Act.9-387 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜スクライブギルド編〜 File.5 scene.2
<三人称全知視点>
聖女リズフィーナが突然、先触れの一つもなく司教の館の門前に現れたと聞き、ザウーラスは驚きつつも聖女に対して非礼があってはならないと早急に出迎えの準備をするよう執事に指示を出した。
実際に出迎えてみれば、そこにライズムーン王国とプレゲトーン王国の王子の姿もある。全く予想外の顔触れに頭を悩ませつつ、ザウーラスはリズフィーナ達を応接室へと案内した。
「ごめんなさいね、先触れもなく訪問して申し訳なかったわ。驚いたでしょう?」
「いえ、そのようなことは――」
「そう堅苦しくする必要はないわ。今日は私、オルレアン教国の人間として来た訳ではないの」
リズフィーナはオルレアン教国の公爵令嬢――それが、オルレアン教国の人間として訪問をした訳ではないのであれば一体どのような立場できたのか? ザウーラスが疑問符を浮かべる中、リズフィーナはその心を知ってか知らずか話を続けた。
「その前に、私と一緒に来た皆様を紹介しないといけないわね。ライズムーン王国のリオンナハト王子殿下と、側近のカラックさん、プレゲトーン王国のアモン殿下、それからレイドール伯爵令嬢のマリアさんとメイドのリオラさん――ここまでがペドレリーア大陸の出身者ね。それから、ブライトネス王国のラピスラズリ公爵家のメイドのアクアさんと、同国の大臣のディランさん、エルフの国――翠光エルフ国家連合のマグノーリエ王女殿下と次期女王補佐のプリムヴェールさん、そして元オルレアン神教会の神父で現在は黒百合聖女神聖法神聖教会で神父をしているジョナサン神父――彼らは海を越えた先にあるベーシックヘイム大陸からとある目的でやってきた臨時班の方々だわ」
「……海を越えた先、ですか?」
「現在、俺達の国が加盟する多種族同盟はある目的のためにこのペドレリーア大陸、並びに近くにあるラスパーツィ大陸に臨時班というものを派遣して調査と捕縛、討伐を進めている」
「ディラン、流石に討伐のことは伏せておくべきだろう?」
ザウーラスの顔から血の気が引く中、アクアがディランにジト目を向けた。
「まあ、捕縛より討伐ってパターンが多いしなぁ。俺達の目的はオルレアン神教会の影響下にある国々、多種族同盟――双方にとっての敵である『這い寄る混沌の蛇』という邪教徒と殲滅だ。アイツらは俺達の国にもかなりの被害を出してくれていてなぁ、多種族同盟加盟国の安全保障のためにも潰さないといけない。まあ、それ以外にウチらの大将も奴らの親玉から取り返さないといけないものがあるみたいでなぁ、色々と事情があるんだわ」
「『這い寄る混沌の蛇』の存在は私も聞き及んでいます。……まさか、この大陸以外でも活動をしていたとは。黒百合聖女神聖法神聖教会……聞き覚えのない宗教ですね。オルレアン神教会の影響下にない国とオルレアン神教会が手を組んだというのは正直、驚きですが、同じ目的を果たすための共闘ということなら納得できます。……そんな皆様がお越しになったということは、『這い寄る混沌の蛇』と私の間に繋がりがあると考えたからでしょうか?」
「……私も信じたく無かったのだけど、残念ながらね。少し前から独立港湾都市セントポートに多種族同盟の諜報員が幾人か潜入していたそうよ。ご存知だったかしら?」
「……いいえ、全く。しかし、そのようなことを許して良いのですか! 明らかな内政干渉ではありませんか!!」
「許していいかと問われたら、まあ、許してはならないことでしょうけど、抗議をしたところでどうしようもない話よ。相手は多種族同盟の中で最も影響力を有するとある国家が誇る闇の三大勢力の一角――その気になればオルレアン神教会程度一夜にして滅ぼせるほどの恐ろしい方々よ」
「リズフィーナ様、流石に買い被り過ぎでは? 流石に我々だけの力であれば一夜では厳しいですわ。一国ならともかく、オルレアン神教会はペドレリーア大陸全体に根を張る組織ですからね」
音もなく突如として現れたオウロアーナが嫣然とリズフィーナに微笑む。
「我々だけの力ねー。でも、闇の三大戦力総出、或いは圓さんまで出張ってきたら話は変わってくるんじゃないかな? 神ならともかく相手はただの人、オルレアン神教会という共同幻想共々大陸を消滅させるくらい容易でしょう?」
「ジョナサン様、認識が誤っておりますわ。真聖なる神々ならともかく、そこらの神程度であれば苦戦を強いられることはありませんわよ。……それにあの方は慈悲深いお方、愛するこの世界を冒涜するような真似はなさらないでしょう」
「まあ、うちのお嬢様は諜報員も真っ青なくらい残酷だけど、それと同じくらい慈悲深いしなぁ。そのお嬢様が世界を滅ぼすとか、天地がひっくり返ってもないと思うぞ」
「この方々は一体何を言って……」
「貴方は気にしなくていいことよ。足を踏み入れる覚悟があるならまた別だけど。……諜報員から聞いたわ、二十三年前から十六年前に掛けて独立港湾都市セントポートでは神聖典の写本を担当するスクライブが何人も行方不明になるという事件が起きていたって。私が知る限りオルレアン神教会はその話を聞いていないのだけど、一体どういうことかしら?」
「そっ、それは……」
本来、他国の諜報員の潜入は国際問題に発展しかねない重大な問題である。
しかし、それを特例で覆してしまうほどに独立港湾都市セントポートを治める司教達が隠してきた罪は重い。
「そのスクライブ誘拐は『這い寄る混沌の蛇』と繋がりを持つマルテイン・ポーシヴ・マクヴァレン司祭の手によるものだったそうね。この事件でスクライブ達が誘拐された結果、邪教の書物が大量に複写され、彼らの勢力拡大に繋がってしまった。更に、現在この独立港湾都市セントポートには彼らの邪教の書物の複写の拠点であるスクライブギルドが置かれていることを潜入した諜報員達が確認しているそうよ。……何か弁解はあるかしら?」
「まっ、まさか私が邪教徒と繋がりを持っていると仰るのですか!? ……いえ、そうお考えになるのも致し方ないことですね。邪教徒の拠点が置かれていることに気づかなかったのは明らかな監督不行届です。それに、我が身可愛さに叔父の犯した罪を揉み消し、行うべき報告を行わなかった私達の罪は大きい。……しかし、どうか信じてください! 私は、いえ、私も父も邪教徒とは一度たりとも繋がりを持ったことはありません!! 神に誓って!!」
ザウーラスが決して嘘をついていないことは見気を通してリズフィーナに伝わった。
「ザウーラス、貴方の言っていることが嘘ではないことは分かりました。ただし、為すべき報告を放棄した罪は大きい……この話は一度本国に持ち帰り、適切な処分を検討させて頂くわ」
ザウーラスの言葉に信憑性は無かったにも拘らずザウーラスを信じ、その罪に見合った適切な処分を下すと宣言したリズフィーナの姿があまりにも神々しく見え、ザウーラスの目から涙が流れ落ちた。
「オウロアーナさん……実は最初からザウーラスが『這い寄る混沌の蛇』と繋がっていないこと、知っていたんじゃないかしら?」
「さあ、どうでしょうね?」
にっこりと微笑むオウロアーナの姿を見て、リズフィーナは「私がザウーラスが邪教徒かどうか、彼を信じ切れるかどうかを見極めたのでしょうね」とその真意を読み取ると小さく溜息を吐いた。
「ザウーラス、スクライブ誘拐事件の資料をもらえるかしら?」
「リズフィーナ様の仰せの通りに」
ザウーラスが執事に命じて持って来させたスクライブ誘拐事件の資料を受け取るとその場で内容を検めた後、鞄にしまった。
「リズフィーナ様、そろそろよろしいでしょうか?」
「お時間を頂戴して申し訳なかったわ。確認したいことも確認できたし、お待たせした私が言うのもなんだけどそろそろ行きましょうか?」
「――お待ちください! まさか、邪教徒の重要拠点だというスクライブギルドにリズフィーナ様御自ら乗り込むおつもりなのですか!?」
「えぇ、勿論そのつもりよ。そのために来たのだもの」
「しかし、たったこれだけの人数で……それに、ライズムーン王国とプレゲトーン王国の王子殿下も参加されるとなると、万が一のことがあれば……せめて、独立港湾都市セントポートの守護を担う神殿騎士達を護衛として連れて行って頂きたく存じます」
「だ、そうですよ、リズフィーナ様。……正直、リオンナハト殿下、カラック殿、アモン殿下、マリア殿、リオラ殿、リズフィーナ様のレベルでギリギリです。それ以上となると人数的にも戦闘力的にも守るのは厳しいと思います」
「諜報部隊の力を借りればなんとかなるかもしれねぇが、それじゃあ本末が転倒する。俺も相棒の意見に賛成だ。断っておいた方が賢明だぜ」
「えぇ、そのつもりよ。今回は多種族同盟側のご厚意で参加させて頂いている立場だし、これ以上の負担を掛けるつもりはないわ。ということでザウーラス、お気持ちは嬉しいけど護衛の件は大丈夫よ。一応、最低限戦える力は得ているし、万が一の場合に備えた保険も肌身離さず身につけている。それに、私達には世界最強の戦力がついているのだから、何も心配はないわ」
「まあ、最強かどうかは分からないがアンタらの大切な姫さんは俺達が全力で守るから大船に乗ったつもりで安心してくれていいぜ。ああ、勿論、他のゲスト達のこともな。若者達が全力で自分の力を試せる場所を作るのがおじさん達みたいな大人の仕事だと思うんだ。だよな、親友」
「おう、ディランの言う通りだ」
「……いや、アクアさんは、どう見ても見た目は子供だと思うが」
「ああっ、誰が子供だって! 私はまだ成長途中なの! 成長過程のど真ん中なの!!!」
「ぐっ、ぐびがしまる……」
「アクアさん、落ち着いてください! プリムヴェールさんが死んじゃう!!」
「やっぱりアクアさん達は面白いなぁ」
邪教徒との対決を間近に控えても普段と変わらぬ様子で勝利を確信しているアクア達の姿をザウーラスはどこか眩しそうに見つめていた。
「この地を任された身でありながら罪を隠し、この地の民達を危機に晒してきた私にこのようなことを言う権利はないかもしれませんが。……どうか、皆様のお力でこの地に潜む邪教徒を倒してください」
「「ああ、俺達に任せておけ!」」
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