情報の有無で『綺羅星の夢』という組織の危険度が大きく変わってくるからである。
「き、『綺羅星の夢』の構成員とか、もっとするべき質問があるのではありませんか!? こんな機会、滅多にありませんよ!!」
「……シャッテンよ、仲間を売る真似は良くないと思うぞ。まあ、仲間の情報を差し出したとしてもその秘密兵器とやらの情報は是非とも得たいものではあるが」
「我々の得たい最後のピースは確かに頂戴致しました。……実に最悪な気分ですが、何故でしょう、同時に優越感も感じますね」
「くぅ〜〜〜〜――ッ!? 敗因はラインヴェルド陛下達に調子に乗って喋り過ぎたことですか! ああっ、悔しい! なんであの時調子に乗って話したんだ私ッ!!」
「それでは、どうぞお引き取りください」
「ああっ、凄い腹が立ちます!!! ……分かりました、ではこうしましょう! 私達が死者蘇生をした相手をどのように支配下に置くか、その方法を今ここで実演して差し上げます! だから、その秘密兵器のこと、もっと教えてくださいませんか?」
「魅力的な話ですが……お断りしますわ」
満面の笑みを浮かべ、冷や汗を流しつつ必死に挽回しようと手を打つシャッテンを嘲笑うかのように掌を返すオウロアーナに、「いい趣味しているねぇ、僕好みだよ」とドSな感想を口にするジョナサン。
アクアとディランは「流石は親友の配下」と呆れ顔になり、マグノーリエ、プリムヴェール、リオンナハト、カラック、アモン、マリア、リオラ、リズフィーナ、敵であることも忘れてしまったのか少しだけシャッテンに同情の視線を向けた。
「……仕方ありません。そちらは自力で考えるとしましょう。以前、私もラインヴェルド陛下達を前に随分と暈した表現を使いましたから、その意趣返しと捉えれば因果応報、そう納得することにします。では、問いを変えましょう。――百合薗圓は『管理者権限』を全て手中に収めた後、この世界をどう変えたいと考えているのですか?」
これもまたシャッテンがずっと問いたいと思っていた問いだった。
堂々と問いつつも内心、答えてくれないかとビクビクしながら尋ねると、オウロアーナがゆっくりと口を開いた。
「圓様の創り上げたいのは『神のいない世界』だと聞いておりますわ」
「『神のいない世界』……それは」
「この世界の人々は決してゲームの登場人物ではありません。それぞれが自ら考え、自らの意思で選択して生きているのですわ。確かに女神ハーモナイアの復活を目指してはいますが、圓様自身が神になることも、ハーモナイアが唯一神として君臨することも決して目指してはいない。ハーモナイアが圓様に見せたいと願い、創り上げようとしたこの美しい世界を、ハーモナイアと、大切な家族と、この世界で出会った多くの友人達と共に見たい、それこそが圓様が戦う理由なのです。……もう少し現実的な話をすると、『管理者権限』を悪用する者が出ないために全ての『管理者権限』を回収し、手中に収めておきたいということもあります。現在起きている『管理者権限』を巡る戦い――こういったことが今後、二度と起こらないようにする必要がありますからね」
「…………なるほど、神のいない、美しい世界を共に見たい、ですか。大切な人と共に……」
その言葉をシャッテンは複雑な表情で聞いていた……が、すぐに笑顔を浮かべると「等価交換ですから、お答え頂いた対価をお支払いしなければなりませんね」と言った。
「パヴスェルさん、素体を一つお願いします」
パヴスェルから『ニコライの外套』で取り出した素体を受け取ると、固有魔法『残留思念から英雄を復活させる』を使い、黒百合にタイダーラの残留思念を収束させる。
そして、魔法陣の上に寝かせた素体に黒百合を翳し、タイダーラの身体に残留思念を憑依させ、馴染ませていく。
「そして、最後に闇属性魔法『死軀操作』を掛けて完成です。この魔法は一度死んだことがある者に一度限りではありますが掛けることが可能な魔法で、その身体を自由に操ることができます。魂までは支配できませんから、自分の意思とは裏腹に戦いたくない相手と戦わされるという悪趣味な使い方も可能です。なかなか使い勝手のいい魔法ですよ。――それでは、今度こそ失礼致します。多種族同盟の皆様、そして圓様によろしくお伝えください」
シャッテンが焼死体から『管理者権限』を抜き取り、海の中へと投げ捨てた後、ラクツか戦艦ティア=マットを縮小魔法で小型化して回収――全ての準備が終わったところでタイダーラを連れてパヴスェルの『ニコライの外套』で姿を消す。
『管理者権限』を獲得したシャッテン達を逃がしてしまったものの、重要な情報を手に入れることができたオウロアーナは圓達にどう報告しようかと思案を巡らせながらジョナサンと共にリズフィーナ達をオルレアン学院へと送り届けた。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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