Act.9-389 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜スクライブギルド編〜 File.5 scene.4
<三人称全知視点>
リオンナハト達が魔物達との戦闘を開始した頃、アクア、ディラン、ジョナサンの三人もまたアグヴライムスとアグヴライムスを守る魔物達との戦闘を開始した。
「武装解除」
アグヴライムスは魔物達を盾にしつつ、敵の武装を解除する『蛇の魔導書』に掲載されている無属性魔法でアクア達の纏う武装闘気や覇王の霸気の解除を狙う。
闘気を使う戦法がデフォルトとなっている多種族同盟の時空騎士にとってはまさに天敵というべき魔法だ。
幸い、魔法の範囲が小さいという弱点があるため回避は比較的容易であるものの、乱発される「武装解除」の存在を頭の片隅に留めながら、回避行動を取りつつアグヴライムスを守る魔物を討伐していくというのはアクア達ほどの実力者でもなかなか骨が折れる。
魔物達が闇雲に攻撃を仕掛けてくるのならばまだ容易な戦いになっただろう。
しかし、アグヴライムスは魔物達を巧みに囮として使った。魔物を倒そうとすれば「武装解除」の攻撃範囲に入り、「武装解除」の攻撃範囲から逃れようとすれば複数の魔物達による攻撃でアクア達の動きを誘導しようと狙ってくる。
「たく、面倒な戦法を取ってきやがるぜ。流石は『這い寄る混沌の蛇』だ」
「……魔物が多過ぎる。このままチマチマ削っていくと時間が掛かり過ぎる。それに、ここから更に増援を召喚しないとも限らない。ディラン、魔物達を消してくれ」
「おいおい、相棒、流石にそんな都合の良過ぎること、俺にできる筈が……ん、いや、できるな! ってか、なんで気づかなかったんだ! たく、正面から突破することばかり考えちまったぜ。――よし、相棒! ジョナサン! 俺が隙を作る! その隙を使って混沌の指徒の野郎を討ち取ってくれ!」
「この私の魔物達を消す、そのようなことが本気でできると思っているのですかッ! 袋叩きにしてやりなさい!!」
「魂魄の霸気――《影の世界》!!」
何も正々堂々と正面から魔物達と戦うだけが戦いではない。当初はいつものノリで正面から魔物達を討伐することばかり考えていたディランだったが、アクアの言葉で別の方法を思いつき、実行に移した。
その方法とは魂魄の霸気《両影》を使い、《影の世界》に魔物を落下させるというものである。
続いてディランは《影の世界》に飛び込んで《白影の影撃部隊》を解き放ち、魔物達の迎撃に当たらせる。
ディランはそのまま《影の世界》で魔物達を倒し尽くすつもりだったが、《影の世界》を発動した時点で既にディランは目的を達していた。
「ま、魔物達が!? くっ、他の魔物達もリオンナハト達への攻撃に駆り出しているから呼び戻すのは厳しい。ちっ、苦手だが私自ら戦線に立つしかないか!」
増援は期待できないことを悟り、覚悟を決めるとアグヴライムスは闇の魔力を収束し、ゆったりと剣を構える。
「【天使之王】――天使化!!」
アクアは【天使之王】を使い、天使の翼を顕現――空歩の技術と神速闘気を併用した高速飛行で加速しつつ双刀を逆手で構え、一気にアグヴライムスに迫る。
一方、ジョナサンもアクアと互角の速度で俊身を駆使してアグヴライムスに迫り、ほぼ同時に剣に武装闘気と覇王の霸気、求道の霸気を纏わせた。
「余力もあるし、一つ試してみるか! 求道の霸気最終領域・求道神!」
「あははは、流石はオニキスさん。一応、彼、強敵だよ? それなのに戦闘中にまさか覇王の霸気維持しつつ求道神のレベルまで高めちゃうなんてね。……流石に僕もその域まで到達していないから、少しだけ羨ましいなぁ」
自身と剣を一つの単位として単一宇宙に匹敵する強度を獲得し、その上で剣に乗せた霸気を維持するアクアを少しだけ羨ましそうに横目で見つつ、少しだけ対抗心を燃やしたのか込めた霸気のレベルを上げるジョナサン。
それは、アグヴライムスにとっては悪夢という以外に表現しようのない光景で――。
「かっ、神の領域だと!? 求道神だと!! 霸気の極地に至っているだと!! 百合薗圓ならともかく、ただのメイド風情が!!! そんなのあり得ない! あり得てはならない!!」
「何をごちゃごちゃ言っている。目の前の光景が真実だ!!」
「だったらその絶望ごと纏めて打ち砕いてやるまでッ!! 武装解除!!!」
初めこそアクアが求道神クラスの霸気を使うことに驚いたアグヴライムスだったが、例えどれほど強い霸気であろうとも「武装解除」の前では無力であることを思い出すと、正面から迫るアクアとジョナサンを狙い、両掌を向ける。
「あのさぁ、僕はその攻撃、既に一度喰らって痛い目見ているんだ。二度も同じ手にやられるほど僕はお人好しじゃないよ」
「武装解除」の攻撃範囲を避け、アグヴライムスに斬り掛かろうとしたジョナサンの表情が次の瞬間歪んだ。
「――ッ! オニキスさん!!」
ジョナサンが目撃したのは「武装解除」の攻撃範囲に馬鹿正直に突っ込んでいくアクアの姿だった。
「愚かな! それほどの霸気を纏って『武装解除』など自殺行為! 自分の力を過信し過ぎましたな!!」
「ジョナサン、アグヴライムスから視線を逸らすな! 大丈夫だ、俺を信じろ!!」
アクアのイケメン顔にオニキスの面影が重なる姿が見えた瞬間、ジョナサンはアクアから視線を戻し、アグヴライムスに斬り掛かった。
「――ッ!? 消えた、だと!? 馬鹿なッ! あり得ん!! そんな、そんなこと――」
「『武装解除』が発動するまでの時間は確かに短い。だが、刹那の神闘気を使えば発動される前に最後を取ることも可能だったみたいだな。一つ勉強になった」
ジョナサンの振り下ろしが炸裂し、アグヴライムスが両断されるのとほぼ同時に、ジョナサンの眼ですら辛うじて大気を擦過する眩い輝きが捉えられるほどの速度でアクアの双刀から繰り出された斬撃がアグヴライムスの身体に十字の斬撃を刻み込む。
闘気を全て魔物達への供給に充て、自身を守る闘気を一切残していなかったアグヴライムスはアクアとジョナサンの斬撃から身を守ることができず、傷口から鮮血を迸らせながら絶命した。……まあ、仮に潤沢に武装闘気を残していたとしても片方ですら耐え切るのが不可能に限りなく近い求道神レベルの強度に覇王の霸気まで加えたアクアの斬撃と、霸気を纏わせたジョナサンの斬撃を同時に喰らったのだから生存の可能性は万に一つも無かったのだが。
「さて、アグヴライムスの討伐も終えたしディランの援護に行こうか?」
「……まあ、ディランさんなら一人で片付けちゃうだろうけどね」
アグヴライムスの討伐を終えたアクアとジョナサンは《影の世界》に落下して、現在、ディランと交戦している魔物達の討伐に協力するために《影の世界》へと飛び降りた。
◆
アグヴライムスの討伐から数分後、全ての魔物達の討伐が終わった。
その後、アクア達は奥の扉を開け、スクライブギルドの心臓部である印刷室に突入し、手分けして稼働していた印刷機を全て破壊する。
「さて、これで任務は完了です。皆様、お疲れ様でした」
「スクライブギルドはこれで最後だったな。混沌の指徒も一名を除いて討伐が完了したそうだし、かなりのダメージを『這い寄る混沌の蛇』に与えられたのではないか?」
「混沌の指徒が把握していたスクライブギルドはこれで全てですが、あの用心深いアポニャソーレーペテップが手を打っていないとは思えません。他にもスクライブギルドのような複製拠点を持っている可能性はないとは言い切れませんが、今回の任務で稼働しているスクライブギルドを潰せたのはかなりの戦果だと思います」
「ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸までの臨時班で逃したのは、グルーウォンス王国で『這い寄る混沌の蛇』の用心棒をしていた白銀夜叉、サンアヴァロン連邦帝国で交戦した沼這花蘭と沼這絹江、同国に潜入していた冥黎域の十三使徒の一人オーギュロー=ドレッゼフ、農耕国ウェセスタリスのスクライブギルドを管轄していた混沌の指徒のパヴスェルの五人……逃した魚は大きいのばかりですね。特に、オーギュローには目の前で自爆されてしまいましたので、今でも悔しいです」
「そう気を落とするなって、マグノーリエさん。奈落迦四天王とは近いうちに戦うことになる可能性が高いし、その時に討ち取ればいいだけのことだろ? 『綺羅星の夢』の構成員であるパヴスェルに逃げられたのは痛手だが、ラインヴェルド陛下とオルパタータダ陛下が居た状況での結果だからな……どうしようも無かったんだと思うぜ」
ペドレリーア大陸とラスパーツィ大陸の臨時班のこれまでの戦績を振り返り、悔しさを吐露するマグノーリエにディランが励ましの言葉を掛ける。
「さあ、気を取り直して次の任務に備えようぜ! まあ、これ以上追加の任務は増えないだろうし、次はペドレリーア大陸とラスパーツィ大陸の臨時班の最終決戦――聖夜祭の戦いか?」
戦いを終え、帰路に着く気満々だったディラン達だった……が、次の瞬間、見気の索敵範囲に複数の反応が入り、念の為に見気を使用していたアクア、ディラン、マグノーリエ、プリムヴェール、ジョナサン、オウロアーナの表情が真剣味を帯びる。
「何か見つけたのか?」
「沖合に複数の気配があります。……この位置からして幽霊船の噂の正体かもしれません」
リオンナハトの問いにオウロアーナが推測を交えて答える。
少しずつこちらへと近づいてくる反応に嫌な予感を抱きながらアクア達は地上を目指した。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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